「……absolute」

「なんですか? スコール様」

「……もうマスターとは呼んでくれないんだな」

「はい」

「気付いた時には後の祭り……か」

 

スコールは自嘲する。

 

「スペリオル・ホーネストも大破し、三つ目の魔石も敵の手に渡ったのだろう? もう、頼れる奴は相沢しかいない、でもその相沢があんな状態では」

「きっと大丈夫ですよ。それより、相沢様のことを名前で呼ぶようになったのはどういう心境の変化ですか?」

「ふん、たまたまあいつの名前を知らなかっただけだ」

「そうですか」

 

absoluteはそういうとニコリと少し微笑んだ。

 

「……」

「どうしたのですか?」

「いや、お前がそんな風に微笑むのを初めて見た気がしたからな」

「ふふっ、これも相沢様のおかげなのかもしれません」

「そうか、今は相沢がお前のマスターなのか……相沢、お前には本当に敵わないな」

「スコール様?」

「いや、相沢は絶対に立ち直ってくるなと思ったんだ」

「そうですか、ならそういう事にしておきます」

(ライバルは限りなく強大な気がするが応援してるぞ、absolute)

 

 

 

 

 

魔法青年 相沢祐一

28幕『本局(9)〜説得・決意〜』

 

 

 

 

 

「それじゃ、不肖フィア・クラッセ行って来るです!」

 

説得に向かったフィアちゃんを見送るとユーノ君と目が合う。

 

「なのは……いいの? なのはも説得に行きたかったんじゃ……」

「いいの、私に頼んだフィアちゃんの目―――すごく真剣だったから。だから今回だけは特別に譲ったの」

「特別?」

「うん、特別。さっ、クロノ君に付いていてあげよう? いつ目が覚めてもいいように」

 

だから、二度目は無いよ。フィアちゃん。

だって私とあなたは恋敵(ライバル)なんだから―――

 

私は心の中でそう呟くと、ユーノ君を連れて医務室の中に入ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

ポフッ……

 

 

自分の部屋(ユーノ君の部屋でもあるが)に入った俺はベットに仰向けに倒れこむ。

天井の照明が眩しいのだが、起き上がって電気を消す気にもなれず、腕を目に当てる事で光を遮る。

 

「俺って、こんなにも弱かったんだな……」

 

『祐一君のせいじゃないわ。

クロノはその状況において、チームのリーダーとして最良の選択をしたの……確かに簡単に挑発に乗っかったのは頂けないけどね』

 

心の中をリンディさんのさっきの言葉が反芻する。

リンディさんは強い。

100%俺のミスだというのにそれを責めず、一生懸命慰めてくれる。

俺は弱い。

俺はそれで『はい、そうですか』と割り切れない。

今更ながら自分の弱さが情けなくて―――ただひたすら悔しくて―――

 

「もっと強くならなきゃいけないよな、全ての物を守れるくらいの……例え、俺の全てを犠牲にしてでも」

 

 

ウィィィィィン

 

 

「祐一さん……ここにいたですか……」

 

ドアが開いて聞き覚えのある声が耳に入る。

 

「フィア」

「祐一さん、元気出すです。リンディさんもしょうがない事だって―――」

「そういう問題じゃない。これは誰に許してもらうとかそういう話じゃないんだ!」

「祐一さん……」

 

俺はそのままの態勢で話を続ける。

 

「親のリンディさんが許してくれるからクロノを怪我させてしまった罪が消えるわけじゃない。

だけど俺は弱いからクロノの代わりなんて出来るわけがない。

俺は無力な人間なんだよ! 自分でこんな状況を作っといて尻拭いも出来ないダメ人間なんだよ!!」

 

俺の独白をフィアは黙って聞いていたが不意に口を開いて、

 

「なら、祐一さんはどうしたいですか?」

 

「……」

「祐一さんはどうしたいですか?

何もかも忘れて元の生活に戻りたい?

クロノさんや時空管理局の事は過去の事と割り切って、今まで通りユンカースを集めたい?

