蚊帳の外なサポート役二人の会話。




「ふぇ〜、なのはさんって凄い魔導師ですね〜」

「うーん、あれでも魔法を使うようになったのは最近なんだけどね」

「そうなんですか。とろこで、祐一さんも魔法使いになったのは数日前なんですよ」

「そう言ってたよね」

「二人とも、私よりずっと強いんです」

「僕は二人の動きを追うのも精一杯だよ」

「・・・・・・これでも私、元いた世界じゃ凄腕の魔術師って呼ばれてたんです」

「・・・・・・僕なんか、攻撃や封印は全部なのはに任せっきりだよ」

「・・・・・・・・・理不尽です」

「・・・・・・・・・才能、ってやつなんだよね」

「・・・・・・・・・・・・ふふふふふ」

「・・・・・・・・・・・・あはははは」


「ふふふふふふふふふふふふ・・・・・・」
「あははははははははははは・・・・・・」




魔石を回収しにきたのに現地の人に助けられたという同じ境遇のフィアとユーノ。

目の前で繰り広げられる自分達では到底できない戦闘を見て浮かべるのは乾いた笑い。





とゆーか、魔法も使わないでこんな淀んだ空気を作れる君らも十分驚異的なのではなかろうか。












魔法青年 相沢祐一

10幕と11幕の間くらいのお話 その3












―――冒頭よし少し時間を遡る。



結界の中、森の奥。

俺となのはちゃんはさっきと同じ場所で対峙していた。

その状況もさっきと同じようだが、場の雰囲気が明らかに違っている。

前は何というか話の流れみたいなものでああなっただけだが、今回は気が抜けない理由があるのだ。



「いつでも、いいですよ」

「ああ、分かってる」



一言だけ言葉を交わす。

互いに杖を相手に向けながらはらんでいる緊張感は、これからの戦闘訓練のため。

傷も完治していた俺は習うより慣れろ思考でなのはちゃんに訓練の相手を頼んだのだ。

それに対する返答は、了承。

聞けば、なのはちゃんもユンカース相手の戦闘訓練がしたかったとのこと。

それでも俺に迷惑だろうと言わないでいたらしいんだが、逆に提案されてその気になったそうだ。

まぁ、どんな理由にせよ訓練相手になってくれることは俺にとって好都合。

なのはちゃんに協力も出来て一石二鳥だ。



・・・・・・前を見る。

対峙してからなのはちゃんは動いていない。

経験面から俺が先手を打つことになっているのだ。

それでもなのはちゃんの魔法発動準備は完了しており、俺はどう魔法を使うか考えなければならなかった。

今までの様子から恐らく俺の方が攻撃力も防御力も低いだろう。

そしてこれらは、なのはちゃんのレベルまではそう簡単に上げられない。

そんな中で俺が有利な点と言えば、魔法の種類が多いユンカースを使えることだ。

これらの効果はついさっき確認したばかり。

あとはどう効果的に使えるか、だ。

ならば・・・・・・よし、これでいくか。

多少だがユンカースの使用方法と戦法を考えた俺は、気を引き締める。

そして、第一手となる魔法を発動させた。



「『fire』」



選んだのは最も使用回数の多い魔法だ。

呪文とともに現出した五つの炎弾。

それらは的確になのはちゃんへと向かう。

しかし、この程度の攻撃では有効打にはならないだろう。



『Flier finフライヤーフィン』



微かな機械音声――レイジングハートが発した音声が耳に届く。

そして発動した魔法の効果か、なのはちゃんの靴に一対の光の羽が生え、その体は空へ。

飛行魔法でかわしたのか・・・。

有効打にならないという予想通り、いや、完全にかわされたのだから予想以上の反応だ。

目標に当たらなかった炎弾を視界の隅に収めながら、しかし回避されることも一応想定しておいた俺は素早く次の呪文を唱える。



「『wing』、『ice』!」



飛翔。そして攻撃。

こちらも飛行魔法を使って空に浮くなのはちゃんに接近しながら、さらに発動した魔法で大量の氷の粒をつくった。

