ここは時空管理局本局のとある部屋

そこで椅子に体を預け、天井をじっと見つめている私。

「……」

 

コンコン……ガチャッ

 

「フェイト、ご飯を作ってきたよ。一緒に食べよう?」

そんな私の意識を覚醒させるかのようなドアのノック音。

ドアから現れたのは獣耳を頭に付け、尻尾を生やした少女だった。

「ありがとう、アルフ」

「いいのよ。身の回りのお世話は私にお任せ! フェイトは何もしなくていいから」

それはそれで人間が駄目になる気がするなぁ……

そう思ったけど、あえて口にはしない事にした。

だって、その事をいってしまうとこの娘は凄く落ち込んでしまうから

「……裁判、早く終わるといいのに……」

代わりにそう喋りながら食事のパンを一欠けらちぎって口に入れる。

不味くも無ければ美味しくも無い・・・・きわめて普通の味だ。

そう……私は今、母である……いや、母であったプレシア・テスタロッサの起こした「次元震発生未遂」の罪を償うために裁判を受ける身なのだ。

「大丈夫だよっ! クロノの奴もいってたろう? 裁判は十中八九無罪になるんだ。裁判が終わる少しの間だけど我慢しようよ!」

私の使い魔である先程の獣耳の少女、アルフが慰めるように励ます。

……そう、裁判は無罪になる。だったら早く判決を下して自由にして欲しい。

早く、自由になってあの子の所へ会いに行きたいから……

……初めて友達になってくれた、高町なのはの元へと……

 

 

 

 

 

魔法青年 相沢祐一

21幕「本局(1)」

 

 

 

 

 

「祐一さん、祐一さん。起きて下さい」

 

ゆさゆさ

 

僕、ユーノは祐一さんの体を揺さぶりながら叫んだ。

「ん〜、鮭おにぎりおいし……」

「そんなどこかの着ぐるみ宇宙人のような事いってないで起きて下さい!」

 

ゆさゆさ


先程よりも強く、大きく体を揺らして叫ぶ。 


「ピーマンも人参もじゃがいもも食べれるぞぉ〜……ジャ、ジャム!? あ、秋子さん!? ジャムはちょっと無理ですね……わっ! こらやめろ! ジャムは、邪夢だけは!! わっ……わああああああああああああああああああああああああああああああっ!!

なにやら夢で魘されてる祐一さん。

……ジャムってあのジャムですよね? 祐一さん達の世界にある、あの果物を煮詰めて作る甘いやつ……なんで、そのジャムにこんなにも怯えているのだろう?

……ってそんなことより

「起きて下さい! スペリオル・ブレイドが直せなくなりますよ!!」

「……はっ!?」

そんな脅迫めいた事をいうと目がパチクリと覚める祐一さん。

「おはようございます。祐一さん」

「お、おぉ、おはようユーノ君……本局についたのか?」

「えぇ……今、入港の手続きをしているそうです。あと10分位だといってましたよ」

「そうか……」

祐一さんはそういうとベッドから起き上がって降りる。

「……ところで、夢でいっていたジャムって何なんですか?」

……世の中には興味本位では聞いてはいけない物が存在するんだ。ユーノ君」

僕の肩をポンと叩いて達観した目で語る祐一さん。

「?」

……一体ジャムって何なんでしょうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

戦艦内の食堂で食事を食べた後、俺達4人はクロノに連れられ船から外へ降り立った。

降り立った場所は近未来の戦艦用の港といった感じか、まわりにもアースラに似たような戦艦が3、4隻あった。

「ここが時空管理局の本局と呼ばれている。

ここには、局員が暮らすための街や、時空管理局の技術の粋を集めた研究施設の他に時空最高裁判所もここにある……まぁ、滅多に使われる事は無いけどね」

田舎者の様に辺りを見回していた俺達にクロノが説明してくれる。

「それで、まずは魔石の修復の為に研究棟へ向かおうと思うんだけど、彼女と会うのはその後でいいかな? なのは」

「うん、ここに来た目的は祐一さんの魔石の修復だから。私は会えればそれで嬉しいし」

「そう、それなら研究棟の方へ向かおう」

そういうとクロノが先導して歩き始める。

 

「それにしても、アースラにも驚いたけど凄いな……本局ってのは、まさか大きな戦艦だったとは」

「そうですね。私なんかは本局の存在は聞いたことあるですけど、これは想像を超えてるです。これだけの科学力があればスペリオル・ブレイドを完全に……いや、それ以上にする事も不可能じゃないです」

フィアがそういうのなら可能かもしれないな。

そんな事を話しながら10分程歩くと、クロノが立ち止まる。

どうやら目的地に辿り着いたみたいだ。

「ここが研究棟だよ。ここの主任にノイルという人がいる。僕はこれから行く所があるから立ち会えないけど、母さ……艦長がアポは取ってあるから、艦長の名前を出せば通してくれる」

「あぁ、わかった」

「ありがとう、クロノ君」

「い、いや……その……そ、それじゃ!」

なのはちゃんがお礼をいうと、顔を真っ赤にしてそそくさと行ってしまうクロノ……彼もうぶだね〜

「よしっ! じゃあ中に入るか」

「「「はい(です)」」」

クロノを見送った俺達は研究棟の中に入ることにした。

 

 

 

 

