2月25日の午後2時。俗に言う深夜の初音島にある芳乃家。
「……ふう」
この家の主でもある芳乃さくらは地下の未来演算装置に繋がっているパソコンから手を離して溜め息をつく。
彼女は今すごく悩んでいた。従兄弟である相沢祐一のことと友達である白河ことりについて。
この二人の関係が自分が思ったよりも進展していないことに悩んでいた。
「このままじゃ……やばいな。祐一君にまで振られたら今度こそ白河さん男性不信になっちゃう。そうならったらななかちゃんの存在が本当に消えちゃうよ」
そう。これから生まれてくる人間 白河ななかの消滅を防ぐこと。これが彼女が祐一とことりをくっつけようとする本当の理由だった。
本来白河ななかはことりの血筋関係はあっても直系ではなかった。だから、ことりが純一に振られて自分が音夢を救う為に『枯れない桜』を枯らしても何の支障もなかった。
だが、問題はその後だった。
半年前にアイシアが『枯れない桜』を復活させてしまったことが原因だった。
最終的にはアイシアが記憶を対価に『枯れない桜』を枯らしたが、それが引き金になってことりとななかの関係が変わってしまった。直系でないななかとことりの血縁関係が直系となってしまったのだ。
勿論さくらはそれを何度も修正しようとしアクセスも図った。だが、そのどれもが上手くいかなかった。
残された道は一つしかなかった。それはもう確定したシナリオ内で未来を変える事。
ことりに純一以外の恋人を作らせななかの存在を維持させる事。
だが、予想外にも転機はすぐに訪れる。風見学園でやった模試をキッカケにことりが再び恋をするようになったのだ。
その相手が自分の従兄弟である相沢祐一であると知った時は驚いたが。
しかし、さくらにとって尚更好都合な展開だった。祐一もさくらにとっては何とかしたかった人間だったからである。
「つまらない」とか「くだらない」と言って他人への興味を無くしてしまった従兄弟をことりなら変えられるかもしれない……そう思った。
それから二人の動向を監視し、時には後押ししたりもした。そして、全ては上手く行くかのように思えたが、一番の問題は祐一だった。
ことりの告白に対して未だに返事を出していないのだ。
バレンタインの時までには返事を出すと思っていたがまだ出していない。これは予想外だった。
ここ
「こうなったら、祐一君には卒業式終了後に初音島に来てもらうしかないね。一度バシッと言っといた方がいいし」
さくらは行儀悪く寝転がりながら呟く。そして……
「やっぱり最後は祐一君次第か。こういう展開になるとは予想していたけど何とかしないとな」
携帯電話で祐一宛にメールを送信した。
手をつなごう
2月25日朝7時25分……国立大の二次試験一日目の朝
「……よし。行くか」
相沢祐一はそう呟きながらホテルをあとにする。と言ってもチェックアウトした訳ではないので試験が今日の試験が終わったら又戻って来るのだが。
そして、30分後……何の問題もなく試験会場に到着する。
「ちっ……まだ試験まで30分もあるのか。10分前に入るつもりだったのに」
祐一は携帯電話に表示された時刻を見てそうぼやく。とその時だった。
「ダメですよ。そんな嫌味な言ったら」
後ろから声がする。
「その声は……ことりか」
「はい、おはようっす」
ことりはそう言って笑顔で挨拶をする。
「ええ、早目に着いた方が復習できますしね」
「まあ、それもそうだけど」
祐一はそう言って試験会場の方へと向かう。だが……
「ことり……どうしたんだ?」
そう。ことりはその場から全然動いていなかった。しかも、よく見ると膝が微かに震えていた。
「……今までは大丈夫だと思っていたのですが怖いんです。もし落ちたらどうしようって思うと進めなくて」
ことりのその言葉を聞いて祐一は彼女の元まで戻ることにする。
