機動戦ガンダムSEED LYRICAL















アルテミスの全方位光波防御帯が解かれ、アークエンジェルを招き入れる。

そこまではよかったのだが、入港したとたんに、武装した兵士やMAに取り囲まれた。

内部へと突入した兵士達によって、銃を突き立てられ、クルーと民間人は食堂へと集められた。














PHASE-6

『アルテミス陥落』















「これはどういうことか、説明していただきたい?」



抑揚のないナタルの問い掛けに、ユーラシアの士官はねっとりした笑いかけた。



「一応の措置として、貴艦のコントロールと火器管制を封鎖させていただくだけです」


「封鎖?」


「しかたないでしょう? 貴艦には船籍登録もなく、無論我が軍の識別コードもない。状況などから判断して、
 入港は許可しましたが・・・・・・残念ながら貴艦はまだ、友軍と認められたわけではない」



言っていることは確かに正論だが、言ってることとやってることが矛盾している。

もしアークエンジェルが敵の可能性があると判断したのなら、最初から入港を許可したりしないだろう。



「では、士官の方々は私と同行願いましょうか。事情をお伺いします」



仕官達はクルーとは別に、アルテミスの内部へと案内された。

無論、前後を武装した兵士に固められている。














アルテミスの司令室に映し出された、アークエンジェルを見詰めるアルテミス司令官、ジェラード・ガルシア。



「大西洋連邦極秘の軍事計画か・・・」


「よもやあんなものが転がり込んで来ようとは・・・ヘリオポリスが絡んでいるという噂は本当だったようですね」



副官の言葉にガルシアは笑みを浮かべる。

予想もしなかった思わぬ収穫に、邪な思想を張り巡らせる。



「連中にゆっくりと滞在していただくこととしよう」



そこに部下が仕官達を連れてきたと連絡があり、ガルシアは入るように命令した。

扉が開き、マリュー、ムウ、ナタルの3人が司令室に入ってきた。



「ようこそ、アルテミスへ」



とりつくろった慇懃な物腰でマリュー達を招き入れる。

ガルシアは3人の名を各自名乗らせたあと、持っていたIDを手元のコンピューターで検索する。



「―――成る程・・・キミらのIDは確かに大西洋連邦のもののようだな」



その態度にムウは嫌味を込めて言う。



「お手間を取らせて申し訳ありません」


「いやなに、輝かしきキミの名は私も耳にしているよ、『エンデュミオンの鷹』殿。グリマルディ戦線には私も参加していた」


「おや・・・では、ヴィラード准将の部隊に?」


「そうだ、戦局では敗退したが・・・ジン5機墜とした君の活躍には我々も随分励まされたものだ」


「ありがとうございます」


「しかしそのキミが、まさかあんな艦と共に、ここへ現れるとはな」


「特務でありますので、残念ながら子細を申し上げることはできません」



おっとりと切り返すムウに、目を細めるガルシア。



「なるほどな・・・だが、すぐに補給というのは難しいぞ」



薄々予想はしていたが、ムウの予感はみごとに的中してしまった。

しかし、まだガルシアの思惑に気づいていないマリューは、まっとうな主張をする。



「できるだけ早く、補給をお願いしたいのです。我々は一刻も早く、月の本部に向かわねばなりません。
 それに、まだザフトにも未だに追撃されていると思われ・・・・・・」


「ザフト?・・・・・・これかね?」



マリューの言葉を遮って、ガルシアは鼻で笑う。

その手が手元のスイッチを押すと、モニターにアルテミスから程近い宙域に停泊している艦の姿が映し出される。



「ローラシア級!?」



息を呑むマリュー達とは対照的に、ガルシアは余裕の態度を崩さない。



「見ての通り、奴らは"傘"の外をウロウロしているよ。先程からずっとな」



緊張した3人の顔を見て、ガルシアはニヤリと笑う。



「まあ、あんな艦の一隻や二隻、ここではどうということはない。だが、これでは補給を受けても出られまい?」


「奴らが追っているのは我々です。このまま留まり、アルテミスに被害を及ぼしては・・・・・・」



ムウの言葉は、突然わきおこったガルシアの笑い声にかき消された。



「あっはっはっは! 被害だと? このアルテミスが? 馬鹿馬鹿しい! 奴らは何もできんよ。
 そしてやがてあの艦も去る、いつものことだ。奴らとてこの衛星の恐ろしさはよく知っている」



