「はぁ……」
昼休み―――俺、河野貴明は昼食用に買っておいたサンドイッチに手も付けずにため息をつく。
高校に入って三回目の春。
空は澄み渡るように青く、それと対照的に映える薄桃色の桜の花が咲き誇る。
陽気もほんのり暖かく、まさに典型的ともいえる春の昼下がり。
そんな陽気だというのにため息をつく理由。それは……
「じゃあ、たかちゃん。ミステリ研の定例会議を始めるよーー!!」
部活紹介
by.JGJ
聞くな! 察しろ!! といっても無理な気がするだろうから説明をすると、
まず、ここは教室ではなく体育館の奥にある第二体育倉庫兼、俺が入っているミステリ研究会の部室である。
……ミステリーじゃないぞ? ミステリだ。
今、ミステリと聞いて推理とかそういった類のクラブを思い浮かべた奴。
あなたは正しい思考の持ち主だ。俺も最初はそう思った。
でも、ここはそういう無難な部ではなく、未確認飛行物体や生物―――つまりUFOやUMAを探し出す事が目的の部だったのだ。
当然、そんなある意味危ないクラブに部員が集まるはずも無く、
現在の部員は俺と会長である笠森花梨、あと数合わせに友人である雄二とかを適当に入れた五名とクラブ最低人員ギリギリのラインである。
で、なんで俺はこの部に入っているのかというと、最初脅されて入れられたのだが、まぁ紆余曲折あって花梨と恋人同士になったからなのだ。
……って誰に話してるんだろうな? 俺。
「はむはむ……たかちゃーん、むしゃむしゃ……何か考え事?」
「ってこら! 俺のタマゴサンドを勝手に食べるな!」
「何いってるんよ。私とたかちゃんの仲なんだから」
こ、この会長はぁ〜〜!
「ふぅ……で今日の議題は?」
「今日のテーマはねぇ〜『部活紹介』だよ! たかちゃん」
ブカツショーカイ? 何かすっごく普通な言葉が出た気が……
「それは新手のミステリースポットか何かか?」
「たかちゃん……部活紹介も知らないの?」
「違わい! 今までの活動からして、そんな普通の物がでてくるのを想像できるか!」
「よかった〜、もしマジだったら私、黄色い救急車を呼ばなきゃいけなかった所だったんよ」
さり気に酷いな、それ。
「で、何故に部活紹介?」
俺がそう聞くと花梨は指を左右に振りながら、
「ちっちっちっ、甘いよ! たかちゃん。私はこのミステリ研究会を後世にまで語り継がれるような立派なクラブにしたいんよ!」
「はぁあ?」
「その為にも私やたかちゃんの意思を継ぐ、第二の会長、会員を集めなきゃいけないんよ!!」
どこぞかの総帥も裸足で逃げ出すくらいの大演説を繰り広げる花梨。
まぁ、確かに今の俺達が抜けると下級生が居ないわけだから部員数は0。
とてもじゃないが部員のいない部を認めるほど学校側も懐が深くないだろう。
「だから、本当は出ないつもりだったんだけど、部の存続の為に出ることにしたの」
「ということは、部として残すなら五人、同好会可でも二人は勧誘しないといけないわけか」
正直、こんな部に入る人がいるのか……微妙だな。
「それで、紹介用の原稿を作ろうと思ってるんだけど、私、こういう作文苦手なんよ」
「成程、そういうことなら協力するよ。まず、部の名前と活動内容と場所。あとはその部の特徴的なものを紹介していくのが普通だよな」
主にサッカー部がリフティングしたり、書道部とかが作品を見せたりするようなやつだ。
「特徴的なもの……そうだ! たかちゃん! いいこと思いついちゃった」
「どうしたんだ? 何かいい案でも?」
「うん! UMAを見つけて連れて来たらいいんよ!」
……由真? あぁ、UMAか。
「却下だ」
「えぇ〜〜〜っ!! 何でなんよ?」
「というか、UMAなんてそう虫みたいにホイホイいるものじゃないだろう?」
失敗したら、本当に由真でも捕まえる気か?
