※注意事項(必読)※
これはモンスターハンターの世界観を元に、多数の作品をクロスオーバーさせたものです。
ゲームであるモンスターハンターをこよなく愛する人にとっては許せない作品である可能性があります。
ゲームではありえないオリジナル設定、武器、戦法などが結構含まれており、それに耐えれそうな場合のみ先にお進みください。
MONSTER HUNTER
-CROSS WORUD-
Quest.1
【昼下がりの憂鬱に運命と出会う】
照りつける日差しが鬱陶しいほどに強くなる正午過ぎ、俺は限りなく低い勤労意欲を総動員して、理不尽かつ横暴な自称世界を変える団長の命令を実行していた。
いきなりどうしたと言わんばかりの状態ではあるが、これも無常たる世界の決まりごとだ。
何しろ悲しいことにこの身は平団員、拒否権などは三千世界の果てまで探したところで存在するわけもなく、もしそんなものがこの世に存在するというのなら是非この俺まで一報していただけると大変ありがたい。
それが例え一粒の砂金を広大な砂漠地帯から見つけ出せという困難極まりないミッションだとしてやり遂げて見せよう、などと思ってはみるが、思うだけでもある。
とまぁ、そんな妄想を浮かべながら歩くのは、賑わいがあるというには少々さびしげな、広い道にぽつりぽつりと露店が立ち並ぶ場通りであり、元気に声を張り上げる商人たちと物珍しそうに商品を眺めるこの街自体に珍しい観光客や、真剣な表情で交渉を行う熟練ハンター達の合間を縫うようにして目的地へと向かっていた。
個人的にも好ましくない寒冷期をようやく過ぎ、繁殖期の中頃に差し掛かったためであろうか、以前この場所を通った時よりは人の数も商品の数も充実しているように見える。
だからこそ、だ。
天上天下唯我独尊を地で行ってしまう我らが団長は事もあろうに、
「そろそろ備品とか心もとなくなるわね。キョン、あんたこのリストに書かれてあるの全部買ってきて。もちろん今すぐよ」
それだけで飛竜の爪を防いでしまうのではないかという厚さをもつ、どーみても買い物リストには見えない買い物リストを俺に渡し、お使いとは名ばかりの強行軍に任命されてしまったわけなのだが。
繰り返そう、俺に拒否権などありはしない。
せめてもの抵抗にと全力で嫌な表情をもって睨みつけてやったのだが、そんなものどこ吹く風、まったく意に介せずさっさと自分の作業にもどりやがった。
もう少し部下に対する優しさとか配慮とかを学んだ方が世のため人のため、強いては俺のためになるのだが……。
勿論それも思うだけであり、言語化したところで意味が伝わるわけがないと、この年で悟りたくもない諦めの境地とやらで自分の心のなかだけに秘めておきたいのだが、それもいつまで続くのか正直不安である。
こういった不満はどこにでもあふれているものだと思うこむしか、今の俺にはできないわけで。
「しかし、ほんと悪かったな、長門。お前にまで手伝わせちまって」
そんな不毛極まりない思考よりも、今もこうして手伝ってくれている長門に感謝したほうが建設的ではないかと思うわけさ。
「構わない」
いつも通りの短くよどみない返答に、俺は苦笑しながら数歩後ろを歩く長門へ視線を向けた。
この暑苦しい日差しの中でも溶けることのない氷のような無表情をした長門は、透通った瞳でまっすぐ前を見つめ歩いている。
黒いワンピースに白いエプロンに身を包み、頭部にはカチューシェを装着した所謂メイド服の格好ではあるが、その腕が引いている荷台と、そこにつけられた大量の荷物から相当な重量に達していると思われるにもかかわらず、汗一つ、さらには表情一つ変えずに淡々と歩く姿には少々、いや多大な違和感があるわけだが。
それも何度か繰り返された光景ならば誰だって慣れてしまうものだ。
例にもれず、俺もそのありがたくもない慣れとやらで長門の人間超越具合を不思議とは思わなくなってきている。
それが幸せなのか不幸なのかは、判断は未来の俺に任せよう。
今の俺にはできそうもないからな。
「貴方だけでは遂行できない任務だと判断した。仮に一人で行った場合、達成に必要とされる時間は……」
「ああ、たぶん丸一日かかったんじゃないか」
自分の背負う荷物と、荷台に積まれた尋常ではない量を見てそう思うのだが、
「それでは足りない。移動に要する時間、疲労による作業効率の低下、その他偶発的な要素を考慮するならば、達成時刻は二日後の午前十時前後と予想される」
どうやら、俺の予想を遥かに上回る大仕事だったようだ。
というかハルヒ、お前は俺にこんな仕事を押しつけて、何か恨みでもあるのか?
心当たりは……まぁないわけでもないのだが、ここ最近は不機嫌オーラをまき散らすようなこともなかったはずで、平穏無事な日常をそれなりに謳歌していたと俺は思っていたし、俺も不満をこぼす事は以前ほどなくなり、小泉の胡散臭いスマイルには磨きが掛りつつ、朝比奈さんのコスチュームも順調に増えて心底とは言なくても楽しんでいたはずだ。
当の朝比奈さんは困惑する一方ではあるが、俺の心労を癒しつくしてくれるので、悪いとは思いながら静観している次第である。
勿論、度が過ぎれば止めることを忘れてはならない。
朝比奈さんは何者にも代えがたい我らがギルドの良心、癒し、何をとっても最高で至高の存在なのであるからして、粉骨精神で庇い通す覚悟はとうの昔からできているのさ。
「…………」
「ん? おっと、ここだったな。サンキュ、長門」
などと少々思考を脇道にそらしていたためか、目的地である商店を危うく通り過ぎそうなところを、長門が足をとめて俺の背中に無言の訴えをしたことにより気づくことができた。
だけどな長門よ、勝手な意見なのはわかるが、せめて声をかけてくれないか。
付き合いがそれなりに長い俺でさえぎりぎり気づける程度のプレッシャーなのだ、もし赤の他人であれば全く気付かず、その場で完全に調和のとれた彫像となってしまうことになるのではと、友人としては少し心配してしまうぞ。
よく考えてみれば、長門が赤の他人と買い物にいくなど、今の俺では想像もできないわけだが。
そんなわけで長門に礼をしてから、大木の切り株そのものを利用したとある商店の前に荷台を止めて俺と長門は、防犯とは無縁だろう空きっぱなしのドアから中にはいることにした。
「それじゃ最後のお使いを済ませるとするか。長門、まだいけるか?」
俺の問いに、長門は首の角度を微小に変化させ、
「問題ない」
小さいながらよく通る声で簡潔に応えた。
頼もしい限りでなによりだよ。
「さーて、先ずは……、ってこれは小泉の野郎だな。また意味のわからんものを」
「……ユニーク」
最後の目的地である商店、そこは俗にいう雑貨屋だった。
生活用品からハンター諸君が使用するアイテム、果ては戦場にはこれでどうぞとでも言いたげなごっつい鎧まであり、品数の多さと種類でいえばこの町最高峰と言えるのだが、いかんせん大木を切り抜いたような外観が怪しすぎる上に店主を誰も見たことがない、などという怪談にはうってつけの逸話などを多数誇っているためか、昼ごろにも関わらず薄暗い店内には俺と長門の他に二人しかおらず、閑古鳥の大合唱状態だ。
そんな怪しさ大爆発の店で俺達が何を買おうとしているかは、まぁ想像にお任せしたい、あえて言うならば、団員の趣味と実益などが関係してくるのかね。
「……」
長門は長門で一直線に本棚がある方角へと向かっていた。
ここには種類が多いだけでなく、稀少本が無造作に置いてあったりするので、本好きの長門には堪らんのだろう。
ちなみに店主がいないのにどうやって買い物するかといえば、品物に張られている値段分を無人カウンターに置かれた箱に入れればはい終了、実にシンプルかつ不安極まりない清算方法である。