「ふむ、話はリンディ艦長から聞いている。

時空管理局の研究棟へようこそ。私がノイル・スティング、ここの研究棟の主任を務めている、所員を代表して歓迎しましょう」

受付の人に通してもらった研究室で白衣を着た初老の男性にそう自己紹介される。

「相沢祐一です。こちらこそよろしくお願いします。それで早速本題なんですが……」

「あぁ、わかっている。魔石の修復に来たのだろう? それじゃ早速、魔石を見せてもらえるかな?」

俺は、ノイルさんにスペリオル・ブレイドを渡す。

それをこんこんと叩いたり、ルーペで覗いてみたり、周囲にある何か触るとヤバそうな機械類に通したりして調べている。

「ふむ、これだけ精巧な物を作るとは……他の世界も侮れないものだ……これを直すには……」

「な、直るですか?」

フィアが恐る恐るといった感じに聞く。

「正直難しい。この類の再生装置を作るのは、我々のレベルでは時間も手間も掛かってしまう」

「そうですか……」

なのはちゃんがまるで自分の事のようにがっかりする。

「だが、まだ手はある。この魔石を素体に同じような物を掛け合わせれば直す事ができる」

「でも、スペリオル・ブレイドに見合うレベルの魔石なんてここにあるですか?」

「君も随分ズバズバ斬ってくれるね……たった一つだがあるよ。もっとも試作品の上に誰も使う事の出来なかった物なのだがね」

そこまでいうとノイルさんはおもむろに立ち上がった。

「ついてきたまえ。案内しよう」

 

 

 

 

 

パチッ……

 

ノイルさんが部屋の電気をつける。

その部屋にはほとんど物が置いてない殺風景な部屋で、中心には厳重に鍵とガラスケースで守られた空のように澄んだレイジングハート位の大きさの水色の石がポツンと飾られているだけだった。

「我々、研究チームは先刻のプレシア・テスタロッサ事件での局員の敗北を踏まえ、新たな魔法の杖に開発を注いできた。

そこで、その戦いにおいて味方として、敵として大活躍をしたレイジングハート、バルディッシュのデータを解析し、それぞれの利点などを踏まえた魔法の杖を作る事を計画したのだ」

そこで区切るとノイルさんはガラスケースを開け、水色の石を取り出してこっちに戻ってくる。

「これは、その試作品として作られた物なのだ。『レイバルト・ハーティッシュ』……この魔石の名だ。この魔石はレイジングハート、バルディッシュと同等……いや、それ以上の力を計算上では持っているのだが……いかんせん癖が強くてな。戦闘用の局員の誰も使う事が出来ないという物なのだ」

「それを使って修理ができるんですね?」

「能力はお墨付き。決して他の世界の魔石に劣る事は無い」

ノイルさんがそこまでいうのならば大丈夫なんだろう。

まだ会って間もないけど、この人はきっと信頼ができる人だと思う……あくまで俺の勘なんだが

「それじゃあ、お願いできますか?」

「勿論だとも……といいたいのだが、一つお願いを聞いてもらえるかな?」

「お願い……ですか? ……俺のできることなら」

スペリオル・ブレイドを直してもらえるんだ。その為なら何でもやってやる。

そう構えていたのだが、ノイルさんはいきなり笑い出してしまった。

「はははっ、そんな身構える事ではない。ただ、スペリオル・ブレイドを少し調べさせてくれればいいんだ、今後の研究に役立てたいのだよ」

「……スペリオル・ブレイドをですか?」

そんな事でいいのか? ちょっと拍子抜けな感じだな。

とりあえず、元の持ち主であるフィアの方を見る。
本来の持ち主の許可がないとやはり容易には手放してはいけないだろう。
するとフィアはその視線に気付いたのか、構わないですと言葉を返した。

「……わかりました。それじゃあ、よろしくお願いします」

「安心しなさい。私はこういう物はきちんとやらないと気が済まん主義だからな……そうだな、6時間位経ったらまた来たまえ。その位にはもう出来上がっているだろう」

そういうとノイルさんは、スペリオル・ブレイドとレイバルト・ハーティッシュを持って部屋を出て行ってしまった。

「……大丈夫なのでしょうか……」

「魔石は全部排出しておいたし、それにあの状態ならここの人達にはあれは使えないだろ?」

出て行った後を見計らって、なのはちゃんが俺に聞いてきたのに対してそう返す。

「さっ、最低でもあと6時間は時間を潰さなきゃいけないわけだし、なのはちゃんの用事を先に果たそう……なぁ、暇だから俺もついて行っていいか?」

「あっ、私も行きたいです!」

「はい、勿論です! その方がフェイトちゃんも喜びますし」

「よし、それじゃ早速行こう! 大切なお友達を待たすのも悪いしな」

 

というわけで、俺達はフェイトちゃんが待つ監獄へと向かう事にした。

 

 

 

 

 

後書き

J「また消化不良や……」

フェイト(以下フ)「……いつもの事」

J「ぐはっ、痛い所を……ってなんでここにフェイトが? フィアはどうした?」

フ「今回はフィアの代わりに私が出たの。いつもいつも同じ人に同じ様に突っ込まれるのは精神的にきついだろうから」

J「いつの間にそんな交友関係が……ってか人が代わっても同じ事をいわれりゃ変わらないだろうが!」

フ「……頑張って、次回は多分absoluteさんだから」

J「……」

 

 

 

 

設定

 

レイバルト・ハーティッシュ

 

時空管理局が開発したインテリジェント・デバイス(自律回路を持つ魔法の杖)

レイジングハートとバルディッシュをモデルに長所を集めて作られているため、非常に高性能。

しかし、癖が強いため扱える者を選ぶ。

 

 

人物紹介

 

ノイル・スティング

 

46歳、時空管理局の研究棟で主任をしている。

口調は些か尊大だが、基本的に人当たりは良い。

レイバルト・ハーティッシュの設計者でもある。

 

 

 

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2005年2月4日作成