キュピィィィィィィン
「!?」
頭を駆け巡った感覚。これは……魔法?
「祐一さん?」
「ん、あぁ、ごめんな。ちょっと考えごとをしてた」
「それはいいんですけど、何か変な感じがしませんでしたか?」
「え?」
佐祐理さんも感じたのか?
普通の人には魔法を視認はできても、感知することは出来ない。
ということは佐祐理さんには魔法の才能があるってことなのだろうか?
……だとしたら、佐祐理さんを巻き込むことは出来ない。
「佐祐理さんはここで待ってて、俺が様子を見てくる」
「あっ、祐一さん!」
「はい?」
佐祐理さんは俺を引き止めると、真剣な眼差しでこういったのだった。
「佐祐理も……行きます」
魔法青年相沢祐一
33幕『三人の実力』
「さ、佐祐理さん!?」
「ここは佐祐理の家です。何が起こってるのかをここに住んでいる者として知りたいんです。それに―――」
「それに?」
「佐祐理が危険になった時は祐一さんが守ってくれますから」
俺が聞き返すと、にこやかな笑顔でそう返してきた。
参ったな……こういうことに佐祐理さんを巻き込みたくないんだが。
「祐一さんには佐祐理の家のことなのに、巻き込んでしまうみたいで……謝っても謝りきれません」
「そ、そんなに気にしなくてもいいんだが」
俺にも関係が無い訳ではないしな、と心の中で返答しておく。
「はぁ……わかったよ。止めてもついてくるんですよね?
だったら、俺と一緒に行った方が安全でしょう」
「はい、祐一さん。しっかり守ってくださいね」
「はい、お姫様」
俺は感覚を出来る限り研ぎ澄ませて、魔法の発動したと思われるところに佐祐理さんと共に移動を始めたのだった。
「そらそらそらそらぁーーー!!」
「くっ!?」
アグニの放ったボーリング大くらいの鉄球を横に回転して避けるミナ。
アグニは柄を器用に操作し、鉄球を柄の先に、けん玉みたいに引き戻す。
鉄球の大きさは、いつの間にかその柄の先に似合うような大きさに縮小されていた。
(あの武器は厄介ですわ。鉄球の大きさを自由に変化させることができることで、普通のハンマーにある大きな隙が少なくなっています。それに―――)
ミナは先程から腕を組んだまま、じっとこちらを観戦しているもう一人の男を見る。
男はミナの視線に気付いたか、ニヤリと笑った。
(あの男。前回は三人で攻撃して来ていたのに、何故今回は攻撃してこないのか……その真意を確かめる為にも、一度奴に打って出た方がよさそうですわね)
「でやぁぁぁぁぁっ!!」
「!?」
再び放たれた鉄球。
ミナが考えるのを一旦止めて、それをバックステップすることで回避した時―――
「かかった! 『ロック』!!」
「!?」
着地した地点を中心に魔法陣が展開され、ミナの四肢を拘束する。
「動けない!?」
「正面きって攻撃した所でアグニのように回避されるからな。
あまりこういう戦いは好きじゃないのだが、罠を張らせてもらったよ」
「全く、上手く誘導するのも楽じゃネぇぜ」
「……無念ですわ。まだまだ私には修行が足りなかったということですか」
「そういうことだ。ま、もし察せたとしても、この部屋のそこら中にこういった罠が張ってある、遅かれ早かれこうなることは予測済みだ」
男は少し大きめのライフルを取り出すと、弾倉に弾をこめる。
『Sealing
bullet.(シーリング ブリット)』
バス調の電子音声が発せられるのと同時に銃口をミナに向ける。
「ま、次はこういう失敗はしないことだな。味方にこのようなことをされたらたまらない」
「……」
男は銃身に手を添え、狙いをつけるとトリガーをゆっくりと―――
「させない!」
『Divine
shooter.』
「!?」
―――引こうとした所を転移魔法で転移してきたなのはとユーノが妨害する。
なのはが放った四つの光弾を回避するアグニと男。
外れた光弾は壁に当たって霧散する。
「ちぃっ!!」
「レイジングハート!」