「そう心配するな。誰だってそう思う時はある。俺だって平気じゃない。怖いと思う時はある」
「えっ?」
「でも、そう言う時こそ自分にこう言い聞かせるんだ。努力は自分を裏切らないと。信じていれば叶うと」
「……信じていれば叶う?」
「うん。だから、行こう。自分を信じて」
祐一のその言葉を聞いてことりはコクンと頷く。
「ありがとうございます。そして……ごめんなさい。甘ったれたこと言って」
ことりはそう言って礼を言う。そして……
「よろしければでいいですが……試験会場に入るまで手をつないでくれませんか?」
少し顔を赤くして言う。ことりのその言葉に祐一は……
「いいよ……。それで君が落ち着くなら」
同意した。そして、二人は試験会場まで手をつないで入った。周囲の目がきつかったが……。
そして、翌日の夕方試験終了後……
「終わったな」
「終わりましたね」
祐一もことりも試験が終了してから大学のベンチで軽く一息つく。
「祐一君、この2日間の試験どうです?合格する自信ありますか?」
「やるだけのことは全てやった。よっぽどのことがなければ大丈夫だと思う」
「そうですか……。私もやるだけのことはやりましたけどやっぱり不安です。どの教科も一応全問解きましたけどね」
ことりは自信なさ気に言う。
「そうか。でもこの大学の入試は完璧に問題を解かなくてもある程度合っていれば部分点は貰える。だから、全問解いたことは正解だ」
「あはは。そうでしたね。って、それ予備校の合宿の時に祐一君が教えてくれたことですけど」
「そうだったな……。」
祐一は表情を変えずに言う。
「って、話変わりますけど今から何処かでパーッと何か食べに行きませんか?」
ことりは互いの第一志望の受験が終了した安心感からか祐一を食事に誘う。しかし……
「悪い。明日は俺の通ってる高校の卒業式なんだ。だから、無理。答辞とかもこれから考えないといけないし」
そう言って断る。
「そうですか。それは残念です……。」
祐一の返答にことりは本当に残念そうな顔になる。そんな彼女の顔を見て祐一は……
(だから、やめてくれよ……そんな顔をするのは。見てるこっちが辛くなるから)
そう思って思案顔になる。そして……
「……分かったよ。1時間くらいで済むのなら付き合うよ」
結局折れた。
「えっ……でも」
「明日のことなら新幹線の中で考えるから問題ない」
「……。」
祐一のその言葉にことりは何も言えなくなる。しかし数秒後……
「ありがとうございます」
笑顔で礼を言った。
それから10分後……
ど〜ん!!
二人はクリスマスの時に行った喫茶店に入ったが……祐一はことりが頼んだものに驚く。いや、驚くしかなかった。
「こ……ことり。これは一体?」
そう。ことりが頼んだのは大盛りパフェなのだが……誰がどう見ても大きい。量自体は栞が時々百花屋で食べる特大ジャンボアイスクリームの半分程度だがそれでも多い。
「大盛りパフェですよ。クリスマスの時に見つけたのですけど、その時は門限がありましたし。それに……受験が終わってから食べた方がいいかなと思いまして」
ことりはそう言って軽く笑う。
「それに祐一君も結構高いの頼んでるじゃないですか。そのコーヒー、ブルーマウンテンですし」
「ああ。受験が終わったからね。気分転換にはいいんだよ」
祐一は特に気にした様子も見せずにあっさりと言う。そして……
「まあ、とりあえずは受験終了と言うことでお疲れ様」
「ええ、お疲れ様です」
二人はそう言うとそれぞれが頼んだ物に口をつける。
「ことり、ところでさ……。」
「はい、何ですか?」
ブルーマウンテンを飲み終わった祐一がことりに質問する。
「結果発表の日まではどうするつもりなの?俺は明日の卒業式の後は暫くさくらの家に泊まるつもりだけど。メールで『卒業式が終わってから話したいことがあるから来てくれ』って書いてあったから」
「えっ?」
カターン。