こんな管理でよく盗難にあわないな、と最初の頃は俺も思ったのだが……この店が持つ逸話は店主がいないというものだけではなく他にもいつくつかあり、その中でも逸脱してやばそうなのが店の商品を勝手に拝借しようものなら考えうる不幸が降りかかるという、どこぞの王家の墓のような呪いちっくなものである。
そんな馬鹿な、あるわけねぇ、そう思うのが東からお天道様が昇るように当たり前なんだが……あれだ、事実はなんとかよりも奇なりってやつか、以前ここに忍び込んでいくつかの品物を盗んでいった大規模盗賊団が、この街からそう離れていない場所で飛竜の群に出会い、命からがら逃げた場所には異常繁殖したヤオザミがいて、息絶え絶えになりながら駆け込んだ洞窟がいきなり崩落し、辛うじて生き埋めを回避したと思えば周囲を取り囲む牙獣種の群という群、そんなこんなで団員の数を十分の一以下にしてからふと周りを確認してみれば、いつの間にか街に戻ってきてしまったということが実際にあったのだ。
あれは確か高町達が誰かさんの影響でハンターになると騒いでいた頃だったのでよく覚えている。
盗賊団の全員はそれはもう酷い有様で、泣き叫ぶもの、半狂乱になって騒ぎ立てるもの、教会の似非神父に跪いて許しを乞うもの、自我を持たぬ人形のように立ち尽くすもの、まるでこの世の終わりがきているしているようだった。
辛うじて会話ができた奴から、この雑貨屋からいくつかの品を盗んだと事情を聴き、それら全てを一刻も早く元に戻したほうがいいと長門に忠告されていたのも懐かしい記憶だ。
そんなことが起きれば、この街でここから盗み出そうと考える輩は絶滅し、それなりに名の通った盗賊団が壊滅した理由がこの店に盗みに入ったからだという噂が広がってしまえば、その道の人たちの間には絶対に手を出すべきでないという暗黙の了解ができたとかなんとか。
ここまで来ればもはや曰くつきとか呪いの品というレベルを天文学的数値で通り越していそうだが、普通に買い物する分には全くもって影響はないのだから、色々と物品を必要とする俺達には大変ありがたく、加えて言うのならばこんな不思議アイテムが山ほど置いてある商店をハルヒがほおっておくわけもないので、色々となくてはならない商店なのである。
値段もお手頃なのもポイントの一つ、むしろこちらが重要だ。
一時期ハルヒが鶴屋さんとつるんでここを大々的に宣伝しようと騒いでいたが、そん時は確か……そうだ、あいつが街に来たせいでえらい騒ぎになって有耶無耶になったんだったな。
さすがは男版ハルヒとでもいうべきか――――待てよ、いつも通りなら確かそろそろ……。
「あれ? キョンじゃないか。珍しいな、こんな場所で」
そんな時だ。
品物棚の前でモノ思いにふけっていた俺に声をかける奴がいた。
小泉に頼まれた怪しい遊具から目を離し、そちらを向けば赤みがかかった短髪の青年がおり、言葉通り珍しいものを見る目でこっちを見ている。
「なんだ……誰かと思えば衛宮か。脅かすな」
俺を不本意な愛称で呼んだ時点で知り合いだとおもってはいたがな。
出入り口とは反対側から声をかけてきたあたり、どうやら先ほど店に入るとき見かけた二人のうちの一人はこいつ、衛宮士朗だったようだ。
「なんだとは酷いな。久しぶりにあったってのに、そんなんじゃ友達なくすはめになるぞ?」
「心配するな、俺のそっけなさは愛情の裏返しだ。ありがたく受け取ってくれ」
「そうか、なら安心だな」
待て、そこは安心するところじゃなくつっこむところだ。
誰が好き好んで男に愛情なんておくるか。
「そうか? 愛情は確かにごめんだが、友情ってことなんだろ?」
「まぁ、そうだが……そうやって素で返されるとこっちも困るんだよ。すこしはこっちの冗談にも付き合ってほしいね」
「キョンは冗談いってるのかそうじゃないのかわかりづらいんだけどな」
随分と失礼なことをさらっと言いやがるな。
俺の冗談はそんなにわかりづらいとは思わないのだが、こいつ自体結構カタブツ的というか、言われたことはまず否定しないところがあるからな、嘘を言ったとしても真顔でそうか、とか言いそうだ。
しかし馬鹿なのかと問われれば、それは決して違う。
あえて馬鹿と評するなら、お人よし馬鹿と表してやるべきだろう。
「それで、キョンはギルドの買い出しか? それともまた涼宮が変なことおっぱじめようってのか?」
「後者だったら俺は今すぐにでも逃げだすね。勿論前者だよ」
後者だった場合はすぐさまお前ん所に相談しにいくからな。
どうするべきかってことと、決して手を貸すんじゃないぞという意味合いもこめて。
「それ聞いて安心したよ。涼宮は遠坂と何かとつるんでおっぱじめるからな……ただでさえ最近物騒になってんのに、これ以上頭痛の種を増やしたくない」
それについては激しく同意しておこう。
平和が一番だ。
「それで、衛宮は何でここにいるんだ? 珍しいのはどちらかと言えばお前の方だと思うが」
「確かに俺はあまりこの店にはこないんだけど、セイバーがどうしてもって言ってな……」
「シロウ、お待たせしました。やはりここにも……おや、あなたは」
衛宮のセリフが終わる前に、棚の影から現れたのは金髪美少女だった。
朝比奈さんが可愛らしさの最高峰であるなら、この人は凛々しく可愛らしいの最優秀賞になるだろうか、それぐらい目を見張る美しさを秘めている。
肩辺りにまで伸ばされた金髪は最上の金糸にも勝る輝きを秘め、瞳は深いエメラルドグリーン、見つめるものすべてを魅了してしまい、それらが寸分の狂いなく黄金律とも呼べる最高の比率で整っているのだから、もはや美少女という言葉だけではこの人を当てはめてはいけないだろう。
衛宮と知り合いで、なおかつ店の奥からやってきたという事は、最初に見かけた二人の内のもう一人は彼女だったようだ。
そんな彼女は俺を確認すると、
「久しぶりですね、キョン。お元気そうでなによりです」
「そちらも元気みたいでなによりだよ。最近はあまりそっちに行く事無かったからよく知らないけど、雰囲気からして変わってるみたいだ。最初あった時みたいに斬りかかってもこなくなったしな」
「お前……まだあの時の事を根に持ってるのかよ」
馬鹿を言うな、あんな恐怖体験は忘れようにも忘れられるわけがないぞ。
そこんとこはきっちり理解してもらいたいね。
「だからってそんな前の事を持ち出して嫌味を言いたいのか? あんまりいい趣味だと思えないぞ」
「あの、シロウ。お気持ちは嬉しいのですが、キョンの言うことも一理あるわけですし……あの時は確かに私に非がありました。その事を責められても仕方のないことです」
「けどな……」
「いいのです、シロウ。私は受けるべき罰から逃げるようなことはしませんから」
あー、そこ。
問題発言した当人を放っておいて二人の世界を構築するんじゃない。
それにあれは場を和ませるためのジョークであって、俺だってそんな前の事をダシにしてこんな美人をいじめるような趣味は未来永劫もつわけがないだろ。
そんなもんはパラレル世界を探したってあるはずがないのさ。
「そうか? お前は結構意地悪な性格してると思うぞ。小泉がお前と楽しみにしてたゲームをボイコットされて寂しいってこの前愚痴ってたくらいだし、朝比奈さんが少し困ってるくらいなら傍から生暖かい目でみてるって鶴屋さんも言ってたし、それから……」
「いや、もういい、それ以上言わんでくれ。そしてこれだけは言わせてくれ」
何やら怪しい情報が怪しい奴らから溢れんばかりに漏れ出しているようだが、
「俺は小泉とゲームの約束もした覚えもなければ朝比奈さんの困っているところをほおっておくはずがない、ぞ?」
