| 機動戦ガンダムSEED LYRICAL |
人類が地球の周辺宙域を超え、火星にまでその生活圏を広げた宇宙時代
受精卵の段階で遺伝子操作され生まれる『コーディネイター』
自然のままに生まれる『ナチュラル』
ナチュラルにとって、あらゆる能力で勝るコーディネイターは、新たな種として脅威となった。
それが格差を生み、ナチュラルがコーディネイターを排除する動きにでるのは時間の問題だった。
地球のナチュラルから迫害を受け始めたコーディネイターは、宇宙に安住の地を求めて、
宇宙の先住民で、遙か昔から月に移住した者達の子孫たる『ムーンレイス』の協力を得て、
自らの本拠地である宇宙移民コロニー『プラント』を建造し、次々と宇宙による生活の幅を広げていく。
また、プラント以外にも、テラ・フォーミングを終えた火星に移住したコーディネイターも多数いる。
火星ではナノマシンなどによる遺伝子干渉の技術や行為が受け入れられているので、
地球国家の1つである『オーブ』などと同じ様に、種による偏見はなかった。
寧ろ互いに短所を補い、長所を生かした理想的な共同生活を実現していた。
プラントはムーンレイスの国家である『アルカディア』の親書と共に、地球園に独立を求めるが、
自分達の統制下を離れることを恐れたナチュラル達は、プラントの独立を拒み続けた。
地球と宇宙の均衡が崩れようとしたとき、それはやって来た。
火星より遙か向こう側、木星からやって来た『木星蜥蜴』により、火星は瞬く間に占拠され、
月の裏側を次々と制圧され、地球各地にもチューリップと呼ばれる母艦を多数降下させるに至っていた。
アルカディアはプラント、地球連合軍に協力を申し出たが、地球軍はそれを拒否して、
地球園にのみ防衛線を張り、火星や月やコロニーに住む者達を見捨てた。
その対応に抗議したプラントに対し、地球連合軍は農業プラント『ユニウスセブン』を核攻撃した。
2月14日の聖バレンタインデーに起こった事件のため、『血のバレンタイン』事件と呼ばれる。
この事件はコーディネイターだけでなく、ムーンレイスからも反感を買い、
一気に地球とコーディネイター、ムーンレイスによる本格的に武力衝突へと発展した。
誰も疑わなかった、数で勝る地球軍の勝利だが、当初の予測は大きく裏切られる。
会戦と共にプラントの軍事組織『ザフト』とアルカディア軍が投入した新兵器、
『モビルスーツ』によって戦況は大きく変わり、戦局は両陣営共に疲弊したまま時を刻み、
既に11ヶ月余りが過ぎようとしていた・・・・・・・・・
戦争の真っ只中だが、それでも平和に暮らす人々はいる。
ここ中立コロニー『ヘリオポリス』では、今日も変わらぬ平和が続いている。
宇宙港には大勢の小学生が和気藹々としていおりクラスごとに並んでおり、、
後ろや隣など、仲の良い者や近い者同士は、それぞれに小声で会話をしていた。
そんな中で、1人の少年『神威 カケル』は誰とも話すわけでもなく、
何所ともなく遠い場所に視線を向けるようにして、小さな声で呟いた。
「久しぶりに、会えるかな・・・・・・」
工業カレッジのキャンパス
『相沢 祐一』は従兄妹にあたる『水瀬名雪』と、工業の友人であるトールと、
同じく友人であるミリアリアと共に緑茂る中庭を歩いていた。
「あ、いたいた」
祐一達が向かう先には、同じく学友の『キラ・ヤマト』がいた。
キラはまだこちらに気づいておらず、投げやり気味にキーボードを叩いている。
コンピューターからは、おそらく今放送しているだろうニュースが聞こえてくる。
<―――では次に、激戦の伝えられる華南戦線、その後の情報を・・・・・・>
「うわっ、先週でこれじゃ、もうダメじゃないか華南?」
後ろから除き見たトールがお気楽なコメントを述べる。
キラはこちらを振り向いて苦笑すると、コンピューターを閉じる。
「華南なんてけっこう近いじゃない。大丈夫かな〜本土・・・?」
「そ〜んな、本土が戦場になるなんて、ありえないって」
「だといいけど・・・・・・」
ミリアリアが不安そうなのに対して、トールは本当に楽天的な物言いだ。
祐一は意味有り気な言葉を漏らしながら空を見上げるが、何か思い出してキラに向き直る。
「そうそう、キラ。カトウ教授が呼んでたぞ」
「また〜? これだってまだ終わってないのに・・・・・・」
キラは事あるごとにカトウ教授に呼ばれては、何かのプログラムを解析を頼まれているようだが、
最近はその数が増える一方で、いくらキラの情報処理能力が高いといっても、
流石にこれだけの仕事を任されたのでは参ってしまうだろう。
半ば愚痴るように肩を落として溜め息をつくのがいい証拠だ。
「それとキラくん、今日は私達の研修室も見学エリアに入るんだって」
「見学って、確か本土の・・・・・・」
「私立聖祥大学付属小学校の修学旅行だよ。まあこんなご時世だし、行ける場所は限られてるわな」
地球は何処も彼処も、地球軍、ザフト、木星蜥蜴と3つの勢力が毎日の様に戦争している。
アルカディア軍はまだ宇宙にのみ戦線を張っており、地球には降下していないのだ。
そんな訳で、ヘリオポリスなどの中立なコロニーなどが地球の学校の旅行先になっている。
