魔法少女リリカルなのはA'sAfter 短編集01
恋というなの恋に恋して
     夢というなの夢を夢みた
  夕方編
 









「ただいま」

 昼食を食べ終わり、特にやることもなかったので一直線に帰宅したフェイトだったが、玄関は閉まっており、自宅には誰もいないことが主張されていた。仕方なくプリーツスカートのベルトにキーチェーンと一緒に付けていた鍵を取り出してドアを開ける。誰もいないと分かってはいたが、思わず帰宅を告げる言葉が出た。
自分のスリッパを履いてから脱いだ靴を整え、冷え切った廊下をキッチンへと歩く。

 冷蔵庫を開けたところで、ジュースと牛乳のどちらを飲もうかと迷ったが、体が少し冷えていることに気付き牛乳パックを手に取る。戸棚を開け、『黒乃』と書かれたマグカップの隣に置いてある自分のカップを取り出すと、八分目まで注いでからパックを冷蔵庫へと戻した。そのままカップを電子レンジに入れ、一分間のタイマーをかけてからスタートボタンを押す。
静まり返った室内にレンジの作動音だけが虚しく響いていた。

 フェイトはレンジの前でぼけーっとしながら、まだ三時にもなっていないというのに今日一日を振り返っていた。
朝はクロノと動けなくなるまで訓練をした。本当に動けなくなってしまい、抱っこされたのは恥ずかしかったがそれ以上に嬉しかった。昼は偶然であったユーノと一緒。もやもやしていた自分の気持ちを教えてもらえた。
いいことばかりのはずだった。それなのに、妙にセンチメンタルになっているのが可笑しかった。
きっと、色々ありすぎて疲れているからだ。ミルクを飲んだら少し休もう。
そう思うと同時にチンッっと軽快な音をたてレンジが止まる。ホットミルクを取り出すと、暖かそうな湯気が立っていた。息を吹きかけて覚ましながら口に運ぶ。冷えた体が少しずつ温まっていくのをリアルに感じられた。

 五分ほどかけてミルクを飲み終えたフェイトはコップを洗い、さかさまにして立掛ける。
部屋にいこうとしたところで、見事な白いひげをつけた顔が冷蔵庫に映った。慌てて口回りを洗う。
はしたないとは思いつつも、服の袖口で軽く口元を拭ってからキッチンを後にした。

 部屋のドアを開けた瞬間、一気に体から力が抜けた。
無意識のまま体が動き、ベッドに倒れこむ。ふかふかの毛布がとても気持ちよかった。
着替えてもいない服、開けっ放しのドア、スリッパを履いたままの足―――、
何もかもがどうでもよかった。今はただこの毛布の触感を味わっていたい。
だんだんと視界がおぼろげになっていくのを他人事のように思いながらフェイトの意識はそこで途切れた。









 時刻は六時過ぎ。
クロノ=ハラオウンはどうしようもなく困っていた。
事の発端は今から十分前に遡る。

 思っていたよりも大分早く書類作業が終わったのでさっさと帰宅したクロノは、リビングで一枚の書置きを見つけた。

「なになに……

クロノへ
急な会議が入りましたので今日は管理局に泊まることになりそうです。
それで会議の準備をしてる時に気がついたんだけど、図書館から借りた本の返却期限が今日までなの。
悪いけど返してきてくれないかしら。図書館が閉まっていても外に返却ボックスがあるから大丈夫です。
あとは……直接お願いしてはないんだけど、夕食はエイミィさんに作ってもらってください。
リンディより」

 ちらりと横を見るとハードカバーのずっしりとした本が三、四冊積まれている。
クロノは知っていた。自分の母親が能力も人望も仕事の量も膨大だということは知っていた。
クロノは知っていた。自分の母親がプライベートな時はどこか抜けているということも知っていた。

「はぁ……、仕方が無い」

 恨み言の一つも言いたくなったが、自分も仕事をしているだけに緊急な仕事とあれば許せてしまえた。
とりあえずは荷物を置いてこようと思いリビングを後にする。
ふと玄関にフェイトの靴があったことを思い出して、自室の隣のドアをノックした。
コンコンッ
乾いた音が静まり返った廊下に響く。
十秒ほど待つが部屋の主から返事は無い。
コンコンッ
二度目のノック。

