俺 相沢祐一と従兄弟の朝倉純一との関係は昔からあまり良くない。
俺も昔は何度か此処 初音島に来たことがあるが出会う度によくケンカした。
純一はあの人 俺達の祖母に似て何処か面倒くさがる癖がありその尻拭いをいつも俺がやっていた。
それに手から和菓子を出す魔法。あいつはそれが出来たのにどうしてなのか俺にはそれが出来なかった。一緒にあの人から教わったにも関わらずにでもある。
そんなことから俺はあいつのことが嫌いだったし嫉妬していた。
そして、多分あいつも俺のことが嫌いだろう。両親から常に俺と比較されていたから。
『何でアンタはこんな問題も解けないの。祐一君なら簡単に解ける問題なのに』
『何でこんな順位なの。祐一君ならもっと上の順位を取れるのに』
こんな感じの説教じみた声が朝倉家からよく聞こえた。勿論だが、こんなことを言うのは純一の母親しかいない。
こういうこともあってか中学に入ってからは初音島には行かなくなった。親父が行くのを禁じたというのもあるが。
そして、あの国立大の試験終了後にインターネットを利用して純一のことを調べることにした。
理由は一つ。昔よくケンカした従兄弟だからと言ってもあの北の街を出る以上は朝倉家に居候する可能性だってある。だから、どういう過去があるにせよ純一と上手く付き合う必要があると思いあいつについて調べることにしたのだ。
その前にさくらに電話して聞こうとしたが『知りたいことは自分で調べなよ。ボクをあてにしないで』と言われて切られた。
さくららしい返答だった為に言われても全然驚きもしなかったが。
と言う事でインターネットで調べることにしたが、色々なことを知ってしまった。ことりが純一のことが好きだったことや音夢がいない間の二人の関係を。
「純一……お前何やってんだよ。ことりのことを考えずに音夢と寄りを戻すなんて」
それが純一とことりの関係についての俺の感想だった。
そして、今日のこの日……純一にどうして音夢を選んだのか、そして今ことりをどう思っているのかを聞きたかったので桜公園に呼び出した。
二人のカンケイ
呼び出しから15分後……目的である朝倉純一がやって来る。
「ああ、祐一久しぶり。突然、話って何だよ?これから音夢とデートがあるから手短にして欲しいんだが」
純一はいきなり呼び出されたせいかブスッとした顔で言う。その純一の言葉に祐一は周囲を見回し誰もいないことを確認してから言う。
「ああ、久しぶりだな純一。単刀直入に聞くけど純一、お前はことり……白河ことりのことをどう思ってるんだ?」
「えっ?どうしてお前がことりのことを……。」
純一は祐一がことりのことを知っていることに驚きを隠せない。そして、そんな純一に祐一も……
(コイツ、俺がことりと出会ったことを知らなかったのか?てっきりさくらが話してたと思ってたのに)
そう考えて次に言うべきことを決定する。
「12月の予備校の合宿で出会ってそこから友達になっただけだ。まあ、お前との関係は俺がネット等で調べただけで彼女からは一切聞いていない」
まずは自分とことりとの関係について説明する。しかし、ことりと付き合ってるとはあえて言わなかった。そして……
「もう一度聞くがお前はことりのことをどう思ってるんだ?」
確認の為に同じ質問を再びする。
「ああ、ことりか…。あんな可愛い学園のアイドルが二年間も俺の家に居たなんて夢みたいだったな。最近はお互いに受験とか色々あったせいかあんまり声もかけてくれなくなったけど、音夢がいない間色々助かったし。まあ、俺には高嶺の花……。」
純一のその言葉に祐一は溜め息をつく。
「……そうか。それがお前の答えか。だとしたら、お前最低のクズだな」
「……何!?どういうことだよそれ?」
純一は祐一の言葉に怒りを隠さずに言う。しかし……
「だってそうだろ。どう言い繕ったとしても最終的にはことりを捨てたんだからな」
祐一は見下すように言う。そして……
ガッ!!
