人と言うものは良くも悪くも変わっていくものだとよく言われているがそれは本当だと俺 相沢祐一は思う。
水瀬家の三人娘に栞と舞の五人を見ていると……。
あの奇跡から今まで以上に俺に甘えるようになったからだ。
好物をたかるのは何時もの事だが、何故かあいつ等の勉強についても俺が面倒を見る羽目になった。
まあ栞については香里が、舞については佐祐理さんも協力してくれているからまだいいが……。
名雪はいつも授業中に寝てばっかなので当然の如く成績は悪い。
そのせいか三年に進級できたのも補習と追試を受けてそれにパスしたからだ。
まあ補習と追試を受けたのは悪友である北川もだが……。
そして、あゆと真琴もギリギリのところで入学できたせいか成績ははっきり言って良くない。
なので二人も冬休みも夏休みと同様補習確定済みだ。
栞は頭の出来は悪くは無いが出席日数が少ないのが祟ってギリギリのところだ。
舞は卒業しているが佐祐理さんと同様怪我してしまったせいで大学入試は受けられなかった。
なので、今は予備校に通っている。
だが、目指している大学の合格確率が50%と油断できない状況だ。
俺は一応だが高校でも常に上からベスト4に入っている。
だからかもしれないが名雪達の面倒は必然的に俺がすることになった。
最近では名雪達のテストの点が落第点になる度に名雪達だけでなく俺までも呼び出される始末だ。
何時から俺はこいつ等の保護者になったといい加減突っ込みたくなってくる。
そして、季節は12月。
俺がこの街に来てからもうすぐ一年になる。
なので、おれはこの冬休みにこの北の街を出ることにした。
自分の受験勉強に集中したかったし、名雪達から少し離れた方がいいと思ったからだ。
それで予備校の合宿に参加することにした。
だが、俺はこの時まだ気が付いていなかった。
それがキッカケで彼女と出会うことになることに……。
突然のクリスマスプレゼント
そして、現在……12月24日のクリスマス・イヴ。
「……であるあらして、この問題は……。」
祐一は東京のとある予備校で講習を受けていた。
世間ではクリスマス・イヴだが、数ヵ月後に受験がある祐一達にはそれは関係ない。
勿論全ての受験生がそうと言う訳ではない。現にこの予備校でも講習をサボっている受講者は10数人程度だが確かにいる。
そう言う人達は余程の自信家かもう受験を諦めている人間のどちらかだが……。
ちなみに祐一は全日受講するつもりだ。クリスマス・イヴだからと言って受験勉強をサボるつもりは毛頭ない。
それに払った受講料が無駄になるからだ。まあ彼の場合はこの予備校主催の合宿の受講料は祐一自身が全額払っているという理由もあるのだが……。
そして、その日の授業を全て終えて予備校が用意した宿舎に帰ろうとしたその時だった。
「あのう、相沢君ですよね……。」
赤く長い髪をした少女が祐一に声をかけてきた。
「ああ、そうだけど……。」
祐一はぶっきらぼうに言葉を返す。
「これから、クラスのみんなとクリスマスの打ち上げをしに行くのですけどよろしければと思いまして……。」
少女のその言葉に祐一は少し考える。だが……
「悪いけど止めておく。今はそんな気分じゃないから」
祐一はその誘いを断った。
「そぉっすか……。」
少女は祐一のその返事に少しガッカリとした顔をして去っていった。だが、その時だった。
「なんだよあいつ偉そうに……。」
「そうだよな。あの白河さんの誘いを断りやがって……。」
「ウチのクラスで一番だからってあの態度、ムカつくよな……。」
「え〜っ、彼来ないの?ショッ〜ク〜。」
「彼には来て欲しかったのにな〜。」
周囲から不満と落胆の声が聞こえてきた。まあ、不満の声は男子生徒からで落胆の声は女子生徒からだったが……。
(あ〜あ又これか。何時もの事だからもう気にならないけど……やっぱ悪いことしたかな)
祐一は周囲の声を聞いて少し後悔した。
(明日、あの娘には謝っておこう)
そして、明日あの少女に又出会ったらちゃんと謝ろうと思いながら祐一は宿舎に戻ることにした。
それから30分後、祐一は宿舎に到着する。
「ふ〜っ、やっと到着か。やっぱ予備校から少し距離あるんじゃいのか?」
祐一はそうぼやきながら宿舎に入ろうとする。だが、その時だった。
「あのう、ちょっと待って下さい」
「えっ!?」
祐一は後ろから聞こえてきたその声に反応して後ろを振り向く。そこには……つい先程予備校で自分を打ち上げに誘った赤い長い髪をした少女が立っていた。
「確か……白河さんだったっけ。どうして君が此処に……。」
祐一は少し驚きながら質問する。
「私も……打ち上げに出るの止めましたから……。」
彼女はそう言って呼吸を整えながら答える。此処まで来るのに走ってきたのか息が荒かった。
