※注意事項(必読)※
これはモンスターハンターの世界観を元に、多数の作品をクロスオーバーさせたものです。
ゲームであるモンスターハンターをこよなく愛する人にとっては許せない作品である可能性があります。
ゲームではありえないオリジナル設定、武器、戦法などが結構含まれており、それに耐えれそうな場合のみ先にお進みください。







MONSTER HUNTER
-CROSS WORUD-



Quest.2

【汝、惨劇を覆す悪役となれ】






 樹木が生い茂る場所がある。
 密林と呼ぶには物足りず、林と呼ぶには些か木々たちが成長しすぎた、森と表現すれば丁度良いくらいの場所だ。
 日光の半分を新緑にそめた葉で遮り、時折吹きすさぶ風に心地よいざわめきを奏でて、隣り合う木々がその枝を絡めない程度の間隔を保たれたそこは、時期も相まってか素晴らしい調和を保っていた。
 枝葉にとまり羽を休める小鳥たちの囀りも、幹のいびつな成長により生まれた空洞から身を乗り出す小動物も、見る者がいるなら心を癒されるだろう光景を惜しみなく展開している。
 そんな場所をゆっくりと歩む青年がいた。
 純白の鎧に身を固め、背には同じく純白の機殻を施された大剣を背負っている。
 背丈は大きく、体格もしっかりしており、金髪を程良く伸ばしたそれなりの美貌を誇る青年は、一見どこぞの貴族にも見えなくもないが、気だるそうに垂れ下がった目じりとやる気のなさそうな雰囲気がそれらを粉々に砕いていた。

「あー、いいねぇこの場所。昼寝にはもってこいだ」

 どうやらこの森林に癒されすぎたのか、幸せそうな顔で呟く。

「だってのにこんな糞面倒な事させやがって……ちくしょー、こんな事なら千里とバラバラじゃなく一緒に行きゃーよかったな。ここなんて膝枕してもらうには最高じゃねぇかよ。そのまま野外ってものおつなもんだし」

 内容は少し不純だった。
 青年、出雲覚はだるそう――事実、だるいのだろう――に欠伸をした。
 ――――さて、仕掛けてくるとしたらそろそろかね。
 弛みまくった気配はそのまま、あたりに向ける意識は鋭敏に。
 頃合いだろう、いい加減待つのはあきたので、襲いやすいように出雲はわざと隙をみせた。
 引っかかるか警戒するか、それを知るのは自分ではなく相手。
 前者なら蹴散らそう、後者なら少しは見直してやるか、そう思い出雲はさらに森林を進んで行く。
 数分歩くと開けた場所にでた。
 まるで木々が円環を描くような場所の中心には一つの石碑があった。
 出雲が近づき、自分と同等の高さを誇るその石碑に描かれた文字を目で追う。

「読めんな」

 至極当たり前のことをつぶやき、

「読めたとしても詰まらん。エロい文章だったら別だが……いや、こんな場所にひっそりとあるんだからもしかしたらエロい事の可能性が!」

 馬鹿な事を言い出した。
 しかも大真面目な表情をしてだ。
 今度は真剣に石碑の文字を最初から追いだし、先ほどの気だるさなど微塵も感じさせないその姿は別の意味で隙だらけだ。
 だから、仕掛けた。

「隙ありいいぃぃ!!」

 出雲の背後、草むらから飛び出す影があった。
 手には装飾のない無骨な片手剣が握られており、その反対には金属を加工しただけの小振りの盾を腕に固定した、出雲よりは若い少年だ。
 未だ抜けきらぬ幼さと未熟さを携えながらも、その身が放つ気迫はそれなりのもの。
 雄たけびを上げながら駆けだした脚をさらに早く、さらに力強く踏み出し加速、未だ振り向かない出雲の背中へ向け殺到する。
 少年の間合いまで後一歩。

「貰っ――――」
「馬鹿かお前」

 そして、出雲にとってはすでに間合いの内。
 最後の一歩を踏み出そうとした少年をその目で確認せぬまま、後ろへの回し蹴りを放つ。

「うがぁ!!」

 少年は大木で殴られたような衝撃を食らい、振りぬかれる脚と共に横へと飛ばされた。
 そのまま地面に叩きつけられそうになる直前、少年は器用に体をひねり体制を整え両足から着地、続いて片手で体を支えるように手をつき、地面を滑べるように土ぼこりを上げながら飛ばされた勢いを殺す。
 四メートルほど浅い溝を作り、少年の体はようやく止まった。
 しかしそこに迫るのは純白の大剣の振り下ろしだ。

「げっ!!」
「驚く暇あったらよけやがれ!」

 少年は言われるとおりに全力でよけた。
 直後、大地が斬り砕かれる衝撃は周囲を駆け廻り、木々で羽を休めていた小鳥たちが一斉に空へと飛び立つ。
 劈くような鳴き声の中、少年はほんの少し反応が遅れた自分の姿を想像し青ざめた表情をした。
 ――――おいおい、今はそんな事している暇あんのかよ?
 出雲は半ばあきれながら、地面に刀身の半分ほどめり込んだ己の大剣に力を込め、両足を踏ん張る。
 右手の握りを変え、左手はてこの原理を利用して大剣へと力を伝達せさた。
 結果は地面ごと切り裂く横へのなぎ払いだ。