「何故最後が疑問形になっているのですか?」
気にしないでくれ、ほんの少し心当たりがあったりしたんだ。
しかし、なぜだかこの話題をこれ以上続けることは非常にまずい気がする……というより続けてはならん。
「まぁ、さっきは悪かったよ。冗談でも性質が悪かった。すまん」
「その事なら気にしないで下さい。こちらに非があったのは揺るぎない事実なのです。だから貴方が謝ることはない」
「それでも謝らんとこっちの気がすまないからな。というわけでこれでこの話は終了」
少々強引だが、これ以上話しても双方の意見は天と地のごとく平行線を描き続けそうなのだ、なら無理やりにでも話題を終わりにしなければならないというものさ。
セイバーさんの強情さは俺が知る中でも相当なものであるし、そこに律儀すぎる性格と義を重んじる精神が重なれば鎧竜も真っ青な頑丈すぎる意思が生まれるのはもはや因果律以前の問題であるからして、こちらから折れることを学ぶしかないのだ。
事実、俺が悪いのは確かだしな。
「それで、結局お前たちは何をしに来てたんだ? 買物だってのはわかるが、お前らの中じゃこの商店を利用しそうなのは遠坂かイリヤか……あとはあの胡散臭い教会組か……ってよく考えればそんなに珍しくないような」
「確かにそいつらはよくここを利用するらしいけどな、俺らは滅多に来ないのは本当だよ。食材もそれなりに置いてあるけど、どうにも怪しいものばっかりだし、下手したら厨房で新たな生命が生まれそうなものまであるようなものを買うつもりはないさ」
「心配いりませんシロウ。貴方が作るものなら美味しくないはずがない」
「いや……心配ごとはそこじゃないんだけどな」
以前食卓にお邪魔した時に遭遇したあの食欲魔人はまだまだ健在のようだ。
苦労しているようだな、衛宮。
そんなお前に俺は心からエールを送ってやるぞ、頑張れ―、負けんなー、食費がかさむのがなんだってんだー。
思うだけならただだからな。
「まぁお前が作る料理は確かに美味いからな。妹がまた食べたいって騒いでたし、近いうちにでもお邪魔させてもらうよ」
「そういう事なら大歓迎だけど、金は払えよ? 最近遠坂が一層厳しく帳簿つけてるから」
あの遠坂がより一層厳しくね……そりゃ付け入る隙がなさそうだ。
案外ぽっかりと穴があいてる可能性も否定はできないが、そんな事を本人の前で言おうものならありがたいご高説を延々と聞かされること請け合いなので、いつも通り心に秘めておく事にする。
勿論、この町唯一の旅館兼借家兼定食屋である『衛宮』を営む上で遠坂の助力は得難いものであるのは、支配人でありながら料理長で雑用という矛盾しまくったポジションにいる衛宮本人も自覚しているのだから言うわけがない。
ちなみにこいつらが経営している旅館兼借家兼定食屋は、この辺鄙な町には不相応なほどに大きな建物とそれなりの施設を備えていて、厨房を担う衛宮の腕はなかなかのもので固定客を獲得するには十分であり、給仕などを担当している間桐妹やライダーさんの美貌っぷりは大部分の男性客の心を鷲掴み、同じ給仕だが別の職業っぽい服装のランサーは女性客にそれはもう絶大な支持があるらしく、それらを纏め上げる遠坂は知的な雰囲気と隙のない振舞いが男女ともに人気が高い、という数々の要因のためであろうか、ギルドから派遣されてきたハンター達や旅人達にはそれはもう大好評、とはさすがに言えないが、それなりに繁盛しているらしい。
かくいう俺達もそれなりに利用しているのだが、色々と雑務やら業務やらで忙しい平団員の身ではそうそう出向いていけるわけもなく、暇になりそうなお昼時はこの店とは大違いの繁盛っぷりなのである。
そんな時にわざわざ仕事を増やしに行こうとは思えず、結果が久しぶりと思えるほど話せる機会がなかったわけだが……待てよ、なにか引っかかるな。
そんな事を思った直後、何がおかしいのかすぐに思いついた。
「ところで衛宮、お前宿屋はいいのか? 今の時間帯だったら結構忙しいだろ?」
今の時間帯とは、暑っ苦しい太陽が燦々と降り注ぐお昼時であり、人が空腹を訴えて獣のごとく飯にありつこうとする戦いの時間でもある。
先ほどいったようにこいつが営む宿屋――大抵俺達はこう呼ぶ――はそれなりに繁盛しているわけで、それ即ち腹を空かした人たちが大勢来る事になるのだが、この二人はどうも慌てた様子はなく、衛宮に至ってはなにやら不満げな表情をしているではないか。
意味が分らん。
「その事でしたら大丈夫です。アーチャーが任せろ、と」
「ああ、なるほど。確かにあの人なら衛宮の代役も十分にこなせそうだ」
滅多に合わない奴その一だからすっかり忘れそうになるが、アーチャーの料理もまた衛宮の料理に負けずとも劣らず、正直な感想を言ってしまえば若干アーチャーの方がうまいくらいだ。
厨房に立ち、逞しい背中から不退転の意思を放ちながら、別に注文全てを作りきっても構わないのだろうとニヒルな笑いを浮かべていそうだよ。
「別に、あいつの手助けなんて必要ないけどな。桜たちが大変だろうから、仕方なくだよ。仕方なく」
しかし、どうやらその事が衛宮はあまり好ましくないらしい。
何故だかは知らんが、こいつとアーチャーは凄まじく仲が悪いのだ。
犬猿の仲、水と油、不倶戴天の敵、そんな言葉が当てはまるんじゃないだろうかと思えるほど壊滅的に仲が悪く、顔を合わせれば嫌味と皮肉を言い合い、エスカレートすれば互いの武器を持ちあって戦いだすのだから始末に負えない。
セイバーさんが言うにはちゃんと加減をわかってやっているらしいのだが、戦闘を本職としない俺らにはどう見ても本気で戦っているようにしか見えないので心臓に悪いのだ。
このあたりは本人たちの問題だから深入りするつもりはないが、あまり度がすぎるようなら止めに入る事を考えていた方がいいかもしれない……まぁ戦いになったら介入できるのは長門か、最近おっそろしいくらい強くなった高町達くらいだろうか。
同じ宿屋に住み込んでいる奴らはなにやら暗黙の了解でもあるのか、二人の諍いには一切口を挟まないからな。
「そんなに手伝ってもらうのが嫌なら普段からお手伝いさんとか助手っつーか、一緒に厨房で働くやつを募集すればいいじゃないか?」
「そりゃ……確かにそうだけど、遠坂がな」
「凛がわざわざそのような事をする必要はないと主張しているのです。実際に忙しくともアーチャーに手伝ってもらえれば問題ないわけですから、いらぬ支出は控えるべきだと……」
「そりゃ確かに一理あるな」
既に戦力がいるのに、わざわざ補充する必要もないというわけだ。
救援要請が『味方が気に入らないから』、なんていう馬鹿げた内容なら当然受け入れてもらえるわけがなく、結果として現状のままということなのだろう。
「それに今回は私の我儘でシロウに付き添ってもらいましたから」
申し訳なさそうにセイバーさんは衛宮へ視線を送ると、それに気付いた衛宮はバツが悪そうな表情をした後、頭をがりがりと掻いて溜息を一つついた。
「いいんだセイバー。遠坂からあの事聞いてから気が気じゃなかったろ? だったら早いうちに済ましたほうがいいと思ってな」
「はい、感謝しています」
そう言ってセイバーさんは晴天のもと花咲く向日葵のような笑顔で衛宮を見つめる。
俺に向けられたものではないにしろ、あんな笑顔は見ているだけで照れてしまうのだから、それを直接向けられている衛宮には相当な破壊力が予想されるわけだが、どうやら想像に違わず効果は抜群そうである。
顔は真っ赤、眼は泳ぎまくり、口は開閉を繰り返すもまともな言語は出てこない様子から、衛宮の精神状況は世界大恐慌クラスに混乱しているだろう。
まったく、羨ましい限りだ。
その幸せをほんの少しでも俺に分けてほしいね。
