祐一のクラスに二人の少女が加わってから二日目。

その二人と魔法青年たる相沢祐一の仲はそれなりに良好。

特に魔法少女たる高町なのはとは、その方面での話の中で互いに相手の性格や行動を理解しつつあった。

もっとも、なのはからすれば祐一の行動に関しては日々の騒動で知りたくなくとも分かってしまうのだが。

とりあえず今日も今日とて、祐一は日々の騒動――五人の少女による街中での襲撃にあった。









・・・・・・・・・訂正、襲撃にあっている。












魔法青年 相沢祐一

10幕と11幕の間くらいのお話 その1












「祐一っ!! どこなのよーーーーーっっ!!!」










耳の届く真琴の叫び声。

それは徐々に遠くなっていく。



「ふぅ、何とか捲いたか。

 それと真琴、聞こえないと思うが大声は近所迷惑だぞ」



木々の中に身を隠しながら、俺は安堵の息を漏らしつつ無駄な突っ込みを入れる。

場所は街外れの、例の森の中。

完全に真琴が離れたことを確認すると、森の奥へと歩き始めた。





何でこんな所にいるかと言えば、もちろん俺に奢らせるため捕まえようとする五人の少女に見つからないようにするためだ。

なのはちゃんや満月が転入してきてからというもの、何故だかあいつらが俺に奢らせる量が増えた。

そのため俺の懐の寒さが以前にも増して順調に北上している。

このままでは早いうちに北極点に到達してしまうことだろう。

さすがにマイナスになるのは勘弁だ。

というわけで、今日俺は全身全霊を込めての大逃走劇を繰り広げることにした。

相沢ブレインによる精密な計算と、それに見合うだけの相沢パワーが見事に融合を果たした喜劇。

それは最も思考が単純な一人、真琴に狙いをつけることで見事に成功を収めた。

そして今、俺はこうして無事に身を隠すに至ったのだ。

だが、まだ絶対に安全というわけではない。

マイメモリーは今いる場所もあいつらの探索範囲に含まれていることを示し、警告を発している。

なるべく森の奥に入っておいた方がいいだろう。

ちなみに、この森から出て別の場所に向かおうとは思わない。

第一の理由は、幾度かの逃走でこの森の地の理は抑えていること。

第二の理由は、普段人の来ないここに誰かが侵入してきたとき、人のいる街中よりずっと早く気付けることだ。

下手に森を出るよりはここで体力を回復しておくべき。

そういう相沢ブレインの判断のもと、ある程度奥に行った俺は木によりかかって一休みすることにした。















休み始めてからどれくらいたっただろうか。

普段から腕時計はつけていないため確認することはできないが、体内時計は十数分くらいといっている。

失った体力を回復するには十分な時間だ。

林の中に自分以外の誰かの声が響いたのは、そんな時だった。



「ユーノく〜ん!!」



距離があるのか、聞き取れないくらいの小さな声。

だが、あいつらのものではないことだけは分かった。

あいつらの声を判別できなければ逃げ切ることは不可能だから、その聞き分けに関しては自信がある。

・・・・・・そんなことで自信を持たなければいけない現状に問題がある気がしないでもないが。



「ユーノく〜〜ん!!」



もう一度聞こえてくる声。どっかで聞いたことがあるような気がする。

その上さっきより近づいているようで、声が大きくなり内容も何となく聞き取れた。

どうやら誰かを呼んでいるようだが、こんな森の中に一体誰がいるというのだろうか。



「ユーノく〜〜ん!!」



さらに大きくなる声。やはり聞き覚えがあるが・・・・・・誰だったか。

とにかく、こちらにどんどん近づいているようだ。

ふと、その声とは別の音が耳に入った。

草を掻き分ける音――声の主にしては近すぎる上、音の種類的に人ではなく小型の動物だと推測する。

これもあいつらから逃げ回るうちに身についた技能だったりするのが、まぁなんとも。

それはともかく、その掻き分ける音も俺の元へと近づいてきている。

害はないだろうが、少し警戒しながら待っていた俺の目の前に現れた動物。

それは―――








「キュウゥゥゥゥゥゥゥ!!」


「ニャアァァァァァァァ!!」








―――フェレットと、それを追いかける縞々模様の猫だった。








ん? この縞々の猫、確か・・・・・・








「って、フィアッ!!? お前何やってんだっ!!?」


「んにゃ?」



俺の声に気付き、フェレットを追いかけるのを止めてこちらに振り向く猫。

その余りに自然な動作に危うく自信をなくしかけるが、あの猫は間違いなくフィアが変身した姿だ。

だったら何でフェレットなんか追い掛け回してるんだ・・・・・・?



「まさか・・・・・・ずっと猫の姿でいるうちに心まで猫に!?」

「そんなわけないです! 祐一さんは何を言ってるんですか・・・」



いきなり人語を、しかもあきれながら使う目の前の猫。

急に普通の状態に戻るなよ・・・。

などと心の中で突っ込んでいるうちに、さっきから聞こえていた声の主もここにやってきた。



「ユーノ君、ここ〜〜って、あれ? 祐一さん?」



草陰から現れたのは、学校で別れたはずのなのはちゃんだった。

そうか、どうりで聞き覚えがあると思ったら・・・・・・と、ちょっと待て。

一人で納得していた俺は、とある疑問に突き当たった。

彼女が発した名、「ユーノ君」は別世界から来た魔法使いであり、一度だが会ったことがある。

なのはちゃんはどうもその「ユーノ君」を探しているようだが、ここにいるのは俺と猫、そしてフェレットだけだ。

彼女以外に人が入ったようには感じておらず、さらになのはちゃんのここにいると確信しているような口ぶり。

つまり、消去法で「ユーノ君」はフィアに追いかけられていたフェレットということに・・・・・・?