「まじかよ!!」

 全力で避けたためか少年は未だ体勢を崩し、その予想外だった斬撃を回避する事は不可能だ。
 これで仕舞いか、と出雲は落胆を露にしながら、大剣を振り切る前に力を抜き、後は慣性力だけに任せることにした。
 衝撃――。
 後に残るのは体を二つに分かたれた少年、そして白い大剣を赤く染めた出雲の姿だけ。
 そのはずだった。
 柄を通して腕に伝わる感触、そして聞こえる軋みの音に出雲はほんの少し認識を改めた。
 これは肉を断ち切った時のものではなく、そして骨を砕いた音でもない。
 金属だ。
 出雲は己の大剣の影から少年を見る。
 彼は顔を顰めながらも、その瞳に宿る炎は消えてはいない。 
 少年は、未だ健在。
 刃が触れる直前、体との間に小振りの盾を滑り込ませることにより、両断されるのを回避したのだ。
 あの瞬間、少しでも遅れれば両断される刹那の間に、少年は最後まで諦めずにいた結果。

「上出来だ――――だが甘めぇ!!」

 だが、許された抵抗はそれだけ。
 出雲は途中で抜いた力を再び大剣に込めて、不完全な防御をした少年ごと弾き飛ばす。
 その勢いは先ほどの蹴りで飛ばされたものとは比べ物にならない程早く、今度は受け身もとれぬまま少年は地面に叩きつけられ、円環をなすうちの一本の樹木まで約十メートル以上を転がった。
 最後は背中から樹木の根に衝突し、呻きと共に倒れ伏した。

「が……ぐっ、いっ……てぇ」

 さすがにすぐ復帰できるダメージではないのか、少年は未だ地面に伏せ、力の籠らない足であがいていた。
 人ならば誰もが攻撃を躊躇するほど少年は痛々しく、容赦のない教官でさえも休めと言いたくなるだろう姿に出雲は、
 ――――さて、どうすっかねぇ、追撃してもいいんだが……さすがに後味わりぃよな。
 大剣を背に担ぎなおす間だけ思考し、
 ――――でもまぁこれも試練だ試練、頑張れ若人。
 と結論して少年へと走り出す。
 容赦のない奴だった。
 
「圭ちゃんに近づくなぁあ!!」

 しかし、出雲は背後から聞こえた叫び声と、それと共に来訪した銃弾により、進む方向を力づくで直角に曲げて少年への追撃をやめる。
 すぐ声の聞こえた方角を確認、そこにいたのは先ほどの少年と同年代だろう少女だ。
 手には些か趣味に走ったかのような奇抜なデザインをしたヘヴィボウガンが握られ、後ろで括りあげた緑の髪を荒々しく揺らしながら今にも泣きそうな瞳で出雲を殺さんばかりに睨んでいる。
 といよりほとんど泣いていた。
 銃口を出雲にあわせたまま少女は倒れた少年へと駆けより、間髪入れずに口を開く。

「圭ちゃんの馬鹿ぁ!! いきなり死にそうになってんじゃないわよぉ!!」
「ああ叫ぶな魅音!! 頭に響くって!」
「うるさいっ、見てるこっちの気にもなりなよ馬鹿!!」
「見てるなら援護しろよ!?」
「俺に任せろっていったのは圭ちゃんじゃん!! 奇襲するのに馬鹿声あげたのも圭ちゃんだもん!!」
「それと援護しないのは関係ないだろ!」
「最後はしたよ! じゃなきゃ今頃真っ二つだったんだからね!」

 騒ぎ散らす少年少女に、出雲は溜息をついた。
 そして負けないぐらい大きな声で叫ぶ。

「おらお前ら! 痴話喧嘩なら後でしろ後で! 千里と離れ離れになった俺への当てつけかおい!!」
「ち、痴話喧嘩なんかじゃねーよ!」
「そ、そうだよ出雲さん! 私がなんで圭ちゃんとそんな事しなくちゃいけないのさ!!」

 もう元気を取り戻したのか大声で叫ぶ少年、前原圭一は先ほど駆け付けた泣き顔の少女、園崎魅音と共に顔を真っ赤に染めて反論。
 説得力はない。

「大体だな、お前ら――――今は戦闘中だ」

 出雲の立っていた地面が砕けた。
 直立の体制から一瞬で体を沈め、強靭な足腰から生み出された踏み込みがもたらした結果だ。
 そこからの速度は驚きで硬直する圭一たち傍へ近づくまで、数秒もかからない。
 出雲の手はすでに大剣の柄を握り、いつでも抜剣できる状態がゆえその速度の一切を殺さず、無駄がないながらも豪快な身のこなしから斬撃を繰り出した。
 大剣特有である納刀状態からの一撃、それは数多の武器の中でも最高の速度と最上の威力を備えている。
 防げはしない、回避も困難であるその一撃は、

「な、めんなぁぁああぁあ!!」

 横でも後ろでもない、斬撃の方角、唯一の隙間にて最大の危険地帯、そこに突っ込んだ圭一には当たらず、先ほどと同様に地面を砕き斬った。
 接触。
 もはや衝突とでも表現できる勢いで二人は交差した。
 しかし片や大柄で引き締まった肉体を持つ出雲、片や成長しきれていない小柄で未熟な肉体である圭一では結果は見えている。

