機動戦ガンダムSEED LYRICAL















ガモフから発進したデュエル、バスター、ブリッツの3機は、PS装甲を展開して真っ直ぐにアークエンジェルを目指す。

艦橋ではチャンドラが一足早く、敵の機影をとらえていた。



「後方より接近する熱源3! 距離67! MSです!!」



チャンドラの報告にクルーに緊張が走り、ナタルが振り払うように指示を出す。



「対MS戦闘用意! ミサイル発射管、13番から24番コリントス装填! バリアント両舷起動! 目標データ入力急げ!」



正規の仕官達に混ざって、トール達も真剣な表情でコンソールに向かい合う。

艦尾のミサイル発射口全12門が開き、両翼の外側にある丸いプレートから、

折りたたまれて収納されていたリニアカノン"バリアントMK8"が突き出した。

戦闘準備が完了すると、敵機の情報分析を行っていたチャンドラが声を上げた。



「機種特定・・・・・・これは! Xナンバー、デュエル! バスター! ブリッツです!!」


「なに!?」



ブリッジの空気が一瞬にして凍りついた。

その中で1人、マリューが搾り出すような声で呟く。



「奪ったGを・・・全て投入してきたというの・・・・・・!?」














アークエンジェルの前面に展開する4機のガンダム。

モニターを見つめる祐一は冷静に状況を把握しようとしていた。

前方から4機、後方から3機のMSが接近してきていることを確認して、次に機種を特定をする。



(浩平・・・やっぱり来るんだな・・・・・・)



浩平のクラウドの反応を確かめると、祐一は3機に対して通信する。



「みんな、俺が前方から来る敵を抑えるから、後方の3機を頼む」


「え、無茶ですよ。1人で4機なんて・・・」



なのはが止めようとするが、祐一は聞かずに機体を加速させた。

それを追うようにして、キラのストライクもガイストを追って行く。



「キラさん? ちょ、ちょっと・・・・・・」



行ってしまった。



「どうしよう・・・・・・」


「どうしようって言われても・・・やっぱりやるしかないよね・・・・・・」



前後から敵が攻めてくる場合、このように部隊を2つに分けて迎え撃つのは作戦としては悪くない。

数も多いほうを担当してもらったので、それだけ考えれば特に問題はない。

問題ないのだが、残された2人はナチュラルの子供なのだ。

どうしようもなく不安でしかたないが、守りたい人達がいる以上はやるしかない。



「行こうか・・・高町さん」


「・・・・・・うん!」



2人は機体を反転させると、アークエンジェルの横を通り過ぎ、迫る敵に向かって行く。

緊張、不安、恐怖などを抱えながらも、守りたい者達のために・・・・・・














PHASE-5

『ガンダム激突』















ガイストとクラウド、ストライクとイージス、それぞれのコクピットにて相手を確認する。



「キラ!」


「あのMS・・・・・・アスラン!?」


「祐一・・・やっぱり来たか」


「浩平か!?」



それぞれが息を飲み込む。

ここまで来てしまった以上、もう後には退けない。

その距離が近づくにつれて、4人の緊張は激しく高まっていった。














アークエンジェルに後方から迫る3機のMS。

先陣を切って進むデュエルに搭乗しているイザークが告げる。



「ヴェサリウスからはもうアスランが出ている! 遅れをとるなよ!!」


「フン、あんな奴に!」



獲物を取られたくないディアッカは、バスターを更に加速させる。

ニコルも無言で頷き、その後に続く。

そして、3機のモニターがアークエンジェルを捉えた。














アークエンジェルのすぐ後方で待機しているフリューゲルとレイジングハート。

この2機のモニターにも、迫る3機のガンダムタイプのMSを捉えた。

当然アークエンジェルでもその様子は捉えているので、艦長であるマリューが指示を出す。



「迎撃開始!!」



「ミサイル発射管、13番から18番・・・撃てぇぇぇーーー!!



戦闘指揮官のナタルの指示に、艦尾の発射口からミサイルが発射される。

すぐに次弾の装填を急がせ、続けて次の発射管の指示を出す。



「7番から12番、スレッジハマー装填! 19番から24番、コリントス、撃てぇぇぇーーー!!



