かちゃっ……かちゃっ……

 

カレーと水の入った食器を持ってマスターの部屋へと向かう私。

思い出のカレーには程遠い代物だけど自分ではそこそこな味だと思う。

……マスターは気に入ってくれるでしょうか?

「……ふぅ」

マスターの部屋の前に着き、深呼吸を一息。心を落ち着かせる。

 

ガチャッ

 

私がドアをノックする前に扉が開き、マスターが出てきた。

「マスター」

「……」

「マスター、これ今日の食事のカレーです。そろそろ何かを口にしないと健康に差し支えます」

「……」

マスターは無言で私とカレーを交互に見ている。

「マス、ター?」

「……ユンカースの気配だ。行くぞ」

「きゃっ!」

マスターと接触して危うくカレーを落としそうになるのを必死で持ち直す。

「absolute、そんなもの何処かに置いておけ。もたもたしていると奴らに先を越される」

「……」

……マスター。

溢れてくる泣きたい気持ちを私は必死に押さえ込んで無表情でこう返答した。

「……はい、マスター」

 

 

 

魔法青年 相沢祐一

17幕『闇』

 

 

 

一般の家庭より少し早目の夕食を食べて、猫モードのフィアとのんびりしていると、
(
ちなみにフィアは帰ってきた秋子さんに正式に了承されてめでたく水瀬家の家族の一員になった)
頭を突き抜けるかのような耳鳴りが起こる。もしかしなくてもユンカースが発動した証だ。

「全く、こっちは夕食を食べた後だってのに……」

「本当です。もう少しユンカースも気という物を効かして欲しいです」

膝に乗ってまったりしているフィアも俺の意見に同意する。

『それはユンカースであるあたしに対して喧嘩売ってるの?』

頭の中に響く声。さっきの耳鳴りとは違って頭に広がっていくようで、
ユンカースのそれとは違って嫌悪感を感じない。

これは先程魔石に戻ったエレナさんが、スペリオル・ブレイドを経由して会話をしたからだ。

「エ、エレナさん?!」

「あ、べ、別にそうじゃなくてですね。え〜と……ぅ〜」

『あはは、冗談よ』

「もぅ、エレナさん」

『さて、お喋りはここまでにしてさっさと行きましょ?
 
あたしもこんな狭い所に押し込められてると気が滅入るのよ』

「ははっ」

肩をコキコキ鳴らしているエレナさんの姿が思い浮かんで少々笑いが漏れる。

なんだかおばさんくさいかもと思ったのは秘密だ。

「さっ、早く行こうです」

「『そうだな (そうね)』」

そうして俺は、食器を洗っている最中の秋子さんに『散歩に行ってきます』とだけ告げ、水瀬家を出た。

 

 




「ここですね。マスター」

真っ暗になっていて姿は見えないけど、悪意の魔力が渦巻いているのがわかる。

「あぁ、スペリオル・ホーネスト」

マスターの服装が静かに戦闘用の服に変わる。

風が巻き起こり、闇が蠢く。どうやらこの闇自体がユンカースのようだ。

「来ます!」

僕はお前を封印してあいつよりも強くなる。『wind』」

数十発のかまいたちが闇に向かって飛んでいく。

しかし、かまいたちは音も無く闇に吸い込まれてしまった。

「何っ?!」

この能力、どうやら守護者を除いて一番厄介なユンカースのようです。

「お手伝いをいたしましょうか?」

「ふん、この程度の相手に手出しは無用だ!
 切り裂けないのならば吹き飛ばすまでだ『burst』」

かまいたちとは一味違う、魔力の塊が闇に吸い込まれていき――

 

ドゴォォォォォォォォン!

 

吸い込まれた魔力の塊は内部で爆発を起こし、闇を吹き飛ばす。

「よしっ!」

「……いえ、まだです! マスター」

すぐに再集結した闇が、吹き飛ばしたことで油断をしたマスターの周りを囲んでいく。

「マスター!」

マスターを助けようにも闇がエネルギーを放出してバリアのようになり、近づく事ができない。

「くっ」

『チカラガホシイカ?』

地の底から呻く様な感じに誰かがマスターに語りかけてくる。

「誰だ? お前は何者なんだ?」

『チカラガホシイカ……ナラバオレガサズケテヤロウ』

「なんだと?」

「いけません! その者の言葉に耳を貸してはいけません!」

『ダマッテイロ』

エネルギーの放出量が多くなり、その余波が私に襲いかかる。

なんとか直撃は免れましたが、マスターとの距離がかなり離れてしまった。

「absolute!」

『オマエニチカラヲヤロウ。アノオマエノシモベノオンナニモ、キサマがマケタアノマジュツシニモマサルチカラヲ、オレガアタエテヤル』

「僕に力を……?」

『ソウダ……キサマハチカラガホシイノダロウ? ダカラアタエテヤロウ』

マスターの心を闇がどんどん覆っていく、このままではマスターは。

「マスター!」

「……わかった、僕は力が欲しい。誰にも負けない力を、その為なら何でもしてやる!」

私の必死の叫びも虚しく、マスターは闇にそう告げた。

『イイヘンジダ……ワカッタ、チカラヲキサマニヤロウ……タダシ……』

最後の言葉を聞き取る前に、闇はマスターを完全に覆ってしまった。

 

 

 

 

「ここら辺か? フィア」

魔力を追いかけて辿り着いた場所はものみの丘――子供の頃、狐だった真琴を拾った場所。
そして俺がフィアに頼まれて初めて魔法青年になった場所だ。

「はいです。この近くに悪意の魔力、それに薄っすらですが瘴気も出ているです」

「しょうき? 詳しく書くことか?」

「それは詳記よ」

「うおっ!」

前触れも無く魔石から出てきてエレナさんがつっこむ。

「出てくるんだったら合図してくれ」

「まぁ、いいじゃない。瘴気っていうのは、負のエネルギーの事よ。
 大量に浴びると普通の人間なら発狂したり、最悪、死に至る場合もあるわ」

「そ、それってやばいんじゃないのか?」

この近くには人家は無いが、その瘴気とやらが街に流れたら大変な事が起きるんじゃないか?

