第二幕   ――介入――




 ――数時間前


「あれ? 舞、今から出かけるの?」


 竹刀袋を肩にさげ、玄関を出るところで佐祐理に声をかけられた。そういえば、久しぶりに祐一の訓練をすることを言ってなかった気がする。


「祐一の訓練、最近時間が取れなかったから」

「確かに最近は大学の用事でいそがしかったかな。……祐一さんとの訓練はひさしぶりだね」


 言葉の最後、佐祐理はその表情を変えた。

 それは――笑み

 これはからかおうとしている顔だ。


「舞〜、やっぱりうれしそうだね?」

「…………祐一との訓練、嫌いじゃないから」


 ここで誤魔化しても佐祐理にはわかってしまうし、からかわれる。最近はそれを楽しんでる気がする、それなら正直に言ったほうがいい。


「あはは〜、舞ってば素直になったね。もう祐一さんとは恋人同士だからかな〜」

「――っっ!?」

「いたっ、いたっ、そんな照れなくてもいいのに〜」


 チョップの届かない距離まで逃げた佐祐理はまだ笑顔だった。最近、佐祐理が祐一に似てきてる様な気がする……というか結局からかわれた。確かに、祐一は私のこ、恋人だけど……改めて言われるとやっぱり恥ずかしい。


「ほら、舞。そろそろ行かないと祐一さん待たしちゃうよ?」

「……わかった」


 このままやってもどうせ佐祐理には勝てない。ならすぐにこの場所から離れたほうがいい、祐一も待たせるわけにはいかないし。


「あまり遅くならないうちに帰ってくるようにね。舞は女の子なんだから、この前みたいに変なことに首をつっこんじゃだめだよ?」

「……はちみつくまさん。それじゃいってくる」

「いってらっしゃ〜い」


 佐祐理の見送りを受け玄関をでる。……なんだか疲れた、次からは見つからないように出かけるようにしよう。


 佐祐理と住んでるアパートをでて数分、私はいつもの訓練場に向かうため繁華街を通っていた。今から向かう「ものみの丘」はこの時期好き好んで人がくることがないので人目につかず訓練するには最適。もう十一月、日が落ちるもの早くあたりは既に店や街灯の光があふれていた。

 繁華街をぬけ、しばらく歩く。

 歩道からはずれ舗装されていない道をすすむと、小高い丘にでた。
 まだ祐一は着ていなかった。時間は九時少し前……ちゃんと時間前にはこれたことに少し安心する。

 十一月の冷たい風が頬をなでる。その冷たさにふと、あの冬の出来事を思い出した。

 あの冬……祐一との出会い、魔物との戦い、佐祐理の怪我。そして、私の怪我――明らかに致命傷だったはずのそれ、だけど私は一命を取り留めた。


「あれからもう九ヶ月……なんだね」


 私達は大学に進学、祐一は高校三年生になった。私達は高校のときから二人で一緒に暮らすことを約束していた。昼ごはんの時、祐一も誘ったけど顔を真っ赤にし、ものすごい勢いで断られた。

 そんなに一緒に暮らすのがイヤだったのかを聞いたら


『いやじゃない! 勿論いやな訳ないだろう!? 寧ろうれしいく、らい……だ。あの〜ナユキサン? その手に持っているビンは…………』

『ふふふっ、祐一。舞さんとの仲は認めるけど……あまりオイタはダメだよ?』


 その後の事はあまり思い出したくはない。あのビンの中身だけは絶対に……。

 そして何事もない日常、その中にひとつの変化があった。

 それは、奇跡的に一命を取り留めた私に宿った力。いや、それは違う。宿ったのじゃなくて戻った力。魔物を具現化させていた力を受け入れいれ、普通の人とは違う「能力」を扱えるようになったいた。
 その「能力」は漫画やゲームに出てくるようなもの。腕に集中すれば重いものも簡単に持ち上げられ、走ることに集中すれば車さえ簡単に追い越してしまう。剣に集中すれば強度は増し、幽霊でも切れそうな感じだった。