次々と放たれ続けるミサイル群。

だが、ミサイルは一発として当たる気配すら見せず、3機は縫うようにしてミサイルの間を突破してきた。

射程距離に達するまであと僅か・・・2機のコクピットに敵機の情報が表示される



「X-102デュエル、祐兄のガイストから発展した初期機で・・・前衛が目的。X103バスター、これはその発展機かな・・・」


「遠距離からの支援攻撃を目的とした機体・・・レイジングハートと同じコンセプトみたいだね」


「うん。最後のX-207は強行偵察を目的とした索敵機みたいだけど・・・・・・」



カケル、ユーノ、なのはは渡されたデータから敵機の情報を確認した。

G計画の機体は全てがガイストが元になっていて、それもフリューゲルを起点として、

レイジングハートやクラウドを経由しているので、分析はそんなに難しくはなかった。

本来ならアークエンジェルを母艦とし、初期に開発されたデュエルと、汎用性の高い換装式のストライクが前衛を務め、

大火力を備えたバスターが後方から援護、敵艦や拠点攻撃、ブリッツが強行偵察、また戦闘における補佐を務め、

最後の変形システムを備えたイージスが指揮を執るといった運用が計画されていたに違いない。

もっとも、G計画の機体はそれに特化させたために、1機でも欠ければその能力を発揮しきれない。

その反面、カケル達の機体は単機での作戦行動を基準に造られている。



「やれるかな・・・・・・」



うまく立ち回ればやられはしないだろう。

最低限の技量は必要とされるが、そこはその場凌ぎでどうにかするしかない。



「俺が仕掛けるから、高町さんは後方から援護を頼むね」


「・・・うん」



なのはは少し不安そうにしているが、とりあえず頷いてくれた。

直接戦闘をカケル1人に任せるのは気が引けるし、心配なのだが、作戦としてはこれがベストだろう。

遠距離戦専用の機体で接近戦を仕掛けるのは無謀というものだ。

フリューゲルはスラスターを吹かして敵機に向かい、レイジングハートがディバインライフルを構える。

ミサイルをかわしながら接近する3機のコックピットにアラートが鳴り響く。

3機のモニターにはUnknownと記されていた。



「敵MS・・・来ます!」


「Unknown・・・地球軍はまだ新型を隠し持ってたのか?」


「フン! MSの性能は確かなんだろうが、所詮パイロットはナチュラル・・・俺が一瞬で終わらせる!」



小馬鹿にしながらデュエルをフリューゲルに向かって先行させるイザーク。

2機の距離が一気に詰まり、完全に両機の射程距離に入った。

デュエルが背部のバックパックからビームサーベルを引き抜き、そのまま斬り掛かってくる。

フリューゲルは振り下ろされた光刃をシールドで受け止めると、腰部からームサーベルを抜き放つが、

デュエルはその光刃を上体を反らすことでかわし、むなしく虚空を切ってしまった。



「ナチュラルにしてはやるじゃないか」



僅かに後退してバスターとブリッツの少し前方まで移動する。

デュエルのモニターに映ったディアッカが笑いを浮かべながら通信を送ってきた。



「一瞬で終わらせるんじゃなかったのか?」


「そのつもりだったが、気が変わった。少しは楽しめそうだからな」



達人の類に入る人間は、初撃を交わせば相手の技量が理解できるというものだが、イザークの場合は少し違うが、

初太刀を受け止めて反撃してきた相手なので、多少の興味を覚えた程度なのだ。



「楽しむのは結構だけど、任務を忘れるなよ」


「わかっている!」



本当にわかっているのか怪しいものだが、イザークは我先にとデュエルを向かわせた。



「やれやれ」


「行きますよ!」



デュエルを追って加速するバスターとブリッツ。

フリューゲルもそれを迎え撃つ態勢に入る。

そこに後方から4つの光弾がフリューゲルの四方を抜け、3機の敵MSを襲った。

それはレイジングハートの放ったディバインシューターだった。



「高町さん!」


「後方支援は任せて!」



なのはの強気な言葉にカケルは無言で頷くと、シールドを前方に構えて突貫した。

デュエル、バスター、ブリッツの3機はディバインシューターの直撃を受けたが、幸いそれは実体弾だったので、

PS装甲によって弾かれ、3機ともまったくの無傷だった。

それでも相手を挑発するには充分だったらしく、特にイザークは激昂した。



「コケにしやがってぇぇぇーーー!!」














その頃、アークエンジェルの前方の宙域でも、激しい戦闘が繰り広げられていた。

イージスとストライクがビームサーベルを抜き、2機は高速で光刃を交えてすれ違う。



「キラ!」



スピーカーからアスランの声が聞こえる。



「やめろキラ! 僕達は敵じゃない! そうだろ!?」



キラはそれに答えられずに唇を噛む。

確かにアスランと・・・友達と戦う理由などどこにもない。



「同じコーディネイターのおまえが、何故僕達と戦わなくちゃならないんだ!?」



アスランの一言一言がキラに突き刺さる。

キラの中に再び迷いが浮かぶ。



「お前が何故地球軍にいる! 何故ナチュラルの味方をするんだ!?」


「僕は地球軍じゃない!」



思わずキラは叫んだ。



「でも・・・あの艦には仲間が・・・・・・友達が乗ってるんだ!」



そのときになって、祐一のガイストが残り3機のMS相手に苦戦を強いられているのに気づく。

援護に向かおうとするキラだが、その間にイージスが割り込む。



「やめるんだキラ!」



焦りを感じつつ、だが攻撃もできず、キラはやり場のない怒りをアスランにぶつけた。



「君こそ・・・何でザフトになんか・・・何で戦争をしたりするんだ!! 戦争なんか嫌だってキミも言ってたじゃないか!」



その言葉にアスランは眼を見開く。

だがそこに、ガイストの相手をしていた1機、クラウドが接近してきて、通信に割って入った。