氷粒は上から降らせた方が効果がありそうだが、残念ながら遠すぎるので今回は自分の側から打ち出すことにする。

放たれる無数の氷弾はさながらマシンガンの様、しかも攻撃範囲はなのはちゃんの周りを含めかなりの広範囲。

これだけの範囲にばらまけば回避は難しいだろう。

かわさせず、防御させるための攻撃だ。



『Round shieldラウンドシールド』



微かな音と共に、なのはちゃんの前方に展開される魔方陣。

俺の狙いに気付いていないのかそれとも自信があるのか、回避ではなく防御を選んでくれた。

間を置かずなのはちゃんの元に届く氷弾。

しかし、やはり数が多くとも威力が低い氷の粒では防御壁に全て防がれる。




だが、それは予想通りの反応。

そして、この状況こそが真の狙い。




「ice」での攻撃を続けながら、俺は順調に進行した作戦に安堵する。

始めの「fire」への対処法に応じて発動した回避不能な「ice」は、防がせて動きを制限するためのもの。

間断なく放たれる氷粒は、一度防ぐことを選べば途中で防御を止めることは難しいからだ。

そうして動きがとれなくなったところが、魔法を直撃させる最大の好機となる。

俺はこのまま作戦が成功することを祈りつつ、次の魔法を発動した。



「いけ、『chain』!」



なのはちゃんの上下左右、四方に具現化する光の鎖。

直撃を狙うには防がれる可能性のある一方向からの攻撃よりも、多方向からの同時接近がいい。

その上捕獲の魔法である分、対衝撃・魔力攻撃のための防御魔法の影響も受けにくい。

なのはちゃんの四方向から迫り行く四本の鎖。

回避は出来ず、前方からの氷弾を防いでいる状態では多方向への防御も難しいはず。

これで動きが封じることができる!

俺はそう考え、鎖をさらに進ませたとき―――





「ディバインシューター、シュートッ!」





―――なのはちゃんの周囲に突如現れた四つの光の球が飛び出し、鎖を半ばから打ち砕いた。





「攻撃魔法!? そうか、迎撃なんて選択肢があったか!」



俺は砕け散って消滅する鎖を見ながら、思わず声を上げた。

しかも光球の強度は高いらしく、鎖を破壊した後も存在し続けている。

それらは素早く俺が放ち続けている「ice」の攻撃範囲から抜けると、一度動きを止めた。

何だ?

その動きに疑念を抱く。

が、次の瞬間、四つの魔力球が俺の方へと急加速してきた!



「誘導弾!? く、『speed』!!」



「ice」の使用を中断し、俺は慌てて速度を上げて回避行動を取る。

さすがに飛行と攻撃を同時に行いながらあれを防ぎきる自信はない。

視界の中の光景がものすごい勢いで移動したのは一瞬。

そして変わった視界では光球とだいぶ距離がとれており、かわすことに成功したようだ。

危なかったとほっとした俺の耳に届いたのは、機械音声。



『Flash moveフラッシュムーブ』



音声の発生源は上空。

見上げればなのはちゃんがこちらに杖を構えた状態で俺に狙いをつけていた。

その杖の先には魔力の光が集まっており―――



「――ッ! wall!!」

『Divine shooterディバインシューター』



放たれたのは一筋の光。

俺は寸前に発動できた防御魔法で防御壁を作る。

二種の魔力の激突は、俺のすぐ頭上。

発生したエネルギーは光となり目に入ってくるが、それは数瞬で終わった。

ふぅ、何とか防ぎきったか・・・。

俺へのダメージはない。

wallに魔力をつぎ込んだおかげだ。



「よし―――なっ!」



wallの維持を止めて一息ついた俺の視界の隅に動く影。

光を放つそれは、さっき鎖を砕いたなのはちゃんの魔力球だ。

一度はかわしたはずの四つの光球は、依然存在し続けて俺の元へと向かってきていた。

それも、俺の「chain」の時のように四方向からの同時接近。

く、ダメかっ!?

