フェイト=テスタロッサの朝は早い。
目覚ましの類は使っていないが、日々の目覚めの時間はあまり変わらない。
小さい頃につけた早寝早起きの習慣は、今でも続いている。

「…………ん」

軽くまばたきしてぼやけた目をはっきりさせると、ベッドに横たえていた体を起こす。
と、毛布が引っ張られる感覚に右へと目を流して、口元に笑みを浮かべた。

「ぅん……」

毛布に掛けた手の持ち主、アルフはまだ夢の中のようだ。
昨晩は少しばかり話し込んでしまい、そのまま一緒に寝てしまったのだと記憶を呼び覚ます。
軽く彼女の頭を撫でると、机の上に置かれた小さな時計を見る。
いつも通り、と起床時刻を確認して、その視界に入っていた窓の方へと顔を向けた。
壁の半分ほどを占める窓、さらにその先に視線を飛ばす。
そこに広がるのは何とも表現しにくい、歪曲したような光景――――要するに、次元空間。


フェイト=テスタロッサとその使い魔アルフがアースラに滞在するようになって、数週間。
二人はアースラの一室を宛がわれ、それを自室として生活していた。


この光景も見慣れてきたな、と思い、次いで、そういえばしばらく朝日を見てないな、と思う。
長期間次元航行を続けていると、朝や夜は時計の中だけでの話となる。
次元空間では太陽などはないため、通常の一日の時間経過に伴う景色の変化はないのだ。
もちろん、朝日や夕焼けといったものとも縁がない。


―――前に朝日を見たのはいつだっけ。
そんなことを思い立ち、半身に毛布をかぶせたまま思索にふける。
裁判の手続き等で、数日寝泊りをした時空管理局本局。
そこでの朝に光はあったが、自然の暖かさはなかった。
船である本局内においては、全ての光が人口灯だ。
その前となると、あの事件の時を過ごしたマンションの一室を思い出す。
だが、ここでも目的達成のために生活も不規則で、朝日の記憶も見当たらなかった。
ならば、さらにその前。
時の庭園。
それも、まだ次元航行に出ていない、ミッドチルダの辺境での暮らしの中。
自分と、途中から加わったアルフ、二人揃って起こされていたあの頃の目覚めには、暖かい朝日があった。
何も知らず、ただ一つの想いを胸に日々を過ごしていたあの頃。

だけど、自分たちを起こしてくれた教育係の彼女も、一途な想いを向けていたあの人も、今はもう―――――





「―――んー、フェイトぉ……?」

は、と気付けば、横で寝ていたアルフが、眠たげな様子でもぞもぞと動いていた。
思いっきり目をこすりながら、毛布を大きく揺らして体を起こす。
そしてこちらに向けた、まだ眠気の抜けていない顔の内には、少しの不安を覗かせていた。

「アルフ……」
「フェイト、どうかした?」

心配げな声で、アルフが聞いてくる。
使い魔とその主は精神リンクで繋がっており、使い魔は主の想いを感じることが出来る。
とはいえそれも起きている時の話であり、寝ている間もずっと感知し続けるわけではない。
アルフが起きてすぐに止まった思考だったが、それでもその短い間で何かを感じたようだった。

「ううん、何でもないよ、アルフ」
「そう? それならいんだけどさ……」

まだ引っかかる所があるようなアルフに微笑みを返して、毛布に手を回す。

「わたしはもう起きるけど、アルフは?」
「ん……、あたしも起きるよ。朝だしね」

応え、アルフはうーん、と伸びをする。
その様子を見ながら、毛布を取ろうとした手に、温度を感じた。
毛布に残った、二人分の温もり。
今でも隣にある暖かさに、笑みを深くする。





「まだ言ってなかったね。おはよう、アルフ」
「うん。おはよう、フェイト」







それは、フェイト=テスタロッサのある朝の風景だった。