太陽が真上に昇り、時刻は昼時。
日差しがポカポカと暖かく、思わず干したての布団で寝てしまいたくなるような、そんな午後。



「良い天気で助かりましたね」



ベランダで洗濯物を回収しながら、そんな独り言を呟いてしまった。
こんなに気持ち良いくらいの快晴だと、一人では大変な家事も全く苦に感じないから不思議だ。



「さて、お昼は……あら?」



洗濯物も全て回収し終え、振り返ると、ベランダにタタタッと入ってくる一つの影が見えた。
影はわたしの足下で静止すると、そのまま擦り寄り、「にゃん」と可愛らしく一鳴きする。



「そういえば、真琴もお仕事に行っちゃったのね」



ごろごろと喉を鳴らせて、気持ち良さそうに擦り寄ってくる。
その様子を見ているだけで、何だかとても心が癒されていく。



「じゃあ……お昼、一緒に食べようか?」

「にゃぁ♪」



抱きかかえると、嬉しそうな鳴き声を発してくれた。
それに連られて、わたしも思わず、くすっと微笑んでしまう。



そんな仄々とした、とある春の日の午後。
わたしの仕事は――――まだまだ、始まったばかりだ。


こんな毎日、過ごしてます

「はい、ご飯ですよ」

「にぁ〜♪」



専用の受け皿にキャットフードを盛り付け、焦らす事無くあげてしまった。
”お手”や”待て”はちょっと厳しいでしょうしね。



「さて……じゃあわたしも」



と言っても、別に凝ったモノを作ろうとは思いません。
簡単な……トーストやコーヒー、その系統のモノで充分です。

料理と言うのは、食べる人が居てくれて、初めて作り甲斐が出来るものだと思っています。
だから、自分一人の時はいつもこの程度で済ませてしまっているんです。



「あ、と、いけないいけない」



料理を目の前に並べ、いざ食べようと思ったけど……一つ、重大な事を忘れていました。
コレなくては、わたしの昼食は始まりません。



「そろそろ新しく作って置かないと……」



冷蔵庫から取り出したのは、トーストに塗るジャム。
色はオレンジで、味は――放送禁止用語――味。わたしの自信作の一つだ。


それをペタペタとトーストに塗る。
名雪のイチゴジャムにも負けないくらい、たっぷりと。



「……食べる?」

(ぶんぶんぶんぶん!!)



少し羨ましそうに此方を見ていた (果てしなく気のせいです) 我が家の愛猫、ぴろにも薦めてみる。
するとすぐさま首を激しく横に振り、逃げる様に去って行ってしまいました……心境は複雑です。



「うん、おいしい♪」



自分で言うのも何ですが、凄く良く出来てると思うんですけど……不思議ですね。
いつか美味しく食べて貰えるよう、精進したいと思います。















「……ふぅ」



視点は変わって、我輩はぴろだ……そこ、猫が一人称やるなとかほざくでない。
秋子殿は我輩と違って忙しい身。それならば、我輩がサポートするのは至極当然であろう。
よって、これからは我輩が直々に……なに、口調が偉そうで気に喰わない?……そんなことは知らん、知らんとも。


まぁ兎も角だ。
我輩は取り敢えずリビングから退出、もとい脱出し、現在は屋根の上に居る。
此処は我輩の特等席でな。日も良く当たり、此処でする日向ぼっこはまた格別なのである。



「にぁ……ぁぁ」



むぅ、思わず欠伸が出てしまった。
一眠りしたいところだが……職務は最後まで全うせねばなるまい。


どれ、案内しよう。
そろそろ秋子殿も昼食を終え、午後のお仕事をなさる筈だ。
その辺りの解説でもして……これ、もしかしなくても我輩の出番なしで普通にいけたんじゃないのか?
…………深くは考えずに、さぁ行こう。



ピョンと屋根の上から颯爽に庭へと着地。
ふふん、どうだ? 人間にこの様なことは真似出来まい。
……む。そう言えば、校舎の3階から落ちても大丈夫な人間がいるとか……祐一殿から聞いたことあるような、ないような。
まぁ良い。今は兎も角、黙って我輩に追いて来るが良い。














「〜♪〜〜♪」



鼻歌を交え、秋子殿は部屋の掃除をなさるため階段を上る。
             ライバル
まずは我輩の永遠の好敵手、名雪殿の部屋から。



「……増えてるわね」



そんな秋子殿の声を聞き、顔をひょいと覗かせると……そこには、物凄い数の目覚まし時計があった。
10個や20個なんてモノでは無い……50は軽い。
秒針を刻む音がバラバラに聞こえてくるので、一分いるだけでノイローゼに掛かってしまいそうだ。



しかし、そんな中でも秋子殿は平然と掃除を始めている。
この平常心……見習いたいものだ。







続いては、我輩を歩道橋の真ん中から落とした張本人、真琴殿の部屋だ。
その後、結局は和解したのだが……彼女の扱いにはどうも慣れん。
ムギュッと抱きつかれて離れない時もあるし……まぁ、頭の上は居心地がいいし良しとするが。



「あらあら……真琴ったら」



真琴殿の部屋には、数多くの本が山ほど散らばって置いてある。
本と言っても漫画だ。間違っても小説などは一冊も無い。
題名は、”恋はいつだって唐突だ”……真琴殿、我輩はあんたの行動の方が唐突だと思うぞ。



が、そんな中でも秋子殿は黙々と掃除を始めている。
この優しさ……見習いたいものだ。








最後は、中々頼りになる我輩の味方、祐一殿の部屋だ。
真琴殿に遊ばれ、名雪殿に襲われた時、何度世話になったことか……ただひたすらに感謝だ。



「…………………………あら?」



祐一殿の部屋は小奇麗に整理されており、家具もそんなに多くなく、広々とした形になっている。
これなら一人暮らしをした時もあんし…………あ、秋子殿、ベッドの下は止めて置いた方が……ておくれだったか。
あ〜……その……思い切って見なかった事にした方が良いのでは?