「フェイト、いないのか? ―――入るぞ」

 多少後ろめたさもあったが、返事が無いのだからしょうがない。
そう思いクロノは思いきって部屋のドアを開けた。
真っ暗な部屋。
やはり居ないのだと反射的に思ったが、それでは玄関の靴に説明がつかない。
まだ暗さに目が慣れていないため、部屋の壁に手を添えつつゆっくりと歩く。

「フェイ……なるほど」

 部屋主の名前を呼びかけたところで、少しだけ盛り上がっているベッドに気がついた。
壁伝いにベッドまで歩み寄る。ベッドサイドに立ったところで顔が緩んでいくのを感じた。
ベッドには戦闘時の緊迫した雰囲気を全く感じさせない、年相応ながらに穏やかな寝顔があった。
ふと、頬にかかった髪がくすぐったいのかフェイトが寝顔をしかめる。

「ただいま、フェイト」

 頬にかかった髪を払ってやりながら静かに呟く。
穏やかな寝顔に戻ったフェイトを見て満足したクロノは起こさないように足音を忍ばせて部屋から立ち去った。

 自室に入り、電気をつける。
クロノは突然明るくなった視界に目を細めつつも、机の上に一枚の紙切れを見つけた。どうやら、また書置きのようだ。

「今度はなんだ……

クロノ君へ
今日はアルフと一緒にアレックス達のところに泊り込みで作業します。
帰るのは明日の昼過ぎぐらいだと思うからリンディ提督にも伝えといてね。
エイミィより

……は?」

 一瞬、クロノは書かれていたことが理解できずにもう一度読み直す。
何度読み返そうとも、紙に書かれている内容に変化はなかった。あまりの事態に頭が混乱してくる。

(……とにかく冷静になろう。母さんは臨時会議で管理局に泊る。エイミィとアルフはアレックス達のところに泊り込みで作業。……っということは、今夜は僕とフェイトの二人っきりなの……か?)

 まずい。
直感的にクロノは理解していた。これはまずい。
今のところはフェイトに妹以上の感情を抱いていないにしても、クロノだって十四歳の男の子だ。
……それはおいておいても、まず食事だ。フェイトはどうだか知らないが、クロノは料理なんてものが出来ない。
暴走しそうになる思考を必死に制御して、今後の予定を無理やり構築する。

(まずは、図書館に行く。この時間だと閉まっている可能性が高いから外部の返却ボックスを探す。その後でなにか夕食を買って帰ろう。フェイトには悪いがコンビニ弁当で我慢してもらう。そのあとは、風呂にはいってさっさと寝よう)

 よし、完璧だ。
思わず小さくガッツポーズをしたクロノは、さっそく手提げの鞄を取り出し財布を投げ入れてからリビングに向かう。
数冊のハードカバーを入れた鞄は少々重かったが、日ごろから鍛えていることもあってか苦にはならない。
一応フェイトが寝ているので、家の鍵を閉めてからマンションの階段を駆け下りた。




 ―――そして現在。
クロノは派手に迷っていた。
元々、それほどこの町を出歩いたことは無かった。図書館ほどの規模なら目立つ建物だろうと過信していたのだが、辺りには同じような大きな建物ばかりならんでいる。せめて中に入れるものなら人に聞けるのだが、休日の六時過ぎとあってか公的な建物は全て閉館した後だ。図書館すら分からないのだから外部返却ボックスを見つけるのは至難の業だった。
どうしたものかと途方に暮れているクロノだったが、偶然にも救いの女神が現れる。

「あれ、クロノ君? こないなところでどないしたん」
「? ―――八神はやてか」

 この町で急に名前を呼ばれたことに首を傾げつつも声のする方向を振り向き納得する。
そこには珍しく一人らしい八神はやてが不思議そうな顔をしていた。……車椅子と買い物袋のオプション付きで。