「男と抱き合う趣味はねぇー!!」
「ぶはぁっ!!」

 圭一の決死の体当たりは気合い一発で吹き飛ばされた。
 飛ばされた圭一は、ほんの少し滞空した後辛うじて着地できたがすぐに膝をついてしまう。
 両断を避けたものの、大柄な出雲の突撃に自ら突っ込んだ圭一へのダメージは決して無視できるものではなった。
 先ほど飛ばされ、木に激突した損傷もまだ癒えぬ内にだ。
 常人ならしばらく歩くことさえままならぬだろう。
 しかし、出雲は思う。
 ――――この程度でへばってちゃ、この先やってらんねぇぞ。
 彼らが歩もうとする道は、今以上の危機と隣り合わせになり、そしてそれを乗り越えなければならない過酷な世界だ。
 常人では生きてはいけぬ、多少腕に覚えがある程度でも生きては帰れぬ世界だからこそ、越えねばならない問題は山をなすほどにある。
 だが知識なら先人達から学べばいい、経験なら否が応でも身につくだろう、仲間たちの絆はすでに十分すぎるほどにある彼らに残されたものは、現時点での実力がどれほど危ういかという事実を知ることだ。
 なら自分が出来る事は徹底的に叩き潰すこと。
 彼らがどれだけ未熟で、どこまで間抜けで、どれほど危うい存在かを身をもって知らせるまで。
 そう考える出雲だから、今だ驚きに身を固める魅音、まだ成熟しきれない少女にさえ容赦はしない。
 別に、目の前で仲良く痴話喧嘩されて腹がたったからとかではない。
 決してない。
 出雲はそう心の中で決めた。
 だから行動に移る。
 地面にめり込んだ己が大剣を使い疾走した勢いを殺し、同時、次の攻撃への流れを生み出す。

「――――ッ! このぉ!!」

 一泊遅れて魅音がボウガンを構えるが、それ自体が間違いだ。
 ボウガンは遠距離からの攻撃が可能であると同時に、近距離では得てして役に立たない特徴をもつ。
 それは相手が人にしろ、モンスターにしても同義だ。
 故に、距離を詰められたボウガン使い、ガンナーが取るべき行動は標準を合わせることよりも、いち早く標的との距離をとることに絞られる。
 圭一を目の前で弾き飛ばされたショックか、今だ足りない経験からの悪手か、どちらにせよ、魅音は間違いを犯したのだ。
 そしてそれ即ち、減点対象体罰執行なのである。
 完全に勢いが止まる前、出雲は残ったその勢いを直進のベクトルから、足を基点に回転力へと変換、横一文字に剣を振るった。

「つーわけでお前もぶっとべ!!」
「どーゆーわけよー!!」

 大剣の横薙ぎの一撃を魅音はそのボウガンを盾にすることで防いだが、先ほど圭一が吹っ飛ばされた一撃に近いものだ。
 華奢な魅音が防げるはずもなく、言葉通り森の中へと吹っ飛ばされていく。
 偶然か出雲が狙ったのかは定かではないが、そこは圭一が未だ膝をついていた場所だった。
 結果。

「なっ、魅お―――ぐべっ!!」
「うきゃぁあ!!」

 ぶつかり合う二人、そして転がりあう二人、ごーろごろと。
 回転が止まれば、地面に仰向けで倒れる魅音、そこに覆いかぶさるように倒れる圭一。

「い、いったぁ〜い……」
「痛いのは……こっちだ馬鹿」

 エロい体勢だった。
 どれくらいエロいかといえば、ガンナーが装着する武具は機動性を重視しているため、前衛である剣士たちと比べれば若干露出度が高く、特に今魅音が装備しているのはひざ上に裾があるミニスカート状の防具かと疑いを持ちそうなものであり、もつれあった結果から些かめくりあげられ、見えそうで見えない微妙な状態に若さ特有である瑞々しく健康そうな生足が凄まじいエロさを演出していた。
 さらにその足は圭一の足と絡み合い、体に受けた衝撃からかその頬は上気しほんのり赤く、先ほど瞳を濡らした涙の軌跡がなんとも言えない表情を形作っている。
 繰り返して言えば、圭一はその年の割には果てしなくエロい雰囲気を纏う魅音に覆いかぶさっているのだ。
 傍から見れば確実に誤解されるエロい体勢だ。
 傍から見なくても絶対に誤解されるエロい体勢だ。
 何度も言おう。
 エロい体勢だった。
 そして二人は気づいた。

「けっけけけっっ!! 圭ちゃん!!」
「み、魅音! なんて格好してやがんだよ!」
「したくてしてるわけじゃないもん!! いーからどいてよ、おきあがれないんだから!?」
「お、起き上がれったって……体が言うこときかねーんだよ!」
「そんな大声だせるなら動けるはずでしょ馬鹿ー!!」

 再び口論を始める二人。
 降り注ぐ大剣。

「のわーー!!」
「きゃわあーー!!」

 互いを全力で弾き飛ばすことによってそれを回避する二人。

「おし、わかった。お前ら俺をなめてるな。んで同時に千里と別行動をとったあてつけと言わんばかりにいちゃつくつもりだな。良く分かった。すげーわかったよ。死ね」
「すっごい飛躍してねーかおい!!」
「んじゃくたばれ」
「大してちがってなーい!?」

 叫びを無視して振り下ろし、そのまま身を回転させての横なぎ、繋ぐ流れは斬りあげと、止まらない攻撃を繰り返す出雲。
 一撃一撃が必死、彼が剣を振るえば大地が砕け、木々が千切れ飛ぶ。
 容赦はせずとも、多少の加減はしていた出雲だったが、もはやそれもやめたらしい。
 圭一と魅音は繰り出される一撃ごとに寿命を縮めながら、辛うじて回避して森の中をひたすらに逃げ回る。

「け、圭ちゃん!! 予定変更っ、地点BからFに!」
「んな無茶な!!」
「無茶でもやらなきゃどうにもならないで――――きゃあああ!!」
「あーもーお前らが会話してるだけでなんかムカつくわ。日頃のストレスだな、真面目に生きてると疲れるぜ」
「あんたほど真面目って言葉が合わない奴いねーよ!」
「そりゃそうだな、なんたっておれは生真面目だ。千里が何所が弱くてどこを攻めればいいかきっちり把握してるからな」
「――――ッッ!! セクハラ禁止ーー!!」
「はっはっは、これくらいで赤くなるか普通。初心だなー、最初は千里も…………いや、最初からあの調子か?」
「知るか!!」
「知らないわよ!!」
「当たり前だ。お前らが知ってて堪るか」
「んじゃ聞くなー!!」

