こんなグッド(バッド)エンディング?












夕飯の後片付けも終えて一段落。

ヴィヴィオのことも含め、今後の夫婦生活について悩んでいたなのはが、手紙を傍らにテーブルに伏せっていると疲れた声が降ってきた。

「ヴィヴィオ、寝たぞ。」

欠伸をかみ殺しながら祐一が寝室から出てくる。

いつもならヴィヴィオと共に眠ってしまうはずなのに、と不思議そうになのはが顔を上げれば、その手には書類の束が握られていた。

「その書類、どうしたんですか?」

「ああ、はやてのやつが、な。」

なのはの言葉に祐一が苦笑いの後ため息をつく。

つられてなのはも苦笑した。

ただでさえヴィヴィオのおかげで祐一との会話が減っているのに、はやてのこの仕打ち。

偶然ならまだしも、わざとならどうしてくれようか。

なのはがそんな風に考えているうちに祐一は、対面に座って書類を広げ、書類一つ一つに目を通していった。

眉を寄せ、少し難しい顔で目を走らせていく。

その様子を、なのははぼんやりと見つめていた。

そうして、どれほど経ったか。

始めは書類に没頭していた祐一も、次第になのはの視線が気になりだしたようだ。

「あの、なのはちゃん。」

「ふぇ? なんですか?」

不意に声をかけられて、肩を震わせるなのは。それでもその声には本人も気付かないほどの喜色が覗いていた

「……どうしたの?」

祐一は何か言いたい事でもあるのか、と思っていたのだが。

「? なにがですか?」

「……そっか。」

なのははかわいらしく小首を傾げただけだった。

祐一が視線をそらして、再び書類仕事にもどる。

なのはも再びテーブルに伏した。

と思えば、顔を起こす。少し思い悩んだ顔をしてもう一度伏せた。

そうして、決心したようにゆっくりと身を起こす。

「祐一さん。」

席を立ち、祐一の隣の、いつもヴィヴィオが座っている、所謂お誕生日席に身を移す。

「……どうした?」

手を止め、祐一が顔を上げる。

その視線を受けて、なのはは一瞬躊躇した。

それでも、息を吸い込んで、声を絞り出す。

「私たち、夫婦ですよね?」

「一応、ヴィヴィオの教育のための、形だけの、な。」

どこか圧されたように、反射的に目をそらし、視線を彷徨わせながら、祐一は切れ切れに答える。

「でも、夫婦ですよね?」

「……そう、だね。」

真剣ななのはと、目をそらす祐一。書類に走らせていたペンも止まっている。

「こっち、むいてください。」

無意識に体を引いて距離をとろうとしていた祐一の頬を挟み、なのはは無理やり自分のほうを向かせた。

「祐一さん。」

「な、なにかな?」

なのはが、一つ深呼吸をする。

それから意を決して、体をさらに祐一の膝の上に移した。

それでも最後の抵抗、とばかりに何故か視線を必死にそらす祐一に、止めをさす。

「私って、そんなに魅力ないですか?」

「そんなこ、と……」

魅入られた。

思わず視線を戻した祐一を待っていたのは正面から自分の目を覗き込むような、まっすぐな視線。

コレが、あのなのはなのか。

出会ったときから今まで、爛漫な笑顔を振りまいていた彼女が、こんな顔をするのか。

動けない。目が離せない。

頬を押さえていた手は首まで下りてきており、抱きつかれるような形になっている。

見たことのないなのはの表情に、祐一は完全に引き込まれていた。

「そんなこと、ない。」

ようやっと、搾り出せたのがそれだけの声だった。

「そうですか?」

「あ、ああ。俺が保証する。」

事実、今現在どうにかなりそうになっている。

祐一の言葉になのはは少しだけ嬉しそうに、それから少し悲しそうに顔を作った。

「でも、じゃあ、何で祐一さん、手を出してくれないんですか?」

「ブフゥ!?」

「きゃ!?」

むせ返る祐一。

なのはは驚いて手を離し、のけぞったためにバランスを崩し、元々不安定だった祐一のひざから転げ落ちそうになる。

反射的に祐一の襟首を掴みなおすなのはだったが、崩れたバランスはそう簡単には戻らない。

「うおっ!?」

「きゃ!?」

結果、大きな音を立て、二人は床に倒れこむ。

なのはが下で、祐一が上。まるで強引に押し倒したように。

「ご、ごめ」

祐一が慌てて離れようとするが、それよりも早く、なのはの手が祐一を引き止めた。

「やっぱり、魅力がないからですか?」

「……そんなことはないって。」

まっすぐに向かってくるなのはの視線。引き込まれそうな綺麗な瞳。心なしか、首にかけられた手に徐々に体重がかけられて引き寄せられている気もする。

「じゃあ、なんでですか?」

逃げられない。答えるのが最善か。

「……形だけの夫婦だからさ。」

観念したように、答えを漏らす祐一。

何も言わないなのはは、続きを待っているように見えた。

「いつか、なのはちゃんには俺なんかよりもふさわしい相手が現れる。だから俺はっん!?」

祐一の言葉はなのはに塞がれた。なのはの、唇で。

「なのはちゃ」

「現われません。」

すぐに離されたなのはの唇から紡がれたのは、力強い言葉だった。

「え?」

「そんな人、祐一さんよりふさわしい人なんて現われません。」

「そんなこと」

「あります。」

有無を言わせない強い言葉。祐一の語尾を引き取る形で、言葉を叩き切っていく。

「なのはちゃ」

「それとも祐一さんは、私がいくらヴィヴィオのためとはいえ、好きでもない男の人と婚姻届を作るような女だと思ってたんですか?」

つばを飲み込む。

うっすらと上気した頬、反芻される、先ほどまで感じていたやわらかさや重さ、感触。鼻孔をくすぐる甘い香り、頬に感じる吐息。

じりじりと何かが削られていく。

「ずっと、出会ったときからずっと、大好きでした、いえ、大好きです、祐一さん。」

その言葉を最後に、首にかかった手に一層の力がこもった。再び、合わせられる唇。

それが限界を迎えさせたらしい。

「……もう、知らないからな。」

「……はい!」

一瞬だけ離された唇から、ぼそりとそれだけ漏れた。

テーブルの上に広がった書類と、一通の手紙。

文面には一言。

「ガンガン行きなさい!」

楽しそうな文字が躍っていた。

 

 

翌日。

遅刻ギリギリに飛び込んだ二人に詮索が集まった事。

イロイロと汚してしまった書類の事で、祐一がはやてに頭を下げていたこと。

終始なのはが幸せそうだったこと、時々愛おしそうにおなかをなでていたこと。

フェイトに模擬戦を申し込まれた祐一が、殺傷設定で追い回されていたこと。

様々見られたが、まあ、それはまた、別の話、という事で。

 

 

 

 

 

 

 

 

はじめまして。Fisher manと申します。

jgj様の拍手ss見た→なんか受信した→時間経過→完成、というなんとも勢いだけで作成されたような話です。

お目汚しになったらスイマセン。