「状況もわかってないナチュラルどもが、こんなモノを造ったからだ!」



突然の通信への乱入に驚くキラ。

更には祐一のガイストが、イージスとクラウドの僅か後方に位置する場所に来て、そのまま通信に加わる。



「ヘリオポリスは中立だ! それなのに・・・」


「中立ならなぜこんなモノがあった? それも地球軍と一緒にだ!」



言葉に詰まる祐一。

中立コロニーで、地球軍が新型MSを開発していた理由など答えられる訳がない。

考えられる線では、オーブが地球軍に加担したことくらいだが、それではザフトの正当性が確実になる。

いや、おそらく確実なのだろう。

だからこそあんな無茶苦茶な侵攻をしてきたに違いない。



「答えられないだろ?」



悔しいがそのとおりだ。

思考が錯誤していたとき、コクピットに鳴り響くアラートによって意識が呼び戻された。

そう、まだ戦闘中だった。

手余りになっていたジンHの27mm機甲突撃銃が祐一のガイストに直撃する。



「祐一!」



キラはとっさにビームライフルを構えて、ジンHに向かって放つ。

閃光が銃身を撃ち抜き、とっさに放した瞬間に爆発した。



「やってくれたわね!」



ライフルを破壊されたことで怒った七瀬は、重斬刀を構えてストライクに突っ込む。

キラもストライクを加速させて迎え撃ち、2機は一撃を繰り出して交差さる。

ジンHが機体を反転させると、そこに瑞佳のイクシードが並んできた。



「七瀬さん」


「瑞佳、同時に仕掛けるわよ!」


「うん」



ストライクに仕掛けるジンHとイクシード。



「させるか!」



ガイストがビームライフルで牽制する。

途端に2対2によるタッグマッチの形になった。

Gタイプの性能が高いのは充分に承知している。

浩平はクラウドをMAに変形させると、一気に4機が戦っている場所に向かった。

辛い表情をしながらもアスランもそれを追う。














デュエル、バスター、ブリッツの3機を同時に相手にしながらも、なんとか持ちこたえているフリューゲル。

いや、レイジングハートの援護がなければ、とっくにやられているかもしれない。

それとアークエンジェルからの援護砲撃も、無差別な機銃は危ないが、きちんと援護の役目を果たしている。

フリューゲルの投げ放ったビームブーメランをかわすバスター。



「へえ、中々やるじゃないか。だがな!」



バスターの94mm高エネルギー火線収束ライフルと350mmガンランチャーを連結させ、対装甲散弾砲が火を噴き、

無数の散弾が襲ってくるが、それは辛うじてかわすことに成功する。

ブリッツが放ったピアサーロック『グレイプニール』をもシールドで弾くと、戻ってきたビームブーメランを回収する。



「なのは、下!」


「うん」



ユーノの助言を聞きながら、自分の考えたこととを瞬時にして答えを導き出すなのは。

その判断と反応の速さから、うまくカケルの援護をしていた。

接近してきたデュエルのビームサーベルを、同じくビームサーベルで受け止める。

しかし、接近戦に不慣れななのはは、次に繰り出される蹴りに対処できず、蹴飛ばされてしまう。

それを狙うバスターの姿が見え、慌ててフリューゲルをレイジングハートの前面に回りこませる。



「そらよ!」



94mm高エネルギー火線収束ライフルと350mmガンランチャーを逆に連結させ、超高インパルス長射程狙撃ライフルを放つ。

威力も精度も格段に跳ね上がったビーム光が伸び、フリューゲルはとっさにシールドでそれを受け止める。

無理な体勢だったので、反動に負けて後方に吹き飛んでしまうが、機体そのものは無傷だった。

予想を遥かに超える頑丈さに舌打つディアッカ。



「なんて強度なんだよ、あのシールドは!」



普通のシールドなら、今の一撃だけで破壊することができただろう。

それも破壊どころか、未だに破損している傾向さえ見せず、これまでの攻撃を防いできたのだ。

このままでは拉致があかない、そう思ったとき、イザークから通信が入る。



「ディアッカ、このままでは拉致があかん。おまえとニコルであの2機を抑えろ。俺はアスラン達の援護に回る」


「わかった」



イザークは2人に2機の相手を任せると、アスラン達のいる方向へと向かった。

この2機を相手にするのもそれなりにおもしろいが、どうせならアスランと浩平の獲物を撃破して、

誰が最強なのかを知らしめてやろうという魂胆だった。

カケルもなのはもデュエルの動きに気づく。



「神威くん、1機あっちに向かってるよ」


「あっちには・・・・・・いけない!」


「祐兄とキラさんが!」














ガイストとクラウドのビームサーベルがぶつかり合い、激しく火花を散らしている。

だがそこに、一条のビームが2機の間に割り込んできた。



「イザーク・・・」


「もたもたするな浩平! アスラン、おまえもだ!」



デュエルがストライクとガイストに、交互にビームライフルを放つ。

2人は突如乱入してきた機体に驚く。



「X102、デュエル・・・・・・じゃあ、これも!!」


「向こうから来た・・・じゃあ、2人は!?」



キラの驚きと祐一の不安。

まずイザークは、ストライクに狙いを定めて、ビームライフルを撃ちながら突っ込む。

ストライクはビームをシールドで防ぎながら後退する。

エールストライカーパックの機動力を生かして、ひたすらに回避し続ける。

イザークはそんなストライクの動きにイラつきを感じる。



「チッ! チョコマカと、逃げの一手かよ!!」



「ううっ・・・・・・!!」



回避し続けていたキラはようやく攻撃に移る。

照準スコープを眼前に引き出し、ビームライフルを掲げてトリガーを引くが、放たれたビームは難なくかわされる。

援護に向かおうとする祐一も、浩平のガイスト、瑞佳のイクシード、七瀬のジンHを一度に相手しているので動けない。



(このままじゃキラが・・・いや、俺のほうがヤバイか・・・・・・)