予想外の事態に呪文詠唱が間に合わない。

それでも俺の意思を読み取ったスペリオルブレイドはwallを構成するが、作れる防御壁は一方向のみ。

防ぎきれない残り三つ、迎撃や回避ができる状態じゃない。

もはや直撃が確実な光球を前に、俺は衝撃に備えるというよりも反射的に目を閉じてしまった。

だが―――










―――来るはずの衝撃は、いつまでたっても来なかった。



その事実を訝り、少し瞼を開いた視界にあったのは俺のすぐ側で停止してる魔力球。

瞬間、理解する。

俺に当たる寸前でなのはちゃんが止めた、ということを。





・・・・・・負けた、か。





今の攻撃、止められていなければ大ダメージを受けていたはずだろう。



勝てそうじゃないとは思ったが、こうもあっさりと負けるとはな・・・・・・。



その事実に、俺は少なからず気落ちした。

だが、落ち込んで立ち止まっているわけにはいかない。

ならば、どうするか。

答えは、すぐに出た。



「大丈夫ですか、祐一さん」



魔力球を遠ざけ、降りてきたなのはちゃんが声をかけてきた。

俺はそれへの返答と、もう一度のお願いを口に出すことを決める。



「ああ、問題ない。それと悪いんだが、もう一回訓練の相手、頼めるかな?」


「・・・はい。分かりました」



とにかく経験を積むしかない。

俺が至った答えはこうである。

その思いを汲んだのか、なのはちゃんは短く了承の意を伝えると距離をとって戦闘準備を始めた。

ありがたいことだ、後で何かお礼をした方がいいかもな。

なのはちゃんの様子にそう思うが、今はそれを考えるときじゃないと思い直す。

俺は気を取り直し、思考を一新し、再び杖を構える。

準備は、整った。



戦闘訓練、練習試合―――二回戦目の始まりだ。




















「まずは『light』!」



先攻はまたしても俺。

それに関しては気にすることなく、初撃として発動したのは「light」の電撃だ。

今日その効果を知ったのだが、この魔法、電気というだけあって伝わる速度が俺の使える全魔法中でトップ。

それでもなのはちゃん相手に直撃とまではいかないだろうが、対応するには急がざるを得ない。

つまり、多少は慌てさせることができるだろう、というのが俺の考えだ。

さらに俺は「light」と言った直後に今回の戦いでメインに使う予定の魔法を発動させる。



「『sword』」



剣を具現化する呪文。

それを口にし、一振りの剣が現れ始めた時。

既に電撃はなのはちゃんの目前に迫り。




杖を背中に括るのと同時に現出した剣を手にとった時。

電撃は虚空を貫いていた。




かわした! どこだっ!?

完全な回避行動がとられたことに若干の驚きはあるものの、かわされる可能性は考えていたので俺の反応は早い。

すぐさま周囲に目を馳せ、なのはちゃんの姿を探す。

何者かの影が映ったのは、僅かに上げた視界の上端。



――上っ!



瞬間、俺に向けられたなのはちゃんの杖から放たれる魔力の光。

前の戦闘でも使っていた「ディバインシューター」だろう。

状況もさっきと似ているので、俺は慌てることなく呪文を唱えられる。



「『speed』!」



魔法の効果で速度を上げた俺は、かなりのスピードでその場から移動する。

今度はなのはちゃんの攻撃が空を切り、そして俺のこの行動の本当の目的は回避ではない。

急上昇。

本当の目的は、なのはちゃんに接近することだ。

さっきの訓練で分かったが、なのはちゃんは中〜遠距離での戦闘が得意の様。

逆にこちらには「sword」など近距離用の魔法もある。

ならば、と、俺は接近戦に持ち込むことを今度の戦法の基本にするつもりだ。

それを意識して、俺は上がった速度を殺すことなく突き進みながら両手に持った剣を振り上げた。



「はあッ!」

「――っ!?」

『Round shieldラウンドシールド』



俺の攻撃に気付いたなのはちゃんが、一瞬で攻撃姿勢から片手を突き出して防御魔法を発動した。

やはり反応が早い。

それを意識する間もなく展開された魔方陣に激突する俺の剣。

だが、防御壁は完全に剣の進行を阻んでいる。

さすがに堅いっ!

速度を利用した攻撃も、一向に前に進まない。

俺は改めてなのはちゃんの防御力の高さを認識した。

しかしこのまま硬直するわけにはいかないので、とにかくすぐに次の手を考えようとする。

が、何かを思いつくより早くなのはちゃんの視線が俺の後ろに向いていることに気付いた。

何だ? 後ろに何か・・・まさかっ!!?