「……突然何言ってんだ、お前。ぶん殴られたいのか」
純一が祐一の胸倉を掴んで言う。
「何度だって言ってやるよこのクズが!!何で、ことりを二年間も散々弄んで捨てた?音夢が帰って来たらもうことりは用無しか?」
祐一はそう言って言い返す。そして……
「ことりが可哀想だよ……。お前みたいな薄情なクズを好きになって……二年間も利用された挙句に最後には裏切られて……。」
トドメの一言を言う。その時だった。
「言うなぁぁぁぁぁぁっ!!」
バキッ!!
純一のパンチが祐一の頬に当たる。祐一自身、この展開は予想出来ていたし先程のパンチも避けようと思えば避けれたし止めようと思えば止めれた。だが、あえてそれをしなかった。
「効かないな。お前みたいな最低野郎のパンチなんか……。」
祐一は殴り返さずに侮蔑を込めて言う。
「うるさい!!お前に……その時にその場にいなかったお前に何が分かる!!この頭でっかちの童貞野郎が!!」
純一はそう言って再び祐一を殴る。
「分かりたくもないよ。お前みたいなくだらない人間の気持ちなんか」
ブチッ!!
祐一のその言葉に純一はキレた。
「うわぁぁぁっ!!」
そして、我を忘れて祐一に食いかかってきた。そんな純一に祐一は……
「来いよ。その腐った根性叩き直してやるから」
そう言って受身でいることを止めて攻撃に転じることにした。
決着自体は簡単に着いた。そう。祐一が純一に二、三発入れただけであっけなく終わった。
「く……くそぅ」
あっけなく倒された純一は悔しさを隠さずに呟く。
「今のお前じゃ何度やっても無駄だ。俺には勝てない」
祐一はそう言って唇から出た血を拭う。だが……
「……まだだ。まだ終わってない」
純一はそう言って立ち上がろうとするがすぐに又倒れてしまう。
「俺の勝ちだ。今のお前はことりを傷つけるだけの存在だ。だから……もう二度と彼女に近付くな!!」
祐一はそう言うとその場から走り去った。そして、桜公園に一人残された純一は……
「ち……畜生。ちくしょう……。」
涙を流す。祐一に負けたことが悔しかったのではない。只、祐一の言葉 特に最後に彼が言った言葉が心にズシンと応えたのだ。
そして、桜公園から出た祐一は……
(何やってるんだ。俺は……。)
誰もいない道路で一人考えていた。自分が純一にしてしまったことを。
(どうしてこうなったんだろう……。只、ことりを選ばなかった理由を聞きたかっただけなのに……。あんなことしてもことりが悲しむだけなのに……。)
そして、気が付くと古ぼけたバス停の近くまで来ていたことに気が付く。
「……くそぅ。俺らしくもない。いつもの俺なら『殴る価値もない』と言ってそのまま去るだけなのに」
祐一は今の自分に苛立ちながら考える。しかし、どうすればいいのか答えは出ない。だが、これだけは分かった。
「……今日は芳乃家には帰れないな。と言うか帰ったらさくらに何言われるか分からんし、彼女も純一を傷つけた俺を許すとは思えない」
そう言って空を見上げる。すると……
「雨か……。」
気が付くと雨が降っていた。だが、祐一は傘を持っていない。なので、ここで雨宿りをすることにした。このバス停は時刻表が錆びてることからしてもう廃線になっていると分かったが幸いにも屋根はついていたので雨宿りくらいならできそうだった。
それから一時間が経った。だが、雨は一向に止まない。と言うよりも一時間前よりも酷くなっている。
「……ここまで降るのは予想外だったな」
祐一は雨を見ながら考える。
(こんなこと……ことりが望んでいないなんて分かってる。でも……純一がことりに対してやったことは許せなかった。だから、気が付いたらあいつとケンカになってた。子供の頃みたいに……。)
そう思ったその時だった。