マリュー達3人は、司令官の姿を唖然として見た。

その自己を過大評価する発言にムウは食い下がろうとする。



「しかし指令! 奴らは・・・・・・!!」


「とにかく君達も少し休みたまえ。大分お疲れのようだ、部屋を用意させる。奴らが去れば、
 月本部との連絡の取りようもある。全てはそれからでも遅くないだろう」」



つまりは体のいい監禁ということだ。

ムウは呼ばれて入ってきた兵士達に連衡されつつ、ガルシアに棘のある口調で問い掛けた。



「アルテミスは、そんなに安全ですかね?」


「安全さ。母の腕の中のようにな」














アルテミス周辺の宙域に停滞するガモフ。

そのブリーフィングルームではミーティングが行われていた。



「傘はレーザーも実体弾も通さない。まあ、向こうからも同じ事だが」


「だから攻撃もしてこないって事? バカみたいな話だな」



ディアッカが呆れたように言うと、艦長のゼルマンが睨む。



「だが防御兵器としては一級だぞ。さして重要な拠点ではないため、我が軍もこれまで手を出さずにきたが・・・・・・」



辺境の小惑星を改造した小規模な要塞でなため、ザフトにしても地球連合にしても戦力的価値は殆どないので放置されていた。

戦力的には圧倒的に有利であったが、光波防御帯と呼ばれる強力なエネルギーシールド・・・通称『傘』を有するので、

攻めるにも、全ての攻撃が傘に弾かれるので、現状ではお手上げなのだ。



「あの傘を突破する手段は今のところ、ない。厄介な所に入り込まれたな」


「どうするの、出てくるまで待つ?」



クスクスと笑うディアッカの冗談を、苛立ったイザークが睨みつける。



「ふざけるなよ、ディアッカ。おまえは用を終えて戦線に戻られた隊長に、何も出来ませんでしたと報告したいのか?
 それこそいい恥さらしだ! それに、援軍として来るのはあの『黒騎士』だ。みっともない様は見せられん」」



そう言われるとディアッカは黙るしかない。

黒騎士の異名をとる人物は、クルーゼと同じく、ザフトなら知らぬ者などいない。

天賦の才に秀でた優秀な軍人で、礼儀を重んじて人としてもできており、世界樹攻防戦においても多大な戦果を上げて、

ネビュラ勲章を授与された英雄として、数多くの者から尊敬されている。

プライドの高いイザークがそんな人物を相手に、なにもできずに撤退したなど言えるはずもないし、ディアッカも同じだ。

そのとき、唐突にニコルが口を開いた。



「傘は常に開いているわけではないんですよね?」


「ああ、周囲に敵がいない時までは展開していない。だが、傘が閉じているところを狙ったとしても、
 近づけばこちらが衛星を射程に入れる前に察知され、傘を展開されてしまうだろう」