祐一のその言葉にことりは思わずスプーンを落としてしまう。
「いや、この前受けた私大の受験の結果が出た日に工藤から電話があってね。合格したお礼がしたいから初音島に来て欲しいと言われたから行くつもりなんだけどさ。良かったらことりもどう?」
祐一がそこまで言ったその時だった。
(やっぱ叶ちゃんも祐一君のこと狙ってるじゃん)
ことりは祐一の言葉に思わず落ち込む。しかし……
(でも、と言うことは初音島に来るってことだよね。なら、チャンスでもあるかな)
そう考え直して元気になる。そんなことりに祐一は……
(表情がコロコロと……やっぱり読み辛い人だな)
と思っていた。
そんなやりとりをしながら時間は過ぎていく。
そして、それから40分後……
「ことりはこっちの方面で良かったっけ?」
二人は東京駅にいたがその時に祐一はことりを送っていくことにした。その理由は自分でも分からなかったが何故かそうしたかったのだ。
「ええ、ここで合ってます」
ことりは笑顔で答える。
「じゃあ、気をつけて」
「はい、祐一君もお気をつけて」
二人はそう言うとそのまま別れた。そして……
「さて……今から考えないとな。明日の卒業式で何て言うのかとどうやって水瀬家を出るのかを」
祐一はそう言うと考えながら自分が乗る新幹線へと向かう。
そして、それから27時間後……卒業式が終わってから9時間後、既に夜だった。
「ふう。やっと着いたか。この島に来るのも久しぶりだけどあまり変わらないな」
初音島に到着して祐一は軽く呟く。
校門を出た後、祐一はそのままの足で駅へと向かった。
最低限の荷物は卒業式前に前もって駅のコインロッカーに入れておいたし、水瀬家の自分の部屋にある荷物は秋子に郵送を頼んでおいたので問題なかった。
勿論名雪達は追ってきた。だが、フェイントをかけたり仲間割れを誘発させて何とか振り切ることができた。この島にいると気が付くのもまだ先だろう。彼女達が使うパソコンに数種類のダミー情報を流しておいたというのもあるが。
「って、純一達に会うのも久しぶりだな。一応、挨拶に行くか。暫くは隣に住むことになるんだしな」
祐一はそう言うと朝倉家へと向かう。
そして、20分後……
「着いたな」
朝倉家に到着する。
ピンポーン!!
祐一はチャイムを鳴らす。だが、反応はない。それでもう一度押すことにした。
ピンポーン!!
再び鳴らすがやはり反応はない。だが、その時だった。
「祐一君、気持ちは分かるけど今はそっとしておきなよ」
「えっ?」
祐一は後ろから聞こえてきたその声に振り返る。そこには……
「さ……さくらか」
そう。従兄弟である芳乃さくらが立っていた。そして、リビングからは……
「音夢〜やったぞ〜!!」
「兄さ〜ん!!」
従兄弟の朝倉純一とその義妹である朝倉音夢の声が聞こえてきた。どう見てもバカップルの会話にしか聞こえない。そんな二人に祐一は……
「何やってんだろう……。」
純一と音夢に呆れるしかなかった。
「今は放っておいて。お兄ちゃんが第一志望の大学に受かったのでああやって喜んでるだけ」
さくらは軽く一息ついて言う。
「そうか。なら、邪魔しない方がいいな」
「うん、そうだよ。じゃあ行こうか」
二人はそう言うと朝倉家をあとにする。
それから二人は芳乃家へと移る。
「祐一君にとってはここも久しぶりだね」
「そうだな。あの時はまだあの人も生きてたのにな」
「うん。でも、あの北の街で起きた事故がキッカケで来なくなったけどね」
「まあな。親父があの人のことを嫌ってたというのもあったけどな」
「にゃはは。そうだったね。祐一君のお父さんはお婆ちゃんのこと嫌ってたからね。実の親子だって言うのにね」
「ああ。親父は俺があの人のことを尋ねるたびにこう言ってたからな。『あいつのことなんか聞くな』ってね」