危機感を覚えた俺は慌てて「speed」で速度を上げ、後方、つまり地面の方へと離れる。

なのはちゃんの姿が離れていく視界の中で、つい数瞬前まで自分がいた場所を突き抜ける光―――





―――四つの魔力球だ。



「さっきの! まだ残ってたのかっ!?」

「ディバインシューター・・・」



地上へと突き進みながら思わず叫ぶが、なのはちゃんは早くも次の行動を起こしていた。

さっきの戦闘から残って俺を狙った四つの光球を操作しながら、新たに二つの魔力球を生み出していたのだ。



「・・・シュートッ!!」



計六つになった光弾、その全てがなのはちゃんの言葉で俺の方へと向かってくる。

直前に使った「speed」での落下速度が殺せていない今、回避は無理だ。

残る選択肢は防御か迎撃。

だが、防ぐということはその間の動きが止まると言うことだ。

それならっ!



「『fire』!!」



迎撃という選択肢を選ぶ。

発動した魔法で現れたのは十に及ぶ炎弾だ。

それらを一斉に魔力球を打ち落すべく打ち出していく。

数ではこちらが上。

さらに作られてから時間がたっている四つの魔力球は前ほどの威力はないだろう。

防ぎきってくれよ!

俺はそう祈りつつも、いざという場合に備えて体の落下を止めて姿勢を安定させる。

炎弾と光球が衝突したのは、その時だ。

ぶつかって爆発・四散する炎の塊は煙へと変わる。

激突の結果がどうなったか分からない煙幕の中。



それを突き破って来たのは、二つの光の筋だった。





「ダメかっ!」



二個残したと分かった俺は、すかさず「spped」を発動、回避行動を取る。

それで何とか一発目はかわせたが、もう一つはかわした俺の方向に軌道を変えてきた。

誘導性能・・・厄介な!

俺は魔力球の性質と先の戦闘での敗因を思い出し、魔力球はかわさず破壊しなければならないと気付く。

しかし、防御に徹して動きを止めたらいい的だ。

ならば、と、俺は両手に持った剣を構えた。

同時に「speed」の向きを反対方向に変更、光弾へと向ける。



「―――ハァッ!!」



速さを利用して振り下ろす、魔力の剣。

眼前で起こる衝突は、刹那。

剣と光球の直撃で生み出された光が最高潮に達した時。



甲高い音を立てて、魔力の剣と魔力球はともに砕け散った。





「な―――く、『speed』!」



そう簡単には壊れないだろうと思っていた魔力剣が砕けたことで一瞬呆然とした俺だが、すぐにその場から離れようとする。

動きを止めれば攻撃される。

さっきの戦いでそう知った俺は、周囲を把握し切れていない状態で一箇所にとどまるのはまずいと理解していたのだ。

俺の危惧は当たり、直前までいた場所をなのはちゃんの放った閃光が突き抜けていく。



っ、容赦ないよなぁ・・・。



訓練であることを忘れそうな激しい戦闘。

まぁ、下手に手を抜かれるよりはありがたいのだが、俺がかわせなかったらどうするつもりなのだろうか?