それとも少しでも罪を感じて例え微力でもリンディさん達に償いをしたい?

祐一さん自身はどうしたいですか?」

 

何もかも忘れる―――そんな事出来る訳が無い。

だってここまで突っ込んでしまったのだから。

過去の事と割り切る―――それが出来ればこんな事にはならない。

そう、だったら答えは簡単じゃないか? でも、俺にはその決心がつかない。

 

「……いよ」

「祐一さん」

「……いたいよ」

「祐一さん!!」

「償いたいよ!! でも、こんな俺が手伝ったところで足手まといにしかならない。そんな事解りきってることじゃ―――」

「私は周囲がどう思うとかは聞いてないです!! 祐一さんがどうしたいか聞いてるです!!」

 

フィアに似合わない大声で俺の言葉を遮る。

 

「……俺なんかが役に立つと思うのか? ありがた迷惑だろ」

「失敗は成功の素です。今ダメだったらこれから良くなればいいです。

今弱かったらこれから強くなればいいです。私は例えどんな決断を下しても、祐一さんのやりたい事に従うですから」

「フィア……」

「あっ、でもでもユンカースの収集は手伝ってもらうですよ? そうしないと私が怒られちゃうですから」

 

慌ててそう付け加えるフィアを見て少し笑いが込み上がる。

そこで俺はいつの間にかベッドから起き上がってフィアと対面で話していた事に気付いた。

少し興奮していたのだろうか?

 

「むぅ〜、笑わないで下さいです〜」

「はははっ、わかった。俺が何処まで役に立つのか解らないけれど、クロノ復帰まで協力することにする」

「そうです。自分が役に立つのかが重要じゃなくて、自分がやる事が重要です!」

「あぁ、じゃあ早速リンディさんにそういってくる。

 ありがとうな。フィア」

「どういたしましてです」

 

俺は部屋から出るとリンディさんがいるであろう医務室に向かう事にした。

 

 

 

 

 

〜医務室〜

 

 

ウィィィィィィン

 

「リンディさん!」

「あら、祐一君? どうしたのかしら?」

 

予想通り医務室でクロノを見守っていたリンディさんに声をかける。

 

「あれ、他のみんなは?」

「みんな疲れてるでしょう? 

この後、これからの事を話し合うから少し休憩してもらってるわ」

 

なら丁度都合がいいな。

俺は一回大きく深呼吸すると、ゆっくりと話し出した。

 

「リンディさん。俺がどこまで役に立つかはわからないけど、償いをさせてください」

「祐一君、だからそんな事―――」

「いえ、させて下さい。クロノの穴は俺が埋めます―――その為なら俺は高校を辞めます」

「そんな事はダメよ。手伝ってくれるのは嬉しいけれど、それはダメ。

それにクロノの穴はスコール君が埋めてくれるわ」

「えっ!?」

 

スコールが?

 

「さっき、スコール君がやって来てね。『相沢はきっと全てを捨ててでもクロノの穴を埋めたいと償いをしたがるだろうから、あいつにそんな事をさせる訳にはいかない』って自ら志願してきたの。

私としても無理に償いをしてもらうのも悪いと思っているし、ただの民間人にそこまでやらせると時空管理局の面子というのもあるし

それにスコール君なら今は空いてる上にフィアちゃんから聞いただけだけど実績もあるようだしね」

「……」

 

スコールの奴、余計な事を

でも、確かに重要な作戦に民間人を参加させるわけにはいかないか。

 

「それでも……どうしても償いがしたいっていうのだったら、臨時要員でいいのなら私は構わないわ」

「はい?」

 

拒否されてしょぼくれてる俺にリンディさんがそう付け加える。

 

「この襲撃事件に関わったわけなのだから、他の人よりも融通が利きそうだし、緊急の時にだけ召集をかけて力を貸してもらうの。

それだったらユンカースを探しながらこちらに協力もできるし、今の生活を捨てなくてもいいしね……どうかしら?」

「は……はい! それでいいです! 償いが出来るなら!」

「それと、決してスコール君を責めちゃダメよ。この提案をしたのはスコール君なんだから、その為に自ら志願したの」

 

あのスコールが?