「うわ〜。それ祐一君のお父さんなら言いそうな台詞だけどホントに言ったんだ。でも、そう言いたくなる気持ちも分かるけどね」
「でもこの島にいた時は純一とはケンカばかりしてたな」
「うん。そんなこともあったね。でも、お兄ちゃんも大変だったんだよ。周りから祐一君と比較されてばかりいたからね。それでぐうたらさに一層磨きがかかったんだよね」
「そうなのか?あの時の俺にとってはあいつの方が羨ましかったけど。純一は手から和菓子を出すことができたのに俺にはそれができなかったから」
「にゃははは。そうだったね」
暫く居間でさくらの祖母の話や祐一の父親の話や思い出話に花を咲かせる。だが、それもさくらのこの質問で終わる。
「ところで聞くけどさあ……君は白河さんのことをどう思ってるの?」
「えっ?」
さくらのいきなりのその質問に祐一は言葉に詰まる。
「だってさあ、告白されたんでしょ?で、どう思ってるの?」
さくらはそう言って更に追い討ちをかける。
「……何と言えばいいのかは分からない。でも……彼女のことはもっと知りたいと思ってる。あの人は俺の心に近づいてくるから……。そして、会うたびに俺の色々なものを壊していく。だから、ある意味脅威を感じる」
「そう。でも、君にとってはその方がいいんじゃないの。白河さんと出会ってから君すごく変わったし」
「そうか?自分では分からないんだけど」
「うん。少し前までの君は周りに無関心って言うか、眼中にないって感じだったのに今は色んな意味で人間らしくなってる」
「……。」
さくらのその言葉を聞いて祐一は何も言うことができなかった。
「で、話を戻すけどさ君さっき白河さんのことをもっと知りたいと言ったよね。それって白河さんに興味があるってことじゃん。なら、もうある意味答えは出てるじゃん」
「……。」
さくらがそう言っても祐一は沈黙を解かない。
「まだだんまりか。この際だからハッキリ言うよ。君が素直に自分の気持ちを白河さんに伝えれば前に進めるんだよ。君も白河さんも」
「えっ……。」
さくらのその言葉で祐一はやっと言葉を返す。
「白河さんも君と同じなんだ。お兄ちゃんに失恋してからずっと時間が止まったままだった。いつもどこか悲しそうだった。でも、君のことを思い出した時から少しずつだけど変わり始めている。心を開き始めてる。だから……。」
「それが、君が俺とことりをくっつけようとした理由か」
祐一のその言葉にさくらはコクンと頷く。
「そうだよ。まあ正しくは理由の一つと言った方が正しいけど。でも、君は白河さんの世界を変えた。そして、白河さんも君の世界を変えた。だから、確信したんだ。君なら白河さんを救うことができるって……。」
「そんなのさくらの過大評価だ。俺ではことりを救うことなんてできない。だって、俺は今まで誰も心を開かずに誰も信じずに生きてきた人間なんだ。だから彼女の気持ちを分かってあげることはできない」
「そう言ってこれからも心を閉ざして人との間に壁を作って生きてく気?」
「ああ、そうだよ。人を信じれば人を傷つけたり自分が傷ついたり、裏切られたりばかりだった。だから……。」
祐一はそう言い切る。だが……
「くだらない。実にくだらない言い訳だね。それ」
さくらが呆れた顔で言い返した。
「……。」
さくらのその言葉に祐一は何も言えない。 『くだらない』と言われたことがショックだったから。
「君さ。今まで本当にいい出会いをしてなかったんだね。でもさ、君は気付いていないとは思うけど白河さんには心を開いてる。だから……。」
そして、さくらは祐一に一番伝えたかった言葉を伝える。
「お願いだから白河さんのことを信じてよ」
その時、祐一の脳裏に過去の出来事が思い浮かぶ。
野良犬が学園に入ってきた時に何もせず只成り行きをじっと見ているだけだったクラスメート達。
舞踏会の時に久瀬に先導される形で舞の悪口を言う他の参加者達。
