魔法少女リリカルなのはA'sAfter 短編集01
恋というなの恋に恋して
     夢というなの夢を夢みた
  昼編
 









「あのね、クロノ……」
「ん、どうしたフェイト」

 擬戦が終わり、クロノに抱っこで休憩室まで運ばれたフェイトは徐に口を開いた。
クロノは自分のタオルを首にかけ、もう一枚余分に取り出したタオルをフェイトに投げながら答える。

「わ、ありがと……それでね、さっきの試合どうだった?」
「どうだったとは?」
「ええと、わたしって成長してるのかちょっと不安で……」

 フェイトはあからさまに表情を曇らせながら尋ねる。
実はこれまでのクロノとの対戦成績に白星が一つとしてないのだ。
それにクロノは腕組をして、数秒思案したあとに、

「いや、全然してない」

 きっぱりと言い切った。
―――え? 全然? ……
ガーンッっと効果音をつけたくなるような勢いで崩れ落ちるフェイト。慌ててクロノは肩を支える。

(うぅ、これでも少しは強くなったかと思ってたのに。わたしの思い込みだったんだね。でも、そんなに「フェイト」 はっきり言い切らなくたっていいと「フェイトッ」思うんだよね。それほど成長してないのかなわたし……)
「フェイトッ!」
「―――はいっ!?」
「どうしたんだ? ぼーとして。今日の君はおかしいぞ……」

 クロノの一言で鬱モードに入っていたフェイトだったが、突然名前を呼ばれて―――、正確には考えに没頭していて気付いていないだけだったのだが―――、跳ね起きる。
クロノはフェイトがおかしい理由の大半が自分にあるなどとは、まるっきり思っていないのだろう。怪訝そうな顔をしている。

「それから、フェイト。人の話は最後まで聞こう」
「……え?」
「僕が全然成長していないといったのは、戦闘構成だけだ。技術面では明らかに成長しているよ。それは自信をもっていい。ただ、戦闘構成―――、戦闘中の動きだな。それは全く成長してない」

 自分に言われたことを必死で理解しようとするフェイトだったが、どうにもあいまいな評価に首を傾げてしまう。

「ええと……それは、よろこんでもいいの?」
「よろこぶとか落ち込むの問題じゃない。自分に足りてないところがあるというだけさ。要するに……」
「要するに?」
「これまでも何度か言われてはいるだろうが、君は攻撃に特化しすぎている。それに、素直すぎる。相手がなのはやシグナムみたいな、小細工をしない奴だったらなんとかなるかもしれない。しかし、相手がいつも正攻法だとは限らないだろう。現にさっきの僕との試合。最後の大技に力を使いすぎだ。あれでは、相手が余力を残していた時に敗北必須となってしまう」
「うん……それは、今回で痛感したよ。まさか、クロノがあれほど力を残しているなんて思ってなかったから……」
「最低でも逃げれるだけの力は残しておくこと。勝てなくたっていい。実戦では死ぬことさえなければ、それは負けではないんだ。だから、絶対に力を使い果たすような戦い方をしてはいけない」

 これは、なのはにも言えることだけどな。
そう付け加えてから、クロノは汗をふき取ったタオルをしまい、バリアジャケットを脱着させた。
そのまま帰宅準備をしていること気付き、フェイトは慌てて声を掛ける。

「あの、クロノ」
「どうしたんだ、フェイト。まさか、まだ動けないとか言うつもりじゃないだろうね」
「ううん、それはもう大丈夫なの。そうじゃなくて……クロノ、これから用事とかある?」
「なにかあるのか?」
「その……よかったら一緒にお昼……でも……」

 緊張のため、語尾はごにょごにょとあいまいになってしまうフェイトだった。クロノは苦笑を浮かべて答える。

「そういうことか。すまない。僕はこれから書類整理をしなければならない。食事も何か買って執務官室で食べるつもりだ」
「そ、そうなんだ。これからまだお仕事するんだね……うん、がんばってね」
「あぁ、ありがとう。よし、僕はもう行くとするよ」

 それじゃあ、そういい残すとクロノはさっさと休憩室を出て行ってしまった。
残されたフェイトは、クロノに投げ渡されたタオルで汗を拭いてから、バリアジャケットを脱着させる。
思わず、ため息が漏れた。どうして、自分はもっと積極的になれないのだろう。昼食の時間など知れている。強引に誘ってしまえばよかった、と思うフェイトだったが、完全に後の祭りだった。