「はやてでええよ。それにしてもクロノ君と会うなんて珍しい」
「……それは僕の台詞だ。一人で出歩くなんて一体どうしたんだ?」

 今までにクロノははやてが一人で外出してるところなど見たことがなかった。
この少女には足が動かないというハンデがあるので、いつもはヴォルケンリッターの誰かが必ず付き添っている。
一人になりたい時もあるのだろうが、まさか一人で買い物に行きたいなどとは思わないだろう。
というか、一人で買い物になどと危なっかしい真似を「あの」ヴォルケンリッター達が了解するはずもない。
クロノの疑問に天を仰ぐよう夜空を見つめたはやてが、唇に指を当てて暫く思案した後で答える。

「んー、……あの子ら管理局で嘱託魔導師のなんとかがあるとかいって、今日は私一人なんや」
「……なるほど。そういえば、ヴォルケンリッター達の嘱託認定手続きを近々やる予定だったな」
「そういうこと。せやから、久しぶりに一人で買い物いって疲れたわ」

 はやてはそう言い終えてから、いかにも疲れたといった表情で首の骨を鳴らした。
一人のときぐらい買い物にいかなくてもいいんじゃないかと思うクロノだったが、彼女が夜天の魔道書のマスターになるまではいつも一人だったことを思い出す。
彼女にとって一人で買い物とは、久しぶりではあっても危険だとかめんどくさいことではないのだ。
妙に納得しているクロノに、今度ははやてが問いかける。

「それで、私のことは置いといてやな。クロノ君はこないなところで何してるの?」
「あぁ……僕は図書館を探していたんだ。丁度いい、図書館の外部返却ボックスの場所を教えてもらえないか?」
「なんや、そないなことか。まかせとき、伊達に長いこと図書館に通ってへんよ」

   クロノの依頼を二つ返事で承諾したはやては、そう言うやいなや車椅子を数ある建物の一つに向けて動かし始めた。
慌ててクロノは車椅子の後ろについているグリップを握る。
そして、はやての方向転換が終ったのを確認してからゆっくりと歩き始めた。
まだ六時過ぎだったが冬は日が落ちるのが早いらしく、辺りはほとんど真っ暗といってもいいほどの暗闇だった。
車椅子に乗っているはやては時折細かい方向の指示を出しながら、ふと思うことがあったのかクロノに話しかける。

「そういえば、クロノ君って図書館使ったりしてたんやね。ちょっと驚いたわ」
「この本は母さんが借りていたものだよ。僕自信は一度も行った事が無い。だから迷ってたんだけどな」
「え? リンディさんが借りたやつをクロノ君が返しに来てるんか。リンディさんも結構人使い荒いんやなぁ」
「今日は特別だ。なんでも急な会議が入ったらしく、今夜は管理局に泊まってくるっていっていたから」
「あ、そうなんか。ほんなら、誰がご飯作ったりするの? まさかクロノ君?」
「いや、料理はエイミィも出来る。出来るんだが、あいにくエイミィもアルフと一緒にアレックス達のところに泊まってくるって言ってね。僕は料理なんてほとんどできない。だから何か帰りに買って帰ろうと思っているんだが」

 困ったものだ。クロノはそう言わんばかりに肩をすくめる。
はやては納得した表情になったかと思えば、さらなる疑問の為か瞬時に訝しげな顔をする。
きた。クロノは恐らく次にはやてが言おうであろう言葉に想像がついた。思わず顔を顰める。

「……ということは、クロノ君今日はフェイトちゃんと二人っきりなんやね」
「―――やめてくれ。そのことは極力考えないようにしている」

 しみじみと言うはやてに対して、クロノは頭痛を堪える思いで頭を振る。
そうして話して歩いているうちに、はやてが図書館らしき建物の壁を指差す。
クロノが目を凝らしてみると、暗闇で覆われた外装の一部分だけ銀色に光る長方形の口があった。

「あれや、あの銀色の返却口に本を入れてくるだけでええよ」
「分かった。すぐに入れてくるから、少し待っていてくれ」

 そう言うとクロノは車椅子のグリップにかけていた手提げ袋を手に取り、返却口まで小走りに駆けていく。
そうして返却口までたどり着くと、手提げ袋を一旦地面に置いてから一冊ずつ投下した。
三、四回ほど本を入れる音が辺りに響き渡る。
本を入れ終わったクロノは、ぺしゃんこになった袋を三つ折ほどにしてから片手に持ち、車椅子まで戻った。

