数分経ち、竜巻が完全に消えた後の場所には二人の姿は影も形も見当たらない。
「いない……」
「えぇい!! 何処へ行ったのだ!」
誰にとも無く悪態をつくスコール。
(確かにあの竜巻はtime達に直撃するコースだった。
でも実際にはもぬけの殻、声も聴こえなかった)
熱くなっているスコールをよそにabsoluteは冷静に考えていた。
(……まさか!)
「『chain』『sword』チェイン・シックル!」
不意に左から風を切る音、同時に飛んでくる鎌
「マスター、左です!」
「わかってるさ。このような三流の攻撃など!」
スコールはそれを杖で弾き、飛んできた方へ向き直ると、暫し間を置いてから再び鎌が飛んでくる。
「芸が無いな。どうやって助かったのかは知らないが、苦し紛れの攻撃はやめてもらおうか!」
再度、杖で弾こうとするスコール。
「っ、マスター駄目です!『その通り!』」
「なっ!」
鎖鎌を弾いたのを見計らって祐一がスコールへと向かって走ってくる。
祐一の杖をスコールの杖が抑え、鍔迫り合いになる。
「まさか、まだ動けるなんてね、ゴキブリ並みの生命力だな!」
「へん、少女に守られて強い気でいるお前にはいわれたくないな!」
「マスター!」
「あんたの相手はあたしよっ!」
駆け寄ろうとしたabsoluteにはエレナが立ち塞がる。
「time、まだあなたは私達に歯向かいますか……」
「訂正しなさい、『あなた』じゃないわ。あたしと祐一、だからあたし『達』よ!」
魔法青年 相沢祐一
15幕「融合」
少し時を遡って――
「祐一、あいつらに勝って……」
祐一を斜線から出そうとしたその時だ。
「えっ……」
祐一の魔石があたしに触れて、
「rent(レント)」
祐一がなんとかそれだけ呟くと、魔石が輝きだす。
「な、なにこれ?」
ち、力が抜けていく?
「行くぞ、エレナさん。『warp』」
祐一がwarpを唱えると、一瞬で別の場所へ瞬間移動する。
「……ふぅ、なんとかなった」
「祐一、説明してくれるかしら、さっきの魔術は何?」
さっきの魔術はあたしも見たことの無い魔術だった。
祐一も心なしか元気になっているし。わからないことだらけだ。
「さっきの魔術は『rent』、俺のオリジナル魔術で一時的に魔石が触れた物から魔力や体力を借りる魔術さ」
お、オリジナル? さらっというわ、オリジナルの魔術なんて一流の魔術師でも使える奴が少ないっていうのに。
スペリオル・ブレイドそういうことを可能にする力でもあるのだろうか?
「って、待って。 ということは――」
「あぁ、時間が経てばまた俺はさっきの様な状態に戻る。
しかも、魔術の反動もあるだろうから、確実にさっきよりも酷くなるだろうな」
あっけらかんとした様子で軽くいう祐一。
「それって、そんな気軽にいえることじゃないでしょ!」
「おう、だからお願いがあるんだ」
「お願い……?」
「頼む、俺に力を貸してくれ……」
「えっ……」
あたしの力を?
「俺は、あいつらに勝ちたい。でも、今の俺じゃあいつらには勝てない。
凄い悔しいけど……これしか方法は無いからな」
「祐一」
「頼む」
祐一は今にも地面に頭がつきかねない位深く頭を下げる。
「頭を上げてよ祐一……さっき、あたしを庇って攻撃を受けてくれたよね?
あの時、あたしは本当に嬉しかった」
祐一が何かいいたそうだけど、気にしないで話を続ける。
「あたしは人間じゃないから、傷ついても魔石に戻ればあっという間に傷なんて治ってしまう。
見た目は人間のように見えるけど人間じゃない。あたし達は道具、スコールのいう通り、ただ戦う為の主人を守る為の下僕」
「……」
「だけどね。あたし、誰かに守られる事に憧れてたんだ。
だから、あたしがユンカースだってわかってるのに、道具だってわかっているのに、
あなたはまるで一人の人間のようにあたしを庇ってくれた。
こんなあたしを道具扱いしないで庇ってくれた時、わかったんだ。
あたしのマスターになる人は祐一しかいないんだっていう事に」
「じ、じゃあ――」
そう。
「あなたが力が欲しいというのなら、あたしが貴方の『守護者(ガーディアン)』になってあげる」
「そして、あたしは祐一と契約をして、あいつの自己回復の時間を魔術で早めて怪我を治したってわけ」
「なるほど、契約してしまいましたか。なら、ここに用はありません。
そろそろ引いた方が良さそうですね」
さして驚いた風でもなく無表情で淡々と返すabsolute。
どうやら彼女の中では想定内の出来事だったらしい。
「あたしがそれを許すと思う? 契約前とはいえ、あたしのマスターに怪我をさせた罪は償ってもらわないとね」
祐一。いや、マスターを傷つけた罪は地球より重いわよ?