「わたしの……意気地なし」

 ぽつりと漏れた独り言が、誰もいなくなった休憩室に、静かに響いた。









 コツ、コツ、コツ、コツ。
休日の為か、人通りの少ない通路はフェイトの足音が反響している以外に何も聞こえない。
クロノに誘いを断られたフェイトは、一人寂しく食堂へ向かう途中だった。
落ち込んでいるため、若干猫背気味になってしまっている。

(はぁ、久しぶりに一人の食事……か。なんだか、寂しい)

 以前は―――、といっても一年以上前だが、このようなことを考えたことは一度もなかった。
アルフとはよく一緒に食事をしていたのだが、一人で食事をすることも珍しいことではなく、寂しいなどと思うことなどは皆無だった。第一に、自分のことなどよりも母プレシアのために訓練をしたり、ジュエルシードを集めることのほうが遥かに重大だったのだ。
しかし、最近はなのは達と旅行にいっていたり、家ではハラオウン親子やエイミィ、アルフとの食事が多かったため、一人での食事は久々となる。それゆえに、少々寂しいと思えてしまう。こんな自分の変化をフェイトはありのままに感じていた。

 そして、食堂まであと少しとなった通路の曲がり角で―――、

「―――?」

 突如として、視界に影が差す。そして、顔を上げるよりも早く、

「いたっ!?」
「うわぁ!?」

 誰かとぶつかってしまった。

「す、すみません」
「いえ……こちらこそ―――、ってフェイト?」

 フェイトは慌てて謝るのだが、自分の名前が何故か呼ばれたことに気付く。
管理局内で自分の名前を呼ぶ人物などごく一部だ。一体誰なのかと思い、ひりひりと痛む額を押さえつつ顔を上げると、

「あ……ユーノ」
「……奇遇だね、フェイト」

 そこには、金髪の髪の毛をボブカットにそろえたユーノ=スクライアが立っていた。同じように額を押さえている。

「ええと、なんでユーノがここに?」
「なんでって言われても困るんだけど、僕は無限書庫に行っていただけさ。それで丁度昼食を取ろうかと。フェイトは?」
「わたしはさっきまでクロノと訓練をしていたの。それで、今終わったところだからお昼にしようかなって」
「―――あれ? それじゃ、クロノは……」

 ユーノの当然の疑問にフェイトははにかみながら答える。

「誘ったんだけどね。クロノ、まだこれから仕事するって……」
「……なるほどね。全く、あいつらしいよ。―――それなら、フェイト。僕も昼食にご一緒してもいいかな?」

 今度は別の意味でユーノは額を押さえながら、さり気なくフェイトに尋ねた。
一人寂しく食事をするはずだったのだ。当然断る理由もないとフェイトは快く頷く。

「うん、もちろんいいよ。ユーノと一緒に食べることなんて珍しいしね」

 ピキッ
しかし、そういった瞬間ユーノ周辺の空気が凍りつく。

「うぅ……どうせ! どうせ僕は、向こうではフェレットだよ!」

 しくしくと擬音が聞こえてきそうなほどに、落ち込むユーノ。
実を言うと、魔法のことやこれまでのことを打ち明けたなのは達だったが、ユーノのことだけは伏せられていたのだ。
……なんでも、可愛がりまくっていた美由紀や桃子の精神的なショックを考慮してのことだとか。

「あははは……はは」

 乾いた笑みを浮かべるフェイトだった。









 本当に、ぽつりぽつりとしか席の埋まっていない、休日の管理局内食堂。
実に特殊な形をした巨大テーブルの隅に、腰を落ち着けたフェイトとユーノがいた。
フェイトはサンドイッチとオレンジジュースを、ユーノはスパゲッティと紅茶をチョイスしている。

 ”いただきます”っと言って以来、黙々と食べ続ける両者。よほど、お腹が空いていたようだ。
暫くして、皿の中身を半分ほど消費したユーノが、口に咥えていたフォークを皿の隅に置いてから、一旦手を休める。

「それにしても、よくもまぁ休みの日まで戦闘訓練するね。フェイトは」

 ―――え? 突然話しかけられたフェイトは、サンドイッチを咥えたまま正面に座るユーノへ意識を向ける。
こくり。サンドイッチを咥えているために、頷く動作だけで会話を試みる。っが、

