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『闇の書事件』
第一級指定遺失物『闇の書』を巡るこの事件の終焉から、早くも半月あまり。 出会いは敵として。終焉は仲間として。一ヶ月の間に積み上げられた想いと絆。 やっと手に入れた、平凡だけど心から望んだ平和と安らぎ。そして、日常の切れ間に忍び込むほんの僅かな悲しみと。 そんな彼女達のこれから―――、 恋というなの恋に恋して 夢というなの夢を夢みた 朝編 無装飾だがかなりの面積を持つホール。 ここは時空管理局本局B3地区にある、戦闘訓練用ホールの一つだった。 休日の午前中とあってか、現在このホールを使用しているのは二つの人影だけである。 片や、黒を基調とした動きやすそうな軽装に加え、上から紺色のマントを羽織った、金髪ツインテールの少女。 片や、こちらも黒を基調とした、されど少女とは対照的なジャケット風の法衣を纏っている少年。 時空管理局嘱託魔導師フェイト=テスタロッサと、時空管理局執務官クロノ=ハラオウンだった。 両者は互いに攻撃魔法を交えながら、時に手にしたデバイスで直接攻撃を掛けながら、拮抗した勝負を繰り広げていた。 戦闘を始めて、既に三十分近くが経過している。二人とも魔力の残量が尽き始めていてもおかしくは無い。 『Stinger Ray』 クロノのストレージデバイス『S2U』から高速の光が発射される。 それを見たフェイトは動きを止め、無意識に舌打ちをしてから愛杖バルディッシュアサルトを構えた。 スティンガーレイは高速射出系に分類される魔法であるため、回避をするのは至難の技だ。しかも、バリアブレイク機能付きである。威力自体はたいしたことが無いのだが、魔力が底を尽きかけている体では致命傷になりかねない。 「ハーケン・セイバーッ!」 フェイトは、ハーケンフォームだったバルディッシュを勢いよく振りかぶる。 それに伴い、先端に形成されていた圧縮魔力から光刃が発射された。 発射された光刃はブーメラン状に回転しながら、スティンガーレイを目掛けて飛んで行く。 そして、スティンガーレイとぶつかろうとした瞬間―――、 『Saber blast』 バルディッシュの追加キーワードによって爆発した。 「―――ッ! くそっ」 「くっ」 表情から察するに、スティンガーレイを魔法で打ち落とすところはまでは読めていたらしい。が、まさか爆発させるとは思ってもいなかったようだ。クロノは悪態を吐きながら後方へ飛び退いた。一方でフェイトも自らが爆発させたハーケンセイバーの余波による煙によって、前方が確認できないため迂闊には近づけない。結果として、お互いに距離をとることになってしまった。 お互いに動かない。―――いや、動けない。両者共に分かっているのだ。魔力が底を付きかけている今、次の一撃で勝負が決まると。次の一撃にありったけの魔力を込めると。 ゆっくりと、されど確実に時間は過ぎていく五秒……十秒……十五秒――そして、仕掛けたのはクロノだった。 「スティンガーブレイド……」 突如として百を超えるであろう光の刃がクロノの周辺に現れる。 「エクスキューションシフトッ!」 詠唱と共に作り出された光の刃がいっせいにフェイトへ向かって射出される。 フェイトも、無防備に見ているだけではない。バルディッシュアサルトを構え、 「サンダー・ブレイドッ!」 雷の刃を多数発射した。 二人の間で互いに打ち落とされていく光の刃と雷の刃。 時にぶつかり合い爆発し、時に複雑に絡み合い消えていく。どちらかへと抜ける刃はひとつとしてなかった。 大技同士のぶつかり合いが終わり、辺りを硝煙が包み込む。先の一撃で魔力を使いきったフェイトは、バルディッシュを杖代わりにようやく立っていられる状態だった。 「はぁ、はぁ……クロノ……は……」 フェイトが呟いたと同時に、辺りを蔽っていた硝煙が晴れ始める。 「―――な、いない!?」 驚愕の表情を浮かべるフェイト。 そう、クロノは魔法を唱えていた位置にはいなかった。変わりにホールの右側から飛翔する姿が見える。 「―――くっ、早い、右か!」 なんとか反応しようとするフェイトだが、先ほどの魔法で力を使い切ってしまっている。デバイスを構える手がもどかしいほどに遅い。そうしているうちにも、S2Uを振り上げたクロノが飛び掛ってきた。 『Defensor』 ぎりぎりのタイミングでバルディッシュの自動防御プログラムが発動する。薄い障壁の膜に覆われ、思わずほっしたフェイトだが、眼前のクロノは驚いてすらもいなかった。S2Uと自動防御プログラムの障壁がぶつかり合う。しかし―――、 「ブレイクインパルス」 ぽつりとクロノが呟いた瞬間、バルディッシュの自動防御プログラムが一気に粉砕される。その余波によってフェイトは吹き飛ばされてしまった。 「あぅ!」 そのままホールの壁へとぶつかり、ようやく止まる。