「ぐはっ……」

がくっと膝を付き、倒れる俺

「祐一!? ねぇ、祐一!?」

エレナさんが駆け寄ってくる。

「エ……レナ……さん……」

精一杯の力で声に出す。

「もう、いいでしょ……それ以上喋らないで……」

 

ポツッ……

 

俺の頬に熱いものが雨漏りした天井のようにぽたりと落ちる。

「うっ……うっ……」

泣いている、エレナさんが……

立ち上がりたいけど……駄目だ、 体が動かない。

「ごめん……本当にごめん」

泣きながらエレナさんが謝る。

「それは……こっち……のセ……リフだ……よ」

もう息も絶え絶えにそれだけを口から搾り出す。

「俺達が……もっと強かった……ら、もっと強けれ……ば……」

「!!」

「ごめ……ん」

「祐一……ありがとう……そこでじっとしていて……」

 

 

 

魔法青年 相沢祐一

14幕「never give up spirits」

 

 

 

「さぁ、これでもうあなたを守る騎士(ナイト)はいない……終わりだ!」

杖を突き付け、スコールは勝利を確信した表情を隠しもせずに告げる。

さっきまでのあたしなら、この状況じゃ諦めていたかもしれない。

けど、今は……

「あたしは諦めない」

「何?」

「……」

「あたしは諦めない。祐一達が教えてくれた、どんなに絶望的でも立ち向かえる勇気を……
 たった1%の確率でも成功するのなら決して諦めちゃいけない事を!」

 

ドォウッ!!

 

「!?」

「……」

獣耳を生やし、本気の戦闘態勢をとる。

「あたしとした事が忘れてた……祐一には感謝してもしきれないわね……」

「ふん、たかが一人で何が出来る!」

「五月蠅い! エレナなのよ!! あたしはぁぁぁぁぁぁ!!」

どこかの自称乙女のツインテール娘のいいそうなセリフを吐き、一気に間合いを詰めるべく疾走する。

「口でなら何とでもいえる! 『wind』」

そんなあたしに向かってさっきのかまいたちが向かってきた。

「そんなの!」

かまいたちの下を一気に潜り抜ける。

「はぁぁぁぁっ」

「ちっ、absolute!」

「了解しました。マスター」

「……やっぱり、邪魔するわけね」

スコールに届く前に、absoluteに拳を押さえられたあたしはそう悪態をつく。

「はい、マスターの命令ですから」

「そう」

「あなたの実力では私には勝てません。引いて下さい」

「それはお断りするわ」

「……残念です」

均衡していたかに思われた押し合いだったが、時間が経つにつれ徐々にあたしが押されてきている。

「『wind』」

「?!」

背後から聞こえた呪文の声。咄嗟に押し合いをやめて左に避ける。

さっきまであたしがいた所に数十発のかまいたちが通り抜けていく。

「ちっ」

「absoluteは?」

気になったので、さっきまで押し合いをしていた所を見る。

「………………」

そこには所々服や肌に切り裂かれた跡が残っているabusoluteが立っていた。
どうやら不意をつかれたようで、能力を使わずに必死に避けたようだ。


あれだけのかまいたちを受けて、所々というのが凄いを通り越してもはや異常ね。
あたしだったらもっと酷い事になっているだろう……ってそんなことより!

「あなた、abusoluteは味方でしょう? 確かにあたしを追い詰めるには効果的な攻撃だったけど、人として褒められる攻撃じゃないわ」

「何をいっているんだい? 君を封印するのに手段なんて選んではいられないだろう。
 
それにabusoluteは僕の下僕だ。下僕というのは主の役に立ってこその下僕。
 その為に傷つくことに躊躇いなんて持たない」

「あんたは……absoluteはそれでいいの?」

あたしが意見を求めると、absoluteは少し間を置いて口を開いた。

「……マスターの命令ですから」

「そういうことだ。だからこういう事もできる」

スコールは杖をあたしから倒れている祐一に標的を変えて

「『burst』」

「祐一!!」

あたしは魔力を解放させると瞬時に範囲を設定して範囲内の時間の停止をさせる。

当然、その空間内にある全ての物は動きが止まり、その間に祐一の所まで駆けて行って祐一を抱き上げる。

よし、スコールはちゃんと止まってるわね。

「よし、後はこの斜線から逃げれば『そうはさせません』」

突如、現れた空間の穴からabsoluteが現れる。

「やっぱり、あんたにはこの魔術は効かなかったか」

こいつの場合、時間を止めた瞬間に別の空間へと逃げ、時間停止空間が形成されてから戻ってくるという荒技を使ってくるからだ。
あたしの時間干渉は同じ所に重ねがけをすることが出来ない為、彼女を止めるには一度魔術を解き、再びかけなければならない。