「……どうかなさいました?ここのバス停はもう廃線になってますけど」
「えっ?」
祐一は和服姿の少女に声をかけられる。だが、その少女の容姿から祐一は親友である工藤叶の顔を思い浮かべてしまう。
「あのう……どうかしましたか?」
「いや……君に似た友人がいるからつい……。」
どうやら気付かないうちに視線が彼女の顔にいっていたようだ。そして……
「でも、こんな所で何をやっていたのですか?最初は雨宿りだと思いましたがそれだけではないと思いますし」
少女は祐一に何故ここにいたのかを尋ねる。その質問に対して祐一は……
「少し考え事をしていただけさ。ちょっと厄介なことがあったから……。」
素直に理由を言う。祐一のその言葉を聞いた少女は……
「そうですか……。良かったら話していただけませんか?」
興味が湧いたのか何があったのかを尋ねる。祐一は少しの間どうしようか悩むが……
「分かった。話すよ」
全てを話すことにした。
それから15分が経過した。
「……そうですか。そんなことが……。」
少女は祐一の話を聞き終え悲しげな顔で言う。
「……ああ。そんなこと彼女が望んでないと分かってたのに気が付いたらケンカになってた」
祐一は表情を変えずに言う。
「貴方の気持ちも分かりますけど……色々と問題でしたね。特に最後に言った言葉なんて」
「確かに言い過ぎたと反省してる。それに確かにまずかったとは自分でも分かってる。誰がどう考えても感情に任せての行動だから」
「そうですね。でも……。」
少女はそこでクスッは軽く笑う。
「……?何かおかしかった?」
「いいえ、その彼女さんと言う人が少し羨ましかっただけです。だって、自分の為にこうも真剣に怒ってくれる彼氏さんがいますから」
「か……彼女って。俺とことりはそんなんじゃ……。」
「へぇ……ことりって言うんですね。彼女さんって……。」
祐一は彼女の言葉からボロを出したと思い少し後悔する。
「でも、気持ちは分かりますけど貴方のやったことはあまり良い行動とは言えないことは確かです。だから、謝るしかないです。まあ、貴方は頭良さそうですからそんなこと言わなくても分かると思いますけど」
「やっぱ其処に行き着くのか。でも……何で君初対面なのに俺が頭いいって分かるの?確かに俺は友達と言うか君に似た人と一緒に早稲田に受かったけどさ」
「そ……それは……女のカンです」
少女は顔を真っ赤にしながらそう言って祐一の質問を誤魔化そうとする。
「まあ、すごく気になる答えだけどそう言うことにしておくよ。それじゃあ俺はそろそろ行くよ。ことりに謝らなきゃいけないから」
祐一はあまり気にせずに言う。まだ雨は降っていたが全然気にならなかった。
「ええ、お気をつけて。でも、よろしければ傘をお貸ししましょうか?私は家に連絡すれば迎えの者が来てくれますから傘をお貸ししても帰れますから」
少女はそう言って自分の持っていた傘を祐一に渡そうとするが……
「いや、いいよ。そこまで借りを作りたくないしな。でも、色々ありがとう。工藤」
祐一はそう言って少女に礼を言ってその場を後にした。
祐一と別れてから少女もとい工藤叶は……
「……やっぱりバレてたか。上手く誤魔化せたと思ったのにな」
少し哀愁を漂わせながら言う。
「でも、私も本当にバカだなぁ。ある意味チャンスだったのに自分で潰しちゃったから」
そう呟くが、すぐに首を横に振る。
「いや、これで良かったのよ。相沢君と同じくらいことりのことも好きだから。でも……ことり。私はまだ相沢君のこと諦めてないからね。敵に塩を送るのはこれが最初で最後だから」
叶もそう言ってバス停をあとにした。そして……
「でも、感謝されたから私も一歩前進と考えていいかな?」
小声でそう呟いた。
祐一が叶と別れてから30分後……
ザァァァッ!!