武装強化の為にランチャーストライカーパックにしたが、これではクラウドの機動力にまったくついていけない。

アグニを撃つも当たらず、勝負を決めることもできずに、3機の攻撃を凌ぐのが精一杯だ。

これでは遅かれ早かれやられてしまう。

今の祐一とキラの心境は、焦りと恐怖が支配していた。














フリューゲルが背部に装備された超高インパルスビーム砲を構える。

電力の消費が激しく、威力もアグニ並みに強烈なのでこれまで使わなかった、もはや時間稼ぎだけしてられる状況ではなく、

祐一やキラの応援に行くためには、早いうちでの決着が求められる。

こちらの様子に気づいたのか、バスターも超高インパルス長射程狙撃ライフルに連結させる。



「あたれぇぇぇーーー!」


「そらよ!」



フリューゲルの超高インパルスビーム砲と、バスターの超高インパルス長射程狙撃ライフルが同時に放たれる。

ぶつかり合った閃光が大きく弾け、衝突面を貫いたのは・・・フリューゲルの超高インパルスビーム砲だった。

閃光がバスターの表面を掠め、機体表面に火花が散る。

実体弾を受けつけないPS装甲でも、ビーム粒子を防ぐのは不可能である。



「なんて威力だよ・・・あれは・・・・・・ニコル!」



その破壊力に驚かされたディアッカは、二コルに合図を送った。

ニコルはディアッカの意図に気づき、2機はフリューゲルとレイジングハートから離れていく。

それだけなら問題はないが、向かったのは祐一やキラがいる方向で、敵の全MSが向かったことになる。



「2人とも、早く追わないと・・・」


「うん!」


「急ごう!」



なのはとカケルは頷き、祐一とキラの援護に向かった。














「ガモフより入電・・・『本艦においても、確認される敵戦力はMS4機のみ』とのことです!」



その返答にクルーゼは考え込んだ。

ヴェサリウスからメビウス・ゼロが確認できなかったので、念のためにガモフにも確認させてみたのだが、

どうやら向こうでも確認できなかったようだ。



「・・・あのMAはまだ出られんということなのかな?」


「そう考えてよろしいのでは」



アデスはそう答えるが、どうも引っ掛かる。

アスランや浩平の報告からして、MSに乗っているのはおそらく民間人だろう。

あのムウが、明らかに戦闘になれていない民間人に、戦局を任せきりにしているということがしっくり来ない。

メビウス・ゼロにはクルーゼ自身がかなりの損傷を与えた。

他にも2機あったが、それらも同じような損傷なので、機体がなければ出たくとも出られないと結論を出す。



「敵戦艦、距離630に接近! まもなく本艦の有効射程圏内に入ります!」



その報告にクルーゼは顔を上げた。



「こちらからも攻撃開始だ、アデス」


「しかし、我が方のMS隊が展開中です。主砲の発射は・・・」



狼狽するアデスに、クルーゼは素っ気なく冷笑する。



「友軍の艦砲に当たるような間抜けは、我が隊にはいないさ。主砲発射準備! 照準、敵戦艦!!」



アークエンジェルでは、チャンドラが計器を見直し、叫び声を上げる。



「前方、ナスカ級よりレーザー照射感あり! 本艦に照準! ロックされます!!」



チャンドラの報告に、ナタルは躊躇いなく指示を出す。



「ローエングリン、発射準備! 目標、前方ナスカ級!」


「待って! 大尉のゼロが接近中です! 回避行動を!!」



ローエングリンは直撃すれば、戦艦すらも一撃で葬る破壊力を有している。

もしムウが作戦どおりに敵艦に接近していた場合、戦艦の爆発に巻き込まれたら無事ではすまない。

運悪く当たろうものなら確実に死ぬ。



「危険です! 撃たなければこちらが撃たれる!」



ナタルが叫び返すが、マリューは頷かなかった。

そこに助け舟を出すかのように、ムウの部下であるハヤテが進言する。



「ここで浮き足立って自らの作戦を崩せば負ける・・・俺達が勝つには、大尉の奇襲作戦を成功させるしかない」


「だな」



ハヤテとタツはムウを信じている。

その言葉に後押しされたかのように、マリューは回避の指示を変えなかった。

だが、握り締めているその掌には、じっとりと汗が滲んでいた。

そして、この状況を更に追い込むかのように、チャンドラは告げる



「こちらに接近してくる熱源・・・これは・・・ゾディアック級です!」


「なんですって!?」



アルカディア軍の強襲艦。

このタイミングで鉢合わせるとなれば、最悪のパターンもありうる。

これはもう、本当に運を天に任せ、神に祈る気分だった。














完全に追い込まれている祐一とキラ。

2人のコクピットにアラートが鳴り響き、バスターとブリッツの接近を知らせる。

迫る最後の瞬間が確実になったかのように思えた。

そして、2機がこちらに来たということ・・・それはカケルとなのはがやられたことを意味すると思い、

絶望に飲み込まれそうになった瞬間、更に接近してくる2機の反応に眼がいった。

それはフリューゲルとレイジングハートのものだった。

レイジングハートのディバインライフルと、フリューゲルのビームライフルが2機の周囲のMSを牽制して、

そのまま4機は真っ直ぐに互いの場所に集まった。



「祐兄、キラさん、大丈夫だった?」


「かなりヤバかった・・・」



強がってしかたないので、正直に本当のことを言う祐一。



「エネルギーはまだ大丈夫ですか?」



なのはの問いに、祐一とキラがふとエネルギーゲージに眼をやると、2人はギョっとした。

ガイストはホワイトに切り替わり、ストライクはレッドゾーンに入ろうとしている。



「ああ、もうエネルギーが・・・」



キラが声に出してエネルギーが危険だということを知らせるが、エネルギーが危険なのはフリューゲルも同じだった。

武装がビーム兵器主体なので、どうしてもエネルギーを消耗してしまう。

唯一エネルギーの残量に余裕があるのは、実体弾をメインで使用していたレイジングハートのみである。

4機の周りを囲むようにして包囲するザフトのMS隊、密集したことがアダとなってしまった。



(ムウさん・・・早くしてくれ・・・・・・)



祐一はもはや神頼みにも近い心境で、未だ行動を起こさないムウを頼る。

だが、その想いを打ち砕くかのように、新たな敵機の接近を知らせるアラートが鳴る。



「敵の援軍? 冗談じゃない!」



祐一はそう言い、ガイストのアグニを構える。



「こちらアルカディア軍、リオン・ハヅキ。これより援護します」


「アルカディアの援軍だと?」



想定してなかったことに驚いたのはザフトも同じだ。

だが、絶対的に違うのは、敵と味方がはっきりしているということだ。



「こちらクルーゼ隊所属、折原浩平だ。協力に感謝する」


「ええ、まずは4機を分散、各個に捕獲しましょう」


「捕獲だと!?こちらが受けた命令が撃破だぞ!!」



いきなり仕切られたと思えば、今度は捕獲と言うリオンに抗議するイザーク。

アスランは内心で、捕獲ならばと思う。



「できないの?」


「なめるな! 捕獲なんぞ朝飯前だ!! 後で捕獲の理由は問いただすからな!」



口車に乗せられてその気になるイザーク

リオンはそんなイザークを見て"クスッ"と笑う。

そして、その視線はガイストを捉えていた。














ヴェサリウスへ向かって隠密潜行するムウのメビウス・ゼロ。

敵に悟らせないため慣性飛行をしているにで、その速度は決して速くはない。

コクピット内で汗を流しながら、ムウはモニターを見詰める。

そして、ようやくセンサーが上方に熱源を探知する。



(・・・捕まえた!)