「またせたな、はやて。案内してもらったお詫びということでもないが、家まで送ろう」
「あー、それなんやけどなクロノ君。今日、私もクロノ君家に泊まってええ?」
「ああ。―――は? 一体何を言っているんだ君は」

 クロノが戻ってくるなり、何気なくはやてが問いかける。 
思わず相槌をうったクロノだったが、その後で言われたことの意味を理解した。怪訝そうな顔をする。
はやてはにこにことしていたが、その笑顔には有無を言わせない圧力があった。

「ん〜? 私が泊まると何かまずいん? むしろいいことばかりやん。ご飯だって作ったるし、フェイトちゃん一人で髪洗えんのやろ? 丁度ええやん。それにやな―――、二人っきりで何か間違いが起こると大変やし」
「ま、間違いってどういうことだっ!?」

 間違いのところを強調するはやてに思わず声を裏返すクロノ。
完璧にはやての勝ちだった。ふふん、っとはやては勝ち誇った表情で続ける。

「とにかく、私も今日は久しぶりに一人で心細いんや。人助けやと思って」
「……ふむ。まぁ、僕としても食事については困っていたところだしな。お願いしようか」
「それでこそクロノ君や。ほんなら、とりあえずは家に着替えとか取りに行きたいんやけど……」
「ああ、もちろん送らせてもらうさ。もう日が落ちてるから危ないしね」

 意外とあっさり承諾する。
クロノとしても急に言われたから動揺していたわけで、はやての提案は非常にありがたかった。
ヴィータ曰く「はやての料理はギガウマ」だそうだ。
自分はいいとしても成長期のフェイトにはちゃんとしたものを食べてもらいたい。
それにフェイトが一人で入浴し辛いことを、少し前にエイミィが面白そうに言っていたのを忘れていた。
まさか、自分が一緒に入ってやるわけにもいかない。
そう考えるとはやての言うとおり、いいことばかりだと思いなおすクロノだった。









 一旦はやての家に寄ってから帰宅したクロノ達だが、時間はもうすぐ七時をむかえようとしていた。
幸いにも比較的新しいマンションだったためか、エレベーターが付いていたのはありがたかった。
家のドアを開けようとするクロノだが、一度取っ手を回してから鍵を掛けていたことを思い出す。
車椅子のグリップにかけた鞄から家の鍵を取り出し鍵穴に差し込む。
がちゃりっと無機質な音と共に扉が開いた。
玄関の電気をつけて車椅子を押し入れたクロノが問いかける。

「ん、どうしたらいいんだ?」
「ええと、まず私をどこか座れるところまで運んでもらえる? その後で車椅子の車輪を拭いてほしいんやけど」
「あぁ、了解した。……はやて。どうやって運べばいいんだ?」
「抱っこに決まってるやん」

 当然とばかりにはやては言う。
少し顔を赤くしたクロノだったが、確かにそれ以外の方法は思いつかなかった。
左手を両足の膝の下へ、右手を腰の後ろに回す。一呼吸置いてから両手に力をいれて持ち上げる。
持ち上げた少女は義妹と同じ程度の重さだったが、何故か違う温かみを感じた。

(まさか一日に二回も抱っこするとはな。フェイトが起きていなかったらいいが)

 無論、この状況を見られたからといって弁解の余地は十分にあった。
それにしても、―――実はフェイトの時もそうだったのだが―――、クロノとて気恥ずかしい思いは微かに抱いている。
そんなことを思いながらはやてを抱き上げたクロノは、手の甲で明りのスイッチを押しながらリビングへと向かった。

 リビングの電気をつける。壁に掛けられていた時計は丁度七時をさしていた。
とりあえずはやてをソファーへ運ぼうとするクロノだったが、足元に落ちているテレビのリモコンに気がつかない。
何の危機感も抱かずにソファーへ歩こうとするが、見事にリモコンを蹴っ飛ばした。
その反動でクロノの体がほんの僅か前側につんのめる。それが命取りだった。
普段なら蹴り飛ばして終わりだったのだろう。しかし、今ははやてを抱えていた。
必死に後ろに重心を掛けて踏みとどまろうとするが、はやてを抱える体は重力の影響でどんどん前に倒れていく。
そして―――、