舞の復学署名運動を行っていた自分と佐祐理を否定した生徒会の連中。
努力もせずに自分のことを妬みや嫉妬の目で見る者達。
何の疑問も抱かずにただ漫然と生きているだけの大人達。
見ていて信じることができず、『クズ』としか思えない人間ばかりだった。そして、全てが『くだらない』と思うようになった。
(俺は……あいつらみたいになりたくなんかない)
そう思っていたからこそ今まで勉強でもスポーツでも何でも一番でいた。だが、さっきのさくらの言葉でそうならないようにする為には本当はどうすればいいのかに気付く。
(いや、違う。あいつらみたいになりたくないのなら……前へ進むことだ。進むしかないじゃないか)
気が付くとぎゅっと握り拳を作っていた。
「……伝えればいいんだろ。ことりに素直に自分の気持ちを……。」
そして、祐一は決心したかのように言う。
「うん。そう、自分の口でちゃんとね。どういう返事をするにせよちゃんと素直に自分の気持ちを伝えるんだよ。それが白河さんに対する礼儀だからね」
さくらは笑顔で言う。そして……
「ついでに言うけど白河さんは休みの日の朝は桜公園にいることが多いから。だから、明日の朝辺りに行ってみなよ。じゃあ、おやすみ」
ことりが何処にいることが多いかを伝えると自分の部屋に戻っていった。
「……何処までもお節介な人だよ。君は」
そんなさくらに祐一はそう呟いてフッと笑みを浮かべる。
次の日の朝8時、祐一は芳乃家を出て桜公園へと向かう。理由は一つ。ことりに会って告白の返事を伝える為だ。
そして、暫く桜公園を散策すると見つけた。
ことりは桜の木をバックに唄っていた。
「うん、いい曲だな。全く音階が乱れてないし、きちんと声も出てる。それに……心に響く」
祐一がことりの歌を聴きながらそう呟いたその時だった。
「んっ?その声は祐一君?」
ことりも唄い終わったところで祐一の存在に気が付く。
「おはようっす。そして、お久し振りっす」
「ああ、お久し振りって……2日ぶりなんだけどね」
ことりと祐一はそう言って互いに挨拶をする。
「あっ、そう言えばそうでしたね」
「ああ全くだ」
二人はそう言って笑い合う。そして……
「ところで今日はどうして此処に?」
「君に告白の返事を伝える為に此処に来た」
祐一のその言葉にことりはごくっと息を飲む。
「それで……返事だけど。まだ俺は君のことが好きなのかどうかはまだ分からないけど……好きになり始めてるのかもしれない。君と一緒にいるとすごく楽しいんだ。それに、君のことには興味があるし知りたいと思っている。だから、君の事をもっと教えて欲しい。なので……俺でよければ付き合って下さい」
祐一はそう言って軽く頭を下げる。祐一のその言葉に対してことりは……
「……はい。私も祐一君の事をもっと知りたい。だから、私の方こそよろしくお願いします」
と笑顔で了承した。だが、その時だった。
「……悪い」
祐一がそう呟いた直後、彼の身体が突然ことりの身体に多い被さる。
祐一のいきなりのその行為にことりは取り乱しながらも嬉しそうにする。
「え……祐一君。ちょっと……。」
「……。」
しかし、祐一は何の反応も示さずにそのままことりの肩に全体重を預けたままだった。 だが、すぐに祐一が何故こんなことをしたのかが分かる。
「……すぅすぅ」
「……寝てますね」
そう。寝てるだけだった。
「この様子だと結構悩んだみたいですね。でも、私の告白にそこまで悩むのは予想外でしたけど嬉しいです。ありがとうございます」
ことりはそう言うと自分の身体では祐一の体重を支えきれないので、少し身体をよじりそのまま膝枕をする。そして……
チュッ!!
祐一の唇にキスをした。
「ふふっ、唇へのキスは告白した時にしたかったけどタイミング悪かったからね。そして……これからよろしくお願いします」
そう言って祐一の髪を撫でた。だが、その時だった。
ピリリリリリ!!