「まあ、あんまり待たせるとカトウ教授が怒るだろうし、行こうか」
「うん。遅刻したら恥ずかしいもんね」
いつも遅刻ギリギリの名雪。
ギリギリだが、決して遅刻はせず、実は皆勤賞だったりするのだ。
そんな事を頭の片隅で考えつつ、祐一達はエレカのレンタルポートに向かった。
レンタルエレカポートに着いた祐一達は、そこで騒いでいる少女達に気づいた。
向こうもこちらに気づくと、1人の少女が駆け寄ってくる
「あ、ミリアリア! あなたなら何か知ってるんじゃない?」
「何かって?」
「この子ね、サイ・サーガイルから手紙を貰ったの。それなのに何も話してくれないのよ」
「ええ〜」
聞かされたミリアリアがすっとんきょんな声を上げる。
この年代は本当に他人の色恋話が大好きだ。
ミリアリアに続き、名雪までも話しに加わって行った。
「もうっ、やめてってば〜!」
彼女達がフレイを問い詰めようとしたとき、後ろから声がかけられた。
「乗らないのなら、先によろしい?」
サングラスをかけた女性と、その後ろに2人の黒服を着た男が立っていた。
言葉こそ丁寧だが、口調や声には妙な威圧感があり、硬く鋭い雰囲気が漂っている。
連れの男達の容姿から察するに、極道組織の令嬢と、御付の部下といったところだろう。
もしそうだったら、逆らったら殺される可能性も少なくない。
「あ、すみません。どうぞ」
トールが頭を下げて、みんな気まずい思いで譲ると、彼女達はきびきびとエレカに乗り込み、
そのままさっさと走り去って行ってしまった。
みんなが呆然としていると、フレイがそんな雰囲気を払うようにして・・・・・・
「もう知らない! 行くわよ!」
叫んで次のエレカをさっさと掴まえる。
連れの少女達もそんなフレイを慌てて追っていった。
「な〜んか意外だったなあ、あのサイが・・・強敵出現だな、キラ」
「え? な、なにを・・・・・・」
「頑張れよ、キラ」
「ちょっ・・・ボクは別に・・・・・・」
トールと祐一の激励に、1人疲れる思いをするキラであった・・・・・・
ヘリオポリスのモルゲンレーテ工場には、従来の社員や職員や生徒達とは別に、
私立聖祥大学付属小学校の生徒達が修学旅行で工場見学に来ていた。
前半は指導員に従って、工場内を案内してもらいながら、その場その場で説明をしてもらった。
説明は実に丁寧で分かりやすく、まだ幼い小学生にもしっかりと理解を深めていけた。
前半が終えようたところで、全員社員食堂に集まると、担当の教師が教卓と黒板を用意してもらい、
今日の内容を黒板に書いて、まとめ的な話に入る。
「―――そこで働いていた人達の様子や工夫を実際に見て聞いて、大変勉強になったと思います。
みんなは将来どんなお仕事に就きたいですか? 今から考えてみるのもいいかもしれませんね。
それではみんな、これよりは自由行動としますが、くれぐれも禁止地区には入らないようにしてください」
「 「 「 「 「 「 「 「 「 「 「 「 「 「 「はーい」 」 」 」 」 」 」 」 」 」 」 」 」 」 」
こうして自由行動が始まり、みんなそれぞれの行動に出ていた。
1人で行動するも、集団で行動するのも自由だが、基本的には何人かのグループに分かれており、
ある者は一度行った場所に行き、ある者はまだ行っていない場所で、見学許可が出ている場所に向かった。
またある者は食堂ということで、先に食事を始めている者達もいた。
そんな中で、『高町 なのは』、『アリサ・バニングス』、『月村 さやか』の仲良し3人組、
この3人で結成されたグループは、ちょっと早めの食事を取っていた。
「すずか、すごく楽しそうだったわね」
「うん。私将来機械系好きだし、工学系に進みたいから、色々と見れて楽しいかったよ」
「あはは、すずかちゃんらしいね。でも、将来か〜・・・・・・」
なのははタコさんウインナーを食べながらそう言うと、
アリサもサンドイッチを食べながら、少し考えるようにして喋りだす。
「私は、お父さんもお母さんも会社経営だし・・・いっぱい勉強して、ちゃんと後を継がなきゃ・・・ぐらいだけど」
「2人とも凄いよね〜・・・もうしっかり将来を決めて・・・・・・」
「なのはは喫茶『翠屋』の2代目じゃないの?」
「うん・・・・・・それも将来のビジョンの1つではあるんだけど・・・・・・」
なのはの両親が経営する喫茶店兼洋菓子店で、店長は父士郎で、母桃子はパティシエ兼経理担当。
学校帰りの学生や、近所の奥様方に人気の店で、クリスマスやバースディケーキは注文が殺到。
女性客が非常に多いので、男はちょっと入り辛く、ましてや1人では、よほどでなければ無理だろう。
なのはも継ぐことには特に違和感などはないが、それでも何か考えてる様子だ。
「他に何かあるかもしれないけど、それがまだハッキリしないんだ。私、特技も取り得も特にないし・・・」
「バカチン!」
なのはの頬に、輪切りにされたレモンが張り付いた。
定食のサラダにトッピングされていたものをアリサが投げつけたのだ。
「自分からそういうこと言うんじゃないの!」
「そうだよ。なのはちゃんにしかできないこと、きっとあるよ」
「そうよ! だいたい私より理数の成績いいくせに、それで取り柄がないって言うのは・・・この口かあ〜〜!!」