「うわっ!?」
「きゃっ!?」

 遂に重力に負けた体がフローイングの床めがけて倒れこんだ。クロノとはやての悲鳴が重なる。
なんとか頭を打つことだけでも避けようと、クロノは倒れ行く体の右腕をはやての頭の後ろに回す。
間一髪。
重なるようにして倒れた二人だったが、幸いにもクロノの右手が一瞬早かった。

「―――ッ すまない。大丈夫かはやて?」
「……私は大丈夫、、、」

 突っ伏したまま問いかけるクロノに顔を赤らめたはやてが答える。
クロノ自身は幸か不幸か気付いていないのだが、二人は見事に抱き合っていた。
とりあえずはとクロノは左手で体を起こし始める。そして、自分の置かれている状況に気がついた。

「え、あ……」

 クロノは右手をはやての顔の後ろに、左手と両膝を床に着いたまま硬直する。
目の前にはやての顔があった。僅かに朱の注した頬、潤んでいる瞳、水気を含んだ唇―――、
思わず見とれていた。
普段の笑顔溢れる彼女とは似て異なる、どこか別人のような雰囲気。
好きや嫌いといったものではない。ただ純粋に目の前の少女が愛らしかった。

「……クロノ……君?」

 目の前の少女が不思議そうに名前を呼んだ。
クロノはその記号が自分を指しているものだと理解するまでにたっぷり十秒はかかった。
思考が著しく制限されている。頭の回転が煩わしいほどに遅い。
何故? 何故この少女は不思議そうにしているのだ? 何故……

(―――そうか、僕らはまだ倒れたままなのか……)

 そのことに気付くまで今度は一分以上かかった。
呑まれている。
クロノはそう思った。何にではなく何かに。あるいはこの雰囲気に。
体を動かそうとする。
脳が命令を下してから体が反応するまでのタイムラグが酷い。
動かせと命じれば命じるほどに体は言うことを聞いてくれない。
やっとの思いで少女の頭をゆっくりと床に下ろした。
その時―――、

「クロ……ノ、なに、してる……の?」

 突如として第三者の声が割り込んだ。









 時計の針が七を指す三分ほど前にフェイトは目を覚ました。
記憶の保存状態が最悪だった。意識が落ちる前のことをほとんど覚えていない。

(そうだ、私ベッドに倒れて……)

 家に帰ってからの記憶を順番に思い出す。
しかし、それ以降の記憶が全くなかった。
そのまま寝てしまったのだろうか。それにしては毛布を被った覚えがなかった。
気付いてみればスリッパもちゃんと揃えて置いてある。

(誰かが、やってくれたのかな……)

 そう考える以外に他がなかった。
少しだけ心が温かくなる。思わず、ふっと笑みがこぼれた。
時計を見る。もうすぐ七時だった。
自分も夕食の手伝いをしなくてはと思い、フェイトはスリッパを履く。
その時、リビングのほうで何か倒れる音が派手に響き渡った。
びくっと身を震わせたフェイトだが、誰かが怪我をしていたら大変だと思い、急いで部屋を飛び出した。




 リビングに着いたフェイトは自分の目を疑った。
夢だと思いたかった。目をこする、頬をつねる……痛い。間違いなく現実だった。
目の前で……義兄が八神はやてを押し倒していた。
何故クロノが―――、 何故はやてがここに―――、 何故この二人は―――、
さまざまな何故が頭を飛び交う。頭の中が真っ白になった。

