間章 ――察知――

 十一月某日

 電車を乗り継ぎ、半日以上の時間をかけて彼女――川澄 舞はこの海鳴のとある町へとやってきた。
 久瀬に聞いたのは海鳴という場所に、襲撃者がいるということだけ。
 しかし実際には海鳴は市であり、しらみつぶしに探すには無理がある。
 それでも舞は、この場所に来た。ここに彼女達がいる事を分かっているように。


 ここについた初日は仮初の宿の確保、周りの簡単な地理の把握を行っていた。
 しかし、舞には相手が動き出す前にやるべきことがある。
 時刻は午後七時。あたりは既に暗くなり、街には明かりが灯りだす。
 そんな中、舞はある場所を目指して歩いていく。
 そこは街全体を一望できる桜台と呼ばれる場所。
 結構な高さがあり、運動不足な現代人がのぼるにはすこし堪える道のりを、舞は平然とのぼる。
 目的地にはベンチがあり、その近くに街灯が立っている。

 舞は広くなっている場所のほぼ中心、身体を街のほうへむけ背負っていた竹刀袋から己の愛剣をとりだす。
 親友の佐祐理から危ないからと渡された鞘から剣を抜き、眼前に掲げ、目を瞑る。


「……祐一」


 つぶやく言葉は彼女の最愛の人物の名前。
 愛するが故に故郷の街へと置いてきてしまった人。
 これからすることは彼を守るため、彼に矛先が向かぬために――自分を無謀にさらす行為。


「はぁぁぁ……」


 己の中にある力、それを呼び起こす。
 形はイメージせず、ただ純粋に力を高めていく。
 今まで風がなかった高台に、僅かな風が起こる。
 それはこの場所の均衡が保てなくなっている証拠。
 高まる力、それから逃げるように風はふき、木々は揺れる。


 そして、舞は閉じていた目を開き


 ――同時に溜めた力を解放した。




◇    ◇    ◇    ◇



 海鳴市中丘町、八神家リビング


『――ッ!?』


 夕食をすませ、それぞれの時間をすごしていた守護騎士達。
 その全員が放出された膨大な魔力に気付き、一様に顔を強張らせる。


「どないしたん、みんな?」

「あ、いえ。なんでもありません。ご心配なく、主」


 問いかけたのはこの家の主であり、守護騎士達のマスターである八神はやて。

 答えたのは彼女を守護するものの長、シグナムだった。

 現在彼女はソファーに座り、はやては蒼色の狼の姿をしているザフィーラに寄りかかりながらテレビを見ていた。

 その近くには紅い髪を二つに結っている見た目ははやてとそんなに変わらない少女、ヴィータが未だに険しい顔をしている。


「なんでもないって……ならヴィータはなんでそない顔してるん?」

「べつに……なんでもない」

「あ、あの。ヴィータちゃんはきっとお腹がいたくなったんですよ」


 洗い物を片付けていた金色の髪の女性、シャマルはすこしずれたフォローをしながらリビングへと戻ってくる。

 彼女達、正確には彼女達と彼は、先ほど察知した魔力がただ事でないことを理解していた。


「主はやて、そろそろお風呂に入る時間です。あまりテレビばかり見ているのはよくありませんよ」

「もうそない時間かー。そんならみんなでお風呂はいろか?」

「いえ、私はこのあとすこし鍛錬をしようと思いますので……。シャマル、主をたのむぞ」

「わかったわ。それじゃはやてちゃん、お風呂いきましょうか」

「ヴィータはどする?」

「後ではいる」


 ヴィータは普段、ここまで無口な子ではない。
 人にはあまりなつかない性格では在るが、はやてとはとても仲のよい姉妹のように一緒にいる。

 普段とは違うヴィータの様子にすこし心配になるはやてであるが、どうしたと声をかける前にシャマルによって抱きかかえられタイミングを逃してしまう。


「ほな先に入ってるな」


 そう言い、はやてとシャマルはリビングを出て脱衣所へとむかった。
 リビングに残ったのはシグナム、ヴィータ、ザフィーラの三人。

 はやてに風呂に入ってもらったのはこれから話す内容が聞かれたくないから。

 主を邪魔者扱いした事にすこしの罪悪感、しかし今しがた起こったことは直ぐに話し合わなければならない。
 一番初めに口を開いたのは今まで一言も発していなかったザフィーラだった。


「シグナム、これが以前言っていた者の魔力か?」

「ああ、間違いない」

「いい度胸じゃねーか。なんの意味があるかわかんねーけど、これだけの魔力ならかなりのページが稼げるはずだぜ」

「確かに、大した魔力だが……その者はここからかなり離れた所にいたはずではないのか?」


 シグナムが舞のいた町へ行ったのは三日前、ここ海鳴市からは電車を乗り継いで半日以上はかかる場所にある。
 この時シグナムは魔力を蒐集せず戻ってきた。
 普段なら多少の危険があろうがいくつもの戦場を駆けてきた彼女が引いたのである。


「ああ、あの時は離れた場所で蒐集しようとしたからな。そこで川澄とあった」

「そうか……。確かに”奴ら”と似た魔力ではあるな」

「似てるって言っても全然よわっちぃじゃん。あいつらの魔力はもっと馬鹿でかかったぞ」

「まだ覚醒していないのかもしれん。それに”奴ら”……【 繋 ぐ 者 ワールドエラー】とも決まったわけでもない」


 再び沈黙が場を支配する。


「……それで、どうするんだよ? 今すぐ川澄とか言う奴の魔力を蒐集しにいくのか?」

「いや、やめたほうが良いだろう。此処にきたと言う事は我々の居場所がある程度わかっているはず……罠かもしれん」

「罠だろうがなんだろうが、あたしらヴォルケンリッターには関係ないだろ」

「おちつけ、ヴィータ。シグナムが撤退した理由を思い出せ」

「理由って……へんなデバイスもった魔導師のことかよ?」


 変なデバイスをもった魔導師というのは、シグナムと舞の戦闘に介入した久瀬のことである。


「アレは……我らが一度、ベルカ戦争時代に召還された時に見たことがある物だ」

「まさか、”術者喰らい”……か?」

「……いや、そうではない。あれはおそらく、もう片方だろう」

「片方? ……あぁ、あの血みてぇな赤い方じゃなくて、蒼いほうだっけか」

「ああ…あの不自然な魔力は間違いないだろう。ただ、それなりに改良は加えてあるようだ」

「あんなポンコツ、いくら改良くわえたって敵じゃねーだろ」

「……しかし”奴ら”と近い力を持つ者が一緒にいると厄介だな。わざわざ場所を教えるような真似をしている以上、何かしらの策があるのかもしれん」

「ちっ……で、結局どうするんだよ、リーダー?」

「……しばらく様子をみる。だが、蒐集はいつもどおり行おう。その時に接触したなら……全力を持ってその魔力をもらう」


 話は終わり、シグナムはソファーから立ち上がる。

 そして魔力が感じられた方角を見てつぶやく。


「決着は必ずつけよう、川澄…舞」





 〜あとがき〜

 今回は短いですが、ヴォルケンリッターの皆様が主体のお話。
 しかし、シャマルさんははやてと一緒にお風呂ですけどね。
 まぁ実際は二幕の時にシグナムが撤退したわけ、ですけどね。
 【繋ぐ者】と久瀬のデバイスはオリジナル設定です。

 時期は祐一が海鳴へ向かった日、舞が消えてから一日後って感じです。

 それでは遥か彼方でしたー。

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