 叫ぶ二人と対照的に淡々としゃべる出雲だが、繰り出す攻撃は苛烈だった。
 隙を見てなんとか反撃する圭一だが、懐に入る以前に吹き飛ばされ、魅音の銃撃は当たらない。
 圭一たちにとっては理不尽な実力差が、惜しみもなく展開されていた。
 出雲は攻撃を絶やすことなく、どこまで耐えられるかをほんの少しの楽しみに、どこまで虐められるかに期待して、どれくらい憂さ晴らしができるかなと考え、終わらせるに丁度良い時間を計っていた。
 戦闘が始まって、約十分。
 ――――足りねぇな。
 まだ、全然足りない。
 叩き潰すのも、吹き飛ばすのも、反撃もされるのも撃たれるのも避けるのも考えるのも憂さを晴らすのも鍛えるのも鍛えさせるのもまだ、まだまだ足りていない。
 だから、と出雲はさらに攻撃の間隔を狭め、苛烈だった大剣の嵐をさらに暴虐のものへと高めていく。
 お前らが進み、越えてゆく未来はこれ以上酷いものだと、知らしめるために。




◆  ◇  ◆  ◇  ◆





 静穏な森林だったそこは、一人の青年によって騒然たる状況だった。
 木々が砕け、岩が砕け、地面もが砕け散る轟音、伴う鳥たちの羽ばたきに悲鳴ともとれる鳴き声。
 環境破壊でしかないそれは留まることを知らず、青年が追う二人、少年と少女の進行方向へと拡大してく。
 まずいな、と少年、前原圭一は思った。
 予想はしていた実力が、図りきれぬ領域だったこと、それでもなおまだ全力ではないだろうと思わせる青年、出雲覚の底知れぬ力に。
 最初から敵うとは思っていなかった、まだ駆け出しの自分と多少の経験を積んだ程度の少女、園崎魅音とでは一撃を入れられるのが関の山だと、そう考えていた。
 現実は、それを軽く凌駕していた。
 隙の大きいはずの大剣を扱う出雲だったら、小回りと機動力がものを言う片手剣を得物として扱う自分ならいけるはずという考え。 そんなものは最初の攻防だけで砕け散った。
 後はただ生き延びるためだけに動き、牽制し、逃げ回るだけ。
 ――――てか無茶苦茶だろこんなの!!
 もはや全ての力を回避と受け流すことに集中している圭一は心の中だけで叫んだ。
 そうしなければやっていけない。

「せい――!!」
「なろぉ!!」

 出雲が持つ大剣の大上段、振り下ろされる一撃に、圭一は左へステップすることにより回避した。
 空気ごと押しつぶされそうな圧力を肌に感じ、直後――衝撃。
 大剣が地面を抉った。
 伝達される振動と衝撃はともに強烈、それに体勢を崩さぬよう圭一は踏ん張る力を強める。
 最初の攻防は、このあとの横なぎにやられた。
 だけど、今度はそうはいかない。
 左へ重心を移動したまま、圭一は前へ体勢を倒し、許される限りの力を左足に込めた。
 力の反動。
 抑え込まれたバネが弾けるように、圭一の体は出雲へと殺到する。
 出雲の大剣は未だ地面に突き刺さったまま、ならばこの一瞬、攻撃後の硬直を逃さぬために。
 剣は振るのでなく、最小の動きで効果のある突きの動作。
 しかしそれは迷いなく剣を離し、距離をとった出雲には届かなかった。
 追撃、出雲が手放した大剣、その柄を蹴りさらに肉薄。
 今度は刃を上にしての切り上げ、返し切り下ろし、勢いはとどめず回転しての横なぎを放つ。
 しかし、当たらない。
 一撃目は首をそらすだけで軌道は外れ、返しの刃は距離を取られ空を切る。
 繋ぐ回転切りには、カウンターで硬い拳を顔面に入れられ体ごと吹っ飛び不発となった。
 鼻から熱いものがあふれ、一瞬呼吸が止まる。
 しかし意識はしっかりと保ち、飛ばされた体が着地すると同時にさらに後ろに飛び距離を取る。
 垂れた血を片手で強引にふき取り、圭一は叫んだ。

「だああッ、やっぱ無理だって魅音!! 何で素手で戦ってんのこいつ! しかも何でおれ負けてんだよ!!」
「負けたのは圭ちゃんが弱いからにきまってんじゃん!!」
「傷つくことをさらっと言うなーー!!」

 圭一は後方にいる魅音と怒鳴り合いを続けながら、しかし視線は以前出雲から離さない。
 出雲は慌てるわけでもなく大剣へと歩みより、片手だけで地面から抜き取った。

「はぁ……詰まらんな。いい加減終わらしていいか? いいよな、うんいいはずだ」
「何もいってねーって!」
「なら頑張れよ。精々死なねーよーにな!!」

 再び出雲が加速する。
 地面を砕き割る、爆発的な踏み込みからの突進だ。
 圭一はこの突進によって吹き飛ばされたが、それは不意を突かれたからであり、今度は負けがわかりきっている体のぶつけ合いなどしない。

「そう簡単にくたばるかよ!!」

 半歩下がってタイミングを計り、相手の間合いに入る直前、圭一は反転、出雲に背を向けて走り出した。
 それは戦う場においてあまりにも無謀で、馬鹿げた行動だった。
 この行動に、出雲は一瞬だけ思考が停止する。
 それは驚きか、それとも失望か、圭一にはわからないが、気にしない。
 する必要もなければ、余裕もないのだ。