「……そうですか」
空間が歪む、absoluteの得意技、トンネル・ストレートの前触れだ。
「祐一!」
それを確認してからあたしは叫ぶ、これから守ると誓った人の名前を。
みなさい、absolute。これがあたしと祐一の結束よ!
「「cross in time form(クロス・イン・タイムフォーム)!」」
二人の声が綺麗に重なると、光を発しながら、あたしは祐一に吸い込まれて一体になる。
祐一の服装が、白を基調とした服から黄色を基調とした服に変化していく。
「「スペリオル・ブレイド! タイムフォーーーーム!!」」
光が収まると、あたしの姿は完全に祐一と一つになった。
「な、なんなんだ、あの魔術は!?」
初めて見た魔術に戸惑いを感じえないスコール。
「fusion(フュージョン)。千年前に作られた魔術で、二人の人物が一体化する魔術です。
この魔術はそんな即席で出来る程、簡単な魔術では無いのに……」
absoluteも無表情の顔を少しばかり顰める。
ふふん、いい気味ね。
「ならば、何故奴らはその魔術を使用しているんだ!」
「それは!」
祐一がスコールに向かって駆け抜ける。
「absolute!」
スコールがabsoluteに指示を出し、壁にする。
……情け無い男。
本当に祐一をマスターに選んでよかったと改めて思う。
「……あなたがfusionを使った所で、私のもう一つの能力の前では無力です」
「それはどうかしら? あなたの『心を読む力』はもう通用しないわ!」
入れ替わってあたしがabsoluteに向かって話す。
「っ!」
驚いてるということは、やっぱり図星だったみたいね。
あくまで憶測だったから自信はなかった。
ただ、何故時間を止める前にあいつは別次元に逃げる事が出来るのか、あいつと付き合っていた頃からずっと不思議だった。
つまり、そういう事。
彼女はあたしの心を読んで先読みをしていたのだ。
それならば、先程のなのはが後ろに回りこんだ時の事も納得ができる。
「ですが、私の能力がわかった所でそれにどう対処するので――そうでしたか」
今まで無表情だった顔に先程よりも濃い驚愕の色が現れるabsolute。
さすがね、もう気付いたなんて。
「わかった? あなたが読むことの出来る心は『一つ』
でも、だからといって二人で同時に行くというのは間違い。
二人だったら何かしらのコミュニケーションを取らざるを得ないから。
どんなに些細なサインでも心を読めばそんなの無いに等しいも同然。だったらどうするか?」
「二つの心を一つの体に集めて挑めばいいと、そういう事ですか」
「ご名答。それにあたし達がスコールを狙うと、スコールは絶対にあんたを壁に持ってくる。
あたし達の狙いがあんただという事にも気付かずにね」
そういって右手を振りかぶる。
「抑えろ! absolute!」
後ろからスコールの声が聞こえると、absoluteは我に返って冷静に相手の攻撃の筋を読み始める。
(さて、心を読むことは出来ませんし、空間魔術もこれだけ間合いが短いと意味を成しません。それで相手は右腕を振りかぶった。このままでいけば、右腕のパンチが来るでしょう。しかし、万が一右腕がフェイクだという事も……そうしたら左でしょうか?)
「あとね、absolute。あなたは完璧に見えるでしょうけど、あなたには弱点があるわ……」
今度は左を振りかぶる。
(やっぱり、右はフェイクでしたか……なら左です!)
