―――時空管理局コントロールタワー―――

 

 


キィィィィィン


 

 

その一角が光に包まれ、その光の中から俺達、潜入チームの姿が現れる。


「ふぅ……潜入成功……だな」

「まずは第一段階クリアといった所でしょうか?」


とにかく無事に潜入成功できたことを喜ぶ俺と安堵するユーノ君。


「でもまだ油断は出来ないよ。ね? クロノ君」

「あぁ、ここは敵の懐に潜り込んだも同然なんだ。いつ敵が現れるか解らない」

「それにしても、なんで直接犯人の所に転移しないんだ?」



その方が手っ取り早いと思うのだが


「これから向かう管理室という場所は本局の脳に当たる部分だ。防犯のためにあそこは上から数えて5階位まで転移魔法の無効化結界が貼ってあるんだ。

だからその1つ下であるこの階から上へ移動する事になる、よってみんな自分勝手な行動は慎んで欲しい」

「……了解」


クロノのいう通りだな。ここでは自分勝手な行動は身を滅ぼす。

特に俺やユーノ君は重要な役割を担っているから余計慎まないと。


「よし、位置は把握しているから僕の後をついて来ればいい。隊列については僕が先頭、次にユーノ、相沢さん、なのはという順番で行こうと思う」

「なぁ、俺が最後尾じゃ駄目なのか?」


こういう狭い通路だとなのはちゃんの魔法は扱いづらいだろうし、俺の方が有利だと思うのだが。


「相沢さんは作戦目的であるユンカースを封印するという点で一番のキーマンなんだ。

出来る限り魔力や体力は温存してもらいたい」

「大丈夫です、祐一さん。祐一さんは私が命を懸けてでも守りきって見せます!」

 


ズビシッ!


 

なのはちゃんのおでこに軽くチョップをする俺。


「はぅ……」

「いいか、なのはちゃん。『命を懸けて』なんてそんな悲しい事いわないでくれ。

俺なんかのせいで大切な人を失いたくないんだ……」


そういうとなのはちゃんは少し悲しそうな顔をして


「……すみません。でも、自分を『なんか』なんていわないでください。

少なくとも私にとってはそれ位大事な人なんですから……

「そうだな……俺も少し卑屈に物を考えてしまったみたいだな。すまん。

それで……最後の方がよく聞こえなかったけど……何かいったか?」


俺が聞くとなのはちゃんは少し赤くなって、


「な、何でもありませんよ。さぁ、そんな事よりも早く行きましょう」

と狼狽して話を逸らしてしまった。


ふむ、何か聞いては不味いことなのだろうか?


「……」

「……クロノ君?」

「……うぇ? こほん、なんだい?」


クロノにしては珍しくぼっとしていたらしく、素っ頓狂な声を上げて驚いている。


「そろそろ行こう? 案内してくれる?」

「あ、あぁ、わかった。じゃあついてきて」


クロノは先導するように足を進め始める。

続けてユーノ君、俺、なのはちゃんの順で並んでいく。


「祐一さん」


少し歩くと不意になのはちゃんに声をかけられる。

「ん? なんだ?」

「さっき……大切な人っていってくれた時、とっても嬉しかったです」

「まぁ、俺にとってはまだ知り合って間もないけれど、なのはちゃんも、フィアもユーノ君もクロノもみんな大切な人だからな……大切の言葉の重みが薄い気もするんだけどな」

「あはは、祐一さんらしいですね」

「そうか?」

「でも、そうだったとしても私は嬉しい事には変わりないですよ」

(なんであれ、祐一さんから『大切』っていわれたんですから)

「そんなものか?」

「はい、そんなものです!」


……俺には意味が解らん。

 

 

 






魔法青年 相沢祐一

25幕「本局(6)〜潜入〜」






 

 

 

―――戦艦 アースラ―――

 

 




「そろそろ、動き始めたのかねぇ……どう思う? 2人とも」


狼に似た感じの(先程、ライオンみたいだといったら怒られた)獣の姿に変身したアルフさんが私達に会話を振ってくる。


「時間的に着いた頃だと思うです。まぁ、あの4人のことですからきっと大丈夫です」

「うん、祐一の実力は解らないけど、他は全員実力があるから……きっと成功させて帰ってくると思う」

「心配する必要はなし……か、まぁあたしもあいつらが負けるとは思ってないけどさ」

「そうです。祐一さん達も頑張ってるですから、こっちもこっちでやれる事を精一杯やる事が重要です」

 


ガシャン、ガシャン……


 

奥の通路から聞こえる足音。

copyによって量産されたガードロボ軍団のものだろう。


「こっちも作戦開始。行くよ、バルディッシュ!」


Yes, Sir.


