「いたたた……」


な、なんなんだ?

いきなり女の子の声が聞こえたかと思ったら頭にドスンと――


「にゃ〜」

「……」


俺が目を覚ますと、俺の背中の上で一般大衆的にはゴスロリと呼ばれるような服装をした、綺麗な緑色の髪の少女が目を回しながら気絶していた。

……俺、いきなり犯罪者?

 

 


 



魔法青年 相沢祐一

第一幕「魔法少女ではなく魔法青年誕生!」



 


 

 

「にゃー」

「…………」


OK、落ち着け俺。 まずは状況整理だ。

えーと、確か久しぶりに名雪たちから逃げ切って北川と遊んだ。

で、お金も無くなったから別れて家に帰る途中で、いきなり女の子の声が聞こえたかと思ったら頭に何かが当たって、その後この少女を誘か――って違う違う。

俺はそんな特殊な趣味は持ってないし、この年で人に後指をさされるようなことをしようとも思わない。

じゃ、こいつは一体誰だ?


「うん……ここはどこです?」


俺が思考の宇宙(この場合そらと読む)に出航しようとした時、その謎の少女が目を覚ました。
慌てて航行停止させ、意識を元に戻す。

まずはコミュニケーションだ。


「おい」


呼び掛けると、激しく体を震わせる謎の少女。

ほぉ、なんか猫みたいな奴だな。


「な、何ですか?」

「お前は誰だ?」

「わ、私ですか?」

「お前以外に誰がいる?」


少女は辺りをぐるりと見回す。

当然、この場にいるのは俺と少女の二人だけだ。


「そ、そうですね……えっと、私はフィアです。フィア・クラッセ」

「フィアか。俺は――」



『グルォォォォォォォ』




咆哮。自己紹介を遮った大声は獣の咆哮だった。

振り向けばそこには、犬、いや、違う。『犬の姿をした化物』。

この世のものとは思えない黒むくじゃらの四足歩行の化け物がこちらを睨み付けていた。

「もう追いつかれたです?! ど、どうすれば……」


明らかにこの化け物に慌てた反応を示すフィア。

何か知っているようだが、この様子じゃ何を聞いても無駄そうだ。

とにかくどうにかせねばなるまい。事情を聞くという意味でも、俺の身の安全を守るためにも。

そのためには――


「とりあえず、逃げるぞ!」


くるりと反転し、思いっきり地を蹴る。


『三十六計逃げるに如かず』


昔の先人はいい言葉を残したものだ。

「ま、待ってくださいよぉ……」


フィアも慌てて追いかけてくる。

勿論、犬の化物も追いかけて来る。

あれ? これじゃあ根本的な解決になってないような……

「というか、こ、こっちへ来るなぁぁぁぁ!」

「で、ですぅ!」

おいおい、今日は厄日か?

 

 











「はぁ、はぁ、ここまで来れば、大丈夫だろ」

「はぅ、速過ぎ、です」


あの犬化物から逃げ続け、俺達はいつの間にかものみの丘まで来ていた。

とりあえず他に被害が無い様子から、あの化物は俺達を狙っているってことが分かる。

だが、俺はあんな化物に追いかけられる筋合いは無い。


つまり――


「フィア。お前、あいつに何かやったのか?」


自動的にそういうことになる。


わ、私は、何も、してない、ですよ?」


息がまだ整わないのか、断片のように言葉を発するフィア。


「嘘付け! じゃあ、なんで俺達は追いかけられて――


『グルォォォォォォォ』


「ん……だ、よ?」




すごく最近、聞き覚えのある声に体が一瞬硬直する。

正直忘れたかったが、深層心理に刻み付けられて忘れられなくなってしまったその声に、恐る恐る後ろを振り返ってみる。

俺の想像に違わず、のしのしとこちらに駆けてくるのは先程の化け物である。


『グルォォォォォォォ!』

「ひ、ひぃぃぃぃぃ!」



向こうの狙いもわかったことだし、フィアを撒ければ俺には被害がない。

少し外道で心苦しいが、許せフィア。

どうにかなることなら助けてやりたいが、これはどうにもならないんだ。


俺は再び体を180度翻し、逃げる体勢を作る。

しかし――



「のわっ!」


何かに躓いてしまったのか、それとも疲れで足がもつれてしまったのか。

俺は振り返りざまにバランスを崩し、高校野球ばりに見事なヘッドスライディングをかましていた。

逃げ足には少し自信があったんだがなぁ。

 

「だ、大丈夫です?」


フィアがとてとてと駆け寄ってくる。

先程見捨てる算段を立ててた俺からすると、正直罪悪感がいっぱいだが、こういう気遣いは嬉しい。例えそいつが原因でこんな目に遭っていたとしてもだ。


「大丈夫じゃない。フィア、すまんが俺の為に死んでくれないか?」

「冗談は休み休み言えです」



むう、8割方冗談ではないのだが。

犬の化物が俺達に飛び掛ってくる。

しまった、いつの間にか距離をつめられてた……?
 