アリサがなのはの後ろに回りこむと、指で口を左右に引っ張る。
すずかが止めようとするが、なにぶん強気に出られないすずかだ、
『めっ』と言っているが、まったく迫力に欠けていて、全然やめる気配はない。
そんな子供達の戯れを、周囲の大人達や学生達は、面白おかしく見守っていたという・・・・・・
同時刻・・・・・・ヘリオポリス宙域に程近い小惑星の陰に身を潜める2隻の戦艦があった。
その内の一つ、ザフト軍高速艦『ヴェサリウス』のブリッジで、ふわふわと浮いてる人物がいた。
「そう難しい顔をするな、アデス」
浮いている人物がかたわらの男に苦笑する。
「は・・・・・・しかし、よいのですか? 相手は中立のコロニーですが・・・・・・
アルカディアも関わってますし、評議会の決定を待ってからでも、遅くはなかったのですか・・・・・・隊長」
隊長と呼ばれた人物は風変わりな銀色のマスクをしており、顔の上半分を覆っている。
この人物こそ、『ラウ・ル・クルーゼ』、敵にも味方にも高く名を知られているこの部隊の長だ。
副官のアデスの問いかけに、クルーゼは「遅いな」と答える。
「私の勘がそう告げている。華南が陥ちた以上、連中も必死になるだろうからな」
「もう華南を陥としたとは・・・流石は『漆黒の戦乙女』・・・末恐ろしいですな」
アデスが感嘆するように仄めかす。
軍アカデミーを最年少にして、首席で卒業した超エリートで、初めての戦闘でMA28機、戦艦7隻を撃破し、
その実力を示して、漆黒の戦乙女の2つ名を得て、その後も彼女が参加した作戦は全て勝利で飾られている。
現に彼女が地上に降りて、僅か一週間足らずで東アジアの拠点であった華南が陥落した。
「月から与えられた新型の性能もあったのだろうが、その功績で彼女にはネビュラ勲章が授与されるらしい」
「それは素晴らしいですな。隊長も鼻が高いのでは?」
「フッ、どうかな・・・・・・」
マスクの下の表情を知るのは自分だけ、クルーゼは手にしていた写真を指先で弾いてアデスに渡した。
不鮮明な画質だが、そこには人型らしい機動兵器の装甲の一部が写っていた。
「ともかく地球軍の新型兵器、あそこから運び出される前に奪取する。
でなければ、その代価、いずれ我らの命で支払わなくてはならなくかもしれんぞ」
クルーゼはそう告げると、ブリッジを後にした。
ヴェサリウスの一室では、赤のパイロットスーツを着込んだ少年達が集まっていた。
次の作戦に備えて、それぞれ緊張を解したり集中力を高めたり、ゆっくり休んでいたりする。
そんな中で、1人の少年が緊張のためか、手を握ったり開いたりを繰り返している。
「どうしたんだ、アスラン」
その様子が気になったのか、同じ赤服であり同期でもある『折原 浩平』が話しかけてきた。
そこにもう1人の同期であるイザークがやってくる。
「まさか緊張でもしてるのか? おまえらしくもない」
「コロニーに潜入なんて楽なもんさ。どうせ連中は俺達が仕掛けてくるなんて、
夢にも思ってないだろうさ。それともアスラン、まさか怖いのか?」
ヘルメットを被りながらからかい混じりに言うディアッカ。
だが、その言葉に反応したのは、アスランではなく隣に座っていたニコルだった
「違いますよ! ディアッカ、これは危険な任務なんです。分かってるんですか!?」
「だ〜から〜、それで緊張してんじゃないのか?」
「おまえら・・・これから作戦なんだからな。ふざけ合うのもいいが、不仲はよくないぜ」
半分投げやりめだが、一応仲裁に入るラスティ。
「ラスティの言うとおりだ」
「クルーゼ隊長」
作戦開始時刻が近づいたことにより、隊長であるクルーゼが入ってきた。
全員クルーゼの前まで行くと、敬礼して向かえる。
「本作戦の持つ意味は大きい・・・ヘリオポリスで密かに開発された地球軍の新型機動兵器の奪取・・・・・・
これが成功するか否かで、今後の戦局が大きく左右されることになるだろう。
諸君の肩に、ザフトの命運が掛かっていると言って過言ではない。諸君らの活躍に大いに期待する」
「 「 「 「 「 「はっ! ザフトのために!!」 」 」 」 」 」
締め括るクルーゼの言葉に全員で敬礼する。
流石はクルーゼ、一言で騒動を治めて士気を高めてしまった。
「接近中のザフト艦に通告、帰艦の行動はわが国との条約に大きく違反するものである。ただちに停船されたし」
通告もなく近づいてきたザフト艦に停船を呼びかけるヘリオポリス管制室。
だが、2隻はまったく停船勧告に答える様子はなく、それどころか、全通信がノイズにまぎれていく。
それに気づいた管制官の1人が、冷汗を浮かべながら慌てて叫ぶ。
「強力な電波干渉! ザフト艦から発信されています! これは・・・明らかに戦闘行為です!」
ザフト艦の接近は、ヘリオポリスの港に待機する地球軍の輸送艦にも伝わっていた。
ブリッジには緊迫した空気が張り詰めていた。
「敵は!?」
「2隻だ! ナスカ級ならびにローラシア級。電波干渉直前にMSの発進を確認した!」
「ひよっこどもは?」
「もうモルゲンレーテに着いたころだろう」
「せめてもの幸いですな。ルークとゲイルはメビウスで待機! まだ出すなよ!