・・・・・・その時はスペリオルブレイドが防御魔法を発動させる、か。

だからこそスターライトブレイカーのような威力の高い魔法は使ってこないのだろうか。

とりあえずそう考えると大型魔法は心配しなくていいことになる。

となれば、俺はこの訓練中使ってくるなのはちゃんの魔法の性質を大体把握できたと言っていい。

高速移動と防御魔法、攻撃は発動が早い閃光と残る限りいつまでも追ってくる誘導弾だ。

やはりなのはちゃんの間合いは中〜遠距離。

ならば、俺はどうすべきか。

遠距離戦闘に切り替えるか、接近戦を続けるか。



・・・・・・接近戦、だな。



はっきり言って遠距離戦ではなのはちゃんの防御魔法を突破できる自信がない。

最大威力のアカシックバスターも杖を投げるため連射できないし、失敗したら終わりだ。

それなら近接戦闘を続けて隙を作らせるしかないだろう。

なのはちゃんと距離を取って回避を続けながらそう考えた俺は、接近戦用に呪文を唱える。



「『sword』」



再び具現化し、手に納まる剣。

その感触を確かめた俺は、まずさっきかわした最後の魔力球を消すことを考える。

単純に剣を叩きつけただけではこちらも壊れるので、とりあえず魔法で迎撃してみることにしよう。

俺はなのはちゃんにも注意を払いながら、自分の方に向かってくる光球を視界にいれて呪文を唱えた。



「『light』!」



選んだのは遠隔操作でかわす隙を与えないように、最速の攻撃魔法。

発生した電撃は一直線に光弾に向かい、命中した。

が、魔力球は依然残ったまま。

まぁ、魔力剣と同等の力を持つのだから仕方ないだろう。

俺はそれを予測して既に「speed」を唱えている。

光球の回避ではなく、それへの接近。

狙いは、光球の破壊。

速度を乗せて振り下ろすのは、魔力の剣。

「light」でのダメージを与えた今ならいけるはず!



両断。



俺の予想は的中。

魔力球に直撃した剣は、魔力球を真っ二つに切り裂いた。

よしっ! ・・・ん?

その結果に満足しながら、俺はふと気付く。

魔力球に残っていたものか、剣に電気がまとわりついていたのだ。

それはすぐに霧散していき、見えなくなり・・・・・・



・・・・・・これだっ!!



一見何でもないような今の現象。

だが、俺はそこから一つのアイデアを浮かべた。

すぐさまそのアイデアを元にイメージをつくり、実際に作ってみる。



「『sword』、『light』、二つの魔石の力を融合し今、新たな魔法として生まれ変われ!」



呪文と定型句をつなげて言い、発動に成功した新たな合成魔法。

俺の手の内に出来たのは、雷を纏った剣だった。

もちろん、電気は俺にはダメージを与えない。

ふむ、さしずめライトニングソードってとこか。

これで切ればライトニングスラッシュになるのか?

結構どうでもいいことを考えている俺は、ようやくなのはちゃんの攻撃がないことに気付いた。

どういうことかと目を向ければ、なのはちゃんは足元に魔方陣を展開して魔法を発動しようとしている。

生まれたのは五つの魔力球。

しかし、魔方陣つきで生成したということは前よりさらに強いということなのだろう。



実験には丁度いい。



新たな魔法のことを考えると、なのはちゃんの攻撃魔法は練習にもってこいだ。

剣だけのときと比べてどれだけ威力が上がってるか、光弾は試す相手に最適。

そう思った時には、なのはちゃんは五つのうち四つを打ち出してきた。

俺は雷を纏ったままの剣を構えて、こちらに向かってくる魔力球に狙いを定める。



「――はッ!!」



気合と共に振った剣は、光弾に接触。

僅かな手ごたえを残して魔力球を両断した。

よっしゃっ!

心の中で喝采をあげながら、残り三つに対しても続けざまに剣を振るう。

切れる。

さすがに四つ目になると押されがちになるが、それでも手元ですぐに魔力供給が出来るのは有利だ。

俺は魔力を剣に込めて四つ全ての光球を切り裂くと、なのはちゃんへ近づこうとする。

その時、なのはちゃんの視線が俺の背に向けられたような気がしたのだが、後ろに光弾はもう残っていない。

若干気にはなったが、あまり深く考えず俺は空を駆け抜ける。

なのはちゃんはどう動くか。

視界に映るその姿はかわすかと思いきや、逆にこっちに向かってきた。



「何ッ!?」



俺は驚くが、今さら速度を緩めることは出来ない。

なのはちゃんの狙いが読めないが、とにかくこの剣を使うことに変わりはないのだ。

雷を纏った剣を携えて、一気に近づく。

が、その距離がゼロになる直前、なのはちゃんの動きが止まった。

はっ、とした俺へと突き出された手から生まれたのは魔法陣。

防御魔法!

その発動にタイミングをずらされた俺は、剣を振るうものの全力とはいかなかった。

激突する剣と防御壁。

だが、これではやはり突破は出来ない。

さらに視界を動くものが一つ。

その存在に、まずい、と直感する。

そしてすぐ、さっき作っておきながら打ち出さなかった最後の魔力球だと気付いた。

慌てて回避行動を取ろうとするが―――



「―――なっ!?」



何故か自分の両手両足が動かない。

驚き見れば、四肢には光の輪がはめられていた。

拘束魔法ッ!?