「魅音!!」

 名を叫ぶ。
 それだけで通じるものが、二人にはあったから。

「――右ッッ!」

 返る応え、それに圭一は迷うことなく従った。
 背後に迫る死の圧力など微塵も気にせず、右へ飛ぶ。
 直後。

「喰らえ――!!」

 魅音が持つヘヴィボウガン、銃弾を吐き出すバレルが都合四つ重なったそれは、その持つべき能力の一つを発揮させた。
 引き金と連動して、撃ちだされる銃弾は同時に四つ。
 同時射撃、ライトボウガンがもつ特性の速射とは対をなす、瞬間における最大効力を重視したものだ。
 反動だけで魅音が軽く飛ばされる威力は、大型飛竜でさえただでは済まない。

「ちっ!!」

 出雲が初めて焦りを含んだ表情をした。
 まともに当たれば重症どころではないそれは、破格の防御力を誇る純白の装甲服でさえ危険だと判断したからだ。
 だから生まれる隙を、圭一は逃さなかった。
 右へ飛んだと同時、体を空中で反転させて抜き身の片手剣を地面に突き立て勢いを殺していた圭一は一瞬だけ停滞、魅音が四重掃射を放つ寸前、出雲の一瞬の硬直を合図に、駆けた。
 一歩目で出雲に並び、二歩目でその背後へ、三歩目の足を軸に体を捻って回転。
 出雲が盾にした大剣と四つの銃弾がぶつかりあうのと時を同じく、圭一は隙だらけの背中へと回転切りを放った。
 着弾、轟音。
 爆発にも似た衝撃が大剣に走り、出雲の体がほんの少しぐらついた。
 もらった、と圭一は思った、この瞬間なら確実に防げるはずがないと確信したからだ。
 事実、出雲は防ぐことはできず、圭一の剣が振りぬかれ、軌跡は確かにその背を切り裂いていた。
 しかし、得られた感触に圭一は表情を歪ませる。
 ――――か、ってぇえ!
 それは服を切った感触でも、肉を切ったものでも、骨でも皮でも、そんな生易しいものではない。
 まるでそれは、金属を切ったかのようなものだったと、圭一は思った。
 そして見た。
 僅かに切り裂かれた装甲服、その隙間から見えるあるものを。
 ――――なん、だ? これ?
 なんなのかはわかる、見たことがないけでもない――しかし何故と、圭一は納得ができなかった。
 なぜなら、圭一が見たものは、

「文、字?」

 お世辞にもうまいとは言えない、象形のような絵のような文字のようなものだったからだ。
 描かれていたそれが何と読むか、圭一の脳内がこれまでにない速度で回転し、該当する情報を的確に抽出、複数の条件式をランダム関数で繰り返しながら最後に勘で選んだ答えは――
 
「とても……がんじょー?」
「ああ、がんじょーだぜ」

 圭一が再び宙を舞った。




◇  ◆  ◇  ◆  ◇





 圭一をひと時の間だけ空の人にした後、出雲はもう一人へと駆けだした。
 まだまだひよっこの圭一よりも遥かに危険で、加えて言えば人をミンチにしかけた魅音に向かって。

「わ、わぁっ、来るなぁぁ!!」

 対する魅音は未だ抜けきらぬ反動によってどうにか立ち上がろうとするところだった。
 待たない理由はない。
 出雲は妙に血走った眼で、先ほどの疾走も霞むほどの速度で走る。
 だがしかし、大剣は背負ったままだ。
 距離が半分以下になっても未だそれを抜く気配を見せず、そればかりかさらに加速する。
 なぜか、と問われたならば、出雲は迷いなく答えるだろう。
 そこに――目指すものがあるからだ。

「ひっ!」

 魅音は得も知れぬ寒気に身を震わせた。
 それは死の恐怖というには些か味気ない……が、無視するにはあまりにも嫌な気分であり、なぜか頭によぎった言葉は貞操の危機とかそんなのだった。
 出雲は彼女のすぐそばまで僅かな間だけで接近し、そのせいで魅音は腰を抜かすように地面に転げた。
 攻撃に対しての恐怖か、それとも別のなにかによる恐怖か、魅音は目に涙をにじませ、口は半開きになったままだ。
 その魅音に、出雲は一言。

「ナイス、チラリズム!!」

 変態だった。

「この――変態野郎!!」

 一瞬にして感情を脅えから怒りに変えた魅音の起き上がりざまの蹴りあげは、いい表情でサムズアップしていた出雲の顎に正確にヒットした。

 ――奇しくも、これが圭一たちにとって唯一の有効打だったのだが、それを彼らが知るのはもう少し後のこと。

 体の力が抜け、崩れ落ちそうになる直前に出雲は刹那だけ手放していた意識を取り戻し、倒れそうになる体に喝を入れた。
 魅音は魅音で腕で体を隠すようにしながら出雲から離れている。
 やばかった。
 まだ成熟したとは言い難い魅音が、銃の反動で飛ばされ尻もちをついている姿がとても素晴らしかったため、我を忘れて近くへよっていってしまったのだ。
 先ほどは邪魔な野郎が覆いかぶさっていてそんな感情より怒りが優先されたが、今のは素晴らしくやばかった。
 座り込んだ足の隙間から見えそうで見えてしまった色や、最初は追撃のために駆け寄った際のおびえた表情がこう、心のどこかがそそられるというかそんなものがあり、最近ずっと喧しい連中と一緒だったためごぶさたとなってしまった欲求が出雲の思考を戦闘状態から変態状態へと移行してしまったのだ。
 悪役曰く、いつも対して変わらんそうだが。