それからハヤテとタツ、おまえらは俺について来い!」
「 「了解!」 」
艦内インターフォンに向けて指示を出したのは、地球軍きってのエースパイロット、
『エンデュミオンの鷹』の2つ名を持つムウ・ラ・フラガ大尉だ。
ムウはパイロットスーツに着替えると、部下のハヤテ・ツキカゲ少尉とタツ・シマド少尉とともに、
急いで愛機の待つ格納庫に向かうのだった。
数人で行動するのが多い学生達の中で、カケルは1人だけで通路の端末を操作していた。
別に友達がいないとか、人付き合いが悪いわけでもなく、今日はちょっと1人で行きたい場所があった。
それを人付き合いが悪いというのかもしれないが、そんなの気にせずに黙々と端末を操作している。
「えっと・・・う〜ん・・・・・・ダメだ、場所を聞いてなかった・・・・・・」
どんなにマップで場所を探しても、行くべき場所がわからなければわからない。
しかたなしに端末をリセットして、初期の状態に戻して振り向くと、
そこにちょうど歩いていた人達がいて、そのままぶつかってしまう。
少し勢いがあったのと、体格差があったことで、カケルは思わず尻餅を着いてしまった。
「いたた・・・・・・」
「大丈夫?」
顔を上げると、そこには黒髪を青いリボンで結んだ、自分よりも年上の綺麗な少女がいた。
少女はその手を差し出し、カケルはその手を掴んで起き上がらせてもらった。
「すみません。あなたは大丈夫でしたか?」
「はちみつクマさん」
「・・・・・・はい?」
いきなり『はちみつクマさん』などと言われ、どう対応していいかわからないでいると、
もう1人のおっとり系とも思える少女が、少女の肩から顔を覗かせてくる。
「舞のはちみつクマさんは『はい』で、『いいえ』はぽんぽこタヌキさんって言うんですよ〜」
「はあ・・・・・・」
ちょっと変わった人達だと思うが、どうやら悪い人でも怖い人でもないようだ。
ここの関係者らしいので、ちょっと聞いてみることにした。
「あの、ちょっと教えてもらいたい場所があるんですけど、いいですか?」
「はい、いいですよ」
「相沢祐一か水瀬名雪って人のところに案内してほしいんですけど・・・・・・」
その名前を出した途端、2人が少し驚いたような表情をする。
もしかして、なにかまずいことを言ってしまったのだろうか、そんな心配をしていると・・・
「・・・案内する、こっち」
黒髪の少女がそう言って、2人してゆっくりと歩き出した。
カケルは間の開いた返事に少し途惑うも、案内してくれるというならついて行く。
よくホームルームで、『知らない人について行ってはいけない』など教師が言っているが、
ここの関係者だし、足には多少自信があるので、いざとなれば逃げればいいと考えていた。
少し歩くと、おっとりした方の少女がこちらを向いて尋ねてきた。
「祐一さんと名雪さんとはお知り合いなんですか?」
「はい、小さい頃は、よく2人に可愛がってもらいました」
まだ充分に小さい頃な年頃なのだが、昔を思い出しながら言うとこうなる。
「そういえば、まだ自己紹介をしてませんでしたね。佐祐理は倉田佐祐理です」
「川澄舞・・・・・・」
「神威カケルです。倉田さん、川澄さん、よろしくお願いします」
自己紹介を終えると、舞と佐祐理に案内されて後ろについて行く。
どうやらこの2人も祐一や名雪のことを知っているらしく、今と昔を見比べるみたいな、
そんな他愛のない話をしながら、少しゆっくり通路を歩いて行く。
祐一達のエレカはモルゲンレーテの社屋に入って停まった。
指導教官であるカトウ教授のラボがそこにある。
「お、キラ。やっと来たな」
一室に入ると、同じゼミ仲間であるサイと、カズイ、香里、北川がいた。
このメンバーはいつものことだが、今日は知らない人物が1人、壁際に身を寄せている。
帽子を目深に被って顔は見えないが、年齢はおそらく自分達と同じくらいだろう。
「誰だ?」
「教授のお客さんよ。ここで待ってるように言われたんだって」
「ふ〜ん・・・・・・」
教授の客にしては若い気もするが、特に気にするほどのことではない。
「これ預かってる。追加とかで、渡せばわかるってさ」
「うえ〜? まだこの前のだって終わってないのに〜」
「文句言わないの。さ、ちゃっちゃと終わらせるわよ」
情けない声を上げたキラに対して、渇を入れる香里。
キラだけでなく、香里もカトウ教授からプログラムの解析を頼まれていたようで、
2人して自分のパソコンを開くと、さっそく作業を開始する。
そんなキラに、トールが後ろから首を締め上げた。
「そんなの放っておいて、手紙のことを聞けよ!」
「手紙?」
目の前の香里と、後ろに立っていたサイがきょとんとしてキラを見る。
「な、なんでもないよ!」
「そうか・・・・・・」
「キラくん、口より手を動かしてよね」
「うん・・・・・・」
なんとか話がそれて助かったと思っているキラだが、この面子はそんなに甘くない。
徹底した野次馬根性が染み付いている北川がトールに詰め寄り、
カズイもおもしろ半分にせがむが、あまりに鬱陶しかったのか、香里が睨みを利かせた。
ちょっと本気が混じっていたので、みんなあっさり静かになる。
しかたがないので、全員それぞれの持場に行って、それぞれの作業を始める。
「あ、そうだ相沢くん、こっちに来たら職員棟に来るようにって、秋子さんが」
「またなんで?」
「さあ、行けばわかるんじゃない?」
「そうだな」
祐一は入ってきた入口の前まで歩いて行く。
すると、不意に入口の扉が開いて、見知った2人の女学生が入ってきた。
「こんにちわ〜」
「佐祐理さん、舞、どうしたんですか?」
「あはは〜、祐一さん達にお客さんですよ〜」
佐祐理と舞の後ろから、1人の少年が部屋に入ってきた。
案内されて入ったカケルは、そこには知った人物2人を見つけた。
顔立ちなども最後に会った時より成長しているので、一瞬わからなかったが、目の前の2人がそうだと実感する。
「祐兄、なゆ姉、久しぶりだね」
「え?」
祐一と名雪は少し驚いてこちらを見ている。
どうやらまだこちらに気づいていないようだ。
「もしかして・・・カケルか?」
「うん」
2人は思い出してくれたようだが、それでももう一度言う。
「祐兄、なゆ姉、久しぶりだね」
「ああ、ほんと、久しぶりだな」
「うわ〜、久しぶり、カケルちゃん」」
祐一はカケルの肩を抱き、名雪は頭を撫でている。