「僕の機体・・・ブリッツなら、うまくやれるかもしれない。あれにはフェイズシフトの他にもう1つ、おもしろい機能があるんです」



これまでニコルを無視していたイザーク達は、驚いてその顔を見た。

ニコルは悪戯っぽい表情を浮かべ、作戦を説明した。














アークエンジェル内では、人々が不安に刈られ、あちこちでひそひそと言葉をかわしていた。

出入口には銃を持った兵士が見張りで立っているので、一歩も出られない。



「ユーラシアって味方のはずでしょ? 大西洋連邦とは仲悪いんですか?」



サイがトノムラに訊き、



「そういう問題じゃねえよ」



と、突っ込まれる。

パルがため息をついた。



「はぁ〜・・・識別コードがないのが悪い」


「それってそんなに問題なんですか?」



臨時のメンバーで、軍の内情など知らないトールが問い掛けるが、尋ねられたチャンドラは口を閉ざす。

そこに紙コップを持ったハヤテがやって来て告げる。



「そんなの建前だよ。本音はまったく別だ」



ハヤテの言葉に驚く正規の軍人達。

いくら民間協力者とはいえ、軍の内情を民間人も混じっているこの場で言っているのだから当然だろう。

もっとも、ハヤテはそれだけ言うと、端の席に座って眠りついた。

意味有りげな台詞を言ったわりには、けっこう無責任な退き方だとみんな思った。



「どういうことなんだろう?」


「足の引っ張り合い、または利権の取り合いですよ」



あゆの質問に答えたのは秋子だった。

秋子の答えはみごとに的を射ており、近くで聞いていたノイマンとマードックは驚いた表情を浮かべた。

なぜか秋子は軍の事情を理解している。



「地球連合は対プラントを目的として設立されたましたが、もともとが友好関係ではありませんでしたから」


「そこでガンダムを手に入れて、その技術を独占して一気に駆け上がろうとしていた、とか?」



所詮は寄せ集めの烏合の衆。

いや、互いが牽制しあって足を引っ張り合っているので、それよりも性質が悪いといえるだろう。

なにせ味方同士で敵視し合っているのだから、味方の中に敵を作り続けているのと変わらない。

ザフトのような結束力などなく、これでは悪魔から逃げて魔物の巣に飛び込んだようなものだ。



「よくできました」



カケルの頭を優しく撫でる秋子。

それをカケルは、嬉しそうに笑顔で受け入れる。

それを呆れた様子で見ていたアリサが一言。



「ノンキなもんよね〜」


「でも、それが神威くんの強さかもしれないよ」


「そういえば・・・1人だけ普通に出てきてたんだよね」



正規の軍人であるムウの除けば、当たり前にコクピットから出てきたのはカケルだけだった。

普通なら同じようにシートに座って震えててもいいはずなのだが、みんなの心配をして行動に移した。

なにも考えない無邪気さがそれを可能にしているかわからないが、何気に感も鋭かったりする。



「ところで秋子さん。カケルとはどういう関係なの?」


「真琴達には話してませんでしたね。カケルちゃんは・・・」



まだ詳しいことは話してなかったので、これから話そうと思ったとき、ユーラシアの兵士達が荒い足跡で入ってきた。

間を割って先頭に立った男が、横柄な口調でたずねてくる。



「私は当衛星基地司令官、ジェラード=ガルシアだ。この艦に積んであるMSのパイロットと技術者は何処だね?」


「あ・・・」


「は・・・」



まだ状況が理解できてないキラとなのはが、素直に返事しようとしたところを、マードックとタツが押し止める。

2人はまだムウやハヤテが言った意味がわかってないようだ。

キラとなのはは訳がわからず、押し止めた2人の顔を見上げる。

すると、さっきまで寝ていたはずのハヤテがまだ眠そうな声で聞き返した。



「艦長達に訊けばいいだろ・・・それとも訊けなかったとか〜」


「なに!?」



ガルシアの隣に立っていた副官が荒々しい足取りでハヤテに近づき、その胸倉を掴んで無理やり立たせると、



「煩い」



ハヤテは手首を掴んで、そのまま足を払って相手を倒す。

ガルシアは幾分気分を害したようだが、不意に笑うとハヤテの近くまで歩いてきた。



「あの4機をどうするつもりですか?」


「別にどうもせんよ。ただ、せっかく公式発表より先に見せていただく機会に恵まれたのだ。色々聞きたくてね・・・パイロットは?」



その質問にマードックが答える。



「フラガ大尉ですよ。お聞きになりたいことがあるんなら、大尉にどうぞ」



ガルシアはそれを鼻で笑った。



「先の戦闘はこちらでもモニターしていた。ガンバレル付きのゼロを扱えるのはあの男だけだ」


「残念ですが、俺もあそこのタツもガンバレルくらい操れますよ」


「仮にそうだとしても、あと2人のパイロットがいるはずだ。」



ガルシアはあたりを見渡した。

誰も答えないのを見ると、近くにいた佐祐理の腕を掴んだ。



「きゃっ・・・」



嫌な笑みを浮かべながら、佐祐理を無理やり立たせる。



「佐祐理!」



舞がガルシアに突っ掛かろうとしたが、同時に兵士達が銃を向けてそれを制した。

それが自分に向けられただけならよかったが、周りの関係ない人達にまで向けて、まるで人質のように牽制している。

これでは流石に舞も下手に動けない。



「まさか女性がパイロットとも思えないが、この艦の艦長も女性ということだしな・・・」



ガルシアのやりように、祐一とキラの我慢が限界を超えた。



「やめてください! あれに乗っていたのは僕です!」