『Protection.』
アグニの鉄球を魔力の壁で弾く。
「くそっ!」
男は新しい弾をこめると、銃口をミナへと向ける。
「ここは通さない!」
「邪魔だ!!」
男の行動に気付いたユーノが防御魔法を前面に展開させる。
『break
bullet. -fire-(ブレイクブリット ファイア)』
「なっ!?」
「悪いが相手をしてる暇は無い」
男が放った弾丸はユーノが作った強硬な防御壁をいともあっさりと消し去る。
「いけ!! シーリングブリット!! 目標、ユンカース」
『fire.』
ユーノの驚愕の一瞬の隙をついて、銃口から光を放とうとする。
「しまった!」
「追いつける? レイジングハート」
「させるかよぉっ!!」
執拗に攻撃を繰り返してくるアグニ。
しかし、その攻撃の前になのはは魔法を発動させる。
『Flash move.』
瞬間移動して一瞬の内に射線上に入り込むと、続けて防御の魔法を発動させる。
『Round shield.』
シーリングブリットはなのはが前方に展開したバリアで防ぐ。
霧散する光とバリア―――その後ろから現れたのは、もう一つのシーリングブリットだった。
「二発目!?」
「間に合え!」
すぐ目の前に来ている光。
ユーノは全速力で防御魔法を発動させようと魔力を練るが、間に合うか微妙なラインだ。
ミナはそっと目を閉じた。
「『hole』」
ゴォォォォォォォォォッ!!
三人の目の前に空間の穴が発生し、光を全て呑み込んでいく。
「何っ!?」
「この魔法―――」
「absoluteさん!」
光を呑み込み終えた空間の穴から現れたのは四人の乙女。
空間の守護者、absolute。
夢の守護者、dream。
時の守護者、time。
そして―――
「全く、無茶してくれるわ。私達が出ようとした穴に攻撃を通すなんて……」
「え、フィアちゃん!?」
すっかり、性格が変わっているフィア。
ギロリ
『うっ!?』
なのはがフィアに話しかけると、そんな擬音が付くくらいの形相でなのはを睨む。
その余りにも黒すぎるオーラに思わず後ずさりしてしまうなのはとユーノ。
「あんたは大丈夫?」
「はい……あちらは止めなくても?」
「私達では止められません……マスター、不甲斐ない私達を許してください」
ミナを助けながらabsoluteが即答する。
「absoluteがそんなことをいうなんて、一体、あのお方は?」
「私達の主のパートナーよ。一応」
「そういえば、absoluteもそんなことをいってましたね。
人懐っこいtimeならともかく、あなたやabsoluteが人間の軍門に下るなんて、信じられませんわ」
「それだけの人物よ。あなたも会えばわかるわ。さぁ、さっさと逃げましょう?」
dreamがミナの手を取って立たせてあげる。
「これで七対二、戦況は著しくこちらが不利か……」
「どうするんよ? リーダーさンよ」
「あぁ〜〜っ! やっと見つけたんだよぉ〜〜」
「「!?」」
「ルドラか?」
この緊迫した状況にも関わらず、相変わらずののほほんとした口調でドアから入ってくるルドラ。
「うん。もう作戦始めちゃっててぇ〜、ルドラ、びっくりしちゃったよぉ〜」
「そ、そうか。わ、悪かったな」
変わらず笑みを浮かべているルドラだが、その笑顔の奥に、得体の知らないものを感じ取ったアグニは冷や汗をかきながら答えた。
「でも、いいんだぁ〜、許しちゃうよぉ〜。ルドラ、今日はご機嫌なんだもーん」
「は?」
「ルドラの王子様ぁ〜、見つけたのぉ〜」
「お前、まだンなことを……」
といいつつも、心の中ではアグニはその王子様に最大限の感謝をしていたりする。
「緊急だ、ルドラ。結界展開」
「お、おい。逃げるンじゃねぇのかよ」
「だからこそだ」
「うん、わかったよぉ。 『全てを拒む世界』」
ルドラが呪文を唱えると同時に、水色の膜が屋敷全体を包む。
「何が起きたの!?」
「さて、私達は一旦退かせてもらうとするか。その代わり―――ルドラ!」