突然自分の携帯電話が鳴り出す。
「んっ、誰からだろう?」
ことりはポケットから自分の携帯電話を取り出し見てみるとメールが三通来ていた。そして、送信者を見てみると三通とも自分の親友からだった。そして、肝心のメールの内容は……
『告白の成功おめでとう。でも、私もまだ諦めてないから』
『ことりおめでとう。でも、何かあったら相沢君とっちゃうから覚悟しといてね』
『本当におめでとう。でも、相沢君のことを幸せにできなかったら許さない』
前から森川知子、佐伯加奈子、工藤叶のメールである。どれも祝福と警告のメールにしか読めない。
「あはは……三人とも見てたのか。でも、油断できないな」
ことりはもう笑うしかなかった。
「はぁ〜何やってんだか」
少し離れた場所から一部始終を見ていたさくらは少し呆れながら呟く。しかし、顔は何故か笑顔だった。
「でも、まあこれで計画の第一段階は終了。まだまだ気を抜くことはできないけど、二人なら大丈夫だよね。」
さくらはそう言うとその場を去った。
それから、暫くして二人の受けた国立大の入試の結果が出た。
結果は二人とも合格。一応合格発表の日に二人で大学まで結果を見に行ったが、合格者発表の掲示板で二人ともそれぞれの名前と番号を見つけることができた。
そして、理Vの合格者発表の掲示板で香里を見つけたが白くなっていた。どうやらダメだったようだ。
祐一は声をかけようとしたがやめておいた。
その1分後に同行者である北川をタコ殴りにしたからだ。ある意味八つ当たりだが、そんな彼女を止められる人間は皆無だった。結局30分後に大学の警備員に取り押さえられることになるが、理Vの合格者発表の掲示板は北川の血で変色し一部分が読み辛くなったというのは言うまでもない。
それから暫くして二人は大学で人通りの少ない場所に辿り着く。
「……全く香里も北川も何やってんだか」
「あははは……あれは凄かったすね」
祐一のその言葉を聞いてことりは驚きを含んだ顔で笑う。
「ああ、でも香里がこの大学落ちたのはある意味良かったと思う。もし、合格してたらと思うとぞっとするよ」
「北の街では大変だったんだね」
「まあな、結構ストレス溜まったよ」
「ええ、彼女を見て大変さは分かりました」
だが、ここで話は変わる。
「ところでさあ、ことりは下宿先は決まってるの?」
祐一のその一言で話題が変わる。そして、その祐一の質問に対してことりは……
「いえ、まだだけど」
舌を出して答える。
ここ
「そっか。なら、家に下宿しない?俺の実家実は東京なんだ。それに空いてる部屋はいっぱいあるし、母さんを説得すれば何とかなると思うから」
「へえ……祐一君の家に下宿か。……って、ええっ!?」
ことりは驚きのあまり大声を出してしまった。周りに祐一以外の人がいなかったらまだ良かったが、近くに赤ん坊がいたら絶対泣くだろうし又近くに年寄りがいたら確実に何処かの骨を折っていただろう。そう言いたくなるくらい大きな声だった。
「で……どうするの?やっぱりダメかな。二人暮しするって訳じゃないから了承してくれると思っていたけど」
祐一は両耳をそれぞれの手で塞ぎながら言う。そして、ことりは……
「いいっすよ。全然、大丈夫っす」
興奮しながら了承する。
「即決だな。でも、これで……いやこれからが始まりだな。と言うことでこれから色々あると思うけどよろしく」
祐一はそう言うとことりに手を差し出す。あの桜公園での告白の時のように。そして、ことりは……
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
そう言って祐一の手を掴んで握手した。そして……
「これからもきっと色々あると思うけど手をつないで進もう」
ことりは笑顔で言った。そして、その言葉に対して祐一は……
「ああ、そうだな。手をつないで共に行こうな」
祐一も笑顔でそう言って頷いた。
それから50年後……桜公園
「うん。これで完成っと……。」
相沢いや白河祐一はそう言うと自分のノート型パソコンを閉じる。しかし、その容姿は半世紀前と殆ど変わっていない。それは彼の従兄弟のさくらも同じなのだが知ってる人が今の祐一の姿を見たら驚くだろう。