「そう。でも良かったの?白河さんが出ないんじゃみんなガッカリすると思うけど」
「確かに悪いなあと思いますけど……私も相沢君が参加しないんじゃちょっとなあと思いましたので」
「!?」
祐一は彼女のその言葉の意味が分からず首をかしげる。
「……って自己紹介が遅れましたね。私の名前は白河ことりです。この予備校での順位は相沢君の一つ下の二位ですけどね。ちなみにことりと呼んでくれても構いません」
ことりはそう言ってあははと笑いながら自己紹介をした。
「じゃあ俺も。俺の名前は相沢祐一。名字じゃなくて祐一って呼んでくれても構わない」
祐一もお返しと自己紹介をした。そして……
「でも、何でことりは俺を追っかけてたの?俺も打ち上げのことで君に謝りたかったらいいんだけどさあ」
祐一はことりに自分を追っかけてた理由を尋ねる。
それに対してことりは両腕を組んで考える。だが、数秒後……
「その理由気になりますか?」
質問を質問で返してきた。
「まあ、一応は……。」
普段の祐一なら「質問を質問で返すな」と突っ込む所だが、何故か気になると答えてしまった。
「なら、ちょっと付き合ってくれませんか?」
ことりはそう言って祐一の腕を掴む。
「えっ、ちょっと……俺の腕を掴んで何処行くつもり?俺これから今日の復習と明日の予習をやりたいからここで理由を説明して欲しいんだけどさぁ……。」
「心配しなくてもいいですよ。最近見つけた喫茶店に行くだけですから」
ことりはそう言って祐一の言葉はお構い無しに進む。そんな彼女に祐一は……
(やっぱ打ち上げに参加しなかった事怒ってるんじゃないのか?)
と思わずにはいられなかった。
半ば強制的に喫茶店に行くことになった祐一だが……
「うん、確かに美味しい。何処の豆使ってるんだろう?」
すっかり馴染んでいた。
「でしょう?ここのコーヒー美味しいですよね」
ことりもいちごパフェを食べながら言う。
「ああ、確かにね。で、そろそろ何で俺を追っかけてたのかちゃんと説明してくれない?」
そこで祐一は一番気になっていたことを尋ねる。
「何でですか……そうですね。強いていれば今日この日この時間だけは貴方と一緒に過ごしたかったと思ったからです。せっかくのクリスマス・イヴですから」
「そうか。だから、打ち上げに俺も誘ったのか。でも……どうしてそんなに俺にこだわるの?俺が打ち上げに出ないと言ったら君も参加を取り止めるし。それに、そもそも君と出会ってまだそんなに時間も経ってない筈だけど」
「……。」
祐一のその言葉にことりは顔を真っ赤にしながら沈黙してしまう。
「あれ……どうしたの?この質問まずかった?」
祐一は少し慌てながら言う。
「いえ……別にまずくはないです」
「そう。でも、とてもそんな風には見えないんだけど」
「……。」
祐一のその言葉にことりは再び何も言えなくなる。しかし……
「今は答えられません。ですが……受験が終わってからなら言えます」
そう笑顔で答えた。
「そっか。なら、今は聞かないことにする。お互いにその方がいいと思うしね」
「ありがとうございます」
それから二人は色々なことを話した。
お互いに住んでいる街についてや友人関係やお互いの進路について……。
「そっか、ことりも俺と同じ大学を受験するつもりなんだ」
「ええ。でも、国立ですからまずセンターを通らないと駄目なんですけどね」
「それは、俺も同じだ」
「あっ、そうでしたね」
気が付くと二人とも笑っていた。予備校でのピリピリとした雰囲気も完全に抜けていた。
そして、それから一時間後……
「あっ、門限まで後三十分しかない」
祐一は腕時計を見て驚きながら言う。
「えっ……うわっ本当だね」
ことりも祐一ほどではないが驚く。
そして、二人はそれぞれの会計を済ませて喫茶店を出た。
ちなみに宿舎までダッシュしたという事を追記しておく。
二人は門限の五分前に宿舎に到着した。
「……何とか間に合ったな」
「……そうですね。でも、後ちょっと出るのが遅かったらまずかったですね」
二人は息を切らしながら言う。
「……そうだな。でも、セーフで良かったよ」
「確かにそぉっすね。門限過ぎたら物凄く説教されますからね」
そう。ことりの言う通りこの予備校の門限は厳しい。
実際、昨日門限を過ぎてから宿舎に戻ってきた受講生がいたが講師に四時間も説教されている。
ちなみに二人とも割り当てられた部屋は同じ階にあった。そして、二人は途中まで一緒に歩く。そして……
「じゃあな、ことり。又、明日からよろしくな」
「はい、お互いに頑張りましょう」
そう言ってそれぞれの部屋に戻る。だが、その時だった。
「あっ、祐一君。ちょっと待って下さい」
「どうした?」
「ちょっと忘れていたことがありました」
ことりはそう言って祐一の側まで戻って来た。そして……
チュッ!!
