もしも守護者以外のユンカースが意思を持っていたら 〜sword、shield編〜



「祐一様、どうしても首を縦に振ってはいただけないのでしょうか?」

「うー、しつこいぞ、sword」

動きやすさに重きを置いているのか関節部の装甲を外した鎧に、下は作務衣のような着物を着た容貌の少女――swordの陳情を拒否する。

離れようとしても、彼女は後ろで一つに纏めた灰色の髪を揺らしながら前に出てきて行く手をさえぎる。

このしつこさは『剣』よりも『鎖』か『縄』に近いんじゃないかと思ってしまうほどだ。

「何故ですか、祐一様は我らユンカースを束ねる身、いわばユンカースの将に当たるのです。
 将となれば何時如何なる時に敵に襲撃されるやわかりませぬ。そのようなことを防ぐためにも、swordが御側付きとして祐一様の側に常に立って警護をするのは当然のこととは思いませぬか?」

「それがいちいち大げさだというんだ」

凛々しく鋭い印象を持たせる表情を更に引き締めて熱く語るswordに、俺はテンプレ的な返答で拒否する。

これはもう何回も繰り広げられているのだが、少女は頑なにこれを譲ろうとしない。困ったものだ。

swordが言っていることが間違っているというわけじゃないのはわかる。

たしかに俺はユンカースのマスターなわけであるし、いつ敵が襲い掛かるかわからないような立場だというのも納得できる。

だけどswordのそれは行き過ぎだ。

最初の頃、数日間警護を許可したことがあったが大変だった。

まず四六時中、俺の近くにいるから落ち着かない。

トイレやお風呂にまでついてきた時は本気で焦った。

特に風呂についてきた時はchainとwingが大暴れして別の意味でも大変だったのはまだ記憶に新しい。

それと……むしろこっちの問題の方がメインなのだが、彼女は少々思い込みが激しいところがあるのだ。

遊びに来たあゆや真琴に襲いかかりそうになったり、何を思ったのか北川の癖毛を斬ってしまったり、久瀬を実際に斬ってしまったり。

さすがに自分だけの問題ならばいいのだが他の人に危害が及ぶなら話は別になる。

「swordが俺の身を案じてくれているのはわかるんだがな。
 さすがに友人にまで斬りかかられると、俺は一生友好的な関係を築くことができなさそうなんでな」

「そ、そのようなこと――」

「ないとは言わせないぞ?」

「あう……」

顔を赤らめながら俺を睨めつけるsword。

こういう表情の時は凛々しくカッコいい印象の彼女もどこか可愛く見えるから不思議だ。

「こ、今後はそのようなことがないように善処いたしますので」

sword、お前は政治家か。

「あの」

「ん、どうした?」

このまま一時間くらい堂々巡りかと思った時、swordのように鎧を着ているが、彼女とは違い、全身をこれでもかという位に重厚な装甲を纏ったミディアムボブの茶髪の少女が話しかけてきた。

swordのような平均よりも高い身長に軽装の鎧というすらっとしたカッコいいスタイルに対し、少し低めの身長に重厚な鎧を装着し、小さい頭をぴょこっと出した、どこか可愛いらしいスタイル。

これがユンカースNo.8『shield』の人間形態である。

「shield、今祐一様はswordと話中だ、後にしてもらおうか」

「ひっ、ご、ごめんなさいぃ」

「まあまあ、何か用か?」

俺が優しく問いかけると、swordのきつい視線に時々萎縮しながらもshieldはおずおずと答えてくれた。

「あのあの、swordさんの警護が心配なら、shieldが代わりに祐一さんの警護につくのはダメでしょうか?」

「shieldが?」

「ダメならダメでいいんです。shieldは役に立たないいらない子だってわかっていますから。ただ少しでもshieldが祐一さんの役に立てるなら……って」

最後の方になるにつれ声が小さくなってわかりづらかったが、要はswordの代わりに自分が警護をしようかということだろう。

shieldもshieldなりに俺のことを心配してくれているだろうな。

たしかに攻撃力をほとんど持たないが、守備力に関して言えばユンカース中最強を誇るshieldに頼めば、相手に危害を加えずに迎撃することも可能だし、落ち着いた彼女の性格ならswordのような勘違いで相手に危害を与えることもないだろう。

「ダメだダメだ。shieldでは相手から祐一様を守ることができたとしても、敵を追い返すことが出来ないではないか?」

「無理に追い返す必要なんてないですよぅ。
 時間を稼いでその間に援軍を呼べば、一人で戦うよりもずっと効率的ですし――」

「何か言ったか、shield」

「ひっ、ご、ご、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

swordに人を殺せそうな程の視線を受けて再び萎縮してしまうshield。

性格だから仕方ないのだろうけど、もう少し自己主張が激しくてもいいと思うのだが。

「sword、そんなに睨むなって」

「……はっ」

「うう、swordさんの目が怖かったです」

swordが拘っているのは俺に警護を付ける事だとばかり思っていたが、この反応を見る限りshieldがその警護役に付くのは嫌なようだ。

それじゃあswordは俺の警護をすることを望んでいるということなのだろうか。

主人想いな魔石を持って俺は幸せ者だよ。

「大体そのような恰好、街中では目立って仕方ないだろう?
 敵に祐一様の位置を教えることになってしまう」

「それはそちらもあまり変わらない気がしますけど。
 それに祐一さんを警護する時はこんな無粋な恰好なんてしません。 swordさんだってそうでしょう?」

「う、それは、その」

そういえば許可した時に一回だけ外に出る機会があったけど、その時のswordは普段の服装じゃなくて、なんか気合の入った服装だったな。

『この世界ではあのような恰好で外へは普通出歩かないそうなので、適当に着替えてみたのですがいかがでしょうか』とか言っていたが、今思うとなんか適当に選んだにしては着こなしがよかった気がする。

「と、とにかくだ。shieldには荷が重過ぎる。ここはおとなしくswordに任せておけばいいのだ」

「それが任せられないから、shieldがやろうと言っているのですけれど」

「shield」

「うう、でもここは譲れません」

「shield、警護に必要なのは敵を全て殲滅することができる矛だ」

「いえsword、警護に必要なのは敵から全ての攻撃を防ぐ盾だと思います」

矛だ、盾だと互いにいがみ合うswordとshield。

うーむ、どうにかしないと確実にこのまま能力ありの大喧嘩に発展する。

「な、なぁ、二人とも」

「「なんですかっ!」」

彼女たちの出す異様なオーラに一瞬、何も悪くないのにごめんなさいと言いそうになったが、なんとかこらえる。

「それなら矛と盾を一緒に持てばいいんじゃないか?」

俺の言葉に二人とも驚いた様子で俺の方を見た。

そうすればswordが暴走しようとしたら、shieldが止めることができるし、swordが言っていたshieldの攻撃力不足も克服できる。

それならお互い安心だし、俺もそれなら警護を任せてもいいかなと思える。

我ながら素晴らしい考えだ。

「……不本意ではありますが」

「た、たしかに正論すぎるほど正論な気がしますけど」

二人も俺の提案に渋い顔をしながらも頷く。

その顔に少し残念そうな顔が浮かんでいるような気がしたが、きっと気のせいだ。

こんな辛い仕事を好んでやる奴なんて普通はいない。

「よし、それなら今後は二人に俺の身を守ってもらおうかな?」

「お任せを、祐一様」

「はい、頑張ります。祐一さん」

((まぁ、いざとなったらこいつ〈この人〉を排除すればいいだけの話だ〈ですし〉)

「ん、何か言ったか?」

「「いいえ、何も」」



こうして今日も過ぎていく。