 そして、あのときの魔物の様に具現化する事もできる。

 そういった「能力」の中で、さらに特異なもの――それは力そのものを何かの現象にすること。
 「破壊」や「刃」、そして――


『♪〜♪♪〜〜♪〜』


 そこまで考えていると着信を知らせる音楽がなった。この音楽は祐一。


「……もしも」
「すまん! 舞!?」


 こっちが言い終わる前にいきなり謝られた。結構大きな声だったのでスピーカーから耳を離し、時間を確認してみた。九時半……結構時間が経っていたことに驚いた。


「どうしたの、祐一?」

「いや、すぐに連絡しようとしんだがこっちもすこし修羅場でな。……今日訓練にはいけそうもないんだ」

「……どうして?」

「それがな、明日数学の抜き打ちテストがあるらしいんだよ。担当が菊池だから結構難しいらしくて、今は名雪と勉強中なんだけど」

「……祐一、なんで抜き打ちなのに知ってるの?」

「ん? ああ、それは斉藤のやつが教えてくれたんだ。あいつは情報屋みたいな事をやっててな、こーゆーネタは詳しいんだ」

「………そう」

「それでだ、菊池は抜き打ちでも赤点だった場合、問答無用で補講だからな。結構切羽詰ってるんだ」

「…………うん」

「という訳で、今日の訓練はいけそうもないんだ。本当にすまない、舞」

「………………そう、わかった」

「わかってくれたか! ありがとう舞!」

「……最近、近所にまたうるさいのが戻ってきたからちょうどいい」

「はいっ? ま、まいさん? それはいったいどーゆーいみでしょうか?」

「訓練を休むと取り戻すのに時間がかかる。……だから特訓する」

「っっ!? ちょっ、舞! とと特訓って、またアレをやれというのか!?」

「……はちみつくまさん。大丈夫、前回もちゃんと乗り越えられたから」

「いやっ、そういう問題ではなくてですね!? 舞さん! ま〜い! 聞いてるのか〜!?」

「……私は祐一を鍛える者だから」

「違う、それ違う!? いや、違わなくないけどやっぱりちが」


 そこまで聞いて私は問答無用に電話を切った。おそらくもう一度かかってくるだろうから電源も落としておく。

 フフフフフ……次の特訓が楽しみ。そう、これは祐一のため、決して約束を破られた仕返しじゃない。


「……ここにいてもしょうがない」


 正気を取り戻し、私はそうつぶやいて来た道を引き返した。

 街は明るさを少し失っていても、輝いていた。






 丘を降り、繁華街に差し掛かったところで妙な感覚がした。

 なにか嫌な感じがする。
 ここにいてはいけない――そんな警告が私の頭の中に響く。すぐに周りを確認しても特に異常は見当たらなかった。

 そして、前方の空を見たときそれを見た。


「アレは……なに?」


 それは、闇に溶けそうな色をしたドームのようなものだった。次第にその大きさを拡大し、街を飲み込んでいく。

 そして目前に壁のようなものが高速で迫り、私を通り過ぎていった。


「……っ!? 人が……消えた?」


 周りを見回すとさっきまで人がいたところにだれもいなくなっていた。異常なのはどうみてもあきらか。

 しばらくその場で身構えていたが、特に何もなく時間が過ぎていった。
 とりあえず、祐一達に連絡したほうがいいかな……。そう思い、携帯を取り出し電源をいれた。しかし


「……圏外」


 いつまで経ってもアンテナは立たず圏外の文字を映し出していた。やっぱりここは異常な空間なんだ。

 その場にいてもしょうがない、私は周りを探索することにした。

 しばらく探索を続けていると、この周辺一体の人がいなくなっていることがわかった。でも電気は通っているのか、街灯やビルの電気はきえてはいない。もう少しあたりを探してみよう。

 そう思い、歩き出そうとした瞬間――



「お前か、魔力反応の持ち主は」



 その声は上から、見上げると妙な格好をした女の人が浮いていた。


「見たところ普通の者のようだが、確かに高い魔力をもっているな」


 長い髪をポニーテールにし、あまり見られない格好をしたその人は手に一振りの剣をもっていた。
 それは偽者じゃなく本物の刃……その雰囲気は明らかに友好的とはいえない。