祐一の頬にキスをする。
「……ことり?」
祐一がそう言った瞬間、素早く唇を離す。
「私からのクリスマスプレゼントです。今日は本当にありがとうございました」
ことりはそう言って自分の部屋へと戻っていった。そして、祐一は……
「ことり……。どうして俺にキスなんか……。」
彼女がどうして自分にキスをしたのかが分からず暫く呆然となっていた。
部屋に戻る途中でも彼女がどうして自分にキスをしたのか考えるが、答えは思い浮かばなかった。
だが、これだけは簡単に予想できた。
ことりにキスされたことによって男子受講生を更に敵に廻してしまったと言うことを。
そして、色々と考えているうちに自分の部屋に到着する。
「はぁ……。明日から本当に不安だな……。」
そう言って自分の部屋へと入った。
〜おわり〜
あとがき
菩提樹「どうも本当にお久し振りの菩提樹です。こちらのHPにSSを投稿していない間に就職先が決まったりバイクで事故ったりと色々とありましたが、今回は初心に戻って祐一×ことりものを書いてみました。祐一×さやかもののSSは書いたことはありますが祐一×ことりもののSSはまだ書いてないと気が付きましたので。ちなみにこのシリーズはまだ続きます。今回はクリスマスと言うことでクリスマスもののお話ですが、次回は正月の話を書いてみようと思っています」
おまけ
その頃水瀬家では……
「ねえ、名雪さん……。」
「ねえ、名雪……。」
「何、二人ともそんな恨めしそうな顔をして」
「どうしてボク達が……。」
「どうして真琴達が……。」
「「クリスマスに女三人で特大ケーキをヤケ食いしなくちゃいけないの〜!?」」
二人は同時に同じ質問をする。
「仕方ないよ。お母さんは仕事だし、祐一も数日前からいないんだしさ」
名雪はアッサリと答える。
そんな名雪に対して真琴は……
「アンタが企画しといてその言い草は何なのよ〜!?」
そう言ってブチ切れた。そして、あゆも……
「そうだよ。名雪さんどう考えても間違ってるよ」
そう言ってブチ切れる。それに対して名雪は……
「うるさいんだぉ、このバカコンビ!!」
開き直ったのかキレ返す。そして……
「……まさかこんなことになるなんて私も思って無かったよ。でも、女だけのクリスマスがこんなにも惨めとは……せめて祐一がいてくれたらなぁ……。はぁ……何でクリスマスをこんなアホバカ二人と過ごさなくちゃいけないんだぉ……。」
グチグチと愚痴る。そんな名雪の愚痴を聞いて二人は……
「うぐぅ……アホバカとは酷いね。名雪さん……。」
「そうよ……。自分も留年になるくらいのピンチ状態だって言うのにね」
どうやら堪忍袋の緒が完全に切れたようだ。
ちなみにこの後三人は取っ組み合いを始めた。又、それによりケーキはグシャグシャに崩れて食べられなくなりそれ所かケーキのクリームでリビング全体が汚れた。
そして、次の日の朝に帰ってきた秋子によって三人とも二時間も説教され、謎ジャムを食べることとなった。