「変態ッ、痴漢ッ、馬鹿間抜けエロ魔人!!」
「おいこら俺は痴漢じゃねーぞ!! エロくて何が悪い!!」
「悪いわボケー!」

 ようやく空の人から地上の人に戻ってきた圭一が怒りを顕わにとび蹴りを放ってきた。
 体を少しずらしただけで出雲は回避し、ついでに無防備となった圭一の顔面に一撃入れた。
 空中で一回転し、赤いなにかをまき散らしながら圭一は地面とキスするように顔から落ちる。
 ほんのしばらく悶絶した後、圭一はすぐさま起き上がって出雲の視線から守るように魅音の前へと立った。
 気迫のこもった表情で出雲を睨むが、鼻から赤い筋がでている状態では些か迫力にかけていた。

「おいエロ馬鹿オヤジ! 魅音のことをエロい眼で見つめるのはエロい神様が許そうが俺は断じて許さねーからな!!」
「け、圭ちゃん……」

 魅音は圭一の勇ましさと頼もしさに感動した。

「魅音をエロい眼で見ていいのは俺だけだ!!」

 失望した。

「お前もかー!!」

 どこから取り出しのかわからないが、紙を交互に折りたたみ根元を固定した後相手の頭を叩く、所謂ハリセンで突っ込む魅音。
 しかも一撃でなく、叩き下ろしからの打ち上げ、上下の往復ビンタをした後、身を捻ってのフルスイング突っ込み。
 圭一の叫びは乾いた打撃音にかき消されていた。
 出雲はやっぱ女は怖いなと改めて認識して、どうして俺の周りには突っ込みのきついやつしかいないんだろう、と考え、やっぱ周りが馬鹿ばっかりだからか、と結論。
 その馬鹿の範疇に自分が入っていなかったのが、やはり馬鹿と言われる所以であった。
 なんとかに自覚なし。

「ところでお前ら、さっきも言ったがな――」
「今は戦闘中だって言いたいんでしょ? ふんだ、わかってるもんエロ魔人! あんたはもうあたしらの術中にはまってんだからね!!」
「なにそうなのか!! それはまずいぞ、俺様のピンチか!!」

 絵にかいたような大根役者だった。

「馬鹿にしてるでしょ! 絶対馬鹿にしてるでしょ!! あームカつくーッッ、いい気になるのは終わりなんだからね、覚悟しなさい!!」
「別に覚悟はしねーが、その有様でどうするつもりだよ? お前の相棒、のびてんぞ? むしろお前がのばしたんだが」
「私のせいじゃないもん!」
「お前のせいだろ魅音! いきなりどつくたぁどういう了見だ、ああ!!」
「きゃあ! い、いきなり復活しないでよ、びっくりしたじゃないのさ!! そもそも圭ちゃんがエッチなこと言ったのがわるいんだから!!」
「「エロで悪いか!?」」

 男二人の声が重なった。

「悪いに決まってるでしょー!」

 今度はハリセン――いつの間にか消えていた――ではなく、ボウガンの腹で圭一をどつき、そのまま出雲へと狙いを定め射撃。
 咄嗟の出来事ながら出雲は慌てず、その場を飛びのき弾道から外れる。
 着地と同時に出雲は圭一たちへと駆けだそうとするが、そこへ狙いすましたように銃撃が放たれる。
 出雲は舌打ちしながら一度距離を取るため後退、抜剣するタイミングを計るが、魅音の射撃は先ほどまで追われるだけの軟弱なものではなく、的確に容赦なく撃ちこんできてきた。
 ――――なるほど、ようやく調子がでてきたってか。
 逃げていた時とはうって変わった攻撃や、先の連携も含め、追い詰められてなのか、それともこれが本々の実力なのかはわからないが、ふざけ半分で相手出来るような状況ではなくなっている。
 自然と生まれる笑みを隠そうともせず、出雲は湧き上がる感情を素直に受け入れていた。
 いくら叩きのめすのが目的とはいえ、弱い者いじめが楽しいわけがない。
 そういうのは、以前ギルドの後輩をどうみてもいじめとしかとれないような仕打ち(本人曰く基礎訓練)をさせていた体育会系である千里の役目である。
 自分は不器用だ、何が足りなくて何が必要かなんて口で伝えられるわけがなく、ならば出来うるのは直接殴り合うようなことだけ。
 そこに快楽を求めるのは不謹慎だが、対等に戦えれば戦闘狂でなくてもこみ上げるものはある。
 楽しいと、面白いと。
 こいつらはまだまだひよっこ、駆けだしもいいところのルーキー、命知らずの向こう見ずだ。
 敵わぬとわかりながらも、それでもあきらめない若さがどこまでいくものなのか、どこまで成長していくのかと、考えるだけでも柄になく楽しいと感じてしまう。
 さらに魅音は言った。
 自分がこいつらの術中にはまったと、逃げてばかりのはずがそれさえも策なんだというように。
 ――――見せてみな、お前らの策。全部まとめて斬り潰してやるよ。
 そうだろ、と己が大剣V-Swに語りかける。
 反応はなくとも、出雲だけが理解できるものが柄を握る手から伝わり、表情は再び笑みを作った。

「おい魅音、あいつ剣に話しかけてニヤニヤしてんぞ。気色悪いな!」
「駄目だよ圭ちゃん、千里さんがいない寂しさをああやって誤魔化してるんだから。気色悪いけど!」
「手前ぇら聞こえてんぞオラァ!!」