「じゃあじゃあ、UFO『却下!!』最後までいわせてよ、たかちゃん」
「どうせUFOを呼べば、なんていう気だったんだろ?」
さすがにもう『ベントラ〜』は勘弁だ。
舞台でやったらそれこそ英雄になれる気がする。
「……たかちゃん。もしかしてエスパー?」
「花梨の場合だけな」
「それ、喜んでいいのか、馬鹿にされて怒るべきなのか複雑だよ」
複雑な顔をしている花梨を尻目に俺はメモ帳に文を連ねていく。
「そーいや、発表って入学式の後だよな?」
「うん、だから発表は明日なんよ」
それもまたいきなりだよなぁ……
「……こんなもんか?」
メモ帳を簡単に埋めた仮原稿を見せる。
「うん、OKだよ! でもこんな地味で部員が集まるかなぁ……」
「まっ、やらないよりはマシじゃないのか? 確かに認知されにくいとは思うけど」
「……そうだね。やらないよりかはマシだよね。それでね、たかちゃん」
「ん?」
「もし良かったらなんだけど……一緒に出てくれないかなぁ?」
まぁ、花梨一人に任せると切羽詰って『ベントラー』をやりかねないし、監視という意味でもいった方がいいかもな。
「わかった。花梨だけじゃ不安だしな。俺も出てやるよ」
「本当に? ありがとう、たかちゃん」
花梨はそういうなりこっちに抱きついてくる。
「ぬわっ、苦しい、苦しいって!」
胸が胸がぁ〜〜!!
キーンコーンカーンコーン
幸いにも丁度昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。
俺は花梨をひっぺがし、明日の説明を聞いて今日の会議はお開きとなったのだった。
「私達、茶道部は……」
俺達の前のクラブが発表をしている。
それを舞台袖から眺める俺ら。
「どうぞ……」
「不味い! もう一杯!!」
昔、流行ったCMのキャッチフレーズをお茶を飲み干した一人がいうと少し笑いが起きた。
「緊張するね……」
「あぁ、あんまりこういうのに慣れてないからな」
舞台の上に乗るなんて俺の人生でも数えるほどしかない気がする。
「ちゃんといえるか心配になってきたよ」
「肩肘張らずに普段通りでいいんだよ」
「それが難しいんよ、たかちゃん。自然にやってる事を意識してやるのって」
茶道部の紹介が佳境に入り、いよいよ俺達の番が近づいてくる。
「まっ、なにかあったらちゃんとフォローしてやるから。しっかりやろうぜ? 会長
あと、『ベントラー』はやるなよ?」
「あはは、わかってるんよ。たかちゃんを英雄にする訳にはいかないし」
『続いて、ミステリ研究会。お願いします』
「は、はい!?」
放送の後にぎこちなく歩き始める花梨。右手と右足が同時に出てるし。
「え、えーと……あー」
緊張のせいか、マイクの前で中々いい出せない様子。
俺は花梨から原稿をひったくると一歩前に出る。
「ミステリ研究会は、UFOやUMAといった未確認物体や不思議な現象について調査するクラブです」
なるべく怪しい印象を持たれない様に爽やかに読み上げていく。
「部員数は五名と小さなクラブですが、入る部活が決まって無くてUFOに興味があるような人は、ここ体育館の第二体育倉庫で休日を除くほぼ毎日活動していますので是非、見学に来てください。よろしくお願いします」
いい終わると俺はゆっくりと一礼をする。
花梨も少し緊張が解けたのか釣られて一礼をする。
パチパチパチパチ……
大きくは無いがちゃんと聞こえるくらいの拍手。
無難な紹介だけにしては反応はまずまずなのかもしれない。無反応よりかは幾分マシだし。
『ありがとうございました。続きまして……』
「ごめんね、たかちゃん。たかちゃんに全部任せちゃって……」
壇上から降りると花梨が小声で話しかけてくる。
「気にするなよ。彼女に頼られるなんて彼氏本望に尽きるからな」
「たかちゃん……」
そっぽを向きながら恥ずかしい事をいう俺。
多分、顔は発表の時よりも真っ赤だろう。
「……ありがとう。私、たかちゃんが彼氏でよかったよ」
「それにこれで可愛い女子部員でも入ってくれれば……」
「た、たかちゃん!? 浮気はダメなんよ!!」
俺が冗談だと諭すと、花梨は折角のいいムードが台無しだよと納得いかない顔で呟く。
「ははっ、じゃ帰るか? タマ姉達は薄情にもさっさと帰ってしまったようだし」
「ふふっ、それは薄情じゃなくて気を利かせてくれたんよ」
「……そうなのか?」
「そうなんよ」
「そうか」
もしそうなら、貸しを作っちゃ一番いけない人に作ってしまった気がするのは俺だけだろうか?
「じゃあ、今日はたかちゃんの奢りでヤックで打ち上げー!!」
「おいおい! 勝手に決めるよ……ったく」
体育館を出ると、陽はもう傾きかかっていた。
だけど恥ずかしさに赤く頬を染めた俺にとっては、花梨に頬を隠すのにはそれは都合が良かった。
後書き
花梨のキャラがわからなくなりました。(またかよ!?
初めてTH2をメインにSSを書いてみましたがどうでしょうか?
簡単に言えばヤマなし、オチなし、イミなし。
決してBLではないやおいですw
……ってダメじゃん。
2005年4月22日作成