私と同様に音に気付いたのか、フェイトさんが前方と足元に魔方陣を展開する。

 

Thunder smasher(サンダースマッシャー)』

 

フェイトさんが魔方陣にバルディッシュを突き入れるとディバインバスターに似たような感じの魔力の光線が入り口に向かって飛んでいく、逃げる事もできずにその光線に巻き込まれるガードロボ達。


「ここは行き止まりだよっ!!」

「ですっ!!」


辛うじてフェイトさんの攻撃を避け、こちらに駆け込んできたガードロボに向かい攻撃を仕掛ける私とアルフさん。

私は腕力強化魔法をかけた拳を金槌のように振るい、アルフさんは肉食獣さながらにガードロボの喉笛に喰らいついて1機づつ確実に潰していく。

 


Thunder smasher


 

続けて第2射。

同じ様に吹き飛んでいくガードロボ達。

今度はアルフさんに残党処理は任せ、私は神経を集中してオプションを探し始める。


sensation(センセーション)」


Sensation―――equip magicの上位魔術であるこれは、自分の感覚を研ぎ澄まして気配などに過敏に反応できるようになる魔術。


「あったです!! 入り口の正面、フェイトさんの視線を斜め60度に向けた所です!!」


しかし、私が指示した所にはオプションのような姿は見えない。

けれど、私の感覚はそこだと告げている。


「わかった。バルディッシュ!!」

 


Photon lancer


 

私を信じて、狙いを定めたバルディッシュから短い魔力弾が発射される。

魔力弾は何も無いはずのそこに近づくと、隠蔽魔術を使用していたのだろう、チッという音がして少し端が焦げたオプションが姿を見せる。

どうやら、寸での所で気付いて掠り程度で済んだらしい。


「避けた!?」

「任せるです!!」


だけど姿が見えればこっちの物。

私はすぐさま背中に魔力を貯め、翼を具現化させて飛び上がる。


「落ちるですっ!!」

 


バシュゥゥゥゥン……


 

すぐに接近、バランスを立て直す隙も与えずにオプションに攻撃を与えて霧散させる。

オプションが消えた事により、次々に消えていくガードロボの集団。


「ふぅ……これでひとまず安心です」

「ナイス、フィア! あたし達って結構いいチームかもね」

「うん、フィアも私達と初めて組んだのに凄いと思う」

「そんな事いわれると照れちゃうですよ〜」


祐一さん、ここは私達が必ず守ってみせます……だから……

絶対に無事に帰ってきてくださいね。

 

 

 

 

 

 




―――本局 某所―――

 

「くそっ! キリが無い!!」


ある局員の放った魔力弾がガードロボに当たり、1機、また1機と倒れていくガードロボ達


「口を動かす暇があるなら手を動かせ!! まだまだ敵はこちらに向かってきているんだぞ!!」

「だ、ダメです。数が多すぎ……うわぁぁぁっ!!」


そして、こちらも1人また1人とガードロボの集団攻撃にやられていく。

死んではいないだろうが、気絶してしまったのだろう。

ピクリとも動かない局員。


「エリックーーー!! くそっ! これじゃ、全滅も時間の問題か!?」

『ゴートン総隊長! こちら、第4小隊のラクロア。

被害状況は第2、第3小隊が壊滅……残るはそちらの第1と我が第4小隊……うわぁぁぁぁぁっ!!』


そこで念話が途切れる。おそらくガードロボにやられてしまったのだろう。


「残るは我が小隊のみか……情けない。我々が自分の為に作った物に牙を剥かれるとは……」


第1小隊隊長兼、ガードロボ殲滅部隊東地区隊長である見た目28、9の少々体が大振りな男―――ゴートン・ブラッギスは自らの無力を噛み締めるかのようにそう呟いた。

突如、彼らに対して襲い掛かってきたガードロボット。

序盤は地の利や実力において絶対的に優位に立っていた局員達がこれを殲滅していたのだが、

戦況が長期化することにより、次々と出てくるガードロボに疲れの見え始めた局員達が1人、また1人とやられ、今現在の戦況は局員側の圧倒的不利に追いやられていた。

上層部に連絡をつけ、援護を要請したくても上層部には連絡がつかず。

彼らはただひたすらガードロボットを倒すという不毛すぎる作業を続けていたのだった。


「ゴートン隊長! こちらももう持ちません! せめて隊長だけでも撤退を!」

「……それは出来ぬ相談だ」

「隊長……」

「もはや、戦は決した。後は、上層部の逃げる為の時間を稼ぐ。

例え1秒でも倒れるまで私は戦い続ける」

「……自分は隊長が自分の隊長で本当に良かったと思います」

「君の名は何という?」

「はっ、自分はカウジー・ストファートといいます!」

「では、カウジーよ。もう私の事は隊長などいわなくてよい……

もはやこれだけ兵が少なくなれば部隊などというのは名ばかり、これから私達は1人の戦士としてこの戦いに望もう!」

「……わかりました! ゴートンさん!」

 