「……私は普通の人間、魔力なんてもってない」

「そうか……だが、本人が自覚していないとしてもその巨大な魔力は確かにある。それを蒐集させてもらう」

「ないものは渡せない」


 私は竹刀袋から愛用の剣を取り出し、構える。相手は多分……強い。


「ほう、お前も剣を扱うのか?」

「……淑女の嗜み」

「ふっ、面白い奴だ」


 思考を戦闘に集中させ、能力を発揮する。
 それに相手は眼を細め、剣を片手で構えた。


「まったく自覚していない……というわけではなさそうだな」


 もう戦いを回避するのは無理。できれば戦いたくないけど……相手は空を飛べる、多分逃げられない。


「お前に恨みはないが、我が主のため。……ゆくぞっ!」

「……ふっ!」


 戦闘が――始まる



◇    ◇    ◇    ◇





 ビルとビルの間を跳びながら空を飛ぶシグナムと切り結ぶ。
 だけど、まともな足場でない分どうしても決め手にかけこちらが不利になる。

 そして幾度目かの接触――


「はぁっ!」


 上段からの斬撃、空中を自由に飛べない私には精一杯の攻撃。
 だけど、それを今度は避けるシグナム。

 そして――


「叩っ斬れ!」


 炎をまとった斬撃、剣をあわすけど今度は防ぎきれず吹き飛ばされる。

 そのままビルに衝突し、今度は私が突き抜けることになった。


「ぐっ……ゲホッ」


 道路の上に叩きつけられ、小さなクレーターを作り出した。

 ……呼吸がうまくできない。すぐに起き上がるけど足に力が入らない。まずい……今のはまともにくらっちゃった。


「それ以上抵抗をするな、命までとるわけではない」


 いまだダメージが抜け切らない私の前方にシグナムが降りてきた。


「……まだ、やれる」


 正直体力のほうは限界に近い。
 けど、まだ手はのこっている。あきらめるわけにはいかない。


 能力の連続行使、あまり使いたくないけど……やるしかない。


「……切り裂け、無限の刃」

 思い描くのは、相手を取り囲む無数の斬撃

 ――能力行使 [死角無き刃]――


「またその力かっ!!」

『Schlangeform』


 剣がいくつもの節にわかれ、全方位から襲ってくる不可視の刃を迎撃していく。

 せめぎ合う刃と連結刃、シグナムが数十の刃を弾いたとき私は次の行動をとる。


「風の様に、速く」

 思い描くのは、風となる自分

 ――能力行使 [疾風]――


 先ほどよりも軽い踏み込み、しかしその速度は比べるまでも無く速い。

 未だに[死角無き刃]を迎撃していたシグナムの懐に一息の間に入り込む。


「なっ!?」


 シグナムの表情が強張る。いきなり目の前に現れたのだからそれは当然の反応。

 そして現れる隙――

 共に剣を振れる間合いではなく、私は拳に力を集中し


「吹き飛べ」

 思い描くのは、触れたものを破壊する拳

――能力行使 [突き抜ける衝撃]――


「がぁ!」


 攻撃が命中し後方へ吹っ飛んでいくシグナム

 さすがにこれ以上の連続行使はできない。


「はぁ…はぁ…」


 追撃をあきらめ、剣をつき立てその場にしゃがみ込む。やっぱりキツイ……


「やはり強いな……今のは危なかった」

『Schwertform』


 いくつもの節に分かれた剣が元の片刃の剣にもどり、シグナムは構える。


「……まだ、立てるの?」


 さっきのは、至近でしか使えない分かなりの威力があるはずなのに……

 でも、よく見れば額に汗をかき少なからず焦っているような感じがする。全く効いてなかったわけじゃない、ダメージはちゃんと通ってる。


「これ以上長引かせるわけにはいかぬ、次で終わらせてもらおう」

「……たいした自信、なら私も次で終わらせる」


 やせ我慢で言ってみたものの正直まずい。
 まだ反動でまともに動けない、もう少し時間を取れれば……


「はぁぁ!」

「くっ!?」


 迎撃するために剣を構え、シグナムを見る――その時


『Dimension Bombardment』


 真横から衝撃が襲ってきた。


「なにっ!」

「……っ!」


 動揺は二人から、おそらく乱入者の攻撃だったものは私とシグナムの中間に炸裂し道路を穿った。


「何者だ!?」


 シグナムが周囲を警戒する。
 私は警戒すると共に体力の回復に努める。

 その時、煙の向こうから声がした


「名を教えるほど貴様と馴れ合うつもりはない」


 煙が晴れ、その中を歩いてきた人は私が知っていたやつだった。


「…………久瀬」


 その名前を忌々しくつぶやく。なんであいつがここにいる?