「大丈夫よ。フィアがいうには薄っすらな程度なんでしょ? 人に害を及ぼすには少なすぎるわ」

俺の考えを見透かしたかのようにそう答えるエレナさん。

「そうか、それならよかった」

(でも、おかしいわね。ユンカース自体には瘴気を発生させるような事は出来ないはずだけど……)

「祐一さん、エレナさん。あっちの方で何か光ったです」

「行ってみましょう。もちろん、相手はユンカースだけではないわ。
 スコール、そしてabsoluteとも戦闘にもなるであろう事を忘れないで」

absolute、やっぱり戦わなければならないのか。

あの喫茶店で話をしてから、absoluteとは戦いたくないという気持ちも多少芽生え始めている俺がいる。

そんなんじゃダメだってわかってるんだが、一度知り合ってしまうと情が移ってしまうようだ。

「あぁ!!」

俺はそんな心を振り払うために、わざと意識して大声でエレナさんに返事をする。

目的の場所はそこから1分ほど歩いたところだった。

「あっ、祐一さん」

「こんばんは、皆さん」

「やっ、なのはちゃんにユーノ君」

「こんばんはです」

「は〜い、2人とも」

目的の場所にはなのはちゃんとユーノ君が既に来ていた。

「状況は?」

「僕達が来た時にはスコールが既に来ていて戦闘をしていました。ですが……」

「なにかあったの?」

「スコールさんがユンカースが取り付いたと思われる闇に覆われてしまったんです」

ユーノ君の言葉を引き継ぎ、なのはちゃんがそう話す。

「それはきっとNo.20『dark(ダーク)』の能力ね」

そういったエレナさんの顔は少し深刻そうな顔だった。

「強いんですか?」

「強いって訳じゃない。いえ、守護者とNo.21を除けばトップクラスの強さはある。
 でも、一番怖いのはあいつの心に干渉する能力よ」

心に干渉? absoluteの心を読む力の強化版みたいなものか?

「あいつは人の心の闇を覗き、弱みを握って人間を精神的にまいらせる事が得意なのよ」

なるほど確かにそれは効果的だ。
人間には小さくても必ず闇とか負い目と呼ばれるものが存在するものだ。
そこを突かれるという事に人間はとてつもなく弱い。

鍛えればいいという事は簡単だが、実際には外面的な力を鍛えるのはとは違い、内面的な力を鍛えるというのははるかに難しい事だろう。

「確かに、それは厄介です」

「でも、勝てない敵じゃない。多人数で一気に叩く!
 
私達5人で一斉にかかれば敵ではないわ」

力押しか。なんか作戦とは呼べないような作戦だな。

「わかりました。ここはエレナさんの意見を採用します。
 では先陣は祐一さんとエレナさん、その後ろになのはとフィアさん、僕は結界を張って後方支援に回ります」

「わかった、それじゃあ早速――うわぁっ!」

「「「「祐一(さん)?!」」」」

早速作戦を始めようとした矢先、突然俺の周りを闇が包み込みはじめる。
抜け出そうにもがこうともその腕はまるで雲を掴んでいるかのように空を切る。

「な、なんだ? この闇」

「祐一さん! レイジングハート!」

「駄目っ! 祐一に当たってしまうわ!」

なのはちゃんが魔術を発動しようとするのをエレナさんが止める。

闇に包まれている以上、魔力ダメージの攻撃とはいえ、俺自身にも危害が及んでしまう可能性があるからだろう。

俺はそれでも構わないが、フィアやなのはちゃん、エレナさんがそれを許すわけがないだろう。

「じゃあ、どうすればいいです!」

「祐一さんの様子からして肉弾戦も無理っぽいですし、八方塞です」

フィアが慌て、ユーノ君が良案を考えてる間にも、俺を包む闇はどんどん広がっていく。

「くっ、なんとかして脱出を……」

『ワガアルジガオマチダ……ゴドウコウヲネガオウ……』

「?!」

なんだこの声は……それに我が主? この闇を生み出したのはスコールという事なのか?

『サァ、ツイテコイ……』

「「「「祐一(さん)!」」」」

その声を最後に俺の全ての感覚は闇に埋まってしまった。

 

 

 

 

 

後書き

 

J「うーっ、なんか中途半端に終わって消化不良……」

フ「おそらく、今までの魔法青年の中で最悪の出来ですね」

J「あぁ、そして今までのなかで一番苦労して、時間も懸かった……自分の文章力の無さが恨めしい……」

フ「次は頑張ってくださいですね」

J「あぁ、頑張る……」

フ「今回は久々に私も出ましたし、それなりに面白い展開にはなってるとは思うですけど……」

J「案外、皆には予定調和的な感じに見られてるかもな」

 

 

※感想・指摘・質問がございましたらBBSかmailにてお待ちしています。

 

 

P.S.

フ「私は今後の展開、なんとなく読めてきましたです……」

J「友人に下書き見せた時にも同じ事いってた」

 

 

 

2005年1月22日作成 2007年2月26日改訂