ムウは一気にエンジンを噴かして、真っ直ぐにヴェサリウスに向かって上昇する。

それを感じ取ったのか、クルーゼは肌を伝うような感覚を覚える。

もはやなじみである感覚は、クルーゼの憎悪と戦慄を呼び覚ます。



「アデス! 機関最大、艦首下げろ! ピッチ角60!」



いきなりの命令にアデスが戸惑った表情でクルーゼを見る。

その反応もしかたない、この感覚を他人に伝えようということなど不可能なのだ。

だがこの時、クルーゼは部下の反応の鈍さにどうしようもなく苛立つ。

その時、管制クルーが驚きの声を上げる。



「本艦底部より接近する熱源! これは・・・MAです!!」



「うぉりゃあああーーーっ!!」



ムウが声を上げながら、最大加速でヴェサリウスに突っ込む。

ガンバレルを展開させ、リニアガンと合わせて、ありったけの火力を機関部に叩き込んだ。

すれ違いざまに、ヴェサリウスの機関部が火を噴いているのが見えた。



「よっしゃぁぁぁーーー!!」



ムウは歓声を上げると、そのままヴェサリウス上方へと抜け、アンカーを発射してヴェザリウスの外装に撃ち込み、

振り子のように慣性で方向転換したあと、向きを変えて素早くワイヤーを切り離し、その宙域を離脱する。














ヴェサリウスの艦橋は激しく揺れ、警報が鳴り響いていた。



「機関区損傷大! 推力低下!!」


「第五ナトリウム壁損傷! 火災発生! ダメージコントロール、隔壁閉鎖!!」



クルーの悲鳴のような声が、艦の被害を次々に伝える。



「敵MA離脱!!」



最後の最後で戦況を覆されてしまった。

本来守るべき新造艦と新型MSをを囮にして、たった1機の旧型MAで本陣を叩くとは・・・



「ムウめ・・・!」



クルーゼは唸り、砕けるくらいに力を込めてアームレストえお握り締めていた。

だが、すぐさま冷静になり、次の指示を出す。



「離脱する! アデス、ガモフに打電!!ゾディアック級にも伝えておけ!」














「フラガ大尉より入電、『作戦成功。これより帰投する』!」



アークエンジェルの艦橋に歓声が上がる。

名雪達も思わず顔を見合わせて、ホッと胸を撫で下ろした。

モニターに映る祐一達の戦闘を見ていたときは、素人が見ても劣勢としか思えない状況にみんな不安だった。

だが作戦が成功したので、これでひとまず最悪の事態になるのは回避できたようなものだ。

マリューは一度軽く息を吐き出し、すぐに背筋を伸ばすと、この気を逃さずに命令を下す。



「この機を逃さず、前方ナスカ級を撃ちます!」



クルーの間に再び緊張が戻る。



「了解! ローエングリン1番、2番、発射準備!」


「フラガ大尉に空域離脱を打電! ストライク、ガイスト、フリューゲル、レイジングハートにも射線上から離れるように言って!!」


「陽電子バンクチェンバー・・・臨界! マズルチョーク電位安定しました!」



ローエングリンの砲口が両舷艦首から突き出す。

入り乱れに戦闘を繰り広げている15機のMSのコクピットにアラートが鳴り響き、それぞれに通信を受け取る。

祐一達にはローエングリンの斜線上からの退避、イザーク達にはヴェサリウスが被弾したという内容だった。



「ヴェサリウスが被弾!?」


「なんで!? 他に敵機の反応なんかなかったわよ!」



唖然とするイザーク達。

そのとき、ザフトのMS全機の動きが止まった。

それを見逃さない祐一。



「今のうちに離脱するぞ!」



キラ達は無言で頷き、祐一に続いて離脱していく。



「しまった!」


「―――てェッ!」」



気付いた時には遅く、ナタルの号令と同時に、アークエンジェルからローエングリンが放たれた。



プラズマ粒子の渦が進路上の障害物を薙ぎ払い、一直線にヴェサリウスへと向かう。



「熱源接近! 方位0 0 0! 着弾まで3秒!!」


「右舷スラスター最大! かわせーーーっ!!」



傷ついたエンジンで必死に回避行動をするヴェサリウスの右舷を掠めた。

凄まじい衝撃が艦を襲い、ヴェサリウスは完全に戦闘能力を失ってしまった。

クルーゼは歯噛みしながら撤退を命じるしかなかった。



「ナスカ級、本艦進路上より離脱!」


「帰還信号! アークエンジェルはこのまま最大船速でアルテミスへ向かいます!!」














ヴァサリウスから帰還信号が打ち出され、ようやく戦闘が終わったかに思えた。

だが、イザークのデュエルがアークエンジェルに戻ろうとしている4機に突っ込んでいった。



「イザーク、撤退命令だぞ!」


「煩い! 腰抜け!!」



アスランがいさめるが、イザークは聞き入れようとはしない。

プライドの高いイザークにとって、ナチュラルに遅れを取るのは耐え難い屈辱なのだ。

それが拍車になったのか、七瀬やディアッカ達もイザークの後に続く。

リオンを含む4機も、当然追撃を仕掛ける。



残ったのはアスランと浩平、そして、瑞佳だった。



「浩平はどうするの?」


「撤退命令が出てるからな。本来なら戻るべきなんだろうが・・・あいつらを放っておけないだろ」


「そうだね」



浩平と瑞佳も追撃することにした。

アスランは唇を噛み、2機の後を追った。














デュエルが仕掛けてきたことで、再び戦闘が再開された。

無差別にビームライフルを放つストライク、ブリッツとビームサーベルで激突するガイスト、

バスターにビームブーメランを投げ放つフリューゲル、ジンHの重斬刀をビームサーベルで受け止めるレイジングハート。



「このままじゃ・・・・・・」



カケルは必死にどうすればいいか考える。

ストライク、ガイストのバッテリー残量はあと僅かで、フリューゲルもレイジングハートもそんなに余裕はない。

一度バッテリーを充電でもしない限りどうにも・・・そこで閃いた。

カケルは急いでアークエンジェルに通信を送った。



『どうしたのカケルちゃん!?』



いきなり通信を送ったからだろうか、必要以上に不安そうにしている名雪が映った。



「ランチャーとソードを射出準備して! 祐兄とキラさんの分を・・・って、早く!」



そこまで言って通信を切る。

呆気に取られていた名雪の顔が思い出されて笑えるが、戦況は笑えない状況に陥っていた。

ストライクが放っていたビームが、とうとう止まる。

キラは改めてバッテリー残量に眼をやると、エネルギーゲージは既にレッドゾーンに突入している



「パワー切れ! しまった、装甲が・・・・・・!!」



ストライクの装甲から色が抜け落ちて、本来の鋼色に戻る。

それを見て取ったデュエルが、猛然と突っ込んできた。



「もらったぁぁぁーーー!!」


(――やられる!)



迫りくる光刃に息を呑むキラ。

その時、2機の間に入った祐一のガイストが、ビームサーベルを抜いてそれを受け止めた。



「祐一・・・・・・」



バスターの放った対装甲散弾砲をProtectionで受け止めるレイジングハート。

PS装甲がダウンしたストライクには実弾兵器も有効になっているので、この攻撃から完全に守れるのはレイジングハートだけだ。

そして、フリューゲルがブリッツとジンHを相手にせめぎ合っていた。



「なのはちゃん・・・カケルくん・・・・・・」



みんなが自分を守るために必死に戦っている。

なんとかしたいと強く思うも、機体が動かなくてはどうしようもない。

クラウドのロングビームライフルをシールドで防ぐガイストだが、一気に間合いを詰められて蹴り飛ばされる。

そこにリオンのイクシードが捕獲用の電磁ネットを射出して、ガイストを捕獲してしまった。



「しまった!