「いや、それを食べてからでいいから」

 ユーノに苦笑されてしまった。彼も紅茶を口に運ぶ。
はしたないことをしてしまったと、フェイトは少しばかり恥ずかしくなった。
ごくり。サンドイッチで在ったものを飲み込み、オレンジジュースにも一口つけてからようやく口を開く。

「そういうユーノだって、無限書庫にいってたんでしょ?」
「僕はさ、ほら、司書になりたいから。今からでも少しは勉強しようと思ってね」
「そういえば、誘われてたんだっけ。なのはから聞いたよ」
「うん、闇の書事件で無限書庫に入り浸っている時にね。僕も本が好きだからさ。思っても見なかった天職だよ」

 嬉々とした表情でユーノは語る。よほどに、本が好きなのだろう。

「そういえばさ、フェイトは将来の夢……っていうか、なにかやりたい仕事とかある?」

 将来の夢。
それは、闇の書事件が幕を閉じた時になのはと話し合ったことでもあった。
なれるかどうかは分からない。しかし、明確なビジョンは確かに持っていた。フェイトは、はっきりとした口調で告げる。

「わたしは……わたしは、管理局の執務官になりたい」
「執務官……か。これまた、ハードな職業だね」
「うん、大変だっていうのはクロノを見て十分に分かってるつもり」

 苦笑するユーノに、頬を緩ませて答えるフェイトだったが、一転して表情を引き締めた。

「でも、でもね、わたし達がこうやって平和に過ごしている間でも、世界のどこかで争いが起きてる。そこでは、誰かが泣いている。だから……ね、そういう人達を少しでも救ってあげたいんだ。少しでもわたしのように悲しむ人達を、出さないためにも。少しでもプレシア母さんの様に間違った道を歩んでしまう人を止めるためにも。」
「……そっか」

 なのはと一緒に初期からP・T事件に関わっていたユーノも、彼女の悲劇は存分に知っている。
だからこそ、内に秘めた決意を感じ取れたのか、ただぽつりと一言を漏らしただけだった。
自然と二人とも黙り込み、食事を再開する。無言ではあったが、不思議と居心地の悪さはなかった。

 そうして、皿の中身を片付けたフェイトがオレンジジュースを片手に、同じく皿の中身を片付たユーノに話しかける。

「ねぇ、ユーノ」
「ん?」

 何気なく呼ばれたことに短く言葉を返し、彼は紅茶に口をつける。

「最近、なのはとはうまくいってる?」

 ―――ぶっ!?
突如としてユーノから霧雨状に噴き出される紅茶。当然、正面に座っていたフェイトはまともに直撃を受けた。

「ユーノ……汚い」

 ポケットから取り出したハンカチで顔を拭きながら、恨みがましくユーノを睨みつけるが、

「ゲホ、ゲホ」

 紅茶が気管に入ったのか派手にむせ返り、それどころではないご様子。

「はぁ、はぁ……」

 なんとか呼吸を落ち着けたユーノは、顔を真っ赤にしながらもフェイトに食って掛かる。

「フェ、フェイト! 僕となのはは、そ、そういう関係じゃなくて!」
「うん、だってなのは、ユーノの気持ちに全然気付いてないもんね。」
「そうじゃなくてっ! 僕は別になのはことなんか―――、」
「なんか?」
「……ぅ、な、なんでもないよ」

 たとえ弁解するためでも、なのはのことを悪く言えない様子のユーノ。こういうところも彼の美点の一つなのだと、フェイトは思った。 誰が見ても―――、いや、なのはだけは絶対に分からないだろうが―――、なのはにお熱なユーノを微笑ましく思うが、ついついからかってしまう。度々、彼にいじわるをするクロノの気持ちが分かった気がした。

「とにかくっ! 僕となのははなんでもないんだっ!」

 ユーノは早口で畳み掛け、乱暴に席に座る。
思わず、小声で笑ってしまうフェイト。それを見て、不貞腐れた表情になるユーノだった。

「それでさ……」

 ユーノは頬杖をつき、明後日の方向に視線を流しながら切り返す。

「そういうフェイトには、好きな人とかいるの?」
「ん〜、わたし?」

 フェイトは口元に指を当てて思案する。
身近な人達、学校の友人、管理局で出会う人々―――、
一人一人の顔が頭に浮かび上がる。丁度、クロノの顔が思い浮かんだところで、何故だか顔が熱くなるのを感じた。
気を紛らわそうとオレンジジュースを口に運ぶフェイトだったが、