雨はまだ降っていた。いや、さっきよりも酷くなっているといってもいいだろう。だが、彼は雨を気にせずに捜す。会って謝らなければいけない人の一人である白河ことりを。
本当はいの一番に純一に謝りに行きたかったがどうしてもできなかった。どんな顔をして謝ればよいのか分からなかったから。
「やっぱりこの雨じゃなかなか見つからないな。でも、さっき白河家に行った時は誰もいなかったしな。だから、外に出ていることには間違いはないが」
そう呟きながら考える。だが、ことりが何処にいるのか分からない。
時間が経つにつれて焦りと言う感情が祐一の心を蝕んでいく。だが、その時だった。
「……ことり」
「……祐一君」
恋人である 白河ことりと出会う。
「こんなにも濡れて…………風邪ひいちゃいますよ」
ことりはそう言って祐一に近付く。そんな彼女に祐一は……
「……ごめん」
祐一は申し訳なさそうな顔をして謝る。
「どうして謝るの?何か謝らなければいけないことでもしたの?」
ことりは祐一が純一に対してやってしまったことをまだ知らなかったのか首をかしげる。
「純一とケンカした」
「えっ?」
「最初は純一がことりのことをどう思ってるのか聞きたかっただけだったけど、純一の答えを聞いて気が付いたら……ケンカになってた。そんなこと……君が望んでいないと分かってたのに」
「……。」
「だから、本当にごめん」
祐一は純一に対してやってしまったことを話し終えてから再び謝る。そして、彼の話を聞き終えたことりは……
「祐一君……謝る相手を間違ってるよ。私に謝っても何の意味もないよ」
謝るべき相手が違うと言う。
「分かってる。でも……それでも俺がやったことで君を傷つけたことに変わりはない。だから、君に最初に君に謝りたかったんだ」
祐一はそう言って最初にことりに謝った理由を言うが……ことりに指を突きつけられてそれは途中で止まる。
「これ以上何も言わないで。私も悪かったんだし」
「えっ?」
「私が貴方にちゃんと朝倉君のことを話さなかったからこういうことになったのだから。だから、祐一君が朝倉君とケンカしたことは私にも責任があるんです」
ことりは悲し気な顔で言う。
「だから、もう謝らないで下さい。それにある意味嬉しくもあるんです。祐一君にも感情的になる時があると分かりましたし、それに……不器用な方法だと思いますけど私の為に怒ってくれましたから」
そう言って頭を下げる。ことりのその言葉に祐一は……
「……ありがとう」
素直に礼を言った。だが、彼の言葉はここで終わらない。
「もう一度純一に会いに行ってくる。今度はケンカせずにちゃんと一対一で話し合ってくるよ」
何かを決意したかのようにそう言ってことりと別れようとする。祐一のその言葉を聞いてことりは……
「行ってらっしゃい」
と笑顔で見送った。
そして、祐一がことりと別れた時にはもう雨も止んでいた。
そして、20分後……祐一は朝倉家に到着する。
ピンポーン!!
祐一がチャイムを鳴らしたその時出てきたのは……
「……祐一か」
純一だった。だが、祐一に殴られた右肩にはギプスがしてあった。
「その肩は……。」
「あの後音夢に見つかって病院に行ったけど肩の骨が折れてるって言われたからこうなった」
「そっか……。」
「とりあえずは中に入れよ。今は音夢もいないしな」
純一はそう言って祐一を家に入れる。
「ああ、すまない」
祐一もそう言って朝倉家へと入った。
「で、話って何だよ?もうすぐ音夢が帰ってくるから手短にお願いしたいんだけど。今音夢がお前と会ったらどうなるのか分からないしな」
「そうだな。なら、手短に言う。今日は本当にすまなかった」
「へっ?」
「どういう理由であれお前を怪我させたことは事実だ。だから、本当に……。」
祐一がそこまで言ったその時……
「……気にするな。別に怒ってねぇよ」
純一は表情を変えずに言う。
「えっ?」
