もしも守護者以外のユンカースがおにゃのこだったなら 〜dark、metal編〜



「これをあげるよ」

出かけようとする俺をdarkが呼びとめ、何かを握らせてくる。

手を開いてみると、紫色の錦袋が一つ。

「お守りだよ。合格祈願と……祐一君はいろいろと騒動に巻き込まれやすいみたいだからね」

そう言いながら漆黒の髪を揺らし、不適に目を細めるdark。

本来の力の他に精神操作の能力も持っている彼女はこういった呪術関係に詳しい。

warpにでもお願いして、わざわざ由縁のある所から持ってきたのか、それとも実際に作ったか。

どちらにせよ、darkのお墨付きならば効果は期待できそうだ。

俺はそのお守りをジーンズの後ろポケットの中に入れる。

「そっか、ありがとうな。dark」

「……光栄だよ」

「甘いですね、甘々です。dark」

そんな俺達のやり取りに割り込んできた声。

淡々とした若干棒読み加減のきれいなソプラノの声。

俺の持つ魔石の中でこんな日本語版レイジングハートのような声を出せるのは一人しかいない。

「そのような非科学的なもので祐一様を守れると? 面白すぎて大笑いしてしまいます」

「やっぱりmetalか」

「おはようございます、祐一様。これからお出かけでしょうか?」

鉄仮面――そんな異名がものすごく似合いそうな程の無表情、耳に取り付けられている通信用(本人曰く)のアンテナ、そして艶のある金色の髪。

ユンカースNo.14『metal』は笑いとは程遠いような無愛想面でそれだけ言うと、俺に向かって深々とお辞儀をした。

「あぁ、判定テストの結果を取りに予備校までな」

「かしこまりました。いってらっしゃいませ」

「metal、今聞き捨てならないことを言わなかったかい?」

「dark、今、祐一様をお見送りしている最中です。邪魔をしないでください」

「そんなことはどうでもいい」

おい、こら、どうでもいいとか言うな。

前回の結果(志望校E判定)のせいで、どこから聞きつけたのか知らないが、フィアとなのはちゃんにこっぴどくお仕置きされたんだ。

……思い出しただけでも涙が出てくる。

「ふむ、今回も悪かったらdarkも加わらせてもらうとするよ」

「何か言ったか? dark」

「……何も言っていないよ」

じゃあ、この殺気を中てられたときに匹敵しそうな程の寒気はなんだろうか?

俺の不幸レーダーがビンビンに反応してるんだが。

あと心を読まれた気もするけどきっと気のせい。深くは考えないようにすることにする。

darkについて深く考えるといつの間にか呪術の実験台とかにされそうだしな。

「何を言っているのか意味不明ですが、まぁいいでしょう。
 何度でも言って差し上げましょう。呪術などといった不確定な要素で祐一様を守る?
 寝言は睡眠薬を通常の5倍摂取してから言ってください」

それは寝言じゃなくて遺言になるな。

どうやらmetalはdarkがくれたお守りが非科学的云々で気に入らないご様子で。

darkと違って、ガチガチの現実主義者だからなぁ、metalは。

「それなら君は祐一君を守るために何をしているというのだい?」

「当然です!」

darkの切り返しに待ってましたと食らいつくmetal。

「人工衛星に(不正に)アクセスし、宇宙から24時間365日一時も休まずに祐一様(とそれに纏わりつく泥棒猫)を監視しておりますから」

所々、妙な間があるが、聞いてもロクなことにならなさそうなのでスルー。

とりあえず、それは思いっきりプライバシーを侵害している気がする。

「そんな犯罪者紛いのことしてたのかい? 同じユンカースとして恥ずかしいね」

「祐一様を守るものとして当然のことだと思いますが?」

darkとmetalの間に火花が散って見える。



「そこまでするのはやり過ぎだろう……というか、な」

「なんですか祐一様?」

「何か言いたいことでもあるのかい?」

凶悪な目をして二人が俺に発言を促してくる。

この状態でこんなこと言ってもいいのだろうかと考えたが、こうでも言わないと喧嘩が終わらないとも考え、意を決して口を開いた。

「二人とも、一応、俺の世界でいうところの『非科学的なもの』で動いてるわけなんだが……」

「「あ……」」

「俺はこういうのは信じれば叶うものだと思ってる。今までメルヘンの世界だけのものだって思ってた魔法もあった。
 だから、metalもそういう非科学的なものを信じるところからはじめよう?」

「……metalは確証のないものは嫌いです。ですが祐一様がそういうのなら前向きに検討させていただきます」

ふぅ、ひとまずは落ち着いた、かな?

これで二人がお互いに歩み寄れればいいのだけれど、そこまで求めるのは欲張り。

今はこれくらいでいい。

「ふぅ……」

なんか疲れた。

予備校へは少し休んでから行くことにしよう。

俺は玄関にどっかと座り込む。



バキッ



「ん?」

今なんか変な音が。

音源は俺のズボンの後ろポケット。

そこにはたしかdarkからもらったお守りが入っていたはず。

ポケットからお守りを取り出す。

「……dark、これはなんだ?」

「解析結果、お教えしましょうか?」

いや、metal。

足し算よりも簡単に予想がつくから教えなくてもいい。

「残骸から察するに盗聴器と超小型カメラだな」

「metalの解析でも99.8%でそれらと判断しております」

これだけ小さいのは見たことないから、おそらく魔法技術の産物か何かだろう。

俺とmetalが同時にdarkの方を見る。

「……用事を思い出したのでこれで失礼させてもらうよ」

「待てやぁ!!」

「ちょっとした出来心なんだ。許してくれないか?」

出来心で盗撮が許されたら国家権力は要らないな。

というか俺が許す許さない以前に――

「dark、こういうのなんていうか知っていますか?

 『目くそ鼻くそを笑う』って言うんですよ」

――このメカ娘が許してくれないだろうけどな。

とりあえずその例えは自分の悪行を認めることにもなるからお勧めしないぞ?

悪事を働いていたのは事実だから指摘はしないが。

「……御免」

「逃がしませんよ……サテライトシステムフル稼働っ!!」



はぁ、今日中に予備校へ行けるかな。