「もう1機は俺だ! 聞きたいことがあるなら答えてやる!」



祐一は同じよう立ち上がろうとしたカケルを自分の体で隠し、なのははキラが隠した。

最低でも2人を巻き込むことは避けたかった。














アルテミスから遠ざかるガモフ。

ハンガーに固定されたブリッツのコクピットでニコルは準備を進める。



「ミラージュコロイド、電磁圧チェック・・・システムオールグリーン」



準備を終えると、ニコルは軽く溜め息をついて、不安げに呟く。



「ふぅ〜・・・テストもなしの一発勝負か・・・・・・大丈夫かな?」



起動するブリッツを、控え室からパイロットスーツに着替えたイザークとディアッカが見詰めていた。

今回はニコルだけの出撃ということで、ディアッカがつまらなそうに舌打ちする。

イザークがその様子を見ながら口を開く。



「しかし、地球軍も姑息なモノを造る」


「ニコルには丁度いいさ。臆病者にはね・・・」



イザークも同じような笑みを浮かべ返した。

十分な距離を取った後、アルテミスからリフレクターの光が消え、傘が解かれていく。

そのチャンスを狙って、ガモフからブリッツが発進する。

アルテミスへ向かうブリッツの機体のあちこちからガスのようなものが噴き出し、広がるように機体を覆っていく。

やがてブリッツの機体は、宇宙に同化するように完全に消えていく。



「ミラージュコロイド、生成良好・・・散布現損率37%・・・・・・使えるのは80分が限界か・・・・・・」



姿だけでなく、レーダーにすら映らなくなったブリッツは、真っ直ぐにアルテミスを目指した。














「坊主ども・・・彼女を庇おうという心意気は買うがね、アレは貴様のようなひよっこが扱える物じゃないだろう。ふざけた事を言うな!」



ガルシアは突然キラに殴りかかった。

だが、コーディネイターのキラにとって、その拳はまったく脅威ではなかった。

あっさりとそれをかわすと、逆に腕を掴んでねじり上げた。

ガルシアの巨体がみっともなく床に転がるのを見て、兵士達は眼を丸くする。



「僕は、貴方に殴られる筋合いはないですよ!」


「なんだと!」



ガルシアの顔が怒りと屈辱でどす黒く染まる。

周りの部下達が慌ててキラを拘束しようとするが、それを祐一が割って入り、簡単に叩きのめしてしまう。

兵士達が銃を抜き、それを祐一達に向ける。



「やめてください!」



止めようとしたサイは、ガルシアに殴り倒されてしまった。

フレイは悲鳴を上げて、サイの体にすがる。



「ちょっとやめてよ! キラの言ってることは本当よ!!」



フレイの言葉に、トール達は驚いた表情を浮かべる。



「それとあの子とあの子もそうよ!」



フレイはカケルとなのはを指差す。



「貴様ら! いい加減なことを!!」


「嘘じゃないわ! だってその子達、コーディネイターだもの!!」



マードック達が痛恨の表情となり、兵士達は唖然となって立ち止まる。

カケルとなのははコーディネイターではないのだが、フレイの中ではそうなっていたようだ。

いや、ただ自分の彼氏を助けるためのスケープゴートにされただけかもしれない。

せめて2人だけはと思った祐一達の行動は、フレイの一言で全て無駄に終わった。

兵士達が一斉に銃を向けると、カケルとなのはも立ち上がる。

背中に銃を突きつけられて、4人は連衡されて行ってしまった。














停滞しているガモフに、一隻のナスカ級が隣接していた。

ナスカ級のブリッジのモニターに映し出されたゼルマンと、隊長であるノイン・アストラエナが話していた。



「なるほど・・・それではGAT-X207・・・ブリッツの奇襲が成功した後に、こちらの全兵力を持って強襲する・・・でよろしいか?」


『はい。ミラージュコロイドの可動限界は80分が限度ですから、それまでに反応があると思われます』


「なるほど・・・了解した」



通信を切ると、ノインは立ち上がる。



「パイロットはMSで待機! 私もシグーで出る!」



ノインはそう言うと、ブリッジから出て行く。

格納庫では漆黒のシグーが、今や遅しと搭乗者を持っていた。














連衡されていた4人を見送ると、トールがフレイをなじった。



「なんであんな事言うんだよ、おまえは!」


「だって本当のことじゃない」



フレイは悪びれずにけろっと言った。



「本当のことじゃない! なのは達はコーディネイターじゃないのよ!!」


「祐一もキラも、みんなだって2人だけは巻き込まれないようにしようとしてたのに、どうなるか考えないわけ、おまえって!?」


「煩いわね! ここは味方の基地なんでしょ? パイロットが誰かくらい言ってもいいじゃない。なんでいけないのよ!?」



どこまでも罪の意識のないフレイに苛立ちを覚えた香里は、トールをどかしてフレイの前に立つ。

そして、そのまま引っ叩く。



「なっ・・・なにするのよ!!」


「地球軍がなにと戦ってると思ってるの? この状況を見れば、相沢くん達がただじゃすまないことくらいわかるでしょ!!」














「OSのロックを外せばいいんですね?」



ガルシアは4人の顔を見比べると、ニヤニヤと笑みを浮かべる。



「うむ・・・それはもちろんしてもらうが・・・キミ達にはそう、もっといろいろなことができるのだろう?
 たとえばこいつの構造を解析し、同じものを造るとか、逆にこういったMSに対して有効な兵器を造るとかね・・・」