ガシャン、ガシャン……


 

「来たな……」

「えぇ……覚悟は出来ています……」

「うぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」

「やぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

「ストーーップ! ストップよ!!」

 


ガードロボに向かって捨て身の突撃をしようとした2人だが、誰かに呼び止められる。


「だ、誰だ!?」

「ゴートンさん、あれっ!」


カウジーの指差す方を見るとそこには2人の少女―――エレナとabsoluteが立っていた。


「き、君達は誰なんだ?」

「さぁねぇ? でも、あんたたちの敵じゃない事は確かよ」

「time、それでは疑われてしまいますよ……私達はアースラのリンディさんからの命令で他の局員の援護をするように命令を受けたabsoluteといいます」

「で、あたしはエレナよ」

「そうか……リンディが……」

「とりあえず、ここは私達に任せてもらえませんでしょうか?」

「無理だ! あんなに大勢のガードロボの大群をたった2人で倒せるわけがな『すまない。君達に任せよう』……ゴートンさん?」

「んじゃ、任されましたっと……absolute、初っ端から全力で行くわよ!」

「わかってます」

「き、来ましたっ!!」


ガードロボがエレナ達を捕捉したのかガードロボの集団が向かってくる。


「absolute、何秒?」

「1……10……あれくらいの範囲ならば30秒はあれば十分です」

「おっけー30秒ね」

 


パチン……


 

エレナが指を鳴らすことによりガードロボの周囲の時が停止する。


「う、動きが……と、止まった……?」

「一体、何が起こっているというのだ……」

「まだまだ、驚くのは早いわよ! absolute!」

「……出来ました……解除してもいいです」

「わかったわ。ほい」


エレナがもう1回指を鳴らすと止まっていた時が動き出し、ガードロボが再び活動を開始する。


「おい、再び動き出したぞ! これからどうするんだ!!」

「あ〜うっさい! 今のは最終的な結果の為のただの布石よ! absolute!」

「いきます。『トラップ・ホール』」

 


どさどさどさぁぁぁぁぁっ!!


 

absoluteが唱えるとガードロボの真下にある床が無くなり、ガードロボ達が次々に空間の穴に落ちていく。


「これは……落とし穴?」

「ぴんぽ〜ん、大正解。これはabsoluteが作った空間の落とし穴よ」


カウジーが誰となく呟いた言葉にエレナが茶々を入れる。


「正確には少し違うのですが、先程の時間停止が布石だといったのはこの魔術の作動の為の時間稼ぎをしていたからなのです」

「時間停止に空間制御だと!? そんな魔術をこのような年端も行かないような少女達が使えるというのか!?」


ゴートンは信じられないといった風に頭を抱える。


「まあ、信じる信じないは別物として……あんた達の役割はもう終わりよね?」

「終わりならば、ひとまず戦艦アースラの方へあなた達全員を転送したいのですが」

「……わかった、そちらの指示に従おう。あとすまないが、他の地区でも局員が奮戦していると思う。我々をアースラに送ったらそちらの方にも行って貰いたい」

「はい、リンディさんからそう命令されていますから」

「そうか……いらぬ心配だったな。では急がねばな……カウジー、他の小隊をここに集めてきて欲しい」

「は、はい、了解しました!」

「暇だし、あたしも手伝うわ」


カウジーに指示を与えてからゴートンは辺りを見回す―――床に空いていた大穴は既に元に戻っており、そこにはもう1機もガードロボは残っていない。

あの絶望的な状態からの奇跡の大逆転勝利だった。

 

 

 

 

 

 

 


―――時空管理局コントロールタワー―――




 

その頃コントロールタワー内部の潜入組は

 

「じゃあ、『かまきり』で」

「のうわっ! また『り』かよ……」

「10……9……」

「ま、待った! 少し待ってくれ、なのはちゃん!!」

「……呑気なものだ。一応、ここは敵の中枢で、他の所では誰かが必死に戦っているかも知れないというのに……」


後ろで繰り広げられるしりとり合戦を見ながら僕―――クロノは呆れた風に呟く。


「まぁ、ガチガチに緊張してるよりはいいと僕は思うよ? 確かに、必死に戦ってる人にはこの姿は見せられないけど……」

「……まぁ、やる事はちゃんとやっているから責め立てる義理は無いが」


そう、彼らはしりとりをしつつもちゃんと隊列での役割である後方監視を怠っていない。

というより、祐一さんは振り返っているので常に後方を監視しているみたいだ。

作戦に臨む姿勢はちゃんとして欲しいというのが本音だが、ちゃんとやる事はやってるという点と、今回は相沢さんも緊張しているのかも知れないという事で多少大目に見ている。