……駄目だ! 避けれない。ならばせめてフィアだけでも!

見捨てようかと考えていた存在だとはいえ、目の前で少女が八つ裂きにされる所なんて見たくない。

咄嗟に目を瞑り、フィアを守る盾になるように体を移動する。

化け物の爪が振り下ろされて――

 











 

何時までたっても来ない痛みに何があったのだろうと目を開けてみると、私達はバリアによって守られていた。



「スペリオル・ブレイドが発動したです?


薄っすらとしたバリアに守られながら、私は考えていた。

私がこの攻撃を防ぐだけの力を持つ存在をそれしか知らないからかもしれないが、
こんな突拍子もないことができるものと考えれば一番自然な回答だ。


(でも彼は契約をしてないですし、やっぱりありえないです)


そう、おそらくこの状況を守ってくれているのは、十中八九私が今持っている『スペリオル・ブレイド』という魔石。

ただし、この魔石は誰でも守ってくれるわけではない。

まず発動させるにはこの魔石と契約をしなければならないし、
その契約ですら、誰でも出来るわけではない。

発動させる為には魔力が一定以上なければいけないし、魔力を持っていても魔石を行使できる者は非常に少ない。

魔法と呼ばれるような文化は全くといっていいほど皆無なこの世界だと尚更の話だ。

魔法界でも指折りの魔術師の私でさえ、例えどんなに元気な状態でも、発動させるだけでヘロへロになってしまうのだ。

魔法という概念が存在しない人間界の、それも何の変哲も無い青年が易々と使えるものではない。

(私が元気ならこの程度の化物、魔法でチョチョイのチョイですのに
 ……彼に託すしかないですか。これは賭けです)


違っていたらなんていうifを考えていてもしょうがない。

思い違いだったなら、所詮ここまでだったという事。

死なんて、人間界に辿り着いた時から覚悟している。

それなら、思いっきり足掻いてやろう。

 



 

 




「あ、あのっ!」


何がなんだか分からなくてフリーズしている俺の頭にフィアの声が入ってきた。

俺はあの犬の化物に殺されたんじゃないのか?

でも実際に俺は無傷で生きている。血一滴すら流れていない。

不思議で不思議でたまらなかった。

俺はそのことについてフィアに尋ねる。


「それについては今から説明するです。

 それと、あの化物が回復する前にあなたにお願いがあるです」

「ん?

「あなたに『魔法使い』になって欲しいです」


フィアの言葉はそれはそれは素っ頓狂な言葉だった。

ほとんどの事が科学で解決できるこの時代に魔法使いなんていうファンタジックな言葉。

これは場を和ませる冗談だと適当にあしらおうと思い、フィアの方を向けば、予想に反してフィアの目は凄く真剣そのもの。

おいおい、マジでそんなことを言ってるのか。この少女は。


「マジ?」

「はいです」

「俺って魔法が使えたのか?」

「素質はあると思うです」


ぶっちゃければ、限りなく嘘くさい。

第三者からすれば、お兄さんが妹の戯言に付き合っているように見えるのだろうか。

でもフィアの顔からはギャグとかネタとかいう単語はうかがえない。

それ以前にこんな状況でそんなこと言ってる余裕があるなら1mでもあの化物から離れた方が賢明だ。

え、じゃあ、本当に、本当なのか?

俺は考えに考えて一つの結論を出した。


「わかった。何をすればいいんだ?」



考えてみれば、さっきの不可解な現象も「魔法」という言葉で一括りにしてしまえば、理解できないことでもない。

もう破れかぶれだ。この少女の非常識的な妄言に付き合ってやろう。

俺の言葉にフィアは喜びの中に安堵の表情を浮かべる。

フィア自身もこの話を信じてもらえるかどうか半々だったのかもしれない。

「はい、まずはこの『スペリオル・ブレイド』を持って下さいです」


フィアはポケットから青の宝石を取り出し、俺の掌に乗せる。

手のひらにすっぽりと収まる青い魔石。

魔法なのかはわからないが、確かにそれからは異質な何かを感じた。

暫く魔石を遊ばせていると、精神を集中させていたフィアが深呼吸をする。

どうやら準備ができたのだろう。フィアはゆっくりと言葉をつむぎ始めた。

なんか緊張するな。


汝と契約を求むる者、名は……えっと、何でしたっけ?」



シリアスが一転明るい口調に変わる。

そういや、あの化物のせいで俺の自己紹介がまだだった。




「相沢祐一だ。祐一とでも呼んでくれ」

「はいです……それでは『汝と契約を求むる者……名は、相沢祐一!』」


フィアが叫ぶと宝石が光を放ち、俺を包み込む。


「成功です。さぁ、呪文を!」


光の外からフィアの声が聞こえる。

じゅ、呪文? なんじゃそりゃ?