「僕らはただの民間人です。軍人でも軍属でもありません。そんなことをしなくちゃいけない理由はありません」


「だが、君らは裏切り者のコーディネイターだろう?」



ねちっこく発されたガルシアの言葉に、キラは衝撃を受けた。

唖然とするキラを横から支える祐一は、キッっとガルシアを睨む。



「俺達はそんなんじゃない!」


「どんな理由でかは知らないが、どうせ同胞を裏切った身だろう・・・ならばユーラシアで戦っても同じだろう?」



ガルシアは機嫌を取るような猫なで声で言う。



「違う・・・僕は・・・・・・!」


「いやいや、地球側につくコーディネイターというのは貴重だよ。心配いらない、君らは優遇されるよ。ユーラシアでもな」



これまでの人生で、キラは自分がコーディネイターであることを、これほど強烈に自覚することはなかった。

中立であるオーブにおいて、その種による差別や特別視などはなかったので、自分がどちらにつくかなんて考えもしなかった。

ナチュラルとコーディネイターは敵と味方・・・中立という立場は許されないと・・・それが戦争なのだと思い知らされた。



「それでは、さっそくやってもらおうか」



キラは力なく、ふらふらとストライクに向かう。

だが、それをカケルが押し止めた。



「なんのつもりだ、小僧?」



鋭い視線でにらめつけるガルシアに、まったく動じずに向かい合うカケル。



「オジサン、さっきから随分なことを言ってるね?」


「本当のことだろう。キミも同胞を裏切ったコーディネイターの1人だ」


「残念ですけど、俺はコーディネイターじゃありませんよ」


「ではなんだというのかね?」


「さあ・・・なんでしょう?」


「貴様っ!」



からかうように会話を続けるカケルに、ガルシアは銃を突きつけた。

それでも笑みを崩さないカケルに対して、ガルシアはその引き金を引こうとする。

1人死んだところで、残り3人にやらせればいいし、見せしめにもなると考えたからだ。



「やめて!」



さっきまで怯えていたなのはが、銃とカケルの間に割って入った。

更に間に立つ祐一。



「俺達を殺すと、後で大変なことになりますよ」


「どういう意味かね?」



ガルシアは余裕を崩さずに、祐一の頭部に銃を突きつけて問う。

祐一は冷笑にも近い笑みを浮かべ、親指でガイストを指差す。



「フラガ大尉の命令で、4機ともロック解除が自爆装置に直結してるんですよ」



その言葉にガルシアの笑みが凍りつく。



「4機のロックはリンクしてるから、同時にロックを外さないといけない。1人でも欠ければ、それで終わりだ。
 更にガイストには時限装置を仕掛けてたから、24時間以内にドカンといきますよ。機密は知られるより抹消だそうだ。
 要塞ごと消えてもらえれば、情報が漏れることはないんだとさ。まあ、それだけ仲が悪いってことかな?」