「祐一!うわっ・・・!?」



祐一に気を取られた隙に、ストライクもMAに変形したイージスに捉えられてしまう。

イージスはストライクを掴んだまま、この宙域を離脱しようとする。



「アスラン! どういうつもりだ!?」


『このままガモフに連行する』


「そうはさせない!」



フリューゲルのビームブーメランがイージスを襲う。

アスランはその攻撃をかわすが、ブーメランの特性は戻ってくることにあり、再度光刃が戻ってきたとき、

浩平のクラウドが間に入って、シールドでそれを弾き飛ばす。

唯一追撃できる位置にいたフリューゲルの攻撃を防いだので、これで安全圏に達したと思った瞬間・・・・・・



「俺を忘れてもらっちゃ困るぜ!!」



ムウのメビウス・ゼロが突っ込んできた。

ガンバレルユニットを展開して、四方からイージスを狙う。

弾丸がイージスに命中し、その反動でストライクを放してしまい、MS形態となってそれを追う。

ストライクは危機をとりあえず脱したが、ガイストはまだ捕らえられたままだ。



「祐一さんを助けないと・・・レイジングハート、力を貸して」



≪了解しましたマスター。ディバインライフル・バスターモード≫



ディバインライフルがバスターモードとなり、コクピットに照準スコープが出て、なのはは狙いを定める。、

ターゲットをロックすると、砲身に膨大なエネルギーが集まる。



「ディバイィーーン・バスタァーーー!!」



放たれた砲撃は一条の閃光となり、まっすぐにリオンのイクシードに伸びる。

ビーム光はガイストと、捕縛しているネットのちょうど中間を貫き、同時にイクシードの腕まで持っていった。



「しまっ・・・!?」



あの距離から攻撃が届くとは思っていなかったリオンにとって、これは痛い失態だ。

ネットから抜け出たガイストは、アグニを構えてイクシードに撃つ。

辛うじて回避するが、余剰エネルギーに右足をやられてしまう。



「これでは・・・全機撤退する」



リオンの指示を受けて、アルカディアのMSは撤退していく。

これで残るはザフト軍だけなのだが、レイジングハートもガイストも、今の一撃でかなり消費してしまった。

ストライクはとっくにバッテリー切れ、カケルはキラと祐一に通信を送る。



「キラさん、祐兄と一緒にアークエンジェルに! ストライカーパックが射出されるから、換装して!」



最初のイメージには合わない強い言葉で叫ぶカケル。

キラと祐一はモニター越しに頷き、この宙域を離脱していく。



「させるかぁぁぁーーー!!」



離脱するガイストとストライクに追いすがるデュエル。

アークエンジェルからの援護砲撃もかわし、加速できない2機との距離がみるみる縮める。

この距離と位置からではフリューゲルもレイジングハートも援護することができない。

アークエンジェルのカタパルトからストライカーパックが射出され、2機は同時に脱着する。

コンピューターがストライカーパックとの相対速度と姿勢を制御し、アジャストモードに移行するが、その間は無防備になる。

それを狙って、イザークはスコープを引き出し、ビームライフルの175ミリグレネードランチャーを構える。



「祐兄! キラさん!」


「急いで!」



換装するのが早いか・・・撃たれるのが早いか・・・もはや運を天に任せる状況だった。

ストライクのコクピットに警報音が鳴り響き、ロックオンされたことを知らせる。



「ロックオンされた!?」



次の瞬間、デュエルがグレネードランチャーを放つ。

それはまっすぐにストライクに向かい・・・一拍おいて、真空の暗闇に凄まじい閃光が拡がった。

閃光はすぐ隣にいたガイストをも飲み込み、2機は光の中へ飲み込まれていった。



その光景に、戦場にいたカケル、なのは、ユーノ、アスランの4人は唖然となる。

アークエンジェルの方でも、2人とひたしい者達が絶叫している。

爆煙の前で静止するデュエル。



「やったか・・・?」


「・・・下がれイザーク!」



浩平が叫んだ瞬間・・・爆煙を裂いて一条のビームが放たれた。