と、そんな中でも秋子殿は、若干顔を赤く染めながらも掃除を始めている。
この…………と、兎に角、見習いたいものだ。













「これで2階のお掃除は終わりですね……お疲れ様です」

「にぁ」



2階の掃除を全て終えても、わたしの仕事はまだ終わりません。
頭に乗せてあげたぴろを落とさないよう、フラフラと歩きながら階段を下ります。
なんだか良いですね、コレ。癖になっちゃいそうです。



「お夕飯の材料は揃ってるし、1階の掃除は終わってるし……ちょっと休憩しましょうか」



無事に階段を下り切り、時計を見てみると、時刻は既に午後の三時を少し過ぎていました。
祐一さんと真琴が帰って来るのは、あと一時間ほどですか。



「…………」



ソファーに座った途端、ウトウトと眠気が襲い掛かってきます。
朝からずっと働いていたので、多少なり疲れてしまったのかもしれません。



「にぁご」



気付いたら、ぴろもわたしの頭の上から降りて、膝の上で丸くなっています。
この程よい感触が……何とも、眠気を増加させてくれますね。



「…………すぅ」



ぴろも……寝ちゃいましたか。
それじゃあ、わたしも……少しだけ………















「あ、祐一ッ!!」

「ん? ようマコピー、相変わらず喧しさ絶好調だな」

「んな!? で、出会い頭にフザけた事言ってんじゃないわよぅ!!」



俺は学校帰りで疲れていると言うのに、何と言う悲劇だ、。
まさか家に入る直前にマコピーに出くわすとは……相沢祐一、一生の不覚!!」



「バッチリハッキリポッチャリ聞こえてるわよ、祐一!!」

「……ポッチャリ?」

「話を逸らすなァ!!」



いや、むしろ”逸らさせるな”と言い返したいんだが……いいや、時間の無駄だし。
俺は一刻も早く家に戻り、ベッドの上でのんべんだらりと過ごすと言う超ハードスケジュールをこなさなければイカンのだ。
あぁ、忙しいったら忙しい。自堕落生活バンバンザイ。



「とっとと中に入ろうぜ。俺はもうダルくて敵わんよ」

「あぅ……また話し逸らしてる」

「えーからえーから。秋子さん、ただいま〜っす」



玄関のドアを開け、靴を脱いでいそいそと入る。
真琴もそれに続いて入ってきて、俺よりも更にデカイ声で 「ただいま〜!」 って言い放ちやがった。
マコトサン、その得意気な、その勝ち誇ったような表情は何なんですかね?
もしかしてアレか、俺と一戦交えようってのか?

面白い、ここは男としての維持とプライドをフル活用。
真琴よりも更に大きな声+窓ガラスが砕け散るほど強烈な、俺の華麗なるジャイアンボイスをとくと御賞味……ってあれ?



「……やけに静かだな?」

「あぅ……お母さん、居ないのかな?」



いつもなら、こんな俺達を暖かく迎えてくれる秋子さんがここで登場する筈……なのだが。
何故か今日に限って、その姿は見当たらなかった。

買い物か、はたまた買い物か、ひょっとしたら買い物か、万が一の可能性として買い物も候補に上げておくと……やっぱり買い物か?
でも玄関の鍵は開いてたしなぁ……ってまさか!?



「ご、強盗か!!?」

「あぅ!? くく、く、曲者がここに忍び込んだの!?」



真琴、言い回しが古い。
ソレはお前、良い国作ろうとかウグイス鳴くよとかの時代の流行語だ。



「まだ決まったワケじゃないけどな……だけど、一応俺から離れるなよ?」

「わ、分かった……うん」



自堕落生活から一変、火サスも真っ青のスリルに溢れた生活に替わってしまった。
何故だ、俺が知るか。



「まずは……リビングか」



ギシリギシリと2つの足音を立て、俺達は慎重に部屋に入る。
ドアは閉まったままだったので、ゆっくりとノブに手を掛け、慎重に慎重に……。



「すぅ…………」

「にゅう………」

「「……………………」」



……取り敢えず、そっとドアを閉めて置いた。
そのままそっと2階に上がる……その途中で、真琴が思い付いたように言った。



「祐一……夕飯、真琴が作るね」

「……名雪に頼むべきだ」



全力で否定したこの判断は、きっと正解だったと思う。

















〜あとがき〜




作  「JGJさんのサイトに初めて送らせて頂いたSS、こういった感じに仕上がりました」

秋子「此方には初めて寄贈するSSなのに……失敗ですね。作者さんには後で一人孤独にジャム祭りの刑です」

作  「…………逝って来ます(泣」

秋子「特におかしいのは、わたしの一人称です。
    まぁ、わたしの独り言ってあまり無いから仕方ないかもしれませんけど」

作  「書いてる途中でそれに気付いたので、急遽、ぴろの一人称も追加することにしてみました」

秋子「我輩とか言ってますけど……アルキメ○スですか?」

作  「ん〜特に意識はしてませんけど、何だか偉そうな感じを出したかったので」

秋子「その結果、こうなりましたと……成功なんだか失敗なんだか、って感じですね」

作  「1:9で失敗でしょうが……それでも、読んで下さると嬉しいです」

秋子「求めてはいけませんよ。
    自分の身分や立場を弁えて、もっと謙虚な姿勢で物事に挑むべきです」

作  「……説教されながら終わります。
    ではでは、JGJさんが営む此処”Jyagaimo Gentle Justice”に送らせて頂いた初の投稿作品でした」