「貴様が言ってどうする、川澄。それにそれが恩人に向ける目か?」


 私が向ける敵意にも、まったくの動揺を表さず人の神経を逆なでするような表情をした。


「助けられた覚えはない。どこかへ消えろ」


 不機嫌を隠さず言い放つ。

 それに一番最初に反応したのはシグナムだった。


「お前らは仲間ではないのか?」


 その言葉は一番言われたくないもの。


「ぽんぽこたぬきさん、そんな事ありえない」
「こんな野蛮人と仲間などと吐き気がするよ」


 同時に言い放ち、視線をぶつけ合う。
 シグナムより先にこいつを倒そうかなと本気で思った。

 だけど、それよりもさっきの攻撃がきになる。それに、その姿はいつもの学生服ともちがい、そして私服とも言い難い格好だった。手に黒色の杖を持ち、シグナムとは違うけど妙な服装。その杖は先の部分に蒼いキューブがあり、その周りを柄についている輪とそれに垂直に交わる輪で囲まれていた。


「お前は魔導師か」


 今の攻撃はどう見ても普通の人間ができるものじゃない。
 あれが魔法?


「確かに俺は魔導師だが、戦闘向きではないさ」

「戦闘に向かない者が、今の攻撃を放ったというのか」

「そうなるな。それがどうかしたか?」


 さっきの、おそらく魔法は十分に威力のあるものだった。
 それをつかって戦闘向きじゃないなんてどう見ても嘘だ。


「だが、ちょうどいい。テストに付き合ってもらうぞ」


 そういい、久瀬は手に持った杖を構え


「α-V、すこし遊ぶぞ。スフィアを多重展開」

『Dimension Sphere, Multi-Deployment Shift』


 蒼いキューブから声がして、久瀬の周囲に小さな歪みが発生し始めた。その数は増え続け、わかる範囲ではすでに八十はあった。


「それほどの魔力球、制御できるというのか……」

「特に制御する必要などない、ただ自分に当たらなければいいのだからなっ」

『Charge』


 その瞬間、それは周囲に向けて放たれ――私にも向かってきた。


「久瀬、貴様!?」

「それくらい防げ、阿呆が」


 向かってくる歪みはおそらく七、

 さっきよりは体力も回復し、身体も動く。

 それを私は剣に力を集中、最初のひとつを斬り、二つ目と三つ目を姿勢を低くすることでかわした。四つ目と五つ目、少し遅れて六つ目が迫ってきている。横薙ぎに二つ同時に斬り、返す刃でもうひとつを切り伏せる。

 残りのひとつは拳に力を集中し、殴り返した。


「ちっ、障壁」

『Round Shield』


 久瀬はそれを魔方陣のようなもので防御した。本当に制御していなかったみたい。

 シグナムのほうを見るとさっきみたいに淡い陽炎のようなものを身にまとっていた。おそらくアレで防いだんだろう。

「見た目だけか……まるで威力はないな。それでは私に傷ひとつ付けられん!」


 久瀬との間合いを一瞬で詰めたシグナムはその剣をふりおろす


「言っただろう――――これは遊びだよ」


 その軌跡は確実に久瀬を切り裂いていた。
 しかし斬られた本人は全く動じず、斬ったシグナムが困惑の表情を浮かべる。


『Virtual Collapse』


 声と共に、久瀬の姿をしていたものは光になり――爆発


「なっ!?」


 私はその光景にすくなからず動揺した。知っている人が斬られその瞬間爆発……普通だったらトラウマになりそうな場面だと思う。
 
 煙により二人の姿が見えなかったが、すぐにシグナムはその中から出てきた。それほど大きな爆発ではなかったけど、それを至近距離から受けたはずなのに特に目立った外傷はないみたい。


