……ここは住宅街の郊外とはいえ、周囲と見ると場違いといえるくらい寂れた洋館。

 

「何故だ! 何故やつらに勝てなかったんだ!」

その洋館から聞こえる怒号のような叫び声。私のマスターのスコール様が叫んでいるのだろう。

私、absoluteはその声を聞きながらリビングの掃除をしていた。

……マスターが部屋に篭ってもう3日、そろそろ食事をしないと体に悪い。今日こそは無理矢理にでも食事をさせないと

私はそんな事を考えていた。

「今日の献立は何がいいでしょうか、マスター」

ポツリと呟く。その問いに答えるべきお方はここにはおらず、静かなリビングにすぅっと消えてしまった。

 

 

 

魔法青年 相沢祐一

16幕『奇遇』

 

 

 

「よし、ここまで来ればもう大丈夫か?」

スコールの襲撃から3日経ったうららかな夕方の商店街。

俺は相変わらず名雪達から逃げていた。

まぁ、あれだ。特に珍しいことでもないので日常茶飯事だと思ってくれたまえ、ってなんで俺はこんな尊大な態度なんだろう?

「祐一〜!!」

「うぉっ!」

もう、追いついて来たか! え〜い、水瀬家のだお〜は化物か!

「何処なんだよ〜!!」

まずい、捕まったら俺の財布が殺られる。それはもう戦争協定なんて無視の皆殺しだ。

とにかく、逃げる所、逃げる所……よし、あのスーパーに逃げよう。

そうと決まればと、俺は目の前にあったスーパーに逃げ込む事にした。

 

 

 

「人参、ジャガイモ、お肉にルー……」

散々悩んだけど、夕飯はマスターの好きな、そして私にとっても思い出の料理のカレーにする事にした。

買い物籠に選んだ材料をポンポンと入れていく。

「あとは……きゃっ、すいません」

カレーに必要な食材を思い出しながら歩いていると、誰かにドンとぶつかってしまった。

こちらの不注意が原因なので、素直に謝ることにする。


「いやこちらこそすいません……って、げっ?!」

「……あなたですか」

ぶつかった相手はこの前timeと一緒にいた青年だった。

学校帰りだったのか制服みたいなブレザーを着ている。

「お前はabsorute!」

「スペルが違います。rじゃなくてlです」

「そんな事はどうでもいい……いや、どうでもよくないがこの際どうでもいい。
 
何でお前がここにいるんだ?」

どうやら、何故文字の違いが解るかよりも私がここにいる事の方が驚いているようです。

まぁ、彼の心の中で描かれた私の名前のスペルが間違っていたからという、特に面白くもない理由なので、本当にどうでもいいことなのですが。

「私が晩御飯の買出しをしては可笑しいでしょうか?」

「いや、可笑しいというわけではいないが……」

(なんか、天野みたいに扱いづらい奴だな)

心の声が聴こえる。天野様という方を私は知らないけれど、『みたいに』という事はきっと私のように物腰が上品な人なんでしょう。

「で、そちらの今日の晩御飯は何なんだ?」

「……それをあなたにいう意味があるのでしょうか?」

能天気にも日常会話を振ってきた彼に、私は呆れながら答える。

一応、敵同士なのだからもう少し緊張感という物を持って欲しいと思うのですが。

「まぁまぁ、今は休戦って事で。それとも何か? こんな所で戦いをおっぱじめるつもりか?」

いわれて周りをぐるりと見る。確かにここでは人が多すぎるため、戦闘をするのはいろいろと拙い。

「……そうですね」

もっとも、今のマスターがここにいたら、そんな事お構い無しなんでしょうけれど。

「ふむふむ、今日はカレーか、最近食べてないな」

人の買い物籠を勝手に見て納得している彼。

「……」

「あっ、すまん」

少し、非難めいた視線を投げると青年は頭をかいて謝った。

「あなたはなぜこのスーパーに?」

別段興味も無いのだが、会話が続きそうにもなかったのでとりあえず聞いてみることにする。

「俺か? 俺はちょっと追跡者から逃げてきたんだ」

「そうですか、では

おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおい!

そのまま帰ろうとする私を必死に止めようとする彼。

私の目的も聞かせたし、彼の用件も聞いた。これ以上会話をする必要性を感じないのですが。

「なんですか?」

「そこまでいうなら、しょうがない……すんません、すんません、お願いですから聞いてください

今にも土下座せんばかりの下手っぷり……ある意味この変わり身の速さは尊敬に値しますね。

「早く用件をおっしゃってください」

(やっぱり天野だ、あのキャラは洋風の天野だ)

「……帰ります」

「ごめんなさい、もうふざけません

状態を説明すると『助けてくだせぇ〜、お奉行様〜』のような状態だ。

「そうですか。なら、早くおっしゃってください。えっと――」

「そういえば、自己紹介をしてなかったな。俺は相沢祐一、好きに呼んでくれ。
 えっと……店に行って話さないか?
俺が奢るからさ」

「では相沢様。そこまで聞きたい話ではありませんので失礼してもいいですか?」

私は早く帰ってカレーを作りたいのですが。

「あぁっ、行かないで、頼むから! 俺を助けると思って、というか助けてくれっ!」

よくはわかりませんが凄い必死に頼み込んでいる相沢様。

……なんかここで断ると罪悪感が残ります。

「仕方ありません。少しなら付き合いましょう」

「やった! じゃあ、ついてきてくれ。いい店があるんだ」

この人は本当に3日前に死闘を繰り広げた相手なのでしょうか?