「クッ・・・!!」



余裕で語る祐一にガルシア達は動揺している。

キラ、カケル、なのはの3人は祐一の近くに集まると、小声による会話をする。



「祐一・・・あれって・・・・・・」


「ハッタリに決まってるだろ。そんなヤバイこと、頼まれたってやらないよ」


「そ、そうですよね。レイジングハートにそんなこと頼んでないし・・・」


「でも祐兄、効果は充分だったね」



さっきまで周囲を包囲していた兵士達が距離を置いて離れている。

ヘタに手出しをしたら要塞ごと吹き飛ばされ、痛い目あわせようにも身体能力で劣っているので無理なのだ。

それに、軍内部で対立しているよ聞いていて、それを盾にして発言したのが甲を制したみたいだ。



「とりあえず、コクピットで話そう。そのほうが都合がいいし」


「そうだね」



一同が自分の機体に向かうと・・・



ピキーン



「 「!!」 」



なにかを感じたカケルとなのはが突然立ち止まった。

なのはにとって、ユーノの声を聞いたときの感覚に似ているが、どこか嫌な予感がした。



「どうしたの?」



キラが心配そうに聞いてきた。

なのはとしては、確証とかがないので、どう答えたらいいかわからず、大丈夫と言うしかなかったが、

カケルは1つのことを思い出して、慌ててキラに訊く。



「キラさん、OSのロックを解除するのにどれぐらい掛かりますか?」


「え? 1分も掛からないけど・・・」


「敵が来ます」



カケルの言葉に驚くキラ達。

なのはも同じような予感を感じていた。

理由はどうあれ、可能性がないわけじゃないので、4人はすぐにコクピットに入る。














ブリッツは誰にも気づかれることなく、アルテミスに取り付いていた。

ニコルはモニターに映るアルテミスを睨みながら、右腕に装備されたトリケロスを構える。

光波防御帯を発生させるリフレクターを見つけると、照準を合わせてトリガーを引く。

トリケラスに装備されている50mm高エネルギーレーザーライフルが火を噴いた














祐一達はコクピットに入ると、それぞれのOSのロックを解除していた。

祐一にカケルのしたロックは解除できないが、カケルは前もって解除コードをディスクに入力していたので、

ガイストとフリューゲルは、それをそのまま入れればすぐにロックは解除される。

レイジングハートはなのはが言えばすぐに解除されるので問題ない。

キラも素早くキーボードに指を走らせると、次々にロックを解除していく。

勿論これらの行為がバレたら嘘が発覚してしまうので、ハッチを閉じてコクピットには自分以外入れさせていない。

ユーラシアの兵士達は自爆を恐れているのと、民間人の人質がいるということで、まったく警戒していない様子だ。

そのとき、鈍い地響きが機体を揺らした。



(来た!)