「ふう。さくらも自分の仕事が大変だからって俺にまで仕事をおしつけるのはやめて欲しいよ。確かに姿はあの時から殆ど変わってないけどもう年金貰ってる歳なんだし」
とその時だった。
「やっほ〜。」
風見学園の学園長のさくらがやって来た。そして、祐一に缶コーヒーを渡す。
「……さくらか。まあ、丁度いいか。君が頼んだ書類の作成が丁度終わったところだったし」
祐一はさくらから缶コーヒーを受け取りながら言う。そして、ノート型パソコンからDVDを取り出してさくらに渡す。
「お疲れ様。いつもいつも悪いね」
「ああ、全くだよ。折角本業を引退してことりと共に隠居できると思った途端、君に風見学園の理事を押し付けられるしね」
「いつまでも根に持つね君は」
「当たり前だ。その所為で家族サービスに使える時間も激減したんだしな。それに、今度は学園長職も俺に押し付けそうだよ本当に」
祐一のその台詞にさくらはギクッとなる。
「そんな根拠何処にあるの?」
「さくらがいつも俺に押し付ける仕事だ。その殆どが学園長がやるべきことを理事である俺に代行させてるしな」
「別にいいじゃん。いい勉強になって。それにボクだってこんな身体だけどいつどうなるかは分からないんだし。そう言う時の為に代行できる人を育てておく必要はあると思わない?」
「確かにそうだが……別に俺じゃなくてもいいだろ。純一だって」
「ん〜お兄ちゃんはダメ。絶対『かったるい』って言うに決まってるし。それに音夢ちゃんも五月蝿く言うのが目に見えてるからね」
「それで、俺って訳か」
「うん。もしもの時は……ボクの身に何か遭った時は悪いけどお願いね」
さくらは笑顔で言った。そして、その言葉に対して祐一は……
「分かったよ。さくらの身に何かあった時は学園長だろうと何だろうとやってやるよ」
表情を変えずに言う。そして……
「……ありがとう」
さくらは少し悲し気な顔で礼を言った。だが、ここで話は変わる。
「でも、君と白河さんが結婚するまでは大変だったね」
「ああ、北の街のあいつ等……特に名雪がしぶとかったしな。他の奴等は佐伯さんや森川さんや工藤が協力してくれたから何とかなったけど。最後には結婚式の時に神父に変装して俺のことを誘拐しようと企んでたしな」
「にゃははは。そうだったね。でも、結局は暦先生に捕まって新薬の実験台にされたんだっけ」
「ああ、だからそれ以来名雪とは会ってない。何されるか分からんからな」
祐一はそう言ってフッと笑う。
「でも、大変なのはそれだけじゃなかったんじゃない。暦先生に殴られることも多かったじゃん」
「ああ。暦義姉さん家に遊びに来る度に聞くからな。『子供はまだなのか』ってね」
「うわっ、暦先生らしい」
「それで俺は『まだです』って言った途端にいつも殴られたな」
「……にゃははは。でも、それは祐一君も悪いよ。夫婦の営みをちゃんとしないんだしさ」
祐一のその言葉を聞いてさくらは笑う。
「でも、一番大変だったのはμ(ミュー)の件かな」
「確かにあれは君にとっては大変だったね。大切な物を失ったしね」
「ああ。沢井の自殺を止められなかった」
「……そうだったね」
「それに俺も沢井の研究に資金提供してたってことで人権団体から槍玉にあげられたしな。それでその時は本当に落ち込んだ」
「でも、白河さんがいたから立ち直れたんだっけ」
「ああ、ことりが励ましてくれたから立ち直れた」
話がそこまで進んだところで二人は笑う。
「やっぱり正解だったようだね。君と白河さんをくっつけたのは」
「それは偶然だろ。でも、ことりと出会って結婚したからこそ今の俺がある。その点では君には感謝してる」
祐一はそう言って立ち上がる。
「じゃあな。そろそろ行かないとことりとななかが怒るから俺は行くわ。今日は二人とさくらパークに行く約束をしていたから」
「そう。気をつけて。でも大変なんじゃない。家族サービスだと言っても孫娘の世話を押し付けられて」
さくらのその言葉に祐一は首をかしげる。
「!?何言ってるんだ?」
「ななかちゃんのことだよ。君と白河さんの孫娘でしょうが」