俺と戦っていた時の面影がまるで無い気がする。

 

「それで、祐一君にお願いがあるんだけど……いいかしら?」

「なんですか?」

「あのね、スコール君用に新しい杖を開発したいの」

「新しい……杖ですか?」

「そうなの。それで祐一君のレイバルト・バリアントの戦闘用のデータを一部譲ってもらえないかしら? 

そうすれば杖を作る期間も短縮できるし……」

 

そういえばスコールのスペリオル・ホーネストは俺と戦った時に大破したんだっけ?

スコール自体は杖なしでも魔法は放てるみたいだけど、やっぱり杖なしだと辛いのだろうか?

 

「勿論いいですよ。スコールにはこの件でお礼したいですし」

「そう? なら、少し預からせて貰っていいかしら? 数日で返す予定だから」

「解りました。どうぞ」

 

レイバルト・バリアントをリンディさんに渡す。

 

「それじゃ、みんなを呼んで例の作戦を説明した部屋へ来てくれないかしら? 状況の説明を始めるわ」

「はい、解りました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな集まったわね。それじゃあ今の状況を説明するわ。でもその前に今回特別に入る臨時の局員を紹介するわね」

 

この艦で無事な人がほとんど集まった作戦会議室。

さっきの作戦説明の時は広く感じられたここも、人が集まると非常に狭く感じられる。

リンディさんの言葉に続いて俺やフィア達がリンディさんの横に出る。

 

「まずみんな知ってると思うけれど、高町なのはさんにユーノ・スクライア君」

「よろしくお願いします」

「皆さん、なのは共々よろしくお願いします」

 

「続いてこの二人も結構知ってる人がいると思うけれど、フェイト・テスタロッサさんとその使い魔のアルフさん」

「よろしく」

「よろしくねぇ」

 

「次に今回初参加になる相沢祐一君にフィア・クラッセちゃん」

「皆さんよろしく」

「よろしくです」

 

「最後に祐一君達の仲間であるエレナさん、absoluteさん、スコール君」

「よろしく〜」

「不束者ですが、よろしくお願いします」

「ぼ、僕は相沢の仲間じゃないのだが……まぁ、よろしく頼む」

「このメンバーの内、なのはさん、ユーノ君、祐一君、フィアちゃん、エレナさんにabsoluteさんは学校や他の任務もありますから緊急で戦力が必要な時のみ参加してもらうことになっているけど、よろしく頼むわね」

 

 

パチパチパチパチ……

 

 

一通り紹介が終わると静かに拍手が鳴り響く。


 

「それじゃあ紹介も終わった事だし、エイミィ」

「はい、まず物的被害はコントロールタワーが崩壊。

あとは施設が小破と、ガードロボのほとんどが機能を停止。

人的被害は武装局員に重体1名、重傷17名、軽症54名。今ここに入る人達以外のほとんどの人は万全な戦闘行為は不可能な状態です」

「つまり現在ここに入る局員38名が現在の全戦力というわけです」

「救援は要請出来ないのですか?」

 

一人の局員がそう質問する。

 

「無理ね。時空管理局の内輪揉めだけにそれだけの戦力を割くことなんて出来ないもの」

「!? それってどういう事ですか?」

「実はこの襲撃に時空管理局の一部が関与してる疑いがあるんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

後書き

J「久々に早期更新だな」

フ「なんか本当に久しぶりです」

J「まぁ、多少短くなっちゃうのは仕方ないという事で」

フ「ここで切らないと凄く長くなりそうだったですもんね」

J「というわけで次回もこれ位早く更新できればいいかなぁ……」

フ「その前にホテカノとTH2の短編をどうにかしないといけないですけどね」

J「……うぐぅ(泣」

 

 

 

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2005年5月5日作成