 出雲の咆哮、圭一と魅音はきゃーきゃー言いながら逃げ回る。
 再び騒乱の渦と化し、美しい自然をものの見事に破壊してゆく出雲と圭一たち。
 正確には破壊しているのは出雲だけだが。
 森の獣たちに明確な意思と抗議する手段が存在したならば、出雲が所属し圭一達の嘱託先である組織には連日連夜のクレーム対応が業務として確立されてしまいそうなほど森を騒がしている。
 出雲のV-Swが大木を根元から断ち砕き、魅音の銃撃によって幹に大穴を穿たれ、彼らの通ったあとにのこるのは心を痛める惨状だ。
 それでも未だ「森」が敵意を示さないのは、既に話はついているということだろう。
 予てからの約束は、未だ悪役と共にあるらしい。
 そんな思考を頭の片隅に思い浮かべながら、出雲は精密無比な射撃をかいくぐり魅音との距離を縮めていく。
 魅音の腕が悪いのではなく、むしろ良すぎるからこそ弾道予測が容易になってしまっている事に、彼女はまだ気づいていない。
 そこをフォローすべき圭一は先ほど、後退するタイミングを誤り出雲の斬撃をくらい吹き飛ばされていた。
 しかし確かな手ごたえを感じられなかったのは、おそらく自ら飛び衝撃を緩和したのだろうと、出雲は適当に推測する。
 そこで追撃するか、放っておくかを数瞬だけ思考。
 結論は放置、優先すべきは魅音の排除ということに決定し、現在の状況となっていた。
 距離は走って八歩分、跳躍しておよそ三歩分といったところ。
 たどり着くまでに飛来する銃弾は先ほどまでの状況から予測するに三発から、よくて四発、狙いを定めさせなければ二発に抑えれるだろうが、その分一歩か二歩、時間にして一秒弱のロスが生じてしまう。
 その間にあのすばしっこい圭一が追いついてくる可能性もあり、そうなってしまえばまた戦いを長引かせることになるだろう。
 構わないか、という思考と、いい加減逃げ回るのを追いかけるだけの戦いには飽き飽きだ、という思考が後者七割程度でぶつかり合い、当然の如く勝負の決着、または新展開を望む思考が可決された。
 故にとる行動は一つ。
 加速、進むべき方向はひたすら前へ。
 身を沈めての一瞬の硬直、直後に爆発的な加速力を生みだし、出雲は駆けた。
 魅音の顔に若干の焦りが浮かび、同時に射撃。
 一発目。
 弾丸が射出される直前の銃口の向き、ならびに魅音の視線から割り出す弾道は、真っ直ぐ左胸付近へ定められていると判断し、地面を蹴る際に己が体の軌道を変更。
 最小限の動きのみで弾丸をかわし、さらに接近する。
 再び射撃音、二発目。
 予測される弾道は左足付け根、先ほどよりも距離が縮まり着弾するまでの時間も短縮されていること考慮に入れ、素早く回避行動をとった。
 その直後に続く三発目。
 予想よりもタイミングが早い、未だ先の銃弾は出雲のすぐ横を抜けたばかりだ。
 ――――正確さよりも数で勝負か!
 思考は一瞬、回避行動をとった直後の僅かな硬直を力づくでつぶし、地面に倒れるように身を屈めた。
 空気を切り裂く音が頭上を通り過ぎ、次いで耳に届くのは射撃の音。
 既に四発目、予想では既に出雲の間合い直前であるはずだったが、詰められた距離は未だ半分を超えたところ。
 自分の間合いには程遠い。
 やはり一筋縄ではいかないか、という喜びにも似た感情をもちながら出雲は、四発目の弾丸を見つめ

「――まだ、甘めぇぞ!」

 上空に跳躍した。
 銃弾の遥か上を通り越し、そのまま一直線に魅音へと迫っていく。

「――ッッ!? この、出鱈目野郎!」

 魅音は表情を一瞬だけ驚きに染め、すぐに行動を開始、空中で身動きがとれない出雲へと狙いを定めた。
 対し、出雲は背負っていたV-Swを眼前に構えていた。
 剣の向きは縦ではなく横、長大なV-Swに自分の体を半分以上隠しての突撃だ。
 魅音は舌打ちしながら射撃。
 しかしそれはV-Swに僅かな傷を残すだけにとどまり、出雲の勢いは止まらない。
 距離は縮まる。
 出雲はV-Swの影から見える景色を確認、丁度いいかと考え、眼前に構えていたV-Swを事もあろうに蹴り飛ばした。
 跳躍した勢いと、蹴り飛ばされた勢いが合わさり、重量級の大剣は一つの砲弾と化す。
 着弾。
 爆裂する地面、弾け飛ぶ土塊や石礫は周囲へ容赦なく破壊をもたらし、着弾付近にいた魅音も例外ではなかった。
 咄嗟にシールドを展開したのか深刻なダメージは確認できないが、すぐさま迎撃できるような状態ではないのは確かだ。
 出雲は着地すると同時、地面に深く突き立ったV-Swの柄を握り、気合いと共に抜き放つ。
 詰みだ、と出雲は悔しそうに顔をゆがめる魅音に視線で訴えた。
 出雲と魅音の距離は零にひとしく、迎撃すべき手段もなければ援護してくれる圭一もいない。
 だから出雲はV-Swを振りかぶり、

「そうは――行きません事よ!!」

 言葉と共に投げ込まれた何か、それを何なのか判断するよりも早く出雲は攻撃を中断、咄嗟に防御をとった。
 直後、圧力をともなった強烈な閃光が炸裂。
 視界を一時白色に染められ、出雲は聴覚のみを頼りに後退する。
 あたりに神経を配り、気配を探知、発見。
 先ほどまで出雲と魅音がいた場所の近く、他の木々よりは多少立派な大木の上に、その声の主はいた。
 少々霞む視界で出雲はあたりを見回し、圭一が魅音と合流しているのを確認して溜息。
 そして邪魔してくれた奴、木の枝に立つ小柄な少女に改めて視線を向けた。