さくらのその言葉にようやく祐一は納得する。しかし、次に言う祐一の言葉はさくらを驚かせるものだった。
「いや、ななかは俺達の娘なんだけど。って、今まで言ってなかったか」
その言葉にさくらは固まってしまう。そして……
「ええ〜っ!!」
さくらの叫びがさくら公園中に響いた。
それから20分後……祐一はさくらパークの入場ゲートに到着する。
「ったく、さくらもいい歳こいてあんなでかい声出すなよ。ああ、まだ耳がキーンとする」
祐一は小声でそう呟く。と、その時だった。
「祐一君お待たせしてすみせん」
「お父さんお待たせ〜。」
妻である白河ことりと娘の白河ななかがやって来た。ちなみにだが、ことりの容姿も祐一やさくらと同様半世紀前と殆ど変わっていない。
「気にしなくていいよ。俺もついさっきここに着いたばかりだから」
祐一はそう言ってフッと笑う。だが……
「そのノート型パソコン専用のカバンからして……又仕事してたんですね。しかも、外で」
ことりに仕事をしていたことがバレてしまう。ちなみに白河家では家族サービスの日に仕事をすることは禁止と言う決まりがある。この決まり自体は過去に祐一が仕事のし過ぎで倒れたことが何度もあったのでことりが作ったものだ。
「何度も言いましたよね。家族サービスの日だけは仕事をしてはいけませんって」
「うっ……。」
ことりのその言葉に祐一はタジタジだった。そして……
「悪かった。又、さくらに仕事を押し付けられて……。」
祐一は謝罪する。
「なら、後でクレープを奢ってくださいね。それと今夜は……。」
「……分かった。でも、クレープは最後までちゃんと自分で食べてよね」
「うっ……痛いところを」
祐一のその言葉にことりはギクッとなった。しかし、その時だった。
「お父さんもお母さんも早く入ろうよ。時間が勿体無いよ」
ななかが二人に声をかける。そして……
「行くか。ななかとこうやって遊ぶのも久しぶりだし」
「そうですね」
二人はそう言うとななかの元へと走った。手をつなぎながら共に……。
〜おしまい〜
あとがき
菩提樹「どうも菩提樹です。中編SSの最終話です。でも、ラストはやっぱ意外でしたかね?」
祐一「ああ、全くだ。ラストなんか半世紀後の話になってるしな『D.C.U』を知らない人には分かり辛いぞ」
ことり「ええ、全くです。祐一君と結婚できたのは良かったですが……。」
菩提樹「子供ができるのが遅いと」
祐一・ことり「「ああ(ええ)。その通りだ(です)」」
菩提樹「だってななかは二人の孫娘よりも娘の方が面白いじゃないですか。『D.C.U』のさくらみたいで」
祐一「それはお前だけだ。ってその言葉はネタバレになるって」
ことり「そうです」
祐一「それに何で俺達はさくらと同じように半世紀後も殆ど容姿が変わらないんだよ。『D.C.U』の純一はちゃんと老けてるのに。まあそれなりに貫禄もあって一部のファンからは好評だがな」
菩提樹「祐一君の場合は『Kanon』本編で『奇跡の力』を使ったことが原因です。さくら嬢と同様殆ど歳をとってないのは『奇跡の力』の副作用と考えてもらえばいいです。そして、ことり嬢の場合は祐一君と共に生きることを選んだから殆ど歳をとらなくなったという訳です」
祐一「そういう理由か。でも、その所為で俺達苦労もしてるんだがな。もう年金貰う歳なのに今もこうして働いてるし」
ことり「ええ、私も40代過ぎた頃には同窓会とか出れなくなりました。それにこの前なんか音夢と鬼ゴッコするハメになりましたし」
菩提樹「……あはは大変ですね」
祐一・ことり「「お前(あなた)の所為だろうが(ですよ)!!」」
菩提樹「でも、二人ともこれからも又大変ですよ。何せラストのお話は『D.C.U』本編よりも少し前のお話ですから」
祐一「分かってる。でも、これからどんなことがあってもことりと進むさ。手をつないで」
ことり「はい、そうです。でも、少し違いますよ。ななかも合わせて三人でです」
祐一「そうだったな」
菩提樹「ありゃりゃ、すっかり二人の世界ですね。では、邪魔者の私はここで失礼します。それでは……。」