もしも守護者以外のユンカースが意思を持っていたら 〜wind、light編〜



朝。窓から差し込む日の光にまぶたが刺激されて、うっすらと目を開ける。

昨晩は寝付きが良かったからか、目覚めは清々しく、すぐに意識がはっきりした。

「んー?」

布団から跳ね起きようとすると、右側に重い感触。

上半身を起こして首だけそちらへ向けると、こんもりとした布団の山の麓に草原のような緑色の物体が漏れでている。

俺は布団をそっと横にずらす。どうやら薄緑は髪の毛の色で、溢れた部分は頭部のようだ。

そこで俺はこいつの正体を把握する。

「こら起きろ、wind」

「ん……ねむねむ」

正体はユンカースであり、風を司る魔石――windである。

windを揺すると、起きているのか寝ているのかよくわからない寝言と共に体を嫌そうに左右へごろごろと体を捩った。

「起きてるんだろ?」

「んあー?」

windは身を捩ると、揺する手を振り切って俺の体に抱きつくようにくっついた。

こいつは本当に寝ているのだろうか。体を揺すってこれを振り切ろうとするのだが、そうする度に逆にしがみつく力が強くなっていく。

それと比例して強く押し付けられるwindの身体。こ、腰に柔らかい感触がぁ……

っていかんいかん!

「おい、起きろ! 頼むから、起きてくれ!」

両腕でさっきよりも強めに揺さぶる。

その時に気付いたが、どうやらwindが着ているパジャマは俺の着古したYシャツだ。

揺さぶるとYシャツがはだけて人並み以上の胸も揺れて……ええい、煩悩退散煩悩退散!

「んあふ……おはようございまふ」

揺さぶりの甲斐あって、ようやく目を覚ましたwindがあくびを噛み殺しながら朝の挨拶をする。

ふう、危なかった。これ以上は理性が持たんかった。

まあこれでようやく俺も起きることができ――

「……ふー、祐一さんのにほい〜」

起きると同時に俺にもたれかかるwind。重みに耐えられずに敷き布団に倒れこむ俺。

胸板に薄い布地で包まれたさっき腰で感じたやーらかいものが……

お、落ち着け俺。クールだ。クールになるんだ。

これがclawだったら計算しての行動だと割り切って、力任せに跳ね除けたりできるんだが。

windのコレは本物のいわゆる天然だからなぁ、無下にできない。

「ふう、気持ちいいぃ」

そんな俺の気持ちを知らずに胸板をスリスリと頬ずりするwind。

頼む誰でもいい。この状況をぶっ壊せるんだったらsword、いやchainでもいい。誰か助けてくれ!

そんな俺の切なる願いが叶ったのか。部屋の扉がゆっくりと開いた。

「あ、あらー?」

いや、確かにこの状況をぶっ壊す存在が欲しいとは言ったが、俺は一番のハズレを引いた気がする。

扉を開けたのは金髪の女性。

女性は俺達の現在の体勢と状況を上から下まで舐めるように隅々と見渡すと、何を得心したのか、俺の方を向いて、その黄緑と水色のオッドアイを細めて微笑んだ。

「lightはお邪魔でしたねぇ〜。どうぞlightには気にしないで続けてください〜」

「邪魔じゃない! 全ッ然、邪魔じゃないぞ!」

明らかに誤解している乾いた笑顔を貼りつけたまま、部屋から退場しようとするlightに、藁にも縋る勢いで呼び止める。

「ああふう、あったかいのー、気持ち良いのー」

「黙ってくれ! wind、頼むから黙ってくれ!」

「やっぱり、lightは要らない子みたいなので……」

「あああああああ、お願いします。この部屋から出て行かないでええええ!」

「いえ、lightは主人様が望むなら別に構わないんですけどぉ、やっぱり最初はそんな朝からなんてアブノーマルじゃなくてぇ……」

ああああ、やっぱり暴走してる。

この金髪の女性がユンカースの一人で光を司る魔石であるlightだ。

金髪に白い服、優しそうな表情と、はたから見れば慈愛に満ちた天使のようなのだが、蓋を開けてみればwindに引けをとらない天然勘違いお姉さんなのである。

さらりと落とした爆弾の数は数知れず。思い込んだら一直線に誤解するという、正にこの状況において一番見られて厄介な人物に見られてしまったというわけだ。

ああもう、神様は俺を恨んでるのか?

「ちょ、だから誤解だと――!」

「ダメーなのー」

ここで意外にもwindから反対の声が上がる。

おお、wind。そうそうお前の方からも言ってや――

「windも抱きつきたいからlightも抱きつきたいなら一緒に抱きつくのー」

「……それはそれで乙な物かもしれません。わかりました主人様、それではlightも参加します!」

「ちょ、ちょっと待て?! こ、こっちくるなあ!」

笑顔でlightが徐々に近づいてくる。そして俺の左側から――






あっ――!






この後swordに見つかって刀を振り回されるまで、二人に両側から抱きつかれたのは別の話。