もしも守護者以外のユンカースが意思を持っていたら。〜wing、fire編〜



「ぐしゅ……ゆーいちー」

俺が部屋で休んでいると、純白のロングにそれに負けず劣らず汚れのない、美しい白絹のローブを着た幼女が涙を流しながら近づいてきた。

背中には小さい二対の翼が生えており、まるで天使を彷彿とさせるような幼女は起き上がった俺の胸に飛び込むとそのまま泣きじゃくり始めた。

「どうした? wing」

「ふぇ、またfireがいじめたのぉー」

wingの頭を撫でながら訳を聞くと、彼女と仲の良いもう一人――いや、もう一つの魔石の名前が出てきた。

どうやら、またなにか言われたらしいな。

俺はwingを撫でる手を休めずに、レイバルト・バリアントからこの部屋に出てきた彼女に声をかけた。

「ふぅ、おいfire、お前とwingは魔石同士、なかよくできないのか?」

fireと俺が呼んだ少女がこちらに気付いて振り向く。

名前の通り、燃え盛るような赤のボブに、ラフな柄のTシャツ、下は紺のフレアスカートを纏った少女は俺とwingをそれぞれ見た後、口を開いた。

「fireは悪くない。wingが泣き虫だから悪いんでしょ」

「ふえぇ……」

「はぁ、だったらもう少しお前が譲歩してやれって。wingはお前らの中で一番繊細なんだから」

つんとしながら言い放つfireに、俺はため息をつきながら反論する。

wingはユンカースの中で最も精神年齢が低いのか、全く悪気のない言葉でも傷ついてしまうほどのガラスのハートの持ち主だ。

fireも泣かせるつもりはなかったんだろうけど、wingの機嫌を直すには非を認めてもらわないといけないからな。

贔屓になってしまうが、ここはfireに折れてもらう。

「……わかったよ。fireが今度からは少し譲歩する。ごめん、wing」

「えへへ、いいのー、fireはwingのお友達だもの」

「本当、悪いな。fire」

「ううん。fireとwingが仲が悪いと祐一が困るでしょ」

物分りのいい魔石でお兄さん嬉しいよ。

「えへー、ありがとーゆーいちー」

ちゅっ

「へ?」

「あっ……」

すっかり泣き顔も晴れ、笑顔になったwingが俺の頬に小さい唇をくっつける、いわゆるキスってやつだ。

「おれいだよー。いつもいつもありがとー、ゆーいち」

「あ、いや、その」

「これじゃたりない? じゃあ……もーいっかい」

「〜〜っ?!」

鬼気迫る勢いでfireがwingを引き離す。

「ふ、fire?」

「……ずるい、ずるいよ。wingばかりずるい。
 fireだって、fireだって……ゆ、祐一に甘えたいのに!!」

「え、えと、fire?」

「あ、え、えっと……その……」

髪の色と同じくらい顔を赤くするfire。

もじもじとしているその姿は本物の少女と見間違うほど可愛い。

「fireもキスしたいの?」

「ふぇっ?! ち、違――わないけど、違う!」

「fire、それ日本語が変だぞ?」

「じゃあ、fireも一緒にキスすればいいんだよー」

「「え?!」」

wingの爆弾発言に、俺達は揃ってwingの方を観たまま固まる。

「だって、fireとwingはお友達なの。だから、好きなものは分け合うのー」

「え、えっと……」

fireも気が削がれたのか、おろおろとした感じに俺を見る。

えっと、なんか嫌な予感がするんですが。

「……そうだよね。wingがして許されることを祐一が拒むわけ、ないよね?」

「そうだよー、ゆーいちやさしーもん」

「あ、あのな、お前ら?」

徐々に迫ってくる二人に無意識的に後ずさる。

あぁ、もう後ろ壁だし。これじゃ逃げられないし。

「ちゅー」

「ち、ちゅー……」

「う、うわああああああっ?!」

この後、このことが他の魔石にもバレ、キス責めに遭ったのは別の話。