「まだいやがったのか。閃光玉なんて使いやがって、失明したらどうすんだ」
「あらあら、天下の【全竜交渉部隊】に所属するものとは思えぬ泣きごとですわね。あの程度なら例え失明しても化け物のごとく再生するのが貴方達ではなくて?」

 どんな化け物だそれは、とその場にいた三人は思った。

「おーほっほっ、あらまぁ圭一さん、酷いざまでごまいますわね。あんなに粋がってた割には情けなくて情けなくて涙がでてしまいそうですわ」
「だー! 喧しいぞ沙都子!! お前だって今までなにしてやがったんだ!?」
「何をしていたとは失礼ですわね。予め決められた役割に順じていただけですわ」

 沙都子と呼ばれたその少女は、やあ、と可愛らしい掛け声とともに木から飛び降り、圭一の横に着地した。
 並ぶ圭一とは頭一つ分どころか、胸部まであるかないかの小柄な体格、体の線は鎧を着こんでいるのにも関わらず細いと感じ、丸みを帯びた幼い顔つきをしている。

「そこのお馬鹿さん! あなたはもう私のステージに組み込まれた哀れな道化ですわ! 降参するのなら今のうちでしてよ」

 性格は少々難あり。

「おい圭一」
「なんだよ」
「ちゃんと教育しろよ。今のうちからそんなタカビーだと将来苦労すんぞ。むしろ調教しろ調教」

 こちらも性格に障害あり。

「あ、あああ貴方! げっ、下品にもほどがありますわ!!」
「下品じゃねーよ。男のロマンだよ」
「そんな浪漫があってたまりますかー!!」
「沙都子、叫びたい気持ちはよーくわかるよ、うんうん。よくわかるけどそんなラブリーオーラだしてるとレナが我慢できないじゃないかなーっておじさん思うんだけどさ?」
「それはっ……うぅ、そうかもしれないですけど」
「諦めろ沙都子。あいつは馬鹿だからなに言っても変な答えしか返ってこねーって」
「別に他の奴に言われんのはいいが……やっぱよくねーが、お前に言われっとすげームカつくぞ糞ガキ」
「うるせー馬ー鹿!」

 その一言を切っ掛けに戦闘は一時、直接的な殴り合いから間接的な口論――ただの罵り合い――に移り変わった。
 しかし途中から圭一サイドに魅音と沙都子が加わった事により孤立無援の出雲サイドは状況を不利と判断。
 怒声一発、大気を震わす叫びをもって強制的に相手を黙らせ、背負ったV-Swに手をかけた。
 つまり、本来の戦闘を再開させるという意思表示。

「言葉で敵わないとわかったら実力行使ですの? 野蛮にほどがりますわね」
「なんとでも言えチビガキ。手前ぇらが進むもうとしてる世界はなによりも実力が一番大事なんだよ。モンスター相手に説教やら説得すんのはテイマーだけの特権、その素質がない以上やる事はひつだろが」

 出雲が述べるのは間違いない事実。
 ある特性をもつ者以外、モンスターと言葉は交わせず、意思の疎通は困難だ。
 ギルドに持ち込まれるような事件を起こした強暴かつ獰猛なモンスターでは尚更である。

「でも負け惜しみだよね、あれ」
「負け惜しみっぽいよな、あれ」
「正論を述べたつもりで負け惜しみに変わりありませんわね、あれ」

 出雲は無視した。

「いい加減出してみろよ。お前らの策ってやつを、でねぇと三人なかよく体重半減ダイエットさせんぞ」
「……真っ二つ?」
「おう、真っ二つ」

 三人の視線が先ほどまで通ってきた道を見て、そこから出雲がもつ大剣に移動し、それぞれ互いの顔を確認した後、頷く。
 出雲もまたそれにつられるように視線を動かし、彼らが頷くと同時に意識を切り替えた。
 場の空気が瞬時に変わる。
 出雲はいつでも走り出せるよう身を沈め、圭一たちもまた戦闘態勢へと移行した。










■■あとがき■■

モン、ハン……?
どうも遥か彼方です。
えーと、とりあえずごめんなさい、これどう見てもモンスターハンターじゃないですね。
恐らく落胆した人は一杯いるのではないかと思います。
今回のは、どちらかというと戦闘シーンのリハビリ的な感じになっているんですよね。
最近全く書いてませんでしたし、なのでおかしな表現が多々あると思いますが、いつもどおり気にしちゃだめなんですよ?
さて、内容についてです。
今回はえらく中途半端なところで切れていますが、本来はこのあとに場面を変えて話が続いています。
ですがそれまで含めるとちょっと半端ない量になってしまうので、区切りのよさそうな部分で前編後編といった具合にわけました。
では登場した作品、今回はひぐらし、そして終わりのクロニクルです。
後者を知らない人にとっては意味不明だったかもしれませんが、そこは割り切っていただくと幸せになれると思います。
ぶっちゃけ細かい事は気に(以下略
そして早くもオリジナル設定、魅音のもつヘビィボウガンによる多重射撃です。
本作ではそんなものはありませんし、ライトの速射とも違うものです。
細かい事は後に作る予定の設定集で説明する予定なので、もう少しお待ちください。
あとは出雲の強化服に抱えた文字の事ですが、こちらの効果はそんな大したものじゃありません。
一時的に硬化薬グレード+のけ反り無効【小】の効果が得られるような感じです。
ちなみに後者もまたオリジナル、もうオリジナルばっかりですね!
こちらも詳しい事は後ほどお伝えします。
ではそろそろ絞めましょう。
今回のような無茶苦茶な話が続く『MONSTER HUNTER-CROSS WORUD-』ですが、沢山の苦情が来ない限りのんびり続けていこうと思います。
それでは、また次の作品でお会いしましょう。

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