前に一度見たことがあるこの魔法は、相手の両手両足を光の輪で縛るもの。

その対象となった俺は身動きが取れなくなっていた。

迫り来る魔力球を前にできるのは、防ごうという思考のみ。

その意思に反応した背のスペリオルブレイドはwallを発動しようとする。

だが、既に飛行と攻撃用に三つの魔法を使用しているせいで防御壁の構成が遅れてしまった。

間に合わない、と思ったときには、光球は俺の目前まで迫り、










さっきと同じく、当たる直前にその動きを止めた。





寸止め。

要するに、またなのはちゃんの勝ちだ。





「・・・大丈夫ですか、祐一さん」

「まあ、な。さすがに拘束魔法なんか使ってくるとは思わなかったよ。

 まだまだよなぁ・・・。それで、もう一回――」

「ダメです」

「――訓練を、って、え?」



俺は防御魔法を解除し、光弾と光輪を消滅させたなのはちゃんと言葉を交わす。

そこでもう一度訓練を頼もうとしたのだが、何故か言い切る前に拒否されてしまった。

いきなりどうしたんだ?



「・・・・・・やっぱり、気付いてないみたいですね」

「え、何を?」

「とりあえず、地上に降りましょう。それから話します」

「あ、ああ」



言いたいことが分からずに首をかしげる俺だが、なのはちゃんはもう高度を下げ始めている。

一人で浮いていてもしょうがないので、俺も地上に戻った。

そこにあったのは、先に降りたなのはちゃんとこちらに近づいてくるフィアとユーノ君の姿。



「なのは、お疲れ様」

「うん。ユーノ君も、もう結界はいいよ」

「そうだね」


「祐一さんも、お疲れ様です〜」

「ああ。サンキュ、フィア」



合流したフィアとユーノ君が俺やなのはに声をかけてきて、ユーノ君は結界を解除した。

視界に戻ってくる色。

で、俺はなのはちゃんに説明してもらうことになるのか。



「祐一さん、いいですか」

「ああ、どういうことなんだ?」

「ええと、短く言えば、問題は祐一さんの残った魔力です」

「魔力?」



理解できずに聞き返した俺に、なのはちゃんは、はい、と答えて説明を続ける。



「あれだけの戦闘を休憩も入れずに二回連続、それもこの前のユンカース封印から二日目に、です。

 怪我は直ってるみたいですけど、それはその分魔力を使ってるはずだから魔力は全快してないってことになります」

「ああ、そういえばそうか・・・。でも、あまり消耗してるって感じなかったんだけど・・・」

「うーん・・・慣れないと分かりにくいと思いますけど、どれだけ魔力が残ってるかを把握するのは重要ですから。

 気付いてなかったみたいですけど、訓練の最後の方で祐一さんの翼の光が弱くなってました」

「あ・・・」



はっ、と気付いた。

あの時の俺の背に向けられたなのはちゃんの視線はそういう意味だったのか。

じゃあ、最後わざわざ近づいて拘束魔法まで使ったのは訓練を早く終わらせるため、か?

でも、あれは少しでも防御が遅れたら危なくなる手段だったよな。

・・・・・・それも、訓練の続けたいって思ってた俺を気遣って、か?



「ぐはっ、よく考えれば俺はなのはちゃんに迷惑かけまくってたのか」

「でも、これから祐一さんが自分の魔力に注意してくれるならそれでいいですよ」



・・・・・・ありがたい言葉だ。

今の言葉、俺の失敗を否定はしていない。

だが、それを容認した上で次への糧へと変えてくれている。

・・・・・・なのはちゃんって、ホントよくできた子だな。

少なからず後悔の念を抱いていた俺は、そんな感想を抱いた。

魔法を使っているとはいえ、九才で高三のクラスにいるのは伊達じゃない、ってことか。



「――なんて偉そうに言ってますけど、今みたいな話はユーノ君の受け売りなんです。

 私も魔法が使えるようになってすぐは、結構注意されてたんですよ」

「・・・ふぅ、そっか。」



顔を笑みに変え、いたずらっぽく言葉を続けるなのはちゃん。

あれだけ言ってもらえてるんだ、悔やんで落ち込んでるわけにもいかないな。

今後の課題にはなるが、あまり引きずっていても無意味。

俺はため息一つで思考を切り替える。



「そうだな、これから気をつけることにするよ。それから、色々ありがとうな、なのはちゃん」

「はい。私の方もユンカースの性質を見ることが出来たので、こちらからもありがとう、です」

「ああ」



礼を言い合い、笑みを浮かべる俺達。



「う〜〜」

「抑えて抑えて」



何故か唸ってるフィア。宥めるユーノ君。

何だ? 何があったんだ?