「なにっ!?」



驚く間もなく、デュエルは左腕を一瞬のうちに吹き飛ばされてしまった。

爆煙の中から姿を現したストライクとガイスト。

2機のバッテリーはほぼ満タンになっており、ストライクはPS装甲を展開していた。



「このぉぉぉーーーっ!!」



ガイストがシュベルトゲベールを構えてデュエルに突っ込み、その対艦刀を振り下ろす。

レーザー刃はイージスの右腕を切り下ろし、続いて二撃目を繰り出そうとしたが、上方からのビームに遮られてしまう。



「退けイザーク! これ以上は無理だ!」


「なに!?」


「アスランの言うとおりです! このままだと、今度はこっちのパワーが危ない!」


「両腕のない機体じゃ死ぬだけだぞ。死んだら骨くらいは犬の餌にしてやるぞ。それとも蛸壺に入れて埋葬したほうがいいか?
  遺言くらいなら聞き流してやるから、好きなほうを選べよ。どっちがいい?」


「ふざけるな! どっちもロクでもないじゃないか!!」



イザークは悔しさと苛立ちに歯噛みし、モニターを殴りつける。

このまま戦死した場合、浩平なら本当にどちらかをやりかねない。

そうなったら末代までの恥になってしまう。

損傷したデュエルは、バスターに手を貸してもらいながら離脱していった。



「敵MS群・・・離脱しました」



その言葉を聞くと、クルー達は一様にぐったりと力を抜いた。














ロッカールームでは、イザークがロッカーに八つ当たりをしていた



「クソ!、よくもっ・・・コケにしやがてぇぇーー!!」



イザークが怒りに任せて、アスランのロッカーを殴る。



「殴るなら自分のロッカーを殴れよ」


「煩い!」



ロッカーにもたれながらディアッカがツッコムが、イザークの怒りを逆撫でしただけだった。

アスランはなにも言わずに、ただ顔をそらしているだけだった。



「大体何なんだあの女は! いきなり援軍とか抜かして捕獲しろだの命令しやがって!!」



今度は浩平のロッカーを蹴りまくっている。

入ってきたニコルがその様子を見て呆れた感じで言う。



「なにやってるんですかイザーク?」


「7機でかかったんだぞ! それで1機としてしとめられなかった! こんな屈辱があるか!!」


「だからって、なにも八つ当たりしなくても・・・」


「なんだと!?」



今度はキレから逆ギレに変わる。

ロッカーから的がニコルになりそうなとき、浩平がやって来た。



「イザーク、それくらにしておけ。そもそも、この中で1人だけ機体を壊したおまえが言ってもな・・・
 おまえは相手をなめてたからな、油断と苛立ちが招いた結果と言える。わかったか? わかったら蛸壺に入れ!」


「誰が入るか!!」



これまで以上に大きな声で叫ぶと、イザークはさっさと部屋を出て行ってしまった。

ディアッカもため息をすると、イザークに付き従った。



「それにしても・・・・・・せっかく用意したこの蛸壺・・・どうするかな?」


「本当に入れるつもりだったんですね・・・」



それを聞いたニコルは苦笑しながら部屋を出て行った。

浩平以外がいなくなるのを確認すると、アスランは表情を歪めながら、ロッカーを思いっきり殴りつける。



「――キラ・・・・・・」



説得できると、一緒に来てくれると思っていた。

クルーゼとした約束を思い出し、ふと友達と躊躇なく戦っていた浩平を思い出す。



「浩平は・・・辛くないのか? 友達と戦うのは・・・・・・」


「・・・辛いさ・・・辛いに決まってる」



アスランの質問に素直に答える浩平。

ここでお決まりの正論を振りかざしたところで、余計に相手を追い込むだけなのを本能的にわかっている。

それに浩平はシリアスが続かないので、本心を包み隠さずに答えた。

そう、全てを本心から・・・・・・



「・・・けど、あいつが地球軍として戦う以上、必ず俺達の仲間を討つことになる。だからせめて・・・俺があいつを討つ。
 あいつが地球軍であるなら、敵であるのなら、俺は瑞佳やおまえ達を守るために・・・相手が誰であろうと・・・討つしかない」