カケルは素早くシステムを立ち上げて、すぐに出られる状態になった。

映し出されたモニターには、慌てふためくユーラシアの兵士達と、管制室に連絡をしているガルシアが見えた。



「管制室、この振動はなんだ!?」


『不明です、周囲に機影無し!』


「だが、これは爆発の振動だろうが!」



振動は収まることなく、断続的に続いている。

カケルが言ったとおり、敵が攻めてきて、その攻撃を受けているのだ。

そして、事態はどんどん悪いほうに進んでいく。



『ぼ、防御エリア内にMS!? リフレクターが落とされました』


「な、なんだと!?」



その報告にガルシア達は唖然とする。

傘を絶対と信じ、過信してきた彼らにとって、それはありえないことだった。



「大変なことになってるな」


「うん・・・祐兄とキラさんは換装して。外の敵は俺がなんとかするから」


「私も一緒だよ神威くん」



ガイストとストライクはカタパルトレーンへと向かう。

ガイストにはエール、ストライクにはソードが装着されてPS装甲が展開される。

ガイストとストライクは、先に出たフリューゲルとガイストを追って飛び出す。














アルテミスに突入したブリッツは、レーザーライフルでメビウスを撃ち落しながら奥へと向かう。

そこに爆煙から飛び出したフリューゲルとレイジングハートが姿を現す。



「あいつら! 今日こそ!」



グレイプニールをフリューゲルに向かって放つ。

前回の戦闘同様、シールドで弾き飛ばした。



「高町さん!」


「うん!」



フリューゲルの後ろからディバインライフルを撃つ。

伸びたビームの閃光がブリッツの肩部をかすめ、2射目はシールドで防がれる。

防がれたものの、なのはの攻撃は確実にブリッツを捉えていた。



「クッ・・・強くなってる・・・・・・」



2機を相手に苦戦するかと思ったとき、爆煙からストライクとガイストも姿を現した。



「2人とも無事か?」


「あいつ、こんなところまで!」



ガイストがビームサーベルを抜き、ストライクはシュベルトゲーベルを構える。














傘が破られた瞬間、ガモフとナスカ級からMS隊が発進した。

ヂュエル、バスター、ジンが3機、そして、漆黒のシグーが1機。

黒騎士の異名をとるノインの専用カスタム機だ。

ノーマルのシグーより一回り小さく、他に見ないランスの様な槍を持っている。



「まずは足つきをやる。私の指揮下に加わってもらうが、それでいいか?」


「了解であります!」


「要塞ごと沈めてやりますよ」


「頼もしいな」



リニアガンを撃ちながら突っ込んでくるメビウスをショットランサーで貫き、回転させながら突っ込むと、

次々となぎ払いながら進路を切り開き、イザーク達はその戦闘力に驚くばかりだった。



「頼もしいのは・・・あっちのほうだよな・・・・・・」


「ああ・・・だが、遅れてられん!」



ノインに遅れまいと、イザークとディアッカもアルテミスに突入した。

2人にとって、もはやニコルは頭の片隅からすら忘れられている。














食堂では振動に気を取られた見張りの兵士達を、ノイマン達がまとめて鎮圧していた。

決定的なのは、ナチュラルにもかかわらず、飛びぬけた戦闘力を誇った舞の存在だった。

まさに瞬殺といった感じで、一瞬で背後に回りこむと、首筋に手刀の一発で気絶させるのだった。

兵士を全員行動不能にすると、ブリッジクルーはまっすぐに艦橋へと向かった。



「起動させるぞ!」


「あの、艦長達はどうするんですか?」


「このままじゃただの的だ!」



素早く自分達のシートに座り込み、起動の準備を始める。

マリュー達が戻らないことに不安を感じていたが、このままなにもしなければ沈められるだけだ。

だが、そんな心配は杞憂となり、ほどなくして、独自に脱出したマリュ―達が艦橋にやってきた。



「艦長!」



クルー達が喜びの声を上げる。

マリューはシートに座るや、急いで指示を出す。



「ここでは身動きがとれない! アークエンジェル、発進します!!」














エンジンが唸りを上げるアークエンジェルの直上で、戦闘を続けている5機のガンダム。

シュベルトゲーベルを振るうストライクのコクピットでは、キラが迷いに心を苛まれていた。

ガルシアの言った"裏切り者のコーディネイター"という言葉が何度も脳裏を過ぎる。

どうしようもない悲しみと苦しみに、キラは悲痛に叫ぶ。



「くそっ!!もう・・・・・・僕達を放っておいてくれ―――――っ!!



バーニアを全開で噴かしながら、ブリッツに接近すると、シュベルトゲーベルを猛然と振り回す。



「くううぅぅーー!!」



ニコルはその気迫に圧倒されながら、ブリッツを下がらせると、苦し紛れにランサーダートを発射する。

キラは感情が高ぶり、攻撃を大振りにしていたので、この攻撃に対しての対処が遅れてしまう。

迫るランサーダートに目を瞑ってしまうが、爆発音はしてもストライクへの直接的な衝撃はなかった。

キラの開いた瞳に映ったのは、ストライクの前に立つガイスト、フリューゲル、レイジングハートの姿だった。



「みんな・・・・・・」


「キラさん、あまり1人で抱え込まないでください」


「俺達でよければ、相談にのりますよ。愚痴にも付き合います」


「俺も同じ境遇なんだ。もっと気楽にしろよ」



キラは大切なことを忘れていたことに気づく。

そう、自分は1人じゃないことに・・・・・・

少なくとも、トール達は普通に接してきたし、カケルやなのは達も、コーディネイターと知っても気にしなかった。

それどころか、こうして一緒に戦って、こんなときですら励ましてくれている。

祐一は自分と同じ境遇にもかかわらず、みんなを支えて守ろうとした。

キラは祐一達の思いが嬉しく、その表情にいつもの穏やかさが戻る。



「祐一、カケルくん、なのはちゃん・・・ありがとう」


「気にするなよ。俺達、友達だろ?」


「うん!」



今この時だけかもしれないが、キラの中の迷いは晴れた。

ストライクがシュベルトゲーベルを、これまでよりも力強く構える。



「それじゃあ!」


「全力全開で・・・」



カケルと祐一の掛け声に、力強く構えるキラとなのは。

ニコルも4機からの気迫が明らかに違うのを感じて、下がり気味に身構える。

だが、祐一とカケルが発した言葉は、あまりにも意表をつくものだった。



逃げよう!


逃げるぞ!