「れ、礼は別にいらないって。それより、例のものは見つかったのか?」
気恥ずかしに耐えきれなくなったのか、衛宮は少々どもりながらセイバーさんに確認をとっているようだ。
どうやらセイバーさんはこの店にほしいものがあったらしいのだが、
「……いえ、凛が言っていたようなものはどこにも」
その沈みきった言葉と表情から、結果は芳しくなかったらしい。
「いったい何を探してたんだ? 良ければ探すの手伝うけど」
だから、だろうか。
普段なら口にも出さないようなボランティア精神溢れる提案をしてしまったのは。
「少なくともお前らよりはこの商店に詳しいと思うし、なんなら長門にも手伝ってもらうのもありだぞ。あいつなら大抵探し物は見つけられるだろ」
「いえ、お気持ちは嬉しいのですが……」
「セイバーは自分で見つけたいんだそうだ。だから俺も付添で来ただけなんだよ」
なるほどねぇ、自分だけで探したいのに、付添ってもらうだけに衛宮に頼んだと………そりゃ付添じゃなくてデートのお相手だろうが、気付いとらんのかこの朴念仁は。
とは思っても口には出すまい、独り身でさびしい男の醜い嫉妬はひっそり秘めておくのが色々といいのさ。
「あの、シロウ。……その、出がけにも言ったのですが、今は私のことをセイバーではなく……あ、アルトリア、と呼んで……い、いいいただきたいのですが!」
「そ、そうだったけかな? すまん、その……なんていうか、な」
「駄目……でしょうか?」
「いや駄目ってわけじゃ、ないけど」
待て、というより待ちなさいお二人方。
なんだこの甘ったるい空間は。
何時の間に俺はこんなバカップルが支配する桃色空間に迷い込んでしまったのだ、誰でもいいすぐにでも説明してくれ、今ならお前の回りくどくてまどろこっしい説明でも大歓迎だぞ小泉!
そもそもこの二人は俺がいることを全く気にしていないのか? そんな馬鹿な、衛宮はああ見えてかなりの純情野郎だから人にいちゃつくところを見られるなんて耐えきれるはずもなく、セイバーさんだってそんなのは望むはずがないような性格だった、……はず、だと思うのだが、そこまで判断できるほど日常で出会ってなかったからな、もしかしたらもとからこういう性格なのかもしれん。
人は見かけによらないものだ。
「やっぱり、恥ずかしいっていうかさ。セイバーじゃ……だめか?」
恥ずかしいのは貴様らのいちゃつきを至近距離で見せつけられてる俺だって言う事に気付いてほしいね。
「その名は……シロウ、貴方の剣となり盾となる事を誓った騎士の名です。今はその身に纏う鎧を外した、一人の女性として……接してほしいのです」
凄まじい殺し文句を聞いた気がする。
もういい、俺が悪かったからいい加減二人の世界をこれ以上広げんでくれ。
そして頼むから俺がいることをいち早く思い出してくれると嬉しいのだが……はてさて、セイバーさんの愛の告白とも受け取れる言葉を聞いた衛宮は高熱にさらされた鉄のように真っ赤な顔で、しかしその目をそらさず見つめているということはもうしばらくこのむずがゆーい空気は晴れることはないだろう。
こんな事を平然とやってのけるのはあの交渉部隊の連中だけかと思ったんだが、思わぬところに伏兵がいたもんだ。
しかたない、これ以上放っておくと後々大変な事になるだろうから、意を決して声をかけるかね。
反応してくれるとありがたいのだが、
「おーい、お二人さーん。いい加減戻ってはこれないのかー?」
「「――――!!!!」」
どうやら気付いてくれたようで、一瞬ではじかれるように俺との距離を取る衛宮とセイバーさんのバカップル。
その有り余る身体能力を最大限まで引き出したかのようなバックステップは正直残像すら捉えられなかったよお二人さん、だけどもう少し静かにする事を俺は推奨するね、品物が今にも崩れ落ちそうだぞ。
「きょ、キョン!! いたならいたと!!」
「お前はいつから健忘症にかかったんだ? おれはさっきの場所から一歩たりとも動いてないさ。ただお前らが極めて近く限りなく遠い世界を唐突に作り出しただけだろう、言いがかりはほどほどにな」
「くっ……人前で我を忘れるとは、なんという不覚!」
正直に言ってしまえば不覚とかそういう問題ではない気がするね。
お前たちが仲いいのはよーくわかったから今度からは気をつけてくれよ、被害は個人のみならず周りに拡大していくんだからな。
「しかし衛宮も名前くらい呼んでやったらどうだ? 減るもんじゃあるまいし、おててつないで恥ずかしがるような年ごろの子供でもないだろう。むしろ付き合ってるにもかかわらず名前で呼んでないって正直どうなんだ?」
「う、うるさいな! 減るんだよ俺の精神とかが!」
そりゃ随分拙い精神力なこったな。
ついでに言えばお付き合いしているってとこには一切突っ込まないのか。
「それに名前で呼んでもらえない悲しさは少なからず俺にもわかる。何せこの街、近隣住民から本名で呼ばれたことなんてここ数年ないんだ。どいつもこいつもキョンキョンばかり言いやがって……さらにこの渾名を本名だと思われたことだってあるんだぞ」
「そういや……そうだな。うちに泊まりにくる連中もキョンの事はキョンって言ってるし。でも訂正しようとしないお前にも問題はあるんじゃないか?」
「無茶を言うな無茶を。今更町の人全員に俺の名前はこうですって言いに行くのか? それとも回覧やら掲示で伝えろと? そんなことは全力で遠慮したいね。面倒くさい上に目立つ行為は極力したくないんだよ」
ただでさえハルヒの奇行で覚えもない注目を浴び続けているんだ、俺の普段からの行動も可笑しいと思われたらもう目も当てられないではないか。
「それに妹の奴が本名で呼ぶことになぜだか否定の意らしくてね。さらにあいつは強力な後ろ盾をもっていやがるからな、下手に動けばどんなご高説がまっている事か……」
「お前んとこの妹さん、長老さんとか雷画爺さんとかにかなり人気だからか」
「人気とかそういう次元じゃないね、あれは。そんな元気なのがいいのかね爺さんたちは」
「元気な事は良いことですよ、キョン。彼女は将来とても魅力的な女性になるはずです。兄として誇りを持っても良いと思います」
身内を褒められるのは気分のいい事なんだが、あのちんちくりんが魅力的な女性にね……悪い、まったくもって想像できやしない。
そんな遠い将来よりも年齢に伴わないあの精神の幼さをどうにかしてほしいもんだ、同じくらいっぽいイリヤを見習ってほしいよ。
「イリヤスフィールですか……確かに身体的には近しい二人ですが、個人的にお勧めは出来かねます。彼女は彼女でそのまま成長していくのがよろしいかと」
「はは、まぁあいつにイリヤのマネなんかできやしないと思うけどな。それよか名前だ名前。せめてお前らだけでもいいから俺を本名で呼んでくれよ。いい加減自分の名前を忘れてしまいそうだ」
このままいけば住民管理部署にもキョンの名で登録されかねないから、せめて自分の名前ははっきりと認識しておきたい。
さすがに大げさではあるけどな。
「そうですね、それではそうします。シロウもよろしいですか?」
「ああ、別に構わないぞ」
衛宮に確認の後、セイバーさんは久しぶりに俺を本名で呼んでくれた。
実に久しぶりだ、人からその名を聞くのは……以前呼ばれたのがいつだったのか明確に思い出せないくらい遥か昔の事だから感慨はひとしおだね。
……あー、しかしなぜだろうか。
その名で呼ばれることの方がものすごく違和感を感じてしまうのは……きっと広場で呼ばれたら自分の事とは気付かずにいるような気がしないでもないし、自分ではない誰かの名前で呼ばれてしまったような妙に落ち着かない気持ちになるではないか。