そんな3人に、トールが質問する。
「知り合いか祐一?」
「ああ、俺や名雪の母方の妹の子、つまり従兄弟だ」
「ふ〜ん・・・にしても、なんかキラと声が似てるな」
「え、なに?」
自分の名前が出たことで、こちらを向いたキラ。
その発した声は、確かにカケルにそっくりだった。
「ホントに似てるな」
「そっくりさんだね」
まあそんなことで、最初に悪印象を与えなかったので、とりあえずよしとする。
「まあ、何もない・・・わけじゃないけど、ゆっくりしていけよ」
「うん。みなさん、よろしくお願いします」
トール達は親指を立てたり、頷いたりしてそれに答えてくれた。
それに安心して、祐一はカケルの隣まで歩いていき、頭にポンと軽く手を置き
「俺は用事があって外すけど、また後でな」
そのまま2.3回頭を撫でてやると、そのまま部屋を出て通路を進んでいく。
こうして久しぶりの再会は無事に果たされ、ゆっくりとここの見学をすることになった。
「・・・・・・クルーゼ隊長の言ったとおりだな」
「つつけば慌てて巣穴から出て来る・・・って?」
ヘリオポリスに侵入し、少し離れた場所から様子を窺っていたイザークの言葉に、
ディアッカが皮肉交じりに軽口を叩いている。
ザフト艦侵攻の報せが届いたのだろう、モルゲンレーテの工場は慌しくなっていた。
工場からは大型コンテナを積載したトレーラーが出て来る。
「おっ、あれだあれだ」
「やっぱり間抜けなもんだ、ナチュラルなんて」
イザークが冷たく言うと、手に持っていた通信機のボタンを押す。
アスランと浩平は、隅の方で蹲っている二コルの肩を叩いて励ましてやる。
若干15歳と、普通に考えたら幼い年齢だが、基本能力値が高いコーディネイターは、この年齢で既に成人と見なされる。
それが分かっているからこそ、年上としてアスランと浩平は二コルを落ち着かせてやったのだ。
そして、時間を見ていたラスティが二コルの背中をどつく。
「時間だ」
カウンターが0になり、工場区のあちこちで爆発が起こり始めた。
所々で誘爆を引き起こし、爆風に人は飛ばされ、鉱山内部の岩盤が崩れ、瓦礫が降り注ぎ、
コロニーに侵入したジンの部隊による攻撃が始まった。
変わらぬ平和を維持していたヘリオポリス、その平和が今、終わりを告げた。
Gを搭載したトレーラーと、それらの補助パーツを載せたトラックの周辺で作業している連合軍兵士。
1人の兵士が切羽詰った声で、上官である女性に告げる。
「ラミアス大尉、艦との通信途絶・・・状況不明・・・・・・」
告げられたマリューは、その言葉に唖然となるが、次の瞬間の強い振動と、
頭上より舞い降りたジン部隊の襲撃により、慌てて射線より退避して身を伏せる。
「ザフトの!」
マリューはいかにも悔しそうに、頭上のジンを睨みつける。
「X105とX303を起動させて! とにかく、工区から出すわ!!」
「わかりました」
頭上からはジンが76mm重突撃機銃による射撃で、次々に護衛の車両やトレーラーを吹き飛ばす。
戦闘力を持たないこれらは、なす術もなく撃ち払われていくのだった。
ザフト軍の襲撃により、モルゲンレーテの工場区のあちこちにも振動が行渡った。
通路を歩いていた祐一も、研究室にいるカケルや名雪達も、色々と見学をしていたなのは達も、
揺れる床に足元をとられてるも、なんとか踏みとどまる。
「なんなのよ〜・・・」
「隕石でもぶつかったのか?」
「みんな、一度出る」
舞が扉を開け、みんなして部屋から出て非常階段へと向かう。
非常階段への扉を開けると、ちょうど階段を駆け上がってきた職員がいた。
「どうかしたんですか?」
「ザフトに攻撃されている! コロニー内部にMSが入ってきてるんだ!」
「ええっ!?」
みんな、一瞬にして立ちすくんだ。
事態がまだ性格につかめないが、職員に促されて続いた。
そして、非常用シェルターがようやく見えてきたところで、キラの横を走っていた少年、
その少年が突如として身を翻し、まったく逆方向に走っていった。
「きみ!」
「キラ!?」
「すぐ行くから」
トールの呼びかけに答えて、キラはそのまま走っていった。
しかたなくみんな再びシェルターを目指すが、そこでまた事故が発生した。
「えっ!?」
「カケルちゃん!!」
最後尾を走っていたカケル、その足元の床が崩れて、そのまま空いた穴に落下する。
すぐ前を走っていた名雪が、それに気づいて慌てて振り向き、必死にカケルに手を伸ばすが、
その手は届かずに、カケルはそのまま暗闇に消えていった。
名雪はカケルを追って穴に飛び込もうとしたが、舞が腕を掴んで引き止める。
「ダメ・・・」
「でも、カケルちゃんが!」
「あの子なら、きっと無事でいる」
「信じましょう名雪。あなたと相沢くんの弟なんでしょ?」
「・・・・・・うん」
香里に言われて、小さく頷いて力を抜く名雪。
落ちたのが1階くらいの高さなら、すぐに合流することができる。
まだ下から移動している教員や学生もいるだろうから、その人達と行けば心配はないだろう。
昔のカケルの姿を思い出すと、泣きじゃくる姿が思い浮かぶので、心配といえば心配だが、
それでも根は強い子だったので、きっと大丈夫・・・そう信じるのだった。
工場区の外では、激しい戦闘が繰り広げられていた。
地球軍は対空戦車で応戦しているが、相手はMSのジンだ。
片っ端から撃たれ、斬られて潰され、簡単に破壊されていく。
浩平達潜入部隊は戦闘の隙をついて、立ち往生している大型トレーラーの前に着地すると、
持っていた銃器によって、護衛のをしていた地球軍の兵士を撃ち殺し、コンテナを見上げる。
「3機? 報告では5機と聞いていたが・・・後の2機はまだ中か?」
トレーラーは3つしか出ておらず、コンテナも3つしかなかった。
「俺とラスティで行く。イザーク達はそっちの3機を」
「俺は例の機体を取りに行く。あとは2人に任せておけ」
アスランと浩平の言葉を聞き、イザークは口を開く。
「OK、任せよう」
イザークの言葉を合図に、浩平、アスラン、ラスティは工場に突入していく。
「各自、機体搭乗後、自爆装置のロックを解除しろ!」
イザークはそう告げると、銃撃戦の中へと降り立ち、警護している兵士を撃ち、
トレーラー内に逃げ込んだ兵士に向かっては、手榴弾を投げつけて爆殺させる。
そして、イザーク、ディアッカ、ニコルの3人は、それぞれGへと乗り込んでいく。