「 「え? ええ〜〜〜!?」 」



キラとなのはが同時に驚きの声を上げる。

ガイストがストライクの、フリューゲルがレイジングハートの腕を掴んで、ブリッツに背を向けて加速する。

ニコルも一瞬いきなり逃げるように撤退したことで硬直していたが、気を取り直してその後を追っていく。














アルテミスの外の戦いでは、ザフトのMS隊とメビウス部隊による戦闘が繰り広げられている。

だが、一方的にメビウスを破壊しながら、ところ構わず破壊されている。

管制室に飛び込んだガルシアは、動揺しながら荒々しい声で命令を出す。



「何をしている! 艦を出せ!・・・・・・このアルテミスが・・・たった2隻の艦に・・・!」」



バスターの砲撃で撃墜された1機のメビウスが、そのまま管制室に叩きつけられて爆発する。














ブリッツを振り来るように飛行するフリューゲル、ガイスト、ストライク、レイジングハートの4機。



「祐一、あれでよかったの?」


「ああ。あのまま戦っても勝てただろうけど、もしもってことがあるからな」



4対1と有利な戦況ではあったが、相手は正規のザフト兵なので、もしかしたら誰かがやられるかもしれない。

それに、爆発音の数も多くなっているので、おそらく援軍が来たと考えられる。

もしもあの狭い場所で包囲されたら、それこそ全員この要塞と運命を共にしなければならなくなるかもしれない。

祐一はハッキリ言って、あんな連中のために自分やカケル達を危険に晒したくはなかった。

それに、そろそろアークエンジェルからの通信があるだろうと予測していると・・・



『みんな戻って! アークエンジェル発進します!』


『私達が誘導するから、気をつけてね』



ミリアリアと名雪から通信が入り、アークエンジェルまでのルートが記される。

このまままっずぐに進めば、まもなくアークエンジェルが見えてくるだろう。



「祐一さん、神威くん、こうなるってわかってたんですか?」


「なんとなくだけどね」


「あの人達ならこうなる予感がしてたし・・・」



祐一の言葉を遮るように、目の前で大きな爆発が起こった。

3機を庇うように、レイジングハートが前に出て、


<Protection.>


光の幕が爆発から4機を守る。

爆発の中から飛び出した4機は、アークエンジェルの艦橋に降り立つ。



「レイジングハート、ガイスト、フリューゲル、ストライク、全機着艦しました」


「アークエンジェル発進! 最大船速!!」



エンジンが火を噴き、メインスラスターを噴出して、炎が煌くアルテミスから離脱していく。

ようやくニコルに合流したノインの部隊は、爆発に遮られてこれ以上の追撃ができない・。



「くそっ! ここまで追い込んでおきながら!!」


「イザーク・ジュール、気持ちを切り替えろ! あれの追撃ができない以上、このアルテミスだけでも落とさなければならない」


「・・・わかりました」



イザークはまだ納得ができないも、下された命令に従う。

その数日後・・・アルテミスは陥落した。

これまでの功績と、アルテミス陥落の功績で、ノインは2つめのネビュラ勲章を授与された。














アークエンジェルに帰艦した4機から降りるキラ達。

祐一、カケル、なのはの3人は、キラが心配で駆け寄った。



「キラさん・・・あの・・・・・・」



なにを言えばいいかわからず、なのはは口ごもる。

さっきはああ言って、キラも受け入れてくれたと思うが、やっぱりあんなことを言われた後での戦闘・・・

心に痞えてるのではないかと思ったが、キラは笑顔で答える。



「ありがとう。もう大丈夫だよ」


「よかった」



なのはは胸を撫で下ろし、カケルはニッコリと笑いかける。

そして、祐一は並ぶガンダムを見上げながら呟いた。



「これが俺達が選んだ道・・・いや、選ばざるえなかった道か・・・・・・」


「うん。辛い・・・厳しい道だけど・・・・・・」



祐一とキラが選んだ道は、おそらくこの艦の中でもっとも厳しい道だろう。

ナチュラルからは忌み嫌われ、コーディネイターからは裏切り者として罵られる。

前にも後ろにも敵しかいないような悲惨な道だが、小さいけど、確かな暖かい光がある。



「僕達は・・・1人じゃないから・・・・・・」



カケルとなのはを交互に見つめる。

こんなに小さいのに、一緒に戦い、優しく励ましてくれる2人に、同じ思いを共有する祐一がいる。

トール達も名雪達もみんなを守りたいから、それだけで今は戦える。



「なのはちゃ〜ん」



なのはの友達のすずかが手を振りながらこちらに走ってくる。

キラはその様子を眺めながら、癒される気持ちで微笑むのだった。


















《次回予告》




語る者もいない虚空に漂う悲しき墓標


浮かばれぬ魂は語る術を持たず、なにを伝えようというのか


生者と死者の狭間で子供達は迷い


果て無き闇の中に人の業を見る



次回 「冷たい墓標」


悲しい世界 突き進め アークエンジェル!!