なんか、不思議な人。

それが日常で会った相沢様の第一印象でした。

 

 

 

「ご注文は何にいたしますか?」

「俺はコーヒー、ブラックで」

「私はロイヤルミルクティーを」

「かしこまりました」

(……遠慮無いな)

「奢りの約束ですから」

「それはいいんだが、心を読むな」

相沢様に案内されて百花屋という今時の洒落た喫茶店に来た私。
買い物の時も思いましたが、メイド服で来ると少しばかり浮いている気がします。

相沢様の奢りなので遠慮無く高い商品を注文する。

前にいる相沢様はそういって元気な振りをしているけれど、心の中はぐっすんおよよな感じにくたびれている。

「それで、話とは?」

「あぁ、そうだったな、実は――」

そういって相沢様は話し出した。

 

 

 

「――というわけで今はその奢りコールから逃げていたんだ……って、あの〜」

「うぅぅぅっ……」

相沢様の話を聞いてる内に段々と涙が溢れてきた。

不憫、不憫すぎる。

確かに彼にも悪い所はありますが、それを有り余ってのこの不憫さ。

しかも、出まかせかと思って、心の声を読んだらそれが紛れもない事実のようで……まさに嘘のようで本当の話。

これで同情しない人がいたら人として不出来でしょう。

「もしもしー?」

「はっ、取り乱してしまいました……」

相沢様の一言で我に返る。

私ともあろうものが敵に同情をしてしまいました。

「相沢様にお金を払わせるわけにはいきませんね……」

「いや、そこまで気にしなくても、こっちから誘ったんだし。
 仕送りがあったから今はホクホクなんだ」

(それに色々話せて、結構楽しかったしな)

「っ?!」

相沢様の心からの一言に不覚にもどきっとしてしまった。
楽しい? こんな無表情、無感動、無愛想な私といて? ……よくわかりません。

「じゃあ、お金はここに置いてくから、好きに寛いでいてくれ……あぁ、そうそう」

「はい?」

お代を机に置いてから、思いついたようにいう相沢様

「カレーの材料……玉葱が足んないぞ。
 あれを入れると入れないじゃカレーの味付けは天と地の差がでるからな。覚えておけよ?」

「えっ?」

「じゃーな」

それだけいうと忍者のように去っていった。

「……」

なんだか、不思議な感覚を持っている人でした。

でも、timeがあの人をマスターに選んだ理由がほんの少しだけわかった気がします。

「さてと、それでは」

玉葱を買いに行きましょうか?

 

 

 

 

 

 

「結構楽しかったな」

百花屋から出た帰り道でそう一人ごちる。

最初に会った時とは全然違う印象も受けたし。でも――

「なんで、あんな奴と一緒にいるんだろうか……」

「私はそんな事よりも、今の今まで祐一が何をしていたかの方が気になるよ」

左側から聞こえる聞き覚えのある声と共に肩を掴まれる。

「……

「……ねぇ、ゆ・う・い・ち

「……はい」

そして、俺はご機嫌な名雪に引っ張られて今来た道をそのまま戻っていく。

さながらドナドナのように、連れて行かれるのは市場ではなく百花屋だが

追記だが、この後俺の財布は瀕死ギリギリで助かりました。

 

 

 

 

 

後書き

J「段々、祐一が不憫になっていくな。この小説は」

フ「滅殺!!

 

どげしっ!

 

J「ぶほぉっ!」←きりもみ回転付き

フ「なんで私の出番が無いですか!! 撃滅!! 抹殺!!

 

どげしっ! どげしっ!

 

J「すまん……謝るから、その薬中が使っていたようなMSの……鉄球を振り回すのは……やめれ……」

フ「まぁ、今日の所は許してあげるですけど、次は無いと思ってくださいです」

J「も、もし。もしもの話だからな、次も駄目だったら……?」

フ「そうだったら……ミラージュコロイド解除

 

パァァァァァァァァァァッ!

 

J「こ、これはサイクロ○プス!!

フ「これを至近距離で浴びてもらうです」

J「絶対、出さねば……こんな位置(2Mくらい)で喰らったら一瞬で蒸発してしまう」

フ「そういうことで、次回は私の大活躍です〜」

J「そうなるといいですな……」

フ「発射するですよ?」

J「そしたらこの辺一帯が滅ぶわ!」

フ「大丈夫です。そういう時はabsoluteを呼んで別次元に追いやってから殺りますから」←首をかき切る真似をしながら

J「どこで、キャラの設定間違えたかなぁ〜(泣」

 

 

※感想・指摘・質問がありましたらBBSかmailにてよろしくお願いしますね。

 

 

 

P.S.

J「最近、ペースが上がってきてるな」

フ「この調子で行ければ文句はないですよね〜」

J「ほんになぁ……」

 

 

2005年1月16日作成 2007年4月26日改訂