三十分を超える長い勝負が終わった瞬間だった。 『ブレイクインパルス』 杖、または素手での接触により、目標の固有振動数を割り出した上で、それに合わせた振動エネルギーを送り込んで粉砕する魔法だ。固有振動数の算出のために、目標に接触した状態で数瞬の停止が必要にするが、最小限の魔力で最大の効果を上げることができる。 「はぁ、はぁ……フェイト、大丈夫か?」 こちらも、先程の一撃で魔力を使い果たしたのだろう。前かがみになり肩で息をしながら、それでもフェイトに心配そうな声で問いかけるクロノ。手を抜ける相手でなかったにしても、自分より年下の女の子を吹き飛ばしてしまったのだ。やはり、罪悪感があるのだろうか。 「うん……はぁ、はぁ……立てないくらいに疲れてるけど……はぁ、はぁ……外傷はないよ……」 「そうか……それは、よかった……」 息を切らしながらも答えるフェイトと、安堵の表情を浮かべるクロノだった。 未だに壁に寄りかかってはいるものの、呼吸自体は落ち着いたフェイトが問いかける。 「ふぅ……クロノは……だいじょうぶ?」 「君よりはね。……しかし、僕もへとへとだ……」 「あはは……でも、また負けちゃった」 「流石にね……そう簡単に負けるわけにはいかないさ、これでも執務官なんだ」 いくらフェイトやなのはが魔力にも才能にも溢れているからといって、簡単にクロノに勝てるわけでもない。 戦場では一歩引いた立場にいる彼だが、魔導師としてのランクは二人を凌ぐAAA+級。さらに、三年間の執務官勤務からくる戦闘経験をもっているのだ。今回の場合でも、クロノが勝って当然。まして、フェイトが勝つようなことならば、そのほうが驚愕なのである。 「さて、そろそろ戻ろうか。体を冷やしてしまってはいけない」 へとへととは言っていたクロノだったが、割としっかりとした足取りで、壁に倒れこんでいるフェイトに歩み寄ってきた。同時に手を差し伸べる。魔力を別とした基本体力では、男であり五歳も年上な彼のほうが格段に高いのだろう。 「うん、そうだね。」 ”ありがとう”っと言ってから差し伸べられた手を握り返し、立ち上がろうとするフェイトだったが…… 「―――あれ?」 立ち上がれない。 「ん、どうしたんだ?」 怪訝そうな顔で尋ねるクロノ。 「え、あ、あれ、なんでだろ……―――え? 〜〜〜〜〜〜ッ!」 「な―――ッ、どうしたんだ、いきなり慌てて!」 突如、顔を真っ赤にしたフェイトはじたばたと暴れだしてしまった。 「フェ、フェイト、落ち着いてくれ! どこか怪我でもしてるのか!?」 「―――ぁ、ご、ごめんなさいっ! ち、違うの、そうじゃなくて……」 「別に謝ることじゃない。一体どうしたんだ? 君らしくもない。」 「そ、それは……えーと……」 フェイトは真っ赤な顔をさらに赤くして俯いてしまう。少しばかり視線も泳いでいた。 言えない。こんな情けないこと言えるわけがない。でも、言わないとこの朴念仁は分かってくれない。 ―――、少しの思案の後、フェイトはもじもじと顔を伏せながらも喋り始めた。 「わ、笑わないでね。さっきの戦闘で魔力も体力も使い果たしちゃったみたいで……え、えと、だから、それで、その……足に、足に力が入らなくて……腰が抜けちゃってるみたいなの……」 沈黙。 クロノはあまりの想定外の事態に、フェイトはあまりの羞恥心に、言葉を発せないでいた。 そして、数秒間の沈黙があったかと思うと、クロノがぷるぷると肩を振るわせ出した。 「―――? クロノ、どうしたの?」 首を傾げながら問いかけるフェイトだったが、次の瞬間、 「―――く、くく、あはははははっ!」 我慢しきれないといった表情でクロノが笑い始めてしまった。流石のフェイトもこれには膨れっ面になってしまう。それを見て、さらに笑い始めるクロノだった。 「ク、クロノ酷い! もう、笑わないでって言ったのに」 「いや、悪い悪い。しかし―――、君もやはり九歳の女の子だな」 「……もぅ、、、」 クロノは一頻り笑った後に、苦笑まじりの納得した表情を浮かべた。 珍しく抗議の声を上げようとしたフェイトだったが、子ども扱いされたことが恥ずかしくて、再び俯いて拗ねた表情を浮かべるしかなかった。そんなフェイトを面白可笑しく見ていたクロノだったが、ふと真面目な表情に戻り、 「さて、それでどうする?」 っと、フェイトに問いかけた。 急に聞かれたフェイトは、一瞬何のことだかよく分からなくて、目をぱちくりさせたが、すぐに動けない自分のことのだと理解した。そんなこと決まっていると言わんばかりに話し始める。 「わたしは平気だから。体力が回復するまでここに座っているよ。クロノは先に戻っていて」 「馬鹿なことを言うな。君だって汗をいっぱい掻いているだろう。こんなところにいては風邪を引いてしまう」 「でも、肩を貸してもらったりしても、まず立ち上げれないし……」 あくまでも大丈夫だと言うフェイトと、放っておけるかと否定するクロノ。