もはやあの渾名は俺の魂にまで浸食しているのか、考えるだけでもぞっとしない。
「どうしましたか? 何故か私には貴方が戸惑っているように感じられるのですが……」
「悪い、セイバーさん。やっぱりキョンのままでお願いできるか? どうも落ち着かなくてな……はは、は」
心の中では名前を呼んでもらえと主張する革命派と、別にこのままでいいじゃないかという保守派がやる気なさそうに討論しているが、流れは保守派にあるようで革命派も追撃する様子もなく、とりあえずはこのままでいいかなどという結論に落ち着きそうだ。
そもそも本名で呼ばれることを主張する側が革命派という時点で俺の心の中がどうなっているのか察していただきたい。
セイバーさんはセイバーさんで困惑した表情で俺をみているし、衛宮も何がしたかったんだお前的な視線をむけているのだから、この話題もまた早々に切り上げた方がよさそうだ。
「よくわかりませんが……今まで通り、ということでよろしいですか?」
「ああ、それで頼む。だけど俺からそう頼んだってことは絶対に口外しないように頼むぞ? そんな事がハルヒや妹の耳に入ったら俺の呼称は死ぬまでキョンになっちまうからな」
「いちいち大袈裟だよな、お前って」
「衛宮、お前はハルヒの本当の恐ろしさを知らないからそんな事がいえるんだぞ」
「だからそれが大袈裟だって言うんだよ。いくら涼宮だってそこまでしないだろうし、なぁセイバー?」
「ええ、もちろん彼女もいずれは名前で呼ぶことでしょう。それがいつになるかは、あなた次第です」
おれ次第とはまた随分無茶をいうな。
あいつに俺を名前で呼べなんていえるわけがない。
もしそんな事を言えば逆に何を言われるか、想像したくもないね。
「別にそういうわけではありません。彼女とあなたがもう少し素直になればいいだけなのだから」
「素直に、ね」
ハルヒには未来永劫不可能なことだと思うが。
あの超絶にひねくれまくった性根では自分の興味のあることと欲望と妄想以外には素直になることはないだろう。
「俺も人の事は言えないと思うけど……キョン、お前も結構鈍いよな」
「その言い方だとハルヒが俺に好意を持っているのを当人である俺が全然気づいていないっていう風に聞こえるぞ。さすがに笑えん冗談だ。向けられるのなら朝比奈さんや長門が望ましいね」
「……はぁ、駄目だなこれは」
「彼女達も大変ですね」
溜息をつく衛宮と呆れたと言わんばかりのセイバーさん。
やはりこの話題は切り上げよう、これ以上意味不明な事を言われ続けるのは、ハルヒの圧政に耐え続けている俺の精神力でも持ちそうもない。
しかし俺が別の話題、というより本来の目的にもどろうとするよりも早くセイバーさんが、
「ですが、キョンという名前のままでも、私は良いと思いますよ」
「いやいや流石にそれは遠慮したいぞ。親をそこまで崇拝しているわけじゃないが、貰った名前は大切にしたい」
「確かに親から授かった名前は大切なものです。しかし、だからと言って今の名が大切ではないという定義には至らない。本人が不本意だと思っても、周りの人たちにとっては大切なのかもしれない、ということです。それに、私だってキョンという名前は嫌いではありません。温かみがあり、親しみやすい、とても良い名だと思いますよ」
セイバーさんは言葉の最後に先ほど衛宮に向けたような向日葵のような微笑を俺に向けた。
いかんな、これは衛宮が赤くなるのもうなずけるほどの攻城兵器だ、健全な男子であれば例え誰であろうとも落城させてしまいそうな凄まじい威力を備えている。
最初に会った時の冷たい表情を知っているからかギャップが凄まじい、人は変われるもんだと改めて思い知らされる……のだがなセイバーさん、その笑顔を向ける相手は是非とも一人だけに限定してほしい。
衛宮がものすごーく詰まらなそうな表情でこっちをにらんでいるからな、それに長門も何時もよりも若干眉を吊り上げたように思えんでもない表情で俺をみているし…………うん?
「な、長門! お前いつのまに!?」
「長門? どこに……ってうわぁ!! び、びっくりした……俺も全然気づかなかったぞ。いつからそこにいたんだ?」
「…………」
「ユキは先ほどからいましたよ。私でも少々掴みづらい気配でしたが……ですがシロウ、キョンはともかくあなたまで気づかないとはどういうことですか? 最近物騒になっているというのに、少々気を抜きすぎですよ」
「それは確かにそうだけどさ……長門って気配読みづらいっていうか、いつも唐突に現れるっていうか……なぁ?」
そこに同意を求めんでもらいたいね。
俺にはお前らみたく気配を読むなんて高等技術は持っていないし、持ちたいとは思わんよ。
しかし長門が唐突にあらわれるというのだけは同感だ。
最近は気づいたらカウンターについているし、食事してたらいつの間にか隣で同じメニューを食べてたり、最初のように命令があるまで動かなかった頃に比べればよい傾向ではあるが些か心臓に悪い。
別に迷惑ということではないが、せめて近づいてくる工程を気づかせてほしいもんだ。
「……名前」
「名前?」
唐突に長門はいつも通り単語のみで伝える。
「名前がどうした?」
もちろんそれだけでは俺もわかるはずがないのでどういう事なのか尋ねると、
「…………」
どう伝えるのか頭のなかで整理をする長門、誰もが無言だった数秒間を経てようやく口を開いた。
「貴方が彼女に本来の呼称で呼んでほしいと頼んだ時から」
ああ、どうやら先ほどの質問に対する応えらしい。
「それって……また随分微妙な時に戻ってきたもんだな」
しかも結構とは言わなくてもちょっと前の事だ、その間ずっとしゃべらずにつったっていたのだろいうか。
あり得る……というより実際あり得たからこその状況なんだよな。
良く見ると長門は自分の買い物であろう大量の本と、その他よくわからない呪アイテムっぽい品物を数点を脇に抱え、やたらとかさ張る大きな箱を背負っていた。
あれは確か頼まれていた品物全てかもしれない、もしや俺が会話に現をぬかしている間に全部終わらしてくれたのだろうか、もしそうだとしたら感謝とともに申し訳なさがでてしまうな、せめてものお返しに何か贈り物でもしてやったほうがいいかもしれん。
そして長門は大量の荷物を持っているにも関わらず狭い棚と棚の間を淀みなく進み、俺の傍へときた。
「リストに記されている項目はこれで全部」
「あ、ああ……すまんな長門、最後はお前ひとりに任せちまったみたいで」
「……構わない」
その言葉だけを聞くならいつも通りと言えなくもないのだが、なぜだろうか、いつもよりも冷たいともそっけないとも取れてしまいそうなこの微妙な雰囲気は。
そういえばさっきも長門にしては珍しく嫌そうな表情をしていたような気がしたが……。
だがその時のイメージを思い出すよりも早く、目の前にいきなり茶色の壁が出現していた。
長門が先ほど背負っていた妙にかさ張る箱だ。
どうやら長門が俺の顔の真ん前に箱を突き出しているようなのだが、視界の九割を茶色い木目で占められていては断言できないので張本人に問いかける。
「な、長門? どうしたんだ?」
「……」
俺の問いかけにも応えず、茶色の壁がまた近づく。
堪らず一歩さがるが、それに呼応するように茶色の壁もまた近づき、数歩下がった時に背に硬い感触、どうやら行き止まりらしい。
「持って」
「持つって、これをか?」
「そう」
「あ、いや持つには構わないけどな、出来ればもう少し俺から距離を放してくれないか? このままじゃ姿勢もきつくて受け取れないんだ」
「……わかった」
ようやく視界がひらけたが、箱と俺との距離がある一定を未だ保っているのをみると、はやく持てということだろうか?