「……クロ……ノ、なに、してる……の?」

 やっとの思いでそれだけ口にする。
クロノがまるでロボットのようにぎこちなく振り向いた。
頬から一滴の汗が流れる。今までに見たことのないほど顔が焦っていた。

「な、フェ、フェイトいつからそこに……そ、そうじゃない、違う、違うんだこれはっ!」
「あ、あははは……フェ、フェイトちゃん、こんばん……は」

 そう言うや飛び起きるクロノと、苦笑と焦りと羞恥がごっちゃ混ぜになったかのような表情のはやて。
最も、フェイトはそんなことは全く聞こえていなかった。
彼女が認識したのはクロノがはやてを押し倒したその一点のみ。クロノの弁解など全く通じていない。
今日はいいことばかりだと思っていた。それが、今になって全て吹き飛んだ。
朝の訓練のことも、クロノを異性として好きだと認識したことも、全てがどうでもよくなった。
今、クロノはナニをしていた? 自分が来なければ、はやてとナニをしようとしていた?
まだ九歳のフェイトは具体的なことは分からない。
されども、ふつふつと怒りがわいてくる。誰かにこれほどまで怒りを感じたのは初めてだった。
フェイトの表情を見て、自分の立場がどれほど危ういかを自覚した様子のクロノが声を荒げて言う。

「フェ、フェイト、別に僕はなにもしていないぞっ!?」
「そうやで、フェイトちゃん。クロノ君はまだ未遂やっ!」
「まだ……? 未遂……?」
「はやてっ!?」

 もはやクロノの声は悲鳴になっていた。
必死でクロノが弁解し始めるも、面白がってか本気なのかあいまいなはやての茶々で、状況はどんどん悪化していった。




 ―――そして、五分後。
クロノの必死の弁解により、いくらか落ち着いたフェイトが状況を纏める。

「まず、はやてがここにいるのはクロノが図書館に本を返しに行ったとき、偶然出会ったから。それで、リンディさんとエイミィとアルフ、それにシグナム達も今日はいないからって、泊まりに来てくれたんだよね?」
「ああ、その通りだ」
「ちゃうちゃう、クロノ君といちゃいちゃしにきたんや」
「お願いだから君は黙っていてくれっ!」

 クロノが本気になって焦っているこの状況がよほど面白いのか、飽きずに茶々を入れるはやて。
フェイトもこの五分間ではやてのことが少し分かっていた。どうやら闇の書事件の時とは随分と性格が変わっているようだ。
最も、この性格が地である可能性のほうが随分と大きいのだが。

「……続けていいかな。クロノがはやてを押し倒していたのはリモコンに躓いたから?」
「車椅子からはやてを運んでいる最中にね。僕の不注意といえば不注意だったんだろうけども、それだけだよ」

 やっとフェイトが理解してくれたとクロノはほっとした表情になる。
しかし、隣の少女は不思議そうに首を傾げていた。まだ言いたい足りないことがあるらしい。

「でもクロノ君、私と倒れているときの様子が変やったよね。なんや、まじまじと見つめられて恥ずかしかったんよ?」
「えっ……あ、いや、それは……」
「……」

 あからさまにむっつりとフェイトは押し黙る。
たび重なる焦りとプレッシャーで顔面蒼白になってきているクロノと、にこにこと笑顔のはやて。
どうしたものかと額に汗を浮かべている義兄に、俯き気味のフェイトがぽつりと言った。

「……お兄ちゃんのえっち」
「―――ッ!?」

 フェイトの口から紡がれた、対兄最凶魔法によってなすすべも無く崩れ落ちるクロノ。
慌てて駆け寄り抱き起こすはやてだったが、クロノは既に虫の息だった。

「はやて……僕はもう、ダメだ。これから……フェイトのこと、よろしく頼む……」
「ちょ、クロノ君しっかりっ! キャラ変わりすぎやてっ!?」

 そんなはやての声も聞こえないのか、安らかな顔になったクロノがガクッっと首を落とす。
必死で揺さぶるはやてだったが、クロノの意識は遠く儚く砕け散ってしまったようだ。
これからどうするのかと、クロノとフェイトに交互に視線を送るはやてだったが、にっこりと笑ったフェイトが言った。