「……久瀬は?」


 まだに煙は晴れていなかったが、久瀬はそこから出てくる気配はしな――――


「どこを見ている、川澄」

「――っ!?」


 その声は後ろから。私はつい反射的に斬りつけてしまった。


『Army Protection』


 さっきとは違う障壁のようなものが発生し、あまり力を込めていなかった剣は弾かれた。


「……いきなり切りかかるとは、やはり貴様は野蛮人だな」

「…………」


 とりあえず睨んでおき、シグナムのほうへと視線を戻す。


「虚像の遠隔操作か……小ざかしい真似を」

「まんまとだまされた奴が文句をいうな、底がしれるぞ?」


 自分の攻撃にまったくの効果がないにもかかわらず相変わらず不敵にわらっている。やっぱりむかつく。


「雑魚ではないようだが、ベルカの騎士に挑むにはまだまだ弱いな」

「別に貴様と正面から戦う必要などない。じきに局員達がここにおしよせてくるのでね」

「応援だと……お前は管理局の人間か?」

「俺自身は管理局とは関係ない。ただ、多少のつながりがある程度だ」


 私を完全に置き去りにして二人はどんどん話を進めていく。
 どうやら久瀬が管理局というところに応援をよんだらしいけど……


「……逃げるつもり?」

「あまり騒ぎを大きくするわけにはいかないのでな」


 シグナムは足元に三角形のような魔方陣を出現させ、こちらを見た。


「川澄、決着はいずれつけよう。次に会うときにその魔力、蒐集させてもらう」


 そう言い、シグナムは夜の空へ飛び去っていった。





 しばらくして辺りを覆っていた異常な空間もなくなり、街の喧騒がすくなからず聞こえてきた。

 時間は十一時四十分……辺りを見ても人影はいなかった。


「ふん、去ったか」


 そしてこの場に私と久瀬が残される。……こいつ自身が一体何を目的に来たのかわからない。

 
「いつまでそうしている……別に貴様と戦うつもりはない」


 そのまま警戒を解かずにいると、久瀬はこちらを向きそういった。


「……さっき攻撃してきたくせに」

「あの程度の攻撃でグダグダ言うな。あれは当たったとしてもたいしたダメージにならん」

「……どういうこと?」


 確かに斬った時あまり手ごたえもなかった。だから最後の歪みだけ殴り返した。


「貴様に言う必要がどこにある?」


…………やっぱりここで痛めつけようと心に決めた。


「いちいち血の気の多いやつだな。だから貴様は野蛮人なんだ」

「遺言はそれだけ?」


 死なない程度に力を剣に込め、切りかかる姿勢をとる。


「そうだな、等価交換だ」

「……いきなり、なに?」

「貴様の知りたいことを教える、その代わり暴れるな野蛮人。すでに結界はない、騒ぎを起こせば面倒なことになる」


 確かにさっきまで人のいなかった空間はなくなってる。今は人がいないけど戦えば騒ぎになる。


「別に知りたいことなんてない」

「さっきの襲撃者の事、といってもか?」


 襲撃者……シグナムの事、確かに知りたいと思う。
 
 私は構えをとき、話を聞くことにした。


「……教えて」


 剣を竹刀袋にいれ視線を戻すと、久瀬はいつの間にか普通の服にもどっていた。


「あまり詳しいことはわかっていないがな。奴――正確には奴らだが、最近魔導師を襲っている」

「……私は魔導師なんて知らない」

「そんなことはわかっている。いちいち口を挟むな阿呆が」


 ……………………………我慢、我慢するの、舞。シグナムのことを知るため。


「奴らは正確に言うと魔力を持つものを襲っている。……貴様も持っているだろう、魔力を」


 確かに私は普通じゃない能力を持っている。
 もしかしてこの源が魔力?


「実際、貴様のその力は魔力の塊のようなもの。奴らにとってはかっこうの獲物だったわけだ」

「……そう」


 この力が魔力……ということは私は魔法使い?


「何を考えているか知らんが、貴様は魔導師ではない。使っているのは魔法ですらない」

「それじゃ、なに?」

「そんなこと知るか阿呆」


 頑張ったよね私、もう我慢する必要ないよね?


