「救援は要請出来ないのですか?」

 

一人の局員がそう質問する。

 

「無理ね。時空管理局の内輪揉めだけにそれだけの戦力を割くことなんて出来ないもの」

「!? それってどういう事ですか?」

「実はこの襲撃に時空管理局の一部が関与してる疑いがあるんです」

 

 

な、なんだって!?

俺を始め、みんなの顔が驚愕に染まる。

 

「どうやら、今回の首謀者であるディアボルガという魔物を唆したのは一部の急進派と呼ばれる一派で、なのはさんにユンカースの回収を命令したのもこの一派のようなのです」

「な、なんでそんな事を?」

「ユンカースの力に目をつけたんだな。僕達の魔術はお前らのいう魔法とは全く別系統の物だからな」

「残念ながらスコール君のいう通りです。

急進派は力で平和を作り出し、支配をしようとする傾向がありますから、非常にレベルの高い魔術を行使することが出来るユンカースを何とか我が手に収めたかったのでしょう」

 

むぅ、力だけで真の平和なんてなし得ないと思うんだがなぁ……

平和を作るには力よりももっと大切なものがある気がする。

 

「でも、ユンカースは『三つの魔石』が無いと、ユンカース自体が発動しようとしない限り、使う事は出来ないですよ?」

「別にユンカース自体を使わなくてもいいだろう。研究して、仕組みが解ればコピーなんてその気になれば幾らでも作れる」

「はい、彼らは何かしらの方法でユンカースの存在を知った。

だけどユンカースを捕まえるのは一筋縄では行かないし、これからの事を考えるとその為だけに戦力を大幅に割くわけにはいかないし、身内をそんな事に使うと怪しまれる。

それで無理矢理な理由をつけて、民間で、先の事件でも大活躍したなのはさんにユンカースの回収を命じたのでしょう。

最終的にはなのはさんが回収したユンカースを調査とかそういう名目で手中に収める為に……いえ、もしかしたらユンカースをフィアさんの世界から解放したのが彼らなのかもしれない」

「そんな……」

 

なのはちゃんは自分が騙されていたことに少なからずショックを受けているようで、少し落ち込んだ様子で口を開く。

 

「でもね、なのはさんは祐一君達に出会ってしまった。これが彼らの誤算だったのです」

 

誤算……?

 

 

 

 

 

魔法青年相沢祐一

29幕「本局(10)〜新しい戦い〜」

 

 

 

 

 

「どういうことなんですか?」

 

ユーノ君が訳のわからないといった風にリンディさんに尋ねる。

 

「なのはさんは祐一君に出会って、祐一君にユンカースを渡したでしょう?

 もし、なのはさんが祐一君に渡さなかったら自分達の手中に納まるはずだったユンカースを、まさかフィアさんの世界の人物がこんなにも早く来て、なのはさんと合流するなんて思っても見なかったようね。」

「で、このまま行くとユンカースが全て俺達に回収させられると思ったから、ディアボルガに俺達を襲撃させたという事か?」

「う〜ん……それはちょっと違うと思いますよ。祐一さん。だってそういう事なら祐一さんは持っているユンカースを全部取られていてもおかしくないですし」

 

俺の意見を否定するようになのはちゃんが口を挟む。

そうだな。あれだけ圧倒してたんだから、取ろうと思えばいつでも取れたはずだ。

う〜む……じゃあ、ディアボルガ、引いては急進派の真の狙いは一体……

 

「うむ、もしかしたらあれではないか? ちょっと君。持ってきたデータにあれが入っているかチェックを」

「はい」

 

考えに耽っていると、ノイルさんが慌しく部下に命令する声が聞こえた。

……どうしたんだ?

 

「ノイルさん? 何か心当たりでもあるんですか?」

「あぁ? 一つだがね……で、どうだね?」

 

ノイルさんは先程何か指示を与えた研究員の人に聞く。

 

「は、博士、ありません!! も、もしかして……」

「あぁ、やはり奴らの手に渡ったのであろうな」

「ノイルさん? 何か非常事態でも?」

 

俺が尋ねると、ノイルさんは深刻そうな顔をして、

 

「こうなった以上、隠し立てしても意味は無いな」

「しかし、これは時空管理局の中でも上位に位置する機密情報ですよ! 民間人に教えるのは……」

「構わぬよ。敵の手に渡ったのならば、いつかは牙をむく。

となれば事前に教えておいた方が初めて見ても驚きが少ないだろう」

「主任がそういうのなら、我々は何も口は挟みません」

 

反対していた他の研究員もその言葉と同時に全員が黙り込む。

ノイルさんはそれを確認すると俺のほうを向き、

 

「祐一君、新型兵器の設計図が盗まれていたんだよ。試作のXシリーズが全て」

「Xシリーズ?」

「Xシリーズというのは、極秘裏に開発を進めていた兵器でな。杖以外の基盤で魔法を放つことが出来ないかというコンセプトで開発しようとしていた物なんだ。」

 

つまりは杖ではない魔法の杖という事か?