「例えば……クロノとかさ」

 ―――ぶっ!?
ユーノの口から何気なく発せられた一言に、思わずジュースを噴出してしまう。
彼としては、フェイトの近くにいる異性を自分以外にはクロノしか知らなかったため、当てずっぽうに言ってみただけなのだろう。しかし、その一言は見事にフェイトの思考とシンクロしていた。

「フェイト……汚い」

 先ほどのフェイトと同じく、真正面からオレンジジュースを吹きかけられたユーノだが、その口調はどこか楽しそうだ。
―――さっきの借りは返したぜ―――、そう言わんばかりにほくそ笑む。どことなく暗黒化の進みそうなユーノだった。

「へー、それにしてもフェイトがクロノのことを……か」

 しみじみと呟く。

「ケホ、ケホ」

 顔を真っ赤にして、なにか言い返そうとするフェイトだったが、ものの見事に気管に入っている。
最も、実際のところフェイトは「好き」という感情について、いまいちよく分かっていなかった。
クロノは好きだ。それは認めよう。でも、なのはも好きだ。これもまた揺るぎの無い事実。
確かにクロノの好きとなのはの好きは違う。それは、分かる。
初めてそう思ったときは、クロノが最初に出会った異性だからだと思っていた。
しかし、後々に増えてくる異性の友達。学校の友人しかり、目の前の少年しかり。
彼らのことも好きなのは好きだ。ただ、これはクロノの好きとは全然違うと思った。
現に目の前の少年を見ていても、心臓がどきどきするとか、顔が赤くなるとかいったことがが全くないのだ。

「ユーノ、好きってどういうことなのかな……」
「―――へ?」

 ユーノは頬杖をついたまま、素っ頓狂な声を上げる。
彼としては、罵声の一つや二つは返ってくると思っていたらしく、ずいぶんと間の抜けた顔になっていた。
そんなユーノをお構い無しにフェイトは、

「わたしね、よく分からないんだ。
ユーノの言うとおり、クロノのことは好きだよ。でも、アルフやなのは、アリサやすずかも好き。それに、学校の友達やアースラの人達も好き。もちろん、ユーノもね。なんだか、いっぱい好きな人が出てきちゃって」

 はぁ、っとため息混じりになってしまう。

本当によく似てるよこの二人は……どうして、自分のことには疎いんだろ。僕のことはすぐに気付いたっていうのにさ」
「え?」

 ぼそぼそっと呟かれた言葉を、フェイトはうまく聞き取れずに首を傾げる。
なんでもないよっと言う様に手を振ってユーノは誤魔化した。それから、少し真剣な表情を取り繕う。

「いいかい、率直に聞くよ。クロノのことが好きなのと、僕のことが好きっていうのは同じ?」
「ううん、全然」

 亜音速で答えるフェイト。

「それなら話が早い。フェイトがクロノに抱いている気持ちっていうのは、自分が一番好きな異性に抱く気持ちなんだと思うよ。僕はもう慣れたからないけど……一緒にいるだけで緊張しちゃったりさ、些細な動作を一々気にしちゃったりとか。そういうことってなかった?」
「―――ノ、ノーコメントで」

 顔を真っ赤にしながら演習場での出来事をフェイトは思い出していた。
やれやれ、そう言わんばかりのユーノだったが、特に何も言わずに立ち上がる。

「それじゃ、フェイト。僕はまだちょっと用事があるから先にいくね」
「えっ!? あ、うん。またね」

 少し大きめな声で呼びかけると、ユーノは自分の食器を持って立ち去る。
自分の考えに没頭していたフェイトは、少しばかり驚いたが手を振ってユーノを見送った。

「わたしの……一番好きな人か」

 先ほど言われたばかりのことをぽつりと呟く。―――自然と、頬が緩むのを感じた。














―――あとがき―――
 DVDでA'sを見直していくうちに実はクロノ→ユーノではないかと思ってきました。こんにちは、三葉です。
早々ながらに恋夢の昼編を書かせていただきました。ここまで読んでくださった方々に感謝を。今回はフェイト×ユーノです。 書いているうちに、どんどんキャラの口調や性格があいまいになっていくのを感じました。
ユーノの役目はエイミィとかリンディのほうが適役なのでしょうが、同じ者同士ということであえてユーノを出してみました。
……本当はアルフも同席させたかったんですけどね。まだSSを書くことに慣れていないので大人数は動かせないのですよ
_| ̄|○lll なので、基本的には一対一の場面が多くなるかと思います。