それを見届けると、アスランとラスティ、浩平の2組に別れて搬出口へと向かう。
「・・・・・・さて、これからどうしよう・・・・・・」
落下したことにより、名雪達から完全に逸れてしまったカケルは、通路で立ち往生していた。
普通なら脱出か、誰かとの合流を考えるのだが、非常階段へと続く通路が崩れており、
道が塞がれている上に、後ろは壁で行き止まりになっている。
一言で言うならば、完全に閉じ込められた状態だ。
「う〜ん、やっぱりこれしかないかな」
カケルは通気口のダクトの前まで移動すると、強く蹴り開けた。
「これでよしと・・・・・・」
開いたダクトの中に身を入れ、薄暗い中を進んでいった。
「もう、なんでこんなことになるのよ! ヘリオポリスは中立なのに〜!」
「やっぱり、戦争をしてる人達にとって、中立な立場とかはは関係ないのかな?」
アリサ、すずかの順番に言う。
ただ修学旅行を楽しむだけで来た子供達にとっては、この状況は酷いものだろう。
そして、運動神経があまりよくないなのはは、見事に何もない場所でころんでしまった。
幸いな事に、後ろから走って来た人達は、避難訓練のときのように、慌てずなのはを避けていった。
アリサとすずかは、顔を押さえているなのはのもとに駆け寄った。
「う〜、いたた・・・」
「大丈夫、なのはちゃん?」
「なのは、立てる?」
「うん」
差し出された2人の手を取り、立ち上がるなのは。
そのとき、耳鳴りにも似た直感的な音が頭に響いた。
「!?」
「なのは?」
硬直しているなのはに、アリサが不思議そうに声を掛けた。
もしかしたら空耳なのかもしれないが、2人に聞いてみることにする。
「さっき、なにか聞こえなかった?」
「なにか・・・?」
「崩れるような音とかなら今も聞こえてるけど・・・」
そういった感じのものではなかった。
まるで何かに呼ばれるような、引き寄せられるような感じだった。
そして、なのははなにかに引き寄せられるように、その場から逆方向に走り出した。
「なのは!?」
「なのはちゃん!?」
「すぐに戻るから、先に行ってて・・・」
なのはは来た道を途中の曲がり角で曲がっていき、それを追って曲がろうとしたアリサとすずかだったが、
ちょうどそこに、同じ様に曲がろうとして走って来た者達と正面から衝突してしまい、
2人揃って後ろに転んで、尻餅を着いてしまった。
「ちょっと、いきなり飛び出さないでよ!」
「すみません。佐祐理達も急いでいたものですから」
「いえ、私達も不注意でしたから・・・」
勢い良く1人で立ち上がったアリサと、佐祐理の手を取って立ち上がるすずか。
アリサはとすずかは横からなのはの姿を見ようとしたが、もうなのはの姿はなく、
通路が十字路になっているため、右か左のどちらに曲がったかわからない。
「ああもう! あんた達のせいでなのはを見失ったじゃない!」
「ええ!? 俺達のせいなの?」
アリサの気迫にたじろぐカズイ
小学生に気押されるとは随分と情けないが、それは置いといて、名雪達女性陣が2人の話を聞いてみる。
香里の話では、交差する前に擦れ違ったので、どちらに曲がったかはわからないらしい。
こういったことは迅速さが第一なので、香里が案を出す。
「名雪は右、川澄先輩は左をお願いします。曲がればしばらく直線だから、すぐに見つかるわ!」
「うん」
「任せて」
返事をするや、一般人にはとてもマネできないスピードで駆け出す名雪と舞。
僅かに舞が速いが、ほぼ同じタイミングで左右に分かれるが、2人はすぐに戻ってきた。
「あのね、どっちも瓦礫で道が塞がれてたの・・・・・・」
「 「・・・・・・え? ええ〜〜〜!?」 」
名雪の告げた言葉に、アリサとすずかが叫ぶ。
突如走り出した少女を助けたキラは、二人で工場区へとひたすらに通路を走っていた。
そして、長い通路から出ると、ひらけた場所にたどり着いた。
格納庫のような場所では、銃撃戦の真っ最中だった。
そこで2人は見てしまった。
金属独特の冷たい輝きを放つ・・・地球軍の新型MSを・・・・・・
「これって・・・・・・」
「地球軍の新型機動兵器・・・やはり・・・・・・」
キラ以上に衝撃を受けた少女は、がくりと膝をついた。
手すりを強く握り締め、うめくようにして叫ぶ。
「お父様の裏切り者ぉぉぉーーーーーっ!!」
彼女の絶叫は大きく響き、銃撃戦をしている兵士達に気づかせることになった。
こちらに向けられた銃口に気づいて、キラは少女を手すりから離れさせると、
急ぎ少女と一緒に後ろに飛び退いたと同時に、銃弾が手すりをかすめた。
「冗談じゃない!」
こんな所で殺されたんじゃたまったものではない。
キラは少女を抱えるようにして走り、シェルターの入口までたどり着いた。
インターフォンを押すと、スピーカーから応答の声がした。
『・・・・・・まだ誰かいるのか?』
男の声が回線の向こうから聞こえ、その声に微かにホッと安心する。
「はい! ボクと友達です」
『二人!? 駄目だ、こっちはもう一杯だ。東ブロックの37番シェルターまで行けるか!?』
キラは振り返って左ブロックの方を見ると、そこまでは銃撃戦の真っ只中で、
そこへ行く為には、銃弾の雨の中を突っ切って行く必要がある。
1人ならなんとかなるかもしれないが、少女を連れてでは行けそうにはない。
キラはインターフォンに向かって叫ぶ。
「だったせめて、一人だけでも・・・女の子なんです! お願いします!」
キラの幼い声と、女の子の言葉が効いたのだろうか、僅かな逡巡のあと、返答が返ってきた。
『わかった。すまん・・・・・・』
ロックを示すランプが赤から青に変わり、扉が開いた。
キラはの肩を掴み、扉の奥に押し込む。
「なに・・・おまえは?」
「いいから! ボクはあっちのシェルターに行くから、早く」
「ま、待て!」
キラは少女を無理矢理押し込むと、シェルターの扉を閉じた。
ランプが青から赤に戻り、キラは再び走り出した。
「ハマナ! ブライアン! 早くX105とX303を起動させるんだ!!」
女の人の声が格納庫に響く。
キラは思わず声のした方に視線を向けると、例のMSの影に身を隠し、ライフルを撃っている女性に気づく。
相手がザフトならば、兵士は全員コーディネイターで、全ての身体能力においてナチュラルを上回り、
それが軍人として訓練を受けた連中ならば、その差は絶対的なものだ。