「俺も悪かったんだ。音夢が帰って来た時にことりの気持ちを考えずに寄りを戻したから。殴られて当然だ」
「……。」
「本当に俺はお前の言う通りの最低野郎だ。今更謝ってもと言うかもう謝る資格すらないけどな。だから、お前からことりに伝えてくれないか。『今まで本当にすまなかった。そしてありがとう』って」
純一のその言葉に祐一は軽く溜め息をつく。
「俺に謝っても仕方がないだろう。謝るならことりに直接謝れよ」
「えっ、でもお前あの時二度とことりに近付くなって……。」
「今回は特別に撤回する。でも、二度目はないからな」
祐一はフッと笑みを浮かべながら言う。
「ありがとな」
純一は笑顔で礼を言った。そして、祐一はここで一番聞きたかったことを聞くことにする。
「なあ、どうして音夢を選んだんだ?お前と音夢の関係を知ってからすっと考えたけど未だにそれが分からないんだ。だから、教えて欲しい」
「さくら以上の天才のお前がぐうたらな俺に質問か。何かそう言うの嬉しいな。実際そう言うの初めてだし」
「茶化すな。それでどうして音夢を選んだんだ?」
自分の質問を茶化す純一に少し苛立ちながら祐一は再び質問する。
「理由なんか別にねえよ。……好きだったからだよ。お前がことりのことを想う様にな」
「……そうか。でも、俺とことりはまだそんな関係なんかじゃ」
「嘘つくな。あの時のお前の様子からして只の友達って関係には見えなかったぞ」
「……。」
純一のその言葉に祐一は何も言えなくなる。
「まあ、言いたくないのなら言わなくてもいいさ。みっくんかともちゃんにでも聞けばいいだけだし」
「おい、それだけは止めろ」
祐一は表情を変えずに突っ込む。そして……
「そろそろ音夢が戻ってきそうな時間だな。今の段階で彼女と顔を合わすのはどう考えてもまずいので帰ることにする」
祐一はそう言って朝倉家を出ることにする。
「ああ、気をつけろよ。音夢はもう俺のこの怪我を知っているから見つかったら厄介だぞ。と言う事で早く逃げろ」
「分かった。そうさせてもらう。じゃあ……ありがとう」
祐一はそう言うと朝倉家をあとにする。そして、そんな彼を見送った純一は……
「やっぱアイツ変わったな。人間味があると言うか明るくなったと言うか。ことりと出会った影響かな……。でもアイツ最後に何て言ったんだろうな?」
今の祐一の感想を言う。だが、彼は祐一が最後に何と言ったのか気付かなかった。
そう。彼が最後に『ありがとう』と言ったことに。
祐一が朝倉家を出たその時だった。
「……ことり」
ことりと出会ってしまう。
「祐一君はああ言ってたけどやっぱり心配で……。」
ことりはそう言って笑う。そして……
「でもその様子からして上手くいったみたいだね」
祐一の顔の表情からどうなったのかが分かった。
「ああ、和解できた。心配かけてごめん」
祐一はそう言ってことりと共に一度芳乃家に戻ることにした。
純一とケンカしたことについてはさくらにも謝らなければならないと思ったからだ。
ことりと共に居候先の芳乃家に戻った祐一だったが、扉に鍵がかけられていることからさくらも留守だと分かった。だが……
「んっ……何だこの手紙は?」
祐一はポストに『祐一君へ』と書かれていた手紙が刺さっていたいたことに気が付き読むことにする。
ちなみに手紙にはこう書かれていた。
祐一君へ いきなりですが君の荷物を白河さんの家に送っておきました。 と言ってもお兄ちゃんとケンカしたことに怒ってこんなことした訳じゃないからね。 お兄ちゃんとケンカすることは早い段階で予想できてたし。 只、今の白河さんは暦先生が結婚したせいで実質上一人暮らしだから一緒に住んであげて。 彼女の両親も殆ど家にいないから何かあった時に不安でしょう。 それにこれは恋人としての義務だから。 ほんじゃあね。 でも、間違いだけは起こさないように。 さくら |
「唐突だな。と言うか何時の間に俺の荷物を勝手に……。」