確かに長門に買い物を任せっきりにしちまったのは俺であるし、それで不機嫌っぽくなっているのなら責任はあるといえばあるのだろう、甘んじでその荷物を持たせてもらうよ。
――しかし、俺は甘かった。
「よし、んじゃ持つぞ――――ぬほぉ!!」
何が甘かったって?
そりゃ勿論この荷物の重量が見た目からして重いという事と、それを担いでいた長門は人間離れした身体能力を持っているのを失念していた事だよ。
奇天烈極まりない叫び声をあげてしまったのは、腰と足に掛る質量が通常の三倍近く増えてしまった事と、長門が何も言わず荷物を離したことへの驚きもある。
やはり一人で買い物をさせてしまったことが長門に怒りを与えたのだろうか……なんて冷静に考える力なんぞ今の俺にあるわけもなく、思考に割いている労力さえ惜しいくらい切羽詰っている!!
「ぬぐっ!! こ、こいつはっ、何がッ――入ってんだ!!」
「それは、禁則事項」
待て、それは今使うようなセリフじゃないぞ長門!
「おいおい大丈夫か。随分つらそうだが」
「辛そうじゃなくて実際辛いんだよ!! 見てないで手伝ってくれ!!」
「全く、やっぱりお前は大袈裟だよ。長門が一人で担いでたじゃないか、それを男のお前が辛いはずがないだろ?」
「じゃあ今すぐもってみやがってんだ!!」
本音を言えば今すぐこの荷物を持ってもらいたいだけだが、男としてのちっぽけなプライドのため黙っておこう。
ちなみに何故長門に頼まないのかといえば、俺がこんな状態にも関わらず何もしないイコールやはり不機嫌であるという事を感じ取ってしまっているわけで、そんな珍しい状態の長門助けてくれー、なんていえるほど俺の根性は据わっていないんでね、近くにいた衛宮に頼るしかないわけだ。
「ほら、貸してみろ」
「いいかっ、甘く見るなよ! これかなり重いからな!!」
「いいからいいから、よし持つぞー……ッッ!!」
「ふぅー、助かった……」
「……ふくッッ!! な、中々重いじゃないか、これ。は、ははは、長門って随分力持ちなんだなー」
引き攣った顔で笑わんでいいぞ、そいつの非常識さはお前らに通じるものがあるんだからな。
しかし、未だに腕がしびれてやがる……いったいどれくらいの重量だったのか想像したくもないが、少なくてもギルドの雑務に精をだす程度の力しか持たない俺には重すぎるのは揺るぎない事実だろう。
そこらへんも長門だったらわかると思うんだが……なんとなく先ほどから奇妙な行動が続く長門へと視線を移せば、本日二度目の珍しい表情を拝めることができた。
なんとあの長門が何かに戸惑っているかのように不安そうな顔で……と言っても目じりを毛先の太さほど下げているだけにも見えなくもないが、長門の生態を誰よりも知っていると誰かに聞かれればお役所行きになりそうな自負を持っている俺からすれば、いつもと違う表情であることは確かであり、統合的にあれは戸惑っている表情であると推測できるわけだ。
だが俺にわかるのは精々そこまでで、長門が一体何に戸惑い、どうして不安そうな雰囲気をもって俺を見つめているかは見当がつかない。
そこら辺は本人の口から聞くことにしよう。
「長門、どうしたんだ? なんだか様子がおかしいぞ」
「…………」
長門は直には答えず、ほんの少し視線を俺から横へ外して数秒間はそのまま固定、何を見ているのかと視線の方角、つまりは俺の後ろあたりを見れば、ようやく体制を立て直した衛宮と、心配そうな表情のままだらしがないと叱咤するセイバーさんの姿があった。
さらに長門の視線をじっくりたどれば、向けられている人物はセイバーさんだ。
「……なんでも、ない」
ようやく帰ってきた返答に、それが長門にはこれまた珍しくしおらしい声色だったので、
「そうか。まぁ長門だって買い物を一人でやらされちゃ不機嫌にもなるよな。今回は本当に悪かった。今度埋め合わせに何か奢るよ」
追及はせずに、とりあえずは重そうな荷物を持ち続けてもらうわけにはいかないので衛宮達のほうへと近づくことにした。
結局その問題の荷物は俺が持つのではなく、長門が軽々と運ぶことになったわけだが、その様子を見て感心する衛宮と、さすがですねユキ、と特に驚いた風もないセイバーさんの反応の違いに少々愉快にさせてくれた。
この世の中は女性が強くできているもんだと、どこかの変態爺に言われたような気がするが、それはもしかしたら真実なのかもしれないと思うようになっている……なぜなら俺の周りにもモンスターをものともしない女性陣が長門を含めたくさんいるからな。
ともかく買い物を終えた俺と長門は我らがギルドに戻ることとなり、衛宮とセイバーさんと別れることとなった。
別れ際、近いうちにお邪魔するという事を伝え、長門はセイバーさんに何やら伝言を頼み終わるのを待ち、積載量の限界に挑戦しているかと突っ込みたくなる荷台を長門が引き俺が後ろから支えながら、事前に一歩分の距離を測定していればその歩数だけで正確な距離が算出できるだろう淀みない長門の歩みに俺は逆らうことなく追随しているとき、そういえば結局セイバーさんが何を探しているか聞かずに終わってしまったなと気付く。
いいさ、どうせ週を跨ぐ前にお邪魔する予定だ、その時に聞けばいいと結論づけ、俺達はゆっくりと帰路についていた。
その道中思うのは、ギルドに到着したのちこの荷物を倉庫に運ばされるだろう憂鬱な出来事の事ではなく、ましてやハルヒがまた無理難題を押し付けないのではないかという不安でもなく、衛宮に変な事を言いふらした小泉への追及のことですらない。
俺が軋みをあげる大量の荷物を支えながら思うのは、先ほどの長門の様子だ。
不機嫌そうな表情、そして戸惑いと不安の表情、そのどれもが以前の長門には考えられない事柄であのは、こいつが我らがギルド――正確に言えば前ギルドだが――にやってきてから今までの付き合いになる俺を含め、他の団員ですら思うところであろう……それくらいに長門は感情の起伏が乏しかったのだからな。
そんな無感情娘が変わり始めたのはいつだったか……俺は荷物の合間から長門の後頭部を見つめながら、今までの経緯を思い出す。
色々な事があった、本当に色々だ。
もっと他に言い方があるかもしれないが、簡単にまとめれば色々あったとしか言いようがない日々なのは確かなので、重要な部分だけを思い出す事にする。
長門が変わり始めたきっかけ……それはやはりあいつとの出会いが一番なのではないだろうか。
いつも騒ぎの中心にいながら、それでも笑う事を絶やさないお人好しの大馬鹿野郎……そいつがまだこの地へ移転してきたばかり俺達の前に現れ、例によって騒ぎを起こし嵐のように去って行った時、それが長門にとっての転機だったのかもしれない。
直接その場に居合わす事はできなかったが、あいつの事だ、長門の無茶無謀っぷりに何か言ったに違いない、そう断言するのは預言者でも占い師でもない俺だが、的中率は熟年の農夫たちが行う天気予想並みであることを保障する。
あいつと少しの間でも過ごせば誰だってそう思うだろう、それくらいお節介焼きなのだ。
そう言えば今頃どうしているのだろうか……いや待て、そういえばさっき衛宮に声をかけられる前、大事なことを思い出そうとしていたような気がする。