 そうそう、このSS書いてて思ったんですが、コメディ描写ってかなり難しいですね。少し挫折気味です(涙
当初は結構ギャグを入れるつもりだったのですが、どうしても壊れギャグになってしまい、考えた末ほのぼのにしました。
そのため、ってわけではないんですけど、今回から壊れギャグのおまけを付きです(笑

 最後に、夜編ですが少々シリアスになる予定です。またフェイト×クロノなのですが、それは元々の恋夢の設定がフェイト主役SSだったためです。(三部構成は長くなったため仕方なく) それでは、夜編でお会いしましょう。

 追記:ユーノのことって家族や友達に話したんでしょうか? これまでのこと〜、から話したのではないかと思いましたが、話を作るうえで都合が良かったため、彼は内緒のままということにしました(笑









 おまけ@筆者の思いつき (短編とはまるで関係のない別物です)




 朝から粉雪の舞い散る寒い日だった。
朝食を済ませた八神はやては、守護獣のザフィーラと共にリビングで寛いでいた。
適当にテレビのチャンネルを変えていたが、早朝の寒さに身を震わせる。

「なんや、今日めっちゃ寒いなぁ」
「主、いつまでも寝具のままでは風邪を引いてしまいます」

 ザフィーラが警告する。
この守護獣も闇の書事件以来、自分の思いを頻繁に口にするようになった。
それはそれでいいと思いつつも、この堅苦しい性格がもう少しなんとかならないものかと、はやては苦笑した。

「ザフィーラ、硬いこと言わんといてよ。パジャマの格好、物凄い楽なんやから……あ、そうや、ザフィーラちょっとこっちきてくれへん?」
「主?」

 ザフィーラはクエスチョンマークを浮かべつつも、主のとなりに座る。とたんに抱きつくはやて。

「ほぁ……ザフィーラめっちゃ暖かいなぁ。暫くこうさせといて……」
「仰せのままに」

 口調は堅苦しいままだが、満更でもなさそうなザフィーラだった。




 そのまま十分ほど経過しただろうか。
つい、うとうとと夢の世界へ旅立とうとしているはやての耳に僅かばかりだがテレビの音が紛れ込む。

はい、今日の取れたてマイビデオのコーナーは海鳴市のハラオウンさんから頂きましたー

 思わず飛び起きるはやて。ザフィーラもこればかりはテレビに目を向けた。
テレビでは賢犬アルフちゃんのテロップと共に、子犬フォームで色々なことを言われた通りに実行するアルフ。楽しそうに笑っているフェイトとリンディとエイミィ。そして、こめかみに浮かべた青筋を必死で隠そうとするクロノが映っていた。

「アルフちゃん、凄いお利口さんですね」

 アナウンサーが感想を漏らす。はやても口をぱくぱくとさせながら、

「……吃驚した。まさかフェイトちゃん家が送るとは。それにしても、アルフさんめっちゃ可愛いなぁ……」
「……主はああいったものが可愛いのでしょうか」

 素直な感想を口にする。それに対して、何故か恐る恐る尋ねるザフィーラ。

「なに言うてるんやザフィーラ。めっちゃキュートやん」

 はぁ……っとはやては思わず嘆息する。
その時、突如としてザフィーラを金色の光が覆い包む。人間形態への変身擬態トランスフォームだ。

「っな、ザフィーラどないしたん」

 めったなことでは人間形態にならないザフィーラに驚くはやてだが、当の守護獣はその声も聞こえていないようだ。
ザフィーラはぷるぷると力の入りすぎた右手をギュッと握り締め、


「やってみせるさ……あの女に出来て私に出来ないはずがない。―――ザフィーラだ、子犬フォームでるぞ!」


 某仮面の人の如く声高らかに宣言したかと思えば、あっというまに駆け出してしまった。

「ちょ、ザフィーラどこいくんやっ!」

 慌てて振り返るはやてだったが、ザフィーラの姿は遠く小さくなっていくばかりだった。