両者の性格がにじみ出ている会話である。 どうしたものか―――、クロノはそういった表情で頭に手を当てて、数秒考えた末に、 「仕方が無い」 そう言ってから、フェイトの真横まできて膝を折る。 「……? クロノ?」 怪訝な顔で尋ねるフェイトを無視して、クロノはフェイトの膝の裏と、背中に手をかけた。 一呼吸置いて力をいれてから、クロノは腰の高さまで持ち上げる。俗に言うお姫様抱っこだ。 「―――ふぇ!? ク、ク、ク、クロノ!?」 いい加減、先程から赤くなりすぎてフェイトは爆発してしまいそうだった。 今日の自分はおかしい。それは分かっている。分かっているのだが……なにがおかしいのかがいまいち分からない。 ただ、クロノの前にいるときは、自分のペースがうまくつかめない気がした。何故か、緊張してしまうのだ。 そんな中、当の本人は肩をすくめて……実際にはフェイトを抱っこしているので、できないのだがそのような表情で、 「嫌かもしれないが、今は我慢してくれ。他に手がないんだ。苦情は帰ってから聞くよ」 「え、いや、あの、べ、べつに、嫌とか、そうじゃなくてっ! わ、わたし、重くない? それに、いっぱい汗掻いてるしっ!」 「なんだ、そんなことか。僕なら全然気にしていないよ」 「ク、クロノが気にしなくても、わ、わたしは気にするのっ!」 「……? おかしなことをいうな、君は。」 全く、的外れなことを言ってくるのであった。 十一歳の頃から執務官として働いているのは分かる。近くにいた異性がリーゼさん達やエイミィだったということも考慮しよう。だけど……だけど、もう少しくらいは女の子の気持ちを考えてくれてもいいのではないだろうか。 このときフェイトは初めてクロノを罵倒した。 「もぅ……クロノのばかぁ……」 「……?」 ……相変わらず本人はクエスチョンマークだったわけだが。 フェイトは真っ赤な顔をして僅かに涙まで浮かべているが、本当に嫌なわけではなかった。 その証拠に、無意識の内にクロノの肩に手を回していた。実はそのことにすぐに気付き、また暴れだしそうになったフェイトだったが、今度はなんとか思考の暴走だけで落ち着き、結局は手を回したままなのであった。 気恥ずかしい。そんな思いが強い。そうなのだが、どこか暖かいクロノの腕の中でほっとしている自分がいる。 すぐ真上にあるクロノの顔。とても直視などできなかった。十四歳にしては幼い顔つきなのだろう。しかし、その幼さを感じさせない、凛とした表情があった。じろじろ見ては悪いと思いつつも、彼の顔をちらりちらりと盗み見してしまう。目と目が合わないかどきどきしている自分が馬鹿みたいで、それでいて、とても幸せな時間を過ごしていると実感できたことが、うれしくて。もう一回だけと、自分に言い聞かせ、真っ赤なままの顔を傾け、フェイトは腕の中からクロノを見上げる。 (うぅ……ほんとに、わたしどうしちゃったんだろう。どきどきが止まらないよぉ) 腕の中で悶えているフェイトに全く気がつかないまま、クロノは抱き上げた妹を落とさないように、ホールをゆっくりと歩いてゆく。その姿は、仲睦まじい兄妹のようでもあり、はたまた騎士と姫君のようでもあった。 ―――あとがき――― 初めまして、初投稿で怯えまくっている三葉です。とりあえず、ここまで読んでくださった方々とJ.G.J.さんに感謝を。 私のことなんかはどうでもいいので、作品解説などを。 このSSは魔法少女リリカルなのはA'sのアフターストーリーとなります。 基本的に一話完結の短編ばかり書いていこうと思いますが、長くなってしまう作品はニ〜三話で完結になるかと思います。 既に今回の作品が朝・昼・夜の三話構成になってしまいました_| ̄|○lll 本当は、朝・昼・夜を一纏めに3:5:2くらいの割合で書こうとしてたんですが、私のあまりの文章力の低さに三部構成に。 あとは、密かに短編の日数と現実世界の日数はそろえていこうと思います。 今回のお話は現実世界の一月九日。丁度、小学校や中学校が始まる前の日でしょうか。 人間関係ですが、フェイト→クロノ←はやて なのは←ユーノ でいこうかと。はやては当分出てきそうにないんですけどね(笑 あまり、どろどろした恋愛事情は苦手ですので、コメディータッチで書いていけたらいいなぁと思います。 さて、長々とあとがきを書いてしまいました。 昼編ですが、構成は大体纏まっているので近いうちに投稿できそうです。それでは、昼編でお会いしましょう。 参考文献:nanohawiki 公式ページなど。 追記:ハーケンセイバーって爆発するんでしょうか?(ぁ アークセイバーは爆発するところが小説とかでもあるんですけど、ハーケンセイバーってシグナム戦で一回使ったきりなんですよね。しかも、避けられてますし。とりあえず、爆発させてみましたが、もしかしたら爆発しない魔法なのかもしれません(笑 |