「さて、はやて。晩御飯作ろっか」
「そ、そうやね、フェイト……ちゃん」

 爽やか過ぎる笑顔に引きつった顔で答えるはやてだった。














―――あとがき@初めての対話風―――

三葉(以下三)「他の人の作品読みまして、対話なあとがきが面白そうだったので私もチャレンジ(笑」

三「栄えある最初のゲストは短編では名前が数回出てきただけの原作ヒロインさんに」

なのは(以下な)「……こんにちはー。原作ヒロインなのに全く出番の無い高町なのはです」

三「さて、紹介も終わったところで恋夢の夕方編でした。ここまで読んでいただいた方に感謝を」

な「ありがとうございますー。……でも、また私が出てない、、、なんでなんでー!?」

三「ごめん、ぶっちゃけ、なのはちゃん書きづらいんだ……キャラが分からないというかなんというか」

な「うぅ、この人酷すぎです……」

三「んー、だってなぁ、私サンテレビ組だから一期は映らなくて見れなかったんだよ」

な「……A'sでも私が一応主役のはずです」

三「A'sはヴォルケンリッター側が主役じゃないかな。なのはちゃんも出番少なかったでしょ」

な「それはそうなんですけど……、もういいです、そろそろあとがきに移ってくださいよ」

三「あとがき長くなるのは私の癖みたいなものなんだよ……。はい、それでは夕方編いかがでしたでしょうか」

な「あれれ、夜編じゃなかったんですか? 夕方編って無理やりな……」

三「いや、はやてをどうしても書きたくなっちゃって(笑 本当は独立した短編だったんだけどね」

な「私は書きづらいのにはやてちゃんは……。まぁいいです。それで結局クロノ君←はやてちゃんにしたんですか?」

三「うん、元々その予定だったしね。しかし、なのはちゃんがこういう類のカンがいいとなんか違和感あるね」

な「大丈夫。あとがきだけです。そういえば、はやてちゃんの性格変わってません?」

三「はやてが黒いのはごめんなさい(笑 フェイトを消極的に書いてたらはやては積極的にいこうかなと……」

な「もぅ、はやてちゃんのファンの人から苦情きちゃいますよ」

三「それは大丈夫……な予定。案外、はやてファンは少ないと思うんだよ。大概フェイトに持っていかれてるはず」

な「多いとか少ないの問題じゃないですっ! それに、なんでフェイトちゃんなんですか。最萌トーナメントを征したのは私だというのに……(本当)」

三「A'sで大分株価が上がったからね、フェイトは。最萌のころはまだA'sを放送してなかったでしょう」

な「そんなもんですか。どうせ主人公が人気でるのは最初のうちだけですか」

三「そこまでは言ってないよ(笑 事実、なのはちゃんのファンの人は結構いると思う」 

な「そりゃいますよっ! いなきゃ魔法少女なんてやってられませんよっ!

三「そ、そうですか。それにしても、なのはちゃんも性格変わってません?(汗」

な「出番がないからです。……とりあえず、あとがきに戻ってくださいよ」

三「また脇にそれてるorz 長くなってしまい申し訳ないです」

な「全く、余計なこと言うからですよ。それで、次のお話はどうするんですか?」

三「次こそ夜編を書きます。フェイト×クロノで書いてたんですが、はやて乱入で書き直しですけど」

な「だから急なプロット変更はろくなことが……。あああ、私の出番は?」

三「だって、はやて書きたくてしょうがなかったんだもん。タイトル見てください」

な「私の出番は?(笑顔」

三「ない(きっぱり」

レイジングハート「Let's shoot it, Starlight Breaker.

三「なっ、いきなり出てきて物騒なことを……伏線ぐらい張っとこうよ

な「どういう突っ込みですか……もしかして、私を書く予定ってないんですか?」

三「いや、あることにはあるよ。バレンタインSS書きたいしね。三月ごろになるかもしれないけど」

な「そんな……、周りの空気ちっとも読んでいないじゃないですか……」

三「なのはちゃんも人のこと言える突っ込みじゃないよそれ(苦笑 あとはおまけ@筆者の思いつきとかね」

な「はぁ、あれって一発限りだと思ってました。今後も書くんですか?」

三「うん。壊れネタって案外溜まってて(笑 今回はあとがき長引いちゃったからないけどね」

な「誰のせいですか、誰の」

三「まぁまぁ……、それでは随分と長くなってしまいました」

な「本当ですよ」

三「次こそ夜編でお会いしましょう」

な「またねー」




追記 HP公開しときます。幸せの四葉
ブログだけは随分と前から書いていたのですが、HPの改装が終わりましたのでこれを機会に。
ご意見・ご感想などありましたら、日記のどの記事でもよろしいですので、コメント欄にお願いしますー。