「だが、その性能はたいしたものだ」


 …………珍しい、いや久瀬が人をほめるなんてはじめてみた。微妙にうれしくないけど。


「しかし、奴らには勝てん」

「……そんなことは、ない」

「本気でそう思っているのか? そうだとしたら滑稽なものだな」

「……」

「貴様だってわかっているはずだ。奴はまだ本気を出していない」

 確かにシグナムはまだ本気じゃなかったかもしれない。私をなるべく傷つけないような戦い方だった。

 それはまるで、生け捕りにする獲物が傷つかないように……


 その後の話はよくわからないものだった。
 管理局がどうたら、資質がなんたら、小学生の魔導師がどうのこうの、といろいろ愚痴っぽいのを聞かされた。


「ふむ、とりあえずこんなところか……」

「……はちみつくまさん、ならもう用はない」


 途中から明らかにシグナムに関係のない情報だった気がするけど、いちいち指摘するのもめんどくさい。

 これ以上こいつといても気分がわるくなるだけ。佐祐理も心配してるし、早く帰ろう。



「最後にひとつ」



 背を向け、帰ろうとした私に久瀬はそう声をかけた。
 一体いまさら何を言うつもりなのか?


「さっきも言ったが奴らは魔力をもとめて獲物を探している。それは貴様だけではない、その意味がわかるだろう?」

「…………言ってる意味がわからない」

「最近、なぜだか奴にも魔力が宿っている。それも強大なものが、な」

「……わからないと言ってる」

「今回は運良くお前にだけ来たが、次もそうとは限らん。もしかしたら次はあい」

「黙れっ!!」


 振り返り久瀬をにらむ。
 それは、違う。
 認めたら、そのことを認めてしまったら巻き込むことになる……一緒にいられなくなる。


「……ふん、認めたくないか。だがこれは事実だ。奴らがお前を目的にして来た時、奴も――相沢も標的にされるだろう」

「……っ!」

「貴様がいる限り、奴も危険にさらされるというわけだ。とんだ疫病神だな、川澄」

「黙れと……言っている!!?」


 一足で間合いを詰め、力を込めた拳を突き出す――それは予想してた様な動きで横に避け、久瀬は私との間合いをとった。


「いくら否定してところで事実は変わらん。それを変えたいというなら……海鳴へいけ」

「な……に?」

「奴らのパターンはそこに集中している。相沢を巻き込みたくないなら海鳴で決着をつければいい」

「……なぜ、それを教える?」


 私は久瀬を再度にらんだ。


「特に意味はない。強いて言えば……なんとなくだ」


 そう言い放ち、久瀬は夜の闇に溶けるように去って行った。



 久瀬が去り、辺りに誰もいなくなった。
 そのまましばらく言われた言葉の意味を考える。


「……このままじゃ、いけないのかな?」


 つぶやいたその言葉は、誰も聞くことなく消えたいった。

 私はしばらくした後、その足を佐祐理のまつアパートへと向けていた。




◇    ◇    ◇    ◇




「ふむ、久瀬が動いたか……」


 舞と久瀬がいた場所の近く、路地裏からその人影は現れた。


「そうなるとあいつ等も本格的に動き出すな」

 誰に言うわけでもなく、独り言を繰り返す人影は次の瞬間その場から消失――否、消えたのではなく、高速で飛び上がり空中に静止していた。


「このまま行けば川澄は海鳴に向かうだろうなぁ……。相沢の防人がいなくなるが、さてどうしたものか」


 月光に照らされたその姿は男、まだ少年の面影をいくらか残していた。しかしため息をこぼすその雰囲気は、とても少年とは良いがたいものだった。


「俺が直接介入するとややこしくなるし……ダメもとで【氷姫】にたのんでみるか」


 そう結論をだした男は舞が去ったほうを少し見て、すぐ視線を戻し灯りが少なくなった街の上を飛び去っていった。




あとがき

 どうも、遥か彼方です。今回は一幕の前の出来事、そして戦いの終わりでした。

 久瀬君の初登場、そしてしばらく出番らしい出番はありません。とりあえずこの人の言う事の半分以上はハッタリで出来ています。実は応援もハッタリです。

 前回も言ったとおり、断っておくことがあります。それはこの物語は基本的には舞ルートの後なので祐一と舞が恋人同士ということです。故に祐一がリリカルなのはのキャラたちとくっつくということは……多分ないです。あくまで多分、あやふやな言い方は美徳です(マテ

 まぁ、祐一君とくっつけるというか、舞のライバルとして参戦する可能性のあるキャラがちらほらといるのです……そこら辺は皆様の意見などを聞いて最終的な判断をしたいなと思ってます。

 それでは、遥か彼方でした。

 P.S 戦闘シーン少し飛ばし過ぎたかなぁと思ってます。加減が今一わからないです。

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