「はぁーーい。出てきてっ! ルドラのお友達!」
キィィィン……
ルドラが少し大きめのリングを高々と掲げると、淡白く輝く。
『きゅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!』
「っ!? く、クマ?」
ルドラの呼びかけに答えるように現れたのは、巨大なクマのぬいぐるみだった。
「この子が相手をしてくれる」
「それじゃ〜ねぇ〜」
「ちっ、覚えトけよ」
「あっ!? こら、待ちなさい!!」
「time、ダメです!!」
ミナの制止を聞かず、ぽっかり空いている穴から結界の外へ逃げた三人を追いかけるエレナ。
しかし―――
べちっ……
「……」
結界を通り抜けることなく、水色の壁に正面から激突する。
「あははははは、あははははは。ねぇ、バカがいるよぅ、アグニ〜」
「ま、まぁ、そういってヤるなよ。あいつらはこの結界の効果を知らねぇンだからよ」
「あの、女……笑い声がムカつく……」
赤くなった鼻を押さえながらエレナが呻く。
「この結界は術者と術者が認めた物以外の物体を完全に遮断する結界です。この中では、転移系の魔法は一切使えません。
範囲はどうやら、この屋敷全体のようです」
「そ、そんなことよりも―――」
『きゅぅぅぅぅぅっ!!』
「うわーーっ!! こっち来たぁーー!!」
クマのぬいぐるみが動き出すのを見て、慌てふためくユーノ。
バン!!
「おい、大丈夫か? みんな……ってうぇい!?」
「はぇー、大きいクマさんですね〜。舞が喜びそうです」
扉を開け放ち、祐一と佐祐理が飛び込んでくる。
「さ、佐祐理様!? 何故ここに」
「あははーここは佐祐理の家なんですよーー?」
「祐一さん! これをです!!」
いつの間にかいつもの調子に戻ったフィアが蒼の魔石を祐一に放り投げる。
「よっしゃあ! レイバルト・バリアント!! 『うぐぅ〜〜〜!!』」
投げられた魔石を上手くキャッチし、変身の呪文を唱える。
カァァァァァッ!!
「レイバルト・バリアント、メタモルフォーゼ!!」
後書き
J「なんていうんだろう……この書いたのに充実感に満たされないこの感情は?」
フ「それは、今回があまりにも展開が強引過ぎるからだと思うです」
J「やっぱり? 自分もなんかこじ付けみたいな感じになってる気がするんだよなぁ」
フ「ま、これが作者の限界ということですね」
J「酷いなぁ……まぁ、間違いとは思えないけど」
補足紹介
アグニの杖
けんだま型の杖。先の鉄球が着脱可能で、その鉄球を振り回すことによりハンマーとなる。
更に、その鉄球に魔力を込めると、体感重量はそのままの巨大な鉄球を作り出すことが出来る(衝撃は大きさに比例)。
男の杖
銃型の杖。銃弾を入れることにより、様々な効果を発揮することが出来る万能な杖。
ルドラの杖
リング型の杖。異界との通信が出来、召喚することができる。
また、相手に向かって投げる武器にもなる。
魔術紹介
ロック 術者:男
四肢を光輪で拘束する魔術。
魔法陣さえ構成すれば、所定の位置に敵が来た時にトリガーとなる呪文でいつでも発動可能。
Sealing bullet 術者:男
封印用の銃弾。レイジングハートのsealingと同じ効果で、魔法の発動を強制的に停止させることができる。(今回、シールドが相殺されたのはその為)
break bullet 術者:男
魔術破壊用の銃弾。どんな強固なバリアでも消滅させることが可能。
ただし、殺傷能力は皆無。
全てを拒む世界 術者:ルドラ
完全に外界との遮断をする拒絶結界。
三人が戦闘を行う場合はこれの外側に封時結界を張り、檻を作り出すのが常套手段。
行き来することが出来るのは、本人と術者が認めた物体だけである。
術を発動させてからなら遠隔で制御が可能。
※感想・指摘・質問がございましたらBBSかmailにお願いします。
2005年9月10日作成