そんなの聞いてないぞ。

「グルォォォォォォォ」


回復が済んだのか、化物がこちらに向かってくる。

対するこちらは契約中だかなんだかでほとんど無防備。

あれ、ちょっと、まずく、ありません?


「早く! 急いでです!」

「そう言われても、なんていえばいいんだ?」

「何でもいいです! とりあえず頭に思い浮かんだ言葉を思いっきり叫ぶです!」

「グルォォォォォォォ!!」


うおっ、こっちへ飛び掛ってきた!

ええと、あうーぽんぽこはちみつくまさん言葉通りよそんな酷なことはあははー

よし、もうこれでいい!

「え、え〜っと……う、『うぐぅ〜〜〜〜』



俺の言葉と共に光が弾ける。

光は弾丸となって、飛び掛った化物に直撃した。


 

「キャウゥゥゥゥゥン」


まるで犬みたいな鳴き声をあげて化物が吹き飛ばされる。

まるで魔法……いや、これは本物の魔法だ。


「『スペリオル・ブレイド! メタモルフォーゼッ!』」



何故か頭に浮かんだ決め台詞を叫んで決めポーズをしている俺。

どうやら俺の環境適応能力は高いらしい。

これなら就職のときも職場に慣れないなんてことはなさそうだ。

弾けた光が収束し、俺の体に張り付くと、ヒラヒラとした魔法少女みたいなコスチュームに変わる。

青い宝石は二つに別れ、一つは胸の中心に、もう一つはいつの間に現れたのか、いかにも魔法使いが使いそうな感じの杖の先にくっつく。

正直言うなら、ダサい

こんな姿を北川あたりに見られたら一生上下関係が決まってしまいそうだ。

幸い、下はスカートじゃなくてズボンだったが、これでスカートを履かされたときにはショックのあまり自殺してしまいそうだ。


「今です! あいつを封印するです!」

「ふ、封印?」



ゲームでしか聞きなれない単語に少し戸惑う。

封印っていうと、メルヘンチックな呪文を杖を振り回しながら言えばいいのだろうか?


その杖をあいつに向けて、『Seal(シール)』と叫ぶです!」

「わ、わかった。『Seal』」


意外と簡単な呪文だった。

べ、別にメルヘンチックな呪文を叫んでみたかったわけじゃないからな?

杖を向けて呪文を叫ぶと、化物が見る見るうちに小さくなっいき、最終的にキラキラとした宝石になった。



「や、やったです」


俺は元化物、現宝石の近くまで行ってそれを拾い上げる。

宝石には、小さな字でこう書いてあった。


「No.13『Claw(クロウ)』?」

「はいです、それはあなたが封印したさっきの化物……『ユンカース』の元の姿です」

 

 

 






後書き:JGJ(以下J)「終わったよ……」

フィア(以下フ)「テスト近いのに良くやるですね」

J「あぁ、明日だ」

フ「駄目じゃないですか!」

J「まぁ、そんな事はどうでもいい。今回対談形式にしたのはだな、設定を作るまでいろいろ備考とか追加設定とかを書いていこうと思ったわけだ」

フ「将来のことをそんなこと呼ばわりです……」

J「というわけで、今回は魔石『スペリオル・ブレイド』についてだ。紹介よろしく」

フ「はいです。スペリオル・ブレイドは、使用者の魔力に呼応して使用者の魔法の助けや、身体能力の向上ができる物です」

J「だけど、本編でもいっていた通り、使用者は非常に限られているだよな」

フ「はいです。発動に非常に大きな魔力を使用するです」

J「それじゃあ、みんな分かってくれたかな?」

フ「分からないことや、感想、指摘部分も大募集しているですから、BBSかmailに送ってくれると嬉しいです」

J・フ「「それじゃあ、さよーならー」」

 

 

P.S.なんか、リリカルな○はの影響丸受け(汗)

 

 

2004年10月20日
2008年5月23日修正

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