absoluteは左側をガードする。
しかし見事にあたしの右腕で殴られ、吹き飛ぶabsolute。
「……えっ?」
absoluteは何がなんだかわかってないみたい。
「お前の弱点は心を読む力に依存しすぎて、戦いに一番必要な勘が鈍っているっていう事だ」
またあたしと入れ替わって祐一が告げる。
「それがどうしたっ! 『wind』」
いつの間にか回りこんでいたスコールが、背後からかまいたちが飛ばしてくる。
相変わらず、absoluteの事など心配もせずに。
あたし達はそれを容易く避けるが、absoluteは煽りを受けて吹き飛ばされる。
「役立たずが、抑えておけといっただろう!」
吹き飛ばされたabsoluteに罵声を浴びせるスコール。
「申し訳ありません。マスター」
「absolute! 僕達もfusionをやるぞ!」
どうやら、あたし達の力に影響を受けたみたいね。でも断言できる。あなた達では絶対に無理。
「で、でもそれは――」
absoluteもわかっているのだろう。あまり乗り気ではない様子だ。
「煩い、下僕如きが僕に意見をするな! お前はいう通りにやればいいんだ!」
「……わかりました」
「これで、お前らも終わりだ! こうなったらお前を殺して魔石を奪わせてもらう。
行くぞ! closs in absolute form(クロス・イン・アブソリュート・フォーム)!」
「……」
眩い光に包まれるスコールとabsolute。
本来なら危惧する事なのかもしれない。
でもあたし達は全くといっていいほど怖いと思わない。
何故なら――
「うわっ!」
「……」
反発する磁石のように弾かれるスコールとabsolute。
どうやら失敗をしたようね、当然のことだけれど。
「何故だ! 何故、お前らができる魔術を僕が出来ないんだ!」
「……」
「そうか、お前か……お前が悪いんだな!」
行き場の無い怒りをabsoluteにぶつけるスコール。
「……」
何も答えないabsolute。
反論もせず、スコールの非難を甘んじて受け入れようとしている。
「お前が不甲斐ないばっかりに、この魔術は失敗したんだ! わかっているのか!」
「違うわ。あなたがfusionに失敗したのはabsoluteのせいじゃない。
あなたとabsoluteの相性が悪かったのよ」
あまりにも不憫になってきたあたしはスコールにそういってあげる。
「何だと」
「あなたは、absoluteをただの下僕、ただの道具としか見ていないから失敗したの。
fusionは二人の息が合わないと出来ない難しい魔術。そんな感情では失敗して当然だわ」
「……」
absoluteもそれがわかっているため、反論ができないようだ。何も口に出して来ない。
「ふん、僕は信じない……信じないからなっ! 撤退だ!」
「わかりました。マスター」
「timeとそのマスター。次は無いと思え!」
そういうと二人は夕闇に紛れるように消えてしまった。
「う……ん……」
融合を解いた俺とエレナさんはなのはちゃんの所に来た時に、丁度なのはちゃんの目が覚める。
「祐一さん、あの黒い魔術師は?」
「あぁ、俺達が追っ払った」
「俺達?」
「そう、あたしと祐一でね」
そういってニッコリと笑うエレナさん。
「そうですか、お役に立てなくてすいませんでした」
本当にすまなそうに謝るなのはちゃん。
「いや、気にしなくていい」
「そういうこと、結果的には追い払えたわけだし」
エレナさんも俺に同意するように頷く。
「それでエレナさんはやっぱり」
「えぇ、契約したわ。だからこれからは祐一はあたしのマスターって事になるわね」
「あぁ、そういう事になるな。じゃあ、これからもよろしく。エレナさん」
「え、えっと……」
「うーーっ……」
笑顔で挨拶しただけなのだけなのに、顔が赤くなって俯いているエレナさんに、名雪のように唸るなのはちゃん。
「俺、何かしたか?」
「……自分の胸に聞いてください」
はぁ、とため息をつくなのはちゃん。
なんじゃそりゃ?
後書き:
J「今回は長かったな」
フ「筆不精なあなたにしては珍しいです」
J「まぁ、否定はしないが……」
フ「今回で、一段落ですか?」
J「あぁ、今回でついに守護者と契約、しかもエレナさんが祐一スマイルにやられちゃいました♪」
フ「『♪』うざっ…………です♪」
J「……なんか最近毒舌だな」
フ「……楽屋ですから」
二人「「………………………………」」
〜少々お待ち下さい〜
J「と、とにかく次回から新章突入だ」
フ「やっと、私の出番が来るです!」
J「おう、これでやっとフィアを出せる……全国三人のフィアファンの皆様お待たせいたしました!」
フ「って、三人しかいないですか……私のファン」
J「おう、エレナやabsolute萌え〜な方は確認したんだが、フィア萌え〜な方はいなくてな」
フ「……いじけてやるです」
魔術紹介
チェイン・シックル 術者:相沢祐一
威力:B 命中:B 魔力:B
『sword』と『chain』の融合魔術。
鎖鎌を具現化させる。それだけ
rent 術者:相沢祐一
威力:− 命中:− 魔力:A
祐一のオリジナル魔術。
魔力や体力を一時的に借りる魔術。大体、10分位効果が得られるが効果が切れると借りた分のリバウンドがある。
fusion 術者:相沢祐一、エレナ、???
威力:− 命中:− 魔力:C
融合魔術。息の合った二人を一つに纏めて強化する魔術。
但し、一つの体に二つの心を入れるため制御が難しく、普通即席では出来ない。
体は、魔力が高い者、もしくは主の方にメインになる。
※感想・指摘・質問がありましたらBBSかmailにて
二人「「ではでは、さよ〜なら〜(です)」」
P.S.
J「実際、自分のキャラに萌えてくれる人ってどれくらいいるのかな?」
フ「非常に微妙です」
2005年1月13日作成 2007年4月26日改訂