「確かに……此処まで展開を読んでいるともうお釈迦様の如くっすね。でも、お姉ちゃんに許可貰ってるのかどうか心配だな。お姉ちゃん最近倦怠期気味だから家に来ること多いし」
祐一とことりはそう言って溜め息をつく。だが……
「でも、まあいいかな。祐一君と暮らせるんだし」
ことりはそう言って笑顔になる。そして、そんな彼女に祐一は……
「いや、よくないだろ。学生同士の同棲だからどう考えても倫理的に問題大有りだって」
真顔で突っ込む。
「えっ、そうなの?もしかして祐一君は私と一緒に暮らすの嫌?」
ことりは不安気な顔で聞く。
「いや、不安じゃない。只本当にいいのかなと思っただけだ」
「いいと思ってますよ。と言うよりもみっくんやともちゃんだったら喜びのあまり赤飯炊いても可笑しくありませんよ」
「いや、そんなオーバーな」
「全然オーバーじゃないです。それでどうなのですか?」
ことりは顔を近づけて質問する。そして……
「嫌じゃないさ。只、迷惑じゃないかなと思っただけさ」
素直に自分の気持ちを伝える。
「じゃあ……。」
「一緒に暮らしてもいいって言ったんだよ。一人暮らし状態の君を放って置くなんてくだらないことしたくないしね」
祐一は少し顔を赤くして言う。だが、彼の言葉はそこで終わらない。
「でも、条件がある」
「条件ですか?」
「ああ、と言っても簡単な条件だ。まず一つは全ての家事は分担制にすること。後は、家賃は月末に払いたいから請求書を作っておいて欲しい」
「一つ目は別にいいですけど……家賃については別にいいですよ」
ことりは呆気に取られた顔で言う。
「いや、こういうことはハッキリ決めておくべきだ。只、同居するだけだったらヒモと大して変わらないからな」
「……あはは。確かにそぉっすね」
祐一のその言葉にことりは音夢がいない間の純一を思い出してしまい笑うしかなかった。そして……
「でも……私と出会ったことをどう思っていますか?今日のことから後悔してない?」
ことりは一番気になっていたことを質問する。
「全然してないよ。むしろ君と出会えて良かったと思ってる。この前も言った通り色々あって楽しいし、それに君から色々なことを学ばせてもらってるから」
「私からですか?それってどういうこと?」
「それは教えない。自分で考えてみたら。でも、そろそろ行かないか。今、音夢に見つかったらマズイ。100%報復するに決まってるからな」
「あっ……ごまかした。でも、いつか教えてくださいよ」
二人はそう言って白河家へ向かうことにした。
二人の関係は純一と音夢との関係とは違いまだ発展途上。
先の読めぬ不安定なもの。
でも、だからこそいいのかも知れない。
今回のトラブルで二人の関係は又一歩前進したのだから。
おしまい
あとがき
菩提樹「どうも菩提樹です。今回は恋愛系から離れて祐一と純一の話をメインに書いてみました。内容は祐一×ことりの短編シリーズの外伝と考えてください」
祐一「……そうか。でも、何でいきなりこんな話なんか書くんだよ」
菩提樹「半世紀後のことを考えたらつい書いてみたくなりました。ちなみに『手をつなごう』で祐一がことりに告白した日の二日後のお話です」
祐一「くだらない理由だな」
菩提樹「……そんなこと言わないで下さい。貴方もずっと仲違い状態は嫌でしょうが。それに純一君と白河嬢との間で過去に何が遭ったかを知ったら絶対ケンカになりますって」
祐一「そこは賛同する。でも、ケンカ自体は簡単にケリがついたのはどうかと思うぞ」
菩提樹「私もそう思いましたが純一君じゃどう考えても君に勝てないと思いましたからね。一応は花を持たせたんだしいいじゃないですか」
祐一「あれを花と言うのか?俺はどう考えてもそうは思えないが」
菩提樹「気のせいです。深く考えたらダメですよ」
祐一「ごまかすな。と言うかそれはお前だろうが」
菩提樹「うっ……痛い所を。と言う事で今回は失礼しま〜す」
祐一「……逃げたな」