なんだったか、最近ミミズののたくったような文字と格闘ばかりしているせいか、妙に頭が重くてすぐに昔の出来事を思い出せない時がある……若くして痴呆にはなりたくはないが職業柄、付け加えればハルヒの非人道的な超過労働では、もうしばらくはこの倦怠感と付き合う必要がありそうだ。
さっそく思考がずれているな、認識出来ているだけにタチが悪い。
改めて先ほどの事を思い出そうとして、
「――ふぐっ!?」
しかしそれは唐突な壁の出現によって阻まれることになった。
今しがたまで支えるだけだった大量の荷物が、突然前方へ進む力を失い、俺の力だけではびくともしない壁になり果てたのだ。
その際に顔面を荷物に強か打ちつけたのを誰にも見られていなかったのは不幸中の幸いだったと思っておこう。
ともかく俺は荷台が動かなくなった原因、
「長門? どうした?」
つまり、この荷台を引いていた行為をやめた長門に話しかけた。
おそらく長門は歩くことをやめ立ち止まったのだが、そんな事も珍しいといえば珍しい。
しかしそれに対する返答はなく、俺は若干痛む鼻先を撫でながら荷台の前、長門がいる場所へと歩き、直接話そうとした――――その時だ。
「つまり香里は俺の事が好きだったんだよ!!」
「「「な、なんだってー!?」」」
馬鹿でかい声が俺達の前方、この街には珍しい人ごみの中から聞こえてきた。
何事かと一応はこの街の平和の一端を任されているギルド員として俺は人ごみをかき分け、その際少々強引にかき分けてしまった人たちへの謝罪を忘れずに、騒ぎの中心である叫び声があがった場所を目指す、若干人が多いとはいえ、所詮辺鄙なこの街の人口密度だ、大した苦労もなく人ごみは抜けることはできたのだが、驚いたことにそこには長門の姿があるではないか。
何時の間に来たのだろうか? と考えて実は先ほど荷台が止まった時から駈け出していたのかもしれないと俺は直感的に思った、というよりは感じてしまった、と言った方が正しいだろう、一種の予感というやつさ。
長門の体格とその身体能力を持ってすれば俺がこの場所へとたどり着くのに掛った時間の半分以下で踏破できるはずだ、なら何が起きたのかわかるかも知れないと思い、俺は一体何があったのかと質問しようとして、
「寝言は――――」
「ほごっ、ぶべぇっ!!」
その地獄の底から響くようなおっそろしい声とうめき声に顔は自然とそちらをむき、その壮絶たる出来事を目撃してしまったのだ。
まず目に入ったのは、一番に大声をあげたであろう男、金髪で一房だけ天につき立った奇妙な髪形をした奴が、美しく流れるウェーブの長い髪を携えた綺麗な女性に誰もが見事と評する素晴らしい正拳突きを腹部に決められ、苦悶の表情を浮かべながら体をくの字に折り曲げた所にこれまた見事なアッパーをかまされているところだった。
しかし、女性はそれだけで止まらない。
「――――寝てッッ!!」
「ヒギィッ!!」
アッパーにより体が起こされた男の、再び無防備となった胴体への掌打、そこから腕を折りさらに踏み込んでの肘鉄を食らわした。
その際ただの踏み込みで硬いはずの石畳がまるで脆い石灰のように砕かれているのを見て、尋常ではない威力がこもっている事を想像するのだが……後から思えば、これはまだましだったのかもしれない。
女性は肘を食らわした後、踏み込んだ足を基点に回転するようにステップして一瞬のうちに男の背後へと移動、そのまま流れるような仕草で男が背負っていた巨大な塊、所謂ハンマーを抜き去り再び体を回転させて、その遠心力を余すことなく最大限に生かしたまま先ほどの位置、つまりは男の真正面に移動した。
そこからは導かれる結論は、残念なことに一つしかないだろう。
もはや意識が飛びかかっている男は身に迫る危険に気付かず、女性はそんな事をこれっぽちも気にせずに手に持ったハンマーの回転を横から縦に、そこから生み出される強烈なかちあげを、
「言いなさい!!」
容赦なく顔面へと叩き込んだ。
「プゲラ!!!!」
もはや人の叫び声ではない気色の悪い奇声を上げたその男は、縦回転と横回転にスパイラルな回転を加えたいっそ芸術的とも呼べそうな飛びっぷりを数秒間続けて、偉い学者さんが発見した万有引力の理に従い山なりの軌道を描きながら、人ごみから少々離れた場所へと落下していく。
人があんなに飛ぶなんてこの年になって初めて知ったわけだが、それが得難い知識になるか、どうでもよい経験になるか、思い出したくもない恐怖の記憶になるかは、人それぞれだろう。
「――――ピキョッ!!!!」
その後の頭から地面に落下し、気味の悪い声とともに折れてはいけなさそうな骨が折れたような嫌に耳に残る音をあげた光景も見たのならば、至極残念なことにこの出来事は三番目の思い出したくもない恐怖の記憶、トラウマとして植えつけられることになりそうだ。
子供ならしばらく夜は眠れまい。
大人でも今日の食事が喉を通らないかもしれない。
参考程度に言えば、俺はおそらく今日の夜はきちんと眠れ、食事をおいしく頂けるだろうだが、それはこれ以上に悲惨でスプラッタな光景を何度か見たからで、さらに似たようなどつき夫婦漫才を繰り出す二人組を知らんわけでもないからである。
これも慣れというやつだ、が慣れたくはないと心から思う。
それもかなわぬ願いなのは百も承知なので、あえてこれ以上考えないことにしよう、それよりも目の前の傷害事件をどうするかが一番の問題だからな。
だがその前に、
「長門、とりあえずあいつは生きてると思うか?」
飛ばされた奴の安否を確認しておこうと思う、次第によっちゃ傷害ではなく、殺害事件として扱うかもしれんからさ。
実際はそれ以前の問題なんだがな、あれは明らかにモンスター用の武器だ。
しかし、長門からの答えは少々予想外のものだった。
「……生きている。彼に深刻的な外傷は認識できない。先ほどの攻撃によるダメージは既に癒えている」
おいおい、それは本当か? いくらなんでもそれはありえないだろう。
さっきだって骨が折れるような音が聞こえたぞ。
「その事に関しては、私にも理解不能。しかし彼に外傷、身体内部へのダメージは存在していない。驚異的な身体能力か、竜種と同等の回復力をもつのではないかと推測される」
「……つまり、化け物か」
「人間としての範疇を逸脱しているという定義であるのならば、その表現は適切」
長門のお墨付きの化け物クラスか……よし、とりあえずは見なかったことにしてこの場を去るとしよう、怪我もないのなら出張る必要もないし、その化け物クラスを軽くぶっとばした綺麗な女性とも関わり合うべきではないと得たくもなかった経験から俺はそう判断した。
今すぐ回れ右をしてその場を去り、然るべき場所への報告、それが最善の策なのだ――――が、
「……待って」
「長門?」
珍しく長門から声が掛り、さらに言えばその白陶器さながらの美しさをもつ細腕に服の裾をつかまれてしまい、俺はその場を去ることをできずに立ち尽くすしかなかった。
今日の長門は珍しさのバーゲンセールだな、とよくわからないことを考えてしまったのは後世までの秘密だ。
「すぐに来る」
「来るって何がだ長門?」
「…………」
長門はその水晶のような瞳で俺を見つめること数秒、
「嵐」
短く、しかし明確に意思の籠ったえらく物騒な言葉を放ちやがりましたよ、嵐ってなんだ嵐って……まだそんなものが来る温暖期でもな――――――まて、嵐だと?