No.1 『absolute』――――――空間を操る能力。こいつには間合いなんて物は存在しない。

さらにこいつには……いや、今は語らないでおこう。

「……褒め言葉として受けておきましょう」

無感情で言葉を返すabsolute。

「……あんたの辞書には皮肉って言葉は無いの?」

無いでしょうね。と心の中で付け加えておく。

「皮肉……美味しいのですか? それは?」

「……」

こうも簡単に皮肉を返されると唖然としてしまうわね。

前から冗談が通じない奴だったけど……磨きがかかってる?

「まぁ、いいです。それよりも……」

absoluteは小さな空間の穴を作り出すとそこに自らの腕を中に入れる。

すると空間を越えて、穴の中に入れたはずの腕が何処からとも無く現れる。

これがabsoluteの得意技『トンネル・ストレート』

突然の攻撃に対処できず、『トンネル・ストレート』があたしの腹部に直撃する。

ダメージを負った事により時間停止空間の魔術も解けてしまう。

「し、しまっ……」

 

時間停止が解除されたことにより再び動き出したburstの直撃を受ける。

祐一を抱え込みながら地面を転がるあたし。

何故timeがあそこにいる? どういうことだ、absolute」

「…………」

「語らないつもりか……まぁ、いい。かえって都合が良くなった」

そういってスコールは杖を2人に照準を合わせる。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ、『wind』」

スコールの出したwindは先程のような命中重視のかまいたちではなく、完全に止めを刺すことを重点に置いた、小さめの竜巻を生み出す。

小さめといっても、あたしはともかく今の祐一にはとても耐えられる物ではない。

そこの所も計算しての大きさなのだろう。

「くっ」

時間停止が間に合わない……間に合ったとしても、absoluteに邪魔をされるだけだ。

徐々に近づいてくる竜巻。

本当にここまでなの?

せっかく祐一達が体を張って助けてくれたのに……守ってもらったのに。

「こんな所で」

まだ、あたしは諦めない! まだ、何か方法がある筈。

冷静に今の状況を見定めるの、エレナ。

ちらっと祐一を見る。

「……」

なんか可愛いかもね。祐一の寝顔って

……ってそんな事じゃなくて

「……」

……せめて祐一は守ろう。

祐一はあたしを体を呈して守ってくれたんだから。

だから、今度はあたしの番。

この竜巻に巻き込まれるのはあたしだけでいい。

そうと決まればと祐一を竜巻の直線外へ投げ飛ばそうとしたその時。


「    」

 

眩い光があたし達を纏う。その瞬間――

「馬鹿なっ、いないだと?!」

あたし達の姿は竜巻の軌道コースから消えていた。

 

 

 

 

後書き

J「よっしゃあーーーーーー!!」

フ「……一体何があったですか? そんなにテンション高くして」

J「もうすぐ冬休みが終わってしまうから、最後の日だからテンションを上げようと思って」

フ「そですか……(呆」

 

 

魔術・技説明

 

時間停止空間形成 術者:エレナ 獣耳モード(

 

威力:− 命中:S 魔力:C

 

時間を止める空間を形成する魔術。範囲は魔力の続く限り距離は無制限。

そこに実在するものの動きを全て止めてしまうが、魔術の消費量然り、同じ空間に重ねがけをすることが出来ないという欠点を持つ。(absoluteはこの欠点を利用して破った)

 

 

ホール 術者:absolute

 

空間に穴を開け魔術。用途は実に様々。absoluteの技のほとんどはこれの派生に当たる。

 

 

トンネル・ストレート 術者:absolute

 

威力:B 命中:S 魔力:A

 

空間に穴を空け、空間を跳躍して同空間の別の所にいる相手を殴る技。

この技も、魔力の続く限り距離は無制限。

 

 

 

※感想・指摘・質問がありましたらBBSかmailにてお答えします。

 

 

 

P.S.

フ「で、これからどうするです?」

J「うーん……どうしよっか?」

フ「私に意見を求めないで下さいです」

 

 

2005年1月10日作成 2007年4月26日改訂