「なのはちゃん、もしかして―――」

「ああ、ユーノ君! 大丈夫!?」



俺がその疑問を尋ねようとした瞬間、なのはちゃんが声を上げてフェレットの元に走っていって抱きかかえた。



「うん、なんとか・・・」



しかも、そのフェレットがフィアのように人語を喋った!

ふむ、フェレットが「ユーノ君」であるという、俺の予想は当たっていたらしい。

まあ、フィアの例があるのであまり驚かないが・・・・・・



「・・・・・・フィア、何でお前はユーノ君を追いかけてたんだ?」

「私と同じような魔法を使ってるみたいでしたので、話を聞こうと思っただけです。

 断じて心まで猫になったわけじゃないです」



俺の問いに、フィアは人の姿に戻って答えた。

ついでに少し拗ねている。

さっきのは失言だったか・・・。

何とかして宥めようと思ったところで、なのはちゃんから離れたユーノ君も人の姿に戻っていた。



「ふぅ、僕と話したいなら人がいない所で普通に話せばよかったのに」



ずいぶん追い掛け回されたらしいユーノ君が、フィアにぼやく。

その指摘にフィアは手をぽんと叩き、



「ああ、確かにそうした方がよかったですね。

 でもでも、ユーノさんは私の変身した状態を見たと思うんですけど、どうして近寄っただけで逃げちゃったんですか〜」



感心しつつももっともな事を言う。

確かにユーノ君は猫のフィアを見ているはず、それに近づいただけで何で逃げたんだ?



「いや、すぐには気付かなくて・・・・・・あと、まあ、過去の経験から体が勝手に動いたと言うか・・・・・・」



その疑問にユーノ君は言葉をぼかしたので、俺には意味が分からない。

だがなのはちゃんはその真意を理解したようで、乾いた笑いをしている。

うーん・・・・・・経験、経験・・・・・・猫に追い掛け回されたことでもあるんだろうか。



「あ、そういえば、祐一さんはどうしてこんな所にいるんですか?」



なのはちゃんが表情を戻し、考えをめぐらせていた俺に問いかけてくる。

まあ、当然の疑問だな。

こんな森の奥にわざわざ来る理由なんてそうそうありはしないだろう。

なのはちゃんが来たのはユーノ君を追ってきただけだろうし。

さて、どう説明するか、といってもそう難しいことでもないんだがな・・・。



「うん、まあ、あれだ。怒れる少女軍から逃れて、な」

「ああ、そういうことですか」



意外にもあっさりと理解したようななのはちゃん。

説明しなくてすむのは楽だが、たった二日で理解されるのか、俺の行動は。

っと、待てよ?

少しばかり悲壮感に浸った俺は、ふとこの状況を上手く使う手を思いついた。






走り出したフェレットを追いかけて林に入ったなのはちゃんだが、迷ってしまう。

それを偶然見つけた俺は追いかけ、フェレットを見つけたなのはちゃんを自宅まで送ってくことにする。

しかし予想以上に家は遠く、結果俺自身の帰宅も遅くなる―――






―――なんと完璧な言い訳かっ!


逃げ切れる度に何をしていたのか責められるので、毎度のことながら言い訳を考えるのが大変だったのだが・・・。

この言い訳なら全く問題ない。無問題だ。

我ながら現状を上手く利用したすばらしき名案っ! 相沢ブレイン絶好調っ!

よし、今日の言い訳はこれで決定だ。

後はあいつらがなのはちゃんに聞こうとするときのために、口裏を合わせておく必要がある。

これだけの思考を数秒でなし終えた俺は、すぐさま事情説明と協力を頼むことにした。










「・・・・・・・・・・・・というわけで、もしあいつらに聞かれても今みたいに言って欲しいんだけど」

「それはまた・・・分かりました。任せてください」

「おお、ありがとう、なのはちゃん!」

「その代わりと言っては何なんですけど・・・」

「ん、何だ? 今なら何でも聞いてやるぞ」



俺は自分の状況を説明して、なのはちゃんにも了解を得ることが出来た。

その喜びのためか、深く考えずにやたら軽い口調で返す。


・・・何でも?


返してから、今の発言の重要性に気付いた。

なのはちゃんに限って無茶は言わないと信じたいが、下手をすると可能性は無限大だ。


・・・まずいだろ。


やっぱ話を聞いてから、と言おうと俺が口を開くより先に、なのはちゃんの言葉が発せられた。





そしてそれは、無茶な頼みだった。





























「例のロスト・ロギア―――ユンカースを使って、私と戦ってくれませんか・・・?」






























ただし、俺の抱いた危惧とは全く別の意味で、だったが。


































あとがき



はじめまして、Ryoといいます。

この度はJGJさんの作品「魔法青年 相沢祐一」の3次作という形でこれを書かせていただきました。

内容は、まあ読んでの通りで、本編10幕と11幕の間の話という設定です。

発想の大本は、予想できるかもしれませんが、要するに魔法青年な祐一となのはを戦わせてみたいというものです。

・・・まだ戦闘には入ってないですが。



一応少し補足をしてみると、

「フェレットのユーノが猫に追い掛け回される」

というのは、「魔法少女リリカルなのは」ネタです。

知らない方は流してくれて構いません。

知ってる方は気付いてくれたら嬉しいです。



それでは、その2へと続きます。