「・・・さて、そろそろ戻りましょうか。ユーノ君も戻る?」

「ああ、うん」



そんな様子には何も言うことなく提案するなのはちゃん。

前半は家に戻るという意味だが、最後の「戻る」は違ったようだ。

ユーノ君は返事をすると光とともに小さくなっていき、フェレットに姿を変えた。

変身したユーノ君はしゃがんでかざしたなのはちゃんの手からのぼり、肩に乗っかる。

どうやらあそこがユーノ君の定位置らしいな。

その一連の自然な動作から俺はそう思う。

と、脇を見ると、漸く唸るのを止めたフィアも猫に変身していた。

そして猫のつぶらな瞳を俺の方に向けてくる。



「・・・つまり、フィアも肩に乗っかりたいとか?」

「そうです」



即答。

訓練の後なんだけどな、とか思わなくもないが、まあ大した重さじゃないので気にするほどのことじゃない。

俺は縞々の猫を抱きかかえ、肩に乗っける。

視線をずらすと何故かなのはちゃんが微妙に憮然としてる気がしたのだが、すぐに元の表情に戻っていた。

ん、どうしたんだ?



「それじゃあ、早く帰りましょう。もう結構遅くなっちゃいましたし」



普通に話を進めるなのはちゃん。

確かにもう夕暮れ時、家に帰らなければならない。

俺の疑問は解決しないままなのだが、まぁいいか。

言ってこないんだからそう大した事じゃないだろう。



「とりあえず森を抜けるか。道案内は俺でいいよな」

「はい、お願いします」

「それじゃ、帰りますか」



俺となのはちゃんは、肩に猫やフェレットを乗せて歩き始めた。

道すがら、魔力の残量の話を思い出すと何だかどっと疲れが出てきたような気がする。

今日は早く休んだ方がいいみたいだな。

帰宅後の行動を決めた俺は、その後なのはちゃんと雑談に花を咲かせながら森を抜けた。



「それでは、また明日」

「ああ。じゃあな、なのはちゃん」

「はい」



別れの挨拶を交わし、それぞれ帰るべき場所の方向に足を向ける。

そして、俺達は帰路に着いた。






























追記すべきことがある。



すっかり忘れてしまっていた、なのはちゃんを家に送り時間を遅らせるという言い訳計画。

悪いことに、出会った名雪達は俺となのはちゃんが別れるところを目撃していた。

そのためあの計画が使えなくなってしまったが、森でなのはちゃんのフェレットを探していたと内容変更。

これにより最大の危機を脱することに成功した。

ちなみに、後日事実確認を取ろうとした名雪たちの追及になのはちゃんは上手く誤魔化してくれ、こちらも問題なし。

さらに後日、戦闘訓練やこの件のお礼でなのはちゃんと買い物に行くことになるのだが、それはまた別のお話。


































あとがき



まず思ったのが、その3だけやたら長いということ。

実はその1とその2を足したより長いです。

バランスが悪いですね・・・・・・他にいいつなげ方が思いつかなかったのです。



というわけで。(無理矢理話題転換)



その2のあとがきで言った通り、なのはがやたら強くなってます。

「魔法青年」本編とだいぶちがうじゃないかと思われるでしょうが、彼女は打たれ弱いということにしておいてください。

・・・・・・防御できない攻撃が相手でなければなのはは強いんです。多分。きっと。



補足(?)

「ユーノがなのはに注意云々」の話。

TVではほとんど注意されてないので、違和感を覚える方もいらっしゃるかも知れませんが、

一応リリカルなのはサウンドステージ01での二人の会話を参考にしてます。

ハイ、それだけですね。



以上、「10幕と11幕の間くらいのお話」でした。

3次作の許可を出して頂いたJGJさん、どうもありがとうございました。

そして、ここまで読んでくださった方に感謝しつつ終わります。

それでは。