「まさか……あいつか」
予感、いやこれはすでに確信といえよう、電撃が走ったというやつだ。
先ほどまで思い出そうとしていた事柄、長門の行動、その原因、この騒ぎ、そして最後の嵐という言葉……そこから導き出される答えは、俺の中で一人の人物へとつながる。
「おまたせー、ずいぶん人ごみが出来てるなって思ったらって早速なにやらかしてんだ香里ぃぃいい!! 前の街でのことを忘れたのかお前ってやつは!!」
「あら、今回はちゃんとボウガンは使用してないわよ? あくまで拳と相手が身につけてた武器を利用しただけだもの。立派な正当防衛ね、そうは思わない?」
「思うと思うのか!!」
「思うと思うわ」
…………やっぱりか。
女性をはさんで俺達から反対側の人垣をかき分けて現れたのは、一見どこにでもいそうな風貌をしている若いハンター、背に馬鹿でかい剣を担いで体をモンスターの素材から作られた強固な鎧に身を包んで、登場するなりいきなり叫びだした。
香里と呼ばれた女性は特に気にした風もなく、そいつの言葉を右から左へ聞き流している。
「長門……お前いつから分かったてた?」
「……気づいたのは騒ぎが起こる二分十七秒前、確信を得られたのはその三十秒後」
「そうか、やっぱりあの時か」
しばらく前に封印した口癖を心の中だけで呟き、俺は再び騒ぎの中心へと視線を向けた。
「うぐぅ……北川君につられて変なこといっちゃったよ」
「あぅ〜、私もー」
「えぅ、なんであんな馬鹿な人の馬鹿な行動につきあう馬鹿な事をしてしまたのでしょうか私は」
「少しは北川さんの心配をしてはいかがですか? 無駄なことだとは思いますが」
そこには奴と香里という女性のほか、三人の小さな女の子たちがなにやらショックを受けているよで、それを静かに見守る妙に落ち着いた少女が一人。
聞こえてきた会話から、どうやら先ほど飛ばされた奴が北川というやつで、そいつはこのメンバー――おそらくこいつらは一括りとして数えていいだろう――から人として扱われていないだろうと推測できるが、問題は別にそこではない。
一番の問題は……あいつだ。
「それで、結局どうなのよ? 目的の街は今度こそここでいいんでしょうね?」
「ああ、それなら大丈夫だ。さっき涼宮と会ってきたしな、キョンはいなかったが、そろそろ戻るだろって言ってたよ」
「名前で言われても私たちには誰が誰だかわかりません。いい加減疲れてきたのでそのギルドとやらに向かいませんか? 貴方のおかげで予定の五倍ほど旅路を味わうことになったのですから」
「ぐっ……それは悪かったって言っただろ!? おれだって好きで迷ってんじゃねーんだ!! そんなことばっかり言ってるから真琴に小姑みたいだって言われるんだぞみしおん!」
「その呼称は認めていません。それと真琴、その事について話があります。後で部屋に来るように」
「あぅー!!」
相も変わらず騒ぎの中心にいるようで、ついでに言えばやはり乙女たちに囲まれているようで実に結構、一度刺されてしまえ。
俺はこれから起こるであろう嵐のような騒ぎを頭の中で想像し、ただでさえ最近物騒な事を思い出してさらに憂鬱になりつつ、今だ俺の裾をつかんで離さないながらも視線はある一点をさしたまま微動だにしない長門の様子を見ながら、樹海よりも深いため息をついた。
こうなってしまった以上ハルヒの奴が騒がないわけがない、高町達だっていつもよりも張り切ってしまうだろう、またバーサーカーさんに追いかけて捕まえろと嬉々として命令する妙に生き生きとしたイリヤも見られるかもな、なんてちょっと現実逃避をしながら、俺は三度騒ぎの中心、その人物を見る。
長門に変われる切っ掛けを与え、高町達がハンターを目指した原因であり、ハルヒと同等なくらいに騒ぎを起こす奴。
俺は意を決してそいつがいる方へと歩き、
「久しぶりだな、相沢」
なるだけ冷静に声をかけた。
すると奴――――生粋のトラブルメーカー相沢祐一はこちらを向いて、純粋な喜びの表情のまま答えを返す。
「しばらくぶりだな! また世話になるぞ、キョン」
世話をする程度で済めばいいが……はてさて、事件を嵐のように吹き荒れさせるこいつがどんな厄介を持ち込むことやら、俺の横で無表情ながらどこか嬉しそうな長門の気配を感じながら、俺はいもしない神様にどうか平穏無事な日常を望むとしよう。
それが無駄なことだと分かるのは数日もかからんと思うがね。
さて、忙しくなりそうだ。
有休申請の書類でも書く準備でもしておこう。
■■あとがき■■
長い……どうも遥か彼方です。
突っ込みたい部分は多々あると思いますが、まぁあれです。気にしちゃ負けなのです。
今回は色々とカオスに仕上がりました……今回も、かもしれません。
まぁそれよりももっとコンパクトにまとめられるようにならなきゃだめですねー。
さて愚痴もそこそこに、あとがきらしいことを書きましょう。
まず第一点、断っておかなければならないことがあります。
この作品を読む上での前提条件、と言い換えても問題ないくらいの重要事項です。
今回名前だけの登場を含めると4つほどのクロス作品が増えましたが、それは所謂魔法や概念や魔術やらと、モンスターハンターの世界観にそぐわない世界観だらけの作品です。
そのまま設定を持ってくると破綻すること間違いなし、私の構成力では書き切れないでしょう。
故に、この作品では――魔法やら概念やら魔術とかデバイスとか英霊等など、これらはないものと考えてください。
キャラクター達だけが集まっている、と考えてくださればよいかもしれません。
それじゃ面白くないとか意味ないじゃん、そういった意見もあるかもしれませんが、私には扱いかねる設定ですので、その辺りはご了承の程をお願いします。
とは言ったものの、全く完全に完膚無きまでにそういったものがないというわけではありません。
ある事にはありますが、物語の核を為すものではないと思います。
よくわからないかもしれませんが、私もわかってないので問題なしです、無いったらないのです。
次に第二点、といきたいところですが、まぁあとがきで延々と書いても仕方のない事なので割愛させていただきますね。
次回も順調といえば順調に壊れて進んでおります。
楽しみにしていただけるかはわかりませんが、私が出来る限り頑張りたいと思いますので、これからもご愛読の程を宜しくお願いします。