……甘くなったものだな僕も


「3……2……1……」

「り、『リンディ艦長』!!」

「『瓜』」

「また『り』!?」

「こりゃ、祐一さんの詰みだね」

「いや、まだ切り札は残ってるだろう?」


そう、しりとりにはあの脅威の逆転技がある。

それに相沢さんが気付けば一気に大逆転できるだろう。


「そ、そうだ『倫理』! どうだ、なのはちゃん『り』だぞ。『り』♪」


見事なうっちゃりが決まったのか、小学生相手というのも忘れて大喜びする相沢さん。

そう、最初と最後の文字が同じ言葉―――この場合は最初と最後が『り』の単語をいえばいいのだ。

でも、これにも弱点がある。それは……


『リハビリ』。はい、また『り』ですよ。祐一さん」


それは、相手に同じ技を(即答で)使われると一気にこっちの戦意が削られることだ。


「……参りました」


ほら……ね?


 

そんなこんなでまるで人気の無い通路、階段を進む。

先程から、局員はおろかガードロボすら見ていない……もしかして誘っているのだろうか?


「着いたよ。ここがコントロールタワーの中枢、管理室だ」


タワーの最上階の突き当たりの扉の前で僕は立ち止まり、振り返る。


「クロノ君、ここにこの事件の犯人がいるんですか?」

「あぁ、そう考えてみて間違い無い」

「まぁ、そうだろうな。ボスっていうのは地下か最上階にいるって相場は決まってるもんだ」

「祐一さん、それって一体何の相場ですか……」

「とにかく、突入するよ。準備はいい?」

「おう!」

「はい、いつでもどうぞ」

「こっちもOKです」

「じゃあ、開けるよ」

 


ガァァァァァァッ


 

管理室の扉がゆっくりと開く

 


「ようこそ皆さん、待ちくたびれましたよ」


そこには、足を組んで椅子に座っている男が1人、こちらに笑みを送っていた。


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






後書き

 

J「祝! 25話達成! おめでとーーーー!!」

フ「本当にここまで大変でしたです……」

J「これも一重に皆様のおかげ、本当にありがとうございます」

フ「ありがとです」

J「というわけで今回の25幕いかがだったでしょうか?」

フ「もはや、戦闘がぎこちないのは作者のデフォルトです。

多少、戦闘ものを見直したところで直るほどの軽症じゃなかったみたいです」

J「うぐぅ……結構見たんだけどなぁ……」

フ「具体的には、赤髪の侍が出てきたりショタなお姉さんがいたら食べられちゃいそうな魔法使いが出てくるお話とか、名雪さんに恨まれてるD.C.クロスのお話とかですね」

J「結構、自分の戦闘シーンって異色なんだなと思ってしまったよ。

自分の場合、生々しい表現が全くといっていいほど無きに等しいからなぁ……」

フ「そういう方が客受けいいんでしょうか?」

J「わからん」

 

 

 

 

キャラ紹介

 

エリック

 

ただのやられキャラ。それ以外に詳細な設定を考えてない(ぉ

 

 

ラクロア

 

ただのやられキャラ2。こちらは第4小隊の隊長という肩書きを持っている。

 

 

ゴートン・ブラッギス

 

今回の戦いで東地区の指揮を任された第1小隊の隊長。

リンディと同期のため、リンディさんを呼び捨てにしている。

その為、何歳かは不明。

 

 

カウジー・ストファート

 

21歳。第1小隊の局員。

この名前の元ネタがわかった人は相当マイナー。

(わかった人、連絡お願いします)

 

 

 

 

魔術説明

 

 

Thunder smasher 術者:フェイト・テスタロッサ

 

魔方陣を前方と足元に展開し、前方の魔方陣に杖を突き入れて雷撃を纏った光線を放つ砲撃魔法。

 

 

sensation 術者:フィア・クラッセ

 

感覚を向上させる魔法。

これにより反射神経や運動神経を向上できることも出来る他、

視覚や嗅覚、聴覚を向上させ、姿が隠れている物の捜索も出来る。

 

 

トラップ・ホール 術者:absolute

 

相手の真下に空間の穴を作り、相手を落とす。

いわゆる落とし穴(笑

 

 

 

 

※感想・指摘・質問がありましたらBBSかmailにて

 

 

P.S.

J「次はいよいよ犯人登場!」

フ「これからどうしようかまだ本人も決めてないです!!」

 

 

2005年3月21日作成