マリューを背後から襲おうとしている兵士に気づき、思わず声を上げる。
「うしろ!」
マリューは声に反応して振り返り、敵兵を撃ち殺した。
「子供!?」
マリューはこちらに気づいて驚くと、こちらに向かって叫んできた。
「来い!」
「左ブロックのシェルターに行きます! おかまいなく!」
「あそこはもうドアしかない!」
その言葉にキラは足を止めた。
ドアしかないということは、つまり破壊された後だということ・・・・・・その時、
今から行こうとしていた非常通路が爆炎に包まれ、鉄屑が吹き飛んでくる。
あのまま行っていたら、自分の命運は尽きていただろう。
「こっちへ!」
キラは躊躇わずにキャットウォークから飛び降りた。
その落差は5,6mはあり、その身のこなしに思わず女性は一瞬動きを止める。
そんなマリューの後ろで、MSを守って戦っていた兵士が、ザフト兵を撃ち殺した。
「ラスティーーー! くそぉーーーっ!!」
アスランが叫び、仲間の命を奪った敵に向かって、雄叫びと共に銃を乱射しながら飛び出した。
放たれた銃弾が命中し、崩れるように男は倒れてしまった。
「ハマナ!」
仲間を撃たれたマリューが銃を向けるが、アスランが振り向きざまに放った銃弾の方が速い。
「あうっ・・・・・・」
その弾丸は女性の右肩に当たり、血を流しながら力なく倒れた。
弾づまりでも起こしたのか、アスランは銃を捨てて、ナイフを抜いて迫ってくる。
キラは思わず駆け寄った、そのとき・・・・・・
「キラ?」
目の前のザフト兵に驚き、その顔を見る。
その炎の照り映えるバイザー越しに顔を見た瞬間、キラの脳裏に幼い頃の光景がフラッシュバックする。
―――― きっとまた、会える・・・・・・ ――――
「・・・・・・アスラン?」
かつて別れた友達の名前が、意識しないうちにこぼれ落ちる。
その言葉に、時間が止まったかのように、2人は硬直した。
思っても見なかった突然の再会に、2人は次の言葉が見つからないのだ。
そんな2人に水を差すように、マリューが傷ついた右手で銃を構える。
「ちっ!」
間一髪でそれに気付いたアスランは、バックステップでそこから飛び退く。
振り返ったキラはマリューに体当たりされ、2人はもつれるようにMSのコクピットへと転がり込んでいった。
爆発の中、MSの左腕が動き、脚を拘束していた拘束具を弾き飛ばし、拘束具を次々と外す。
祐一は職員棟に行く予定だったが、行く先行く先が炎に包まれたり崩れたりしていて、
通れる道を手当り次第に進んで行っていたが、行き止まりに辿り着いてしまった。
いちおう前に扉があり、IDカード式の扉なので、祐一は自分のカードを取り出す。
「俺ので開くかな?」
考えてもしかたないので、祐一はカード通した。
すると、液晶にOKのサインが出て、扉がシュッと開いた。
「お、ラッキー、開いた」
開かれた扉の奥をひたすら走っていると、かなり開けた場所にたどり着いた。
そこで祐一が眼にしたのは、2機のMSと、1人のザフトのパイロットスーツを着た兵士だった。
端の壁には爆発で破壊したような後があり、どうやらヤバイ時にヤバイ場所に来てしまったようだ。
「ちぃっ!」
こちらに気づくや、ナイフを取り出して飛び掛ってきた。
祐一はナイフの刃先を避けて、ヘルメット目掛けて拳を突き出したが、
相手は訓練されたコーディネイター、軽く受け止められて、そのまま投げられて床に叩きつけられる。
すぐに起き上がろうとしたが、それより早くナイフを喉もとにつきつけられた。
(殺される・・・・・・)
抵抗しようにも、マウントをとられて完全に抑え込まれているので、反撃に出られない。
思わず眼を閉じる祐一だが、いつまで経っても死の瞬間はやってこない。
祐一は不思議に思い、眼を開いて自分を押し倒している相手の顔を見上げると、そこには・・・・・・
「おまえ・・・浩平・・・なんでおまえが?」
「祐一・・・まさかこんな所で会うなんてな」
幼少時代、一緒に月に住んでいた親友が目の前にいる。
浩平は突きつけていたナイフを下げると、振り返りもせずにMSに向かって歩いて行く。
「おい、待てよ浩平」
「悪いが祐一、今はおまえに構っていられない」
浩平は振り返らない。
祐一を無視して、蒼く彩られた機体の前に立ってラダーを掴む。
「ここで見たこと、これから起こることは忘れろ。眼を閉じ、口を紡げ、それがお前のためだ」
浩平はラダーを掴んで、MSのコクピットに入っていった。
「ふざけるな・・・・・・」
祐一は手を強く握り締め、歯を噛み締めていた。
「ふざけるなよ! 浩平!!」
中立のコロニーを襲撃して、何の関係のない人がたくさん巻き込まれた。
血のバレンタインの悲劇に比べたら少ないし、核なども使ってはいないにしても、
これから起こることも含めて、全てなかったことにできるほど、祐一は人間腐ってはいない。
祐一は脈動に駆られて、浩平が乗り込んだのとは逆の機体のもとまで走って行き、
そのままラダーを掴んで、ハッチ付近まで昇ると、コックピット内に入り込んだ。
シートに座るとハッチが閉じ、計器類に光が灯っていく。
「このMS、動くのか・・・よし!」
2機のMSのカメラアイに光が灯り、両腕を抑え付けていた拘束具を引き千切り、
続けて両の脚の拘束具を弾き飛ばして向かい合った。
その頃、薄暗いダクト内をひたすら進んでいたカケルは、ちょっと焦っていた。
方向もわからずに進んでいたので、一向に外にでられるような気配はないし、
ずっと遠くで聞こえる爆発音は、いまだ止む気配がない。
(早くしないと、最悪もありえるかな・・・・・・)
内部でMSが戦闘をしている以上、最悪の場合、ヘリオポリスの崩壊もありえる。
急いでここから出て、シェルターに行かなければならない。
それに、いい加減この狭いダクトの中をちまちま進んでいるのも疲れ始めたとき、
右手を前に出した瞬間、通気口の底が外れてしまった。
「え? またあ〜〜〜!?」
人工重力だが、それに引かれてまっさかさまに落下する。
カケルはなんとか重心を戻し、床に激突する瞬間に体勢を戻して着地することができた。
「ふ〜・・・危なかった・・・・・・」
少し足が痺れるが、痛みもそれほど酷くはなく、なんとか大丈夫そうなので、立ち上がって様子を見ると、
どうやら格納庫らしい広い場所に落ちたらしく、室内はかなり薄暗い。
(・・・・・・ここは・・・どこだ?)