本当に辛そうに言い放つ浩平。

アスランは何も言えずに浩平の辛く、そして、悲しそうな顔を見つめるしかなかった。














誰1人として欠けることなく、5機はアークエンジェルに帰還した。

カケルがハッチを開けてフリューゲルから降りると、先に帰還した3機のハッチが閉じていることに気づいた。

どうしたのかと心配になり、キャットウオークを蹴り、無重力の中を跳ぶ。

コクピット付近にはムウやマードックを始めとした整備員と、整備員として志願したすずかが集まっていた。



「どうしたんですか?」


「あ、神威くん・・・神威くんは出てきたんだね」


「? ? ?」



カケルはすずかがなにを言っているのかイマイチわからなかった。

ただハッチが閉じられているので、なんとなく程度に考えていたが、次のすずかの一言で悟る。



「なのはちゃんもキラさんも祐一さんも、誰も出てこないの・・・・・・」



ある程度の予想どおり、戦闘による恐怖が今頃になって実感されているのだろう。

ナチュラルだろうとコーディネイターだろうと、民間人がいきなり戦争に身を投じれば、それは当然の結果だ。

こうして普通にしているカケルのほうが、はっきり言って異常である。

ストライクのハッチの前では、ムウがストライクの外部開閉装置で強制開放しようとしていた。



「月村さん、ハッチは俺が開くから、高町さんをお願いするね。俺は祐兄のとこに行くから・・・」


「うん」



カケルが強制開放しようとしていた頃、レイジングハートのコクピットでなのはは震えていた。



「なのは、大丈夫?」


「う、うん・・・・・・大丈夫・・・だよ・・・・・・」



とても大丈夫とは思えない。

訓練も受けていない、まだ幼すぎる少女が、いきなり実戦をすることになったのだ。

おそらく他の3人も同じようにコクピットで震えているのだろう・・・

そう思ったとき、ハッチが開き、そこから1人の人影が見えた。

なのはの友達であるすずかがそこにいたが、硬直しているなのはの眼には、すずかの姿が映らなかった。

すずかは名雪が優しく包んでくれたときのことを思い出して、ゆっくりとなのはの指に触れる。



「なのはちゃん・・・もう終わったんだよ」



貼り付いた指をスティックから外し、その身を優しく引き寄せる。



「すずか・・・ちゃん・・・・・・」


「みんな生きてるよ。なのはちゃんも私もアリサちゃんも、神威くん達もみんな・・・もう・・・大丈夫だよ」


「―――うん・・・・・・」



なのはの体から緊張によるかたさが消えて、2人はコクピットから抜け出ると、無重力の中を浮遊する。

そして、ガイストのコクピットにでは、カケルと祐一が向き合っていた。

祐一は緊張はしていたが、恐怖で脅えたりはしていなかった。

それを見てカケルは少し安心した。



「祐兄は大丈夫みたいだね」


「ああ、ちょっと考え事をしてただけだ。だいたい、おまえが平気なのに、兄貴の俺が大丈夫じゃないわけないだろ」


「うん、そうだね。祐兄は強くて優しい、俺の憧れだよ」


「おだてたったなんも出ないぞ」



カケルと祐一は笑いあう。

2人の笑い声はコクピットを抜けて、格納庫に優しく響いていた。

それを聞いていたなのはやすずか、キラやムウは不思議に思い、ガイストの開いたハッチからコクピットを覗き込む。

祐一とカケルはただお互いが無事だった・・・みんなが生きてることが嬉しい・・・だから笑う。

深い心理は置いといて、単純で純粋な部分を表に現してただけだった。

それに影響されたのか、キラ、なのは、すずかの顔にも笑みが浮かぶ。

だが、ムウの表情は、新たにこれから寄港するアルテミスに、一抹の不安を浮かべていた。














「クルーゼ隊長へ、本国からであります」



アークエンジェルへの追撃を一旦中止し、スペースデブリの陰で停泊していたヴェサリウスに、一つの通信が届いた。



クルーゼは手渡された文面に目を通すと、鼻をならしてアデスへと手渡す。



「評議会からの出頭命令ですか・・・・・・そんな! アレをここまで追い詰めながら!」



アデスもその内容に顔を顰める。



「ヘリオポリス崩壊の件で、議会は今頃てんやわんやといったところだろう。まあ、しかたない」



クルーゼは淡白に笑う。



「ヴェサリウスもこの状況ではどうにもならんしな・・・・・・修理の状況は?」



「ほどなく、航行に支障のないまでには・・・」



「アレはガモフを残して、引き続き追わせよう。アスラン、浩平、瑞佳、留美の4人を帰投させろ。
 修理が終わり次第、ヴェサリウスは本国へと向かう。それと、近辺の部隊にガモフの増援に行くよう打電しておけ」」



数時間後・・・アスラン達が合流したヴェサリウスは、プラントへ向けて発進した。

そして、アークエンジェルを追うガモフに、一隻のナスカ級が接近していた。














旗艦に戻ったリオンは、アギトの前で報告を終えて俯いていた。

なにせ結果を出せずに戻ってきた、殺されても不思議じゃない状況に、どうしようもなく緊張する。



「ご苦労だったな。部屋に戻って休んでな」


「え?」



リオン自身は当然として、クルー全員が驚いた。

この艦に搭乗している者達にとって、その結果は奇跡に近いものがある。



「ですが、私は・・・」


「おもしれぇもんを持って帰ってきたからな。今回はチャラだ」



そう言って、アギトはモニターに地球軍の4機のMSを映す。

それを見て嬉しそうに笑っているが、その中でも、フリューゲルを見ているときの眼は、喜びの狂気に満ちていた。



「こいつは俺を楽しませてくれる。今から待ち遠しいぜ・・・はあーっはっはっーー!!」



そのアギトの狂気に、毎度ながら全員が戦慄を覚える

リオンもそんなアギトの様子には冷汗を浮かべるのだった。














ひとまず危機を脱したアークエンジェルは、ゆっくりとアルテミスへ向かっていた。

そんな中で、更衣室から着替えを終えた祐一とキラが出てきた。

祐一とキラは地球軍の制服を着ていたが、カケルとなのはは学生服のままだった。

パイロットスーツ同様に、軍服も子供サイズは用意されていなかった。

4人が揃うと、同じように待っていたムウが、秘密めかした口調で4人に言う。



「ストライク、ガイスト、フリューゲル、レイジングハートの起動プログラムをロックしておくんだ。
 おまえら以外には、誰も動かせないようにな。ま、レイジングハートは必要ないだろうがね」



4人ともムウの言っている意味がいまいち理解できなかった。

しかし、みんなほどなくして、ムウの言った言葉の意味を知ることになる・・・・・・


















《次回予告》




宇宙に輝く美しき光、アルテミスの傘


その光の裏側にひしめくのは、身勝手な思惑と欲望の闇


望まぬ戦いを繰り返してまで求めた場所に安らぎはなく、戦争の実態を知らしめる


動き始めた運命は更なる混迷を呼び、戻れぬ道は子供達の未来を迷わせる



次回 「アルテミス陥落」


その運命 切り開け ストライク!