……いってる俺もよく解ってないのだが、魔法を使用するための媒体=杖という概念を外してやれば戦いの幅はかなり広がるな。

 

「全員いるか確認したのだが、研究員も数人、向こう側に付いた者がいるみたいでな。そいつらが逃げる時に引き出した可能性が高い。

これで、あのガードロボが研究棟を襲ったのも盗んだのを悟らせない為の囮だったという訳だ」

「なるほど、ディアボルガやcopyはその為の囮だったという訳ですか」

 

フィアが俺とノイルさんの会話に割り込んで聞く。

 

「その可能性は高い」

「なるほど……そういう訳ですか……」

 

リンディさんはそう呟くと少し考え込む。

 

「今は焦らないで相手が動くのを待った方が僕はいいと思う。

……相手の出方を見ないと何も出来ないのは悔しいけど」

「私は今すぐにでも本拠地を叩きたい気分です……」

「でも、それには私達が持ってる情報は少なすぎるよ。せめて、相手の目的と本拠地、戦力の規模が解らないと」

「それなら目的は残りのユンカースの回収が主になるだろうな。あと、戦力は調べる事はできる。この船にいない人物が敵に回った者のだろうからな」

 

ユーノ君、フィア、フェイトちゃん、ノイルさんの順に自分の意見をいっていく。

 

「なのはちゃんはどう考えるんだ?」

「私ですか? こちらから出て行くとそれこそ相手の思うつぼな気がします。受身になってしまうのは仕方ないですけど……祐一さんは?」

「俺も同感だな。まぁ、フィアの気持ちも解らないでもないけどな」

 

多分、フィアの持つ感情はここに集まっている局員全員が持っている感情だろう。

 

「そうよねぇ……もし本拠地が判明したとしても、そのディアボルガを相手にしないといけない訳だし」

「臆したのですか。time?」

「……なわけないでしょ。あたしは大局を見てそう思ってるの。あんただってここの戦力じゃ無理だっていうのわかるでしょ?」

「……えぇ」

「なんか僕達バカにされてますね。ゴートンさん」

「あぁ、でもそうなってしまうのだろうな。彼女達のレベルで敵わないというのならば、我々など的に等しいだろう」

「そうですね……」

 

これらはエレナさん、absolute、ゴートンさん、カウジーさん(さっき紹介してもらった)の意見。

やはり相手の出方を伺うという意見が多いみたいだ。

 

 

 

「わかったわ。それじゃあ、少しの間様子をみましょう。事後処理とか私達もすぐに出撃は出来ない状況なわけだしね」

 

一通りみんながやいのやいのいった後に、リンディさんがそう決定する。

この状況では仕方ないが、今取れる最良の行動だろう。

 

「祐一君達もそういう事だから少しの間は自分達の目的に専念して構わないわ」

「ありがとうございます」

「祐一君、君の魔石はユンカースを半分近く所持している。おそらくは君に刺客が送り込まれてくるだろう。今、奴らにユンカースを渡すわけにはいかない。

私達も早く君に魔石を返せるように力を尽くすつもりだ……わかってるね?」

「はい!!」

 

今度こそは失敗しないようにしなきゃいけないな。

 

 

 








 

 

 

「それじゃ、また明日学校で」

「おやすみなさい、2人とも」

「あぁ、またな」

「さよならです〜」

 

ものみの丘で降ろしてもらった俺達は明日また会うことを約束して、その場で解散となった。

時計を見ると時間はもう夜の11時。

疲れてるし、早く寝ないと明日に響きそうだ。

 

「これから、どうなっていくでしょうか?」

「わからないな。でも、俺達がやる事は決まってるだろ?」

 

たった2日だったのに、この本局へ行った事はもっと長かった気がする。

でも、このたった2日で俺は凄く成長したと思う。

 

「俺達がやる事は俺達に出来ること。俺達にしか出来ないこと。そして、俺達がしたいと思ってる事だ!」

「はい! そですね!!」

「さっ、帰るぞ! 秋子さんも心配してるだろうしな」

 

あいつらも心配してくれてるのだろうか……?

心配はしてくれてるだろうけど、『心配させた罰』だとかいって奢らされるのだろうか?

 

「なぁ、フィア……」

「? 何ですか?」

「時空管理局の月給って……幾らくらいだと思う?」

 









 

 

 

 

 

 

ほの暗いホールのような場所に一人は玉座のようなものに腰掛け、一人はその下で膝を付く。

 

「マスター」

「ふむ、どうしたcopyよ?」

 

その膝をついていた方が口を開く。

 

「私には理解できません。あれだけゴミだといっていた人間に協力する意図が、私の体も人間のそれですし」

「ふん、我とてただで人間に協力などしない。我の目的に奴らは使えそうだった。限りある資源(せんりょく)だ。いくらゴミでもリサイクルせねばあるまいて

「はぁ……そこまで考えているのでしたら私としては何もいえませんが……」

「そうだ。後々貴様にはその力に相応しい姿をやろう。今はただ我の指示に従っておれば良い」

「はっ! マスター」

「なぁ? 『スペリオル・ホープ』よ」

 

ディアボルガが取り出した黄色い魔石はその言葉に呼応するようにキラリと輝いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

J「ふぅ……短いな」

フ「とりあえず、纏めたかったって感じがヒシヒシと伝わって来たですね」

J「あぁ、これ以上長引くとダラダラ行きそうな気がしてな。そろそろ本局編は終わらせようとも考えてたし」

フ「大変でしたですもんね〜サウンドステージ03が発売してから……」

J「これを1から改訂してくの!? って本気で考えたからな」

フ「まぁ、情けを貰ってアナザーストーリーにしてもらったですよね〜」

J「あぅ……手厳しい。でも話としては成立してるだろう!!」

フ「どーだか? です♪」

J orz

 

 

 

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2005年5月22日作成