現在の場所と状況を確認しようとするも、ヘリオポリスのことは何1つわからないカケル。
そんなとき、暗い闇の中から人の足音が聞こえ、どうやらこちらに近づいてきているようだ。
そして、薄暗い闇から姿を現したのは1人の老人だった。
「おや? 誰かと思えば、随分と久しい顔じゃな」
「ドクター・・・ディ・・・・・・」
予想もしていなかった相手の登場に、驚き以上に緊張を感じざるをえない。
それを見透かしたかのように、ドクターディが笑いながら言う。
「そう緊張するな。儂は人を待っとっただけじゃ、のうユーノ」
奥から現れたのは一匹のフェレットだった。
ユーノと呼ばれたフェレットは、ドクターディの肩に上り"キュイ"と可愛らしく鳴いてこちらを見る。
場所と人物と動物が異常なくらいミスマッチだ。
そんなおり、すぐ後ろから何かが開く音がして、目の前の相手から注意を逸らさぬように視線だけ移すと、
そこには何度も見かけたことのある少女が立っていた。
「高町・・・さん?」
「神威くん? え、どうして?」
どうしてもなにもない、それはこっちのセリフになる。
どう考えても普通じゃない雰囲気の場所に、一般に知られてないが、普通じゃない老人・・・
フェレットは・・・まあ普通なのだろうが、それでもなのはがここにいる理由には繋がらない。
カケルとなのはは、互いにここにいることを不思議に思っていたが、それ以上のことが起こった。
「来て・・・くれたんですね」
「・・・・・・え!?」
「喋った!?」
いきなり人間の言葉を発したフェレットに、驚きを隠せないカケルとなのは。
「この娘がそうなのか?」
「はい。彼女には高い素質があります」
「ほうほう、そうか。このお嬢ちゃんがの〜・・・・・・」
まるで嘗め回すようになのはを見るドクターディ。
絶対になにか企んでると思いつつも、絶対に関わって巻き込まれたくないと思うが、
すぐになのはから、視線がカケルに移動してきた。
「カケルも居るし。ちょうど2人じゃな」
「なにが・・・・・・?」
できれば何も聞かずに、即行でこの場から立ち去りたかったが、クラスメートの事もある。
そんなカケルにドクターディは気味悪く笑いかけると、懐から出したスティックのボタンを押す。
すると、薄暗い室内に明かりが灯り、2人はあるものを見て驚く。
「はえ〜、これって・・・」
「MS・・・なんでこんなところに?」
一般に知られているザフトのジンやシグーとは明らかに系統が違っており、
アルカディア軍のイクシードに似てなくもないが、決定的に頭部のデザインが違う。
人間と同じ2つのカメラアイ、巨大なマルチプレートアンテナを持つ独特の頭部、
右の機体は、胸部と腹部が鮮やかな青と赤と金、四肢は白をを主張しているが、腕は青と金が含まれている。
片や左の機体は、胸部と腹部が鮮やかな赤で、輝くような白い四肢のMS。
「これをどうしろと?」
「シェルターは既に全て満杯か壊れとるからの、これの中なら安全じゃぞ。それに、脱出もできる」
「・・・・・・・・・」
はっきり言って怪しいが、コロニーが攻撃を受けてから随分と時間が経っている。
ドクターディの言うとおり、もう残っているシェルターはないかもしれないが、
だからといって、いきなりMSに乗れなどと、なにをさせようとしているのかが気になる。
だが、そんな思考も、室内に響く振動によって結論を出さざるえなくなった。
「悩んでる時間はないか・・・高町さん!」
「うん! お爺さんも来てください」
「儂はまだ少し用事があるからのう、ユーノ、後のことは任せたぞ」
「わかりました。あなたはあっちへ、あなたは僕とこっちの機体に・・・」
なのはとユーノは左の機体に、カケルは右の機体の前まで行くと、コクピットへと続くラダーを掴み、
そのままハッチ付近まで昇ると、コックピット内に入ってシートに座る。
「偶然か・・・必然か・・・あやつがの〜・・・・・・」
ドクターディの呟きは誰にも聞かれることはなく、その姿も奥の扉の中に消えていった。
それと同時に、天井が崩れ落ちてきて、炎が室内を覆っていく。
その中で、2機のガンダムはモニターアイを光らせて、各部に接続されていたケーブルがはじけ飛ぶ。
炎と瓦礫の中に、2機のガンダムが鼓動するんだった。
輝きを炎に照らされ、全身鋼色の輝き・・・・・・
大きな翼に酷似したウイングスラスター・・・・・・
白く美しい四肢の優しき強さ・・・・・・
蒼穹の青空を現したかの如く煌く蒼・・・・・・
内に秘めた希望の剣・・・・・・
『ガンダム』の名を冠した力が今、目覚める。