If you believe in the existence, the Saga that this surely got up in the world












 それはとある別の世界 願いが叶う不思議な世界



 小さな世界 とても小さな存在の 小さな物語



 今宵の語りの 愛しき彼らの魂の詩 僅かでも



 貴方の心に 届きますように……










 汚い。


 何もかもが汚い。


 世界が、人間が、全ての存在が。


 全てが醜く見えてどうしようもない。


 世界はどうしようもなく異端な存在に残酷だ。


 だから世界は汚く濁ってしまう。


 だから人々は醜く卑しい存在になる。


 だけど――



 だからこそ、『此処』にいる価値がある。



 私は、そう思う。



 この世界に生きとし生きるものは、全て等しく価値のあるものなのだから。










 それが、私の生きる『世界』――










 白い。

 それは限りなく白い。

 最果ての地、空の彼方、遥かなる水面、全てが白かった。

 木もなければ建物もない。丘もなければ陸地もない。

 もちろん、生命も、存在しない。

 ここは孤独の世界だ。

 白だけが全てを支配する、孤独の世界。

 例えるのならば世界の裏側、あるいは星の中心。

 白く透き通った世界がここにある。

 それはこの世にあるどんな白よりも美しく、そしてどんな白よりも神々しかった。

 世界中のどこを探せばこんな白を見つけることができるのだろうか?

 いいや、きっと、どこを探してもこの白を見つけることはできないだろう。

 それほどまでに美しいこの白い世界は、あるはずのない白で構成された、あるはずのない世界だ。

 少なくとも、世界には存在していない。

 しかし世界に存在していないということは……

 とても寂しく、悲しかった。


「……寂しい世界だ」


 ここには誰もいない。

 共に苦難を歩んだ友人も、軽口を叩き合った親友達も。

 全てがこの世界に存在しない。

 この無限の虚無の世界に、心というものは邪魔でしかなかった。

 こんな世界に私はいるというのだろうか。

 いや、本当に私はここにいるのだろうか。

 この何も無い、白だけの世界に存在しているのだろうか。

 立ち上がり、更に辺りを見ようとした。


 ―――しかし


 動かない。

 体がないのか、動かす機関が欠落しているのか。

 ああ、だとしたらそれは、とてつもなくお似合いだ。

 この命も何もない世界において、意識だけの存在である私は、確かにお似合いだ。

 何もかもが不揃いの世界。

 あるべきはずのものがない世界。

 あるべきはずのものがない私に、本当に似合っている。

 でも、それは、とても、とても―――

 悲しい事、なんだろう。

 意識がある。感情がある。

 何かを考えることができるということは意識があるから。

 寂しいと思うのは感情があるからだ。

 そして寂しいと思うのは、誰かを欲しいと思うからだ。

 ―――でも

 ここには誰もいない。

 傍にいて、そう願いをかける相手すらいない。

 ここは誰もいない、何もない、白だけの世界。

 恐ろしい、孤独というのはこういう事を指すのだと思う。

 誰もいない世界は、自分しかいない世界は。

 自分が存在している、ということを証明するものがない。

 きっと、どこの誰も私の事を知らないだろう。

 誰にも知られていないと言うことは、存在していないことと同義なんだ。

 私は存在していない。

 私はここだけの存在。

 私はたった独りの存在。

 感情を持っているから、独り、孤独、寂しさ、そんな感情に押しつぶされそうになる。

 どんなに美しい世界でも。

 どんなに快適な世界だとしても。

 誰も傍にいない世界だなんて、そんなもの欲しくない。

 どんなに醜い世界でも。

 どんなにつまらない世界でも。

 誰かがいる世界じゃないと生きていけない。

 独りでは、誰も生きていくことはできないんだ――










「なんだこれ……?」


 それは紅い、とても紅い宝石だった。

 仕事帰りに突然犬が襲い掛かってきたため、蹴り入れて気絶させたら出てきた。

 口から吐き出した、とかじゃなく文字通り体内から急に出てきた。

 どう見ても異常な物だ。

 普通に考えてこれが原因で犬が暴走したと考えるべきだろう。


「綺麗な外見ゆえの邪悪さを秘めた宝石、か」


 薔薇に棘があるように、美しさを秘めたものには必ず危険が宿っている。

 まさに良い例だ。

 だが、こんな危険物は一体どうするべきだろうか。

 警察に届ける、というのは論外だろう。

 ただ単に落し物を拾ったというわけではないのだ。

 下手に知識無き人間の手に渡ったらそれこそえらいことになるだろう。

 そんな宝石の扱いに困っている時のことだった。


「あ……」

「ん?」


 背後からふと声が聞こえ振り向いた。

 振り向いてビックリ、金髪の可愛らしい容姿の少女が立っていた。

 もっとビックリなのは隣に紅い狼らしき動物がいることだが。


「あ、あの……それ……」


 少女は私が持つ紅い宝石を指差ししていた。

 この宝石が欲しいのか、それとも自分の物だから返して欲しいのか。


「……この宝石は君の物なのか?」

「ち、違う……けど……」


 と、なると前者らしい。

 だが……そうなると簡単に渡して良い物ではないだろう。

 が、少し気になる点が一つ。


「君はこれがどういう物なのか知っているのか?」

「え!?」


 少女の顔に驚きの表情が浮かんだ。

 『何を聞いているのか』ではなく『何故知っているのか』という顔だ。

 カマかけただけなんだが図星か。

 一応手に入れてすぐ聞いてきたことから予感はしていたんだが。


「今、そこの犬が突然襲い掛かってきて、その犬が気絶したらこれが出てきたんだ」

「えっと……」


 何と言おうか、迷っている表情。

 何か言わなければならない、けど何を言ったらいいのか分からない。

 そんな感じだ。


「私の予想では、これが原因で犬が襲い掛かってきたと思うんだが」

「う……」


 またもや図星、といった顔をする。

 人見知りするような子に見えたが思ってることが意外に顔に出易い。

 まぁ、とにかくこれが何なのか知っているなら話は別だ。


「……まぁいい。これは君にあげよう」


 そう口にする。

 少女は「え?」と疑問に満ちた顔をしている。


「それが何であれ、専門家に見せた方が良いだろう。君がその専門家を知ってるなら、君に任せる」


 半分は本音だがもう半分は偽りの言葉だ。

 結局、厄介事や面倒な事に首を突っ込みたく無い故の人任せでもあった。

 だが……流石に自分より明らかに年下の少女に全てを任せるのも酷、か。


「君がこれを何に使うのかは知らないが……一つ、アドバイスだ」


 最も、この言葉が役に立つとも思えないが。


「アドバイス……?」

「探し物をする時は探し物を見ようとしないことだ」

「え?」


 キョトンした表情になる。

 ……まぁ、少し意味が分からなかったかもしれない。


「小さな宝石を探すくらいなら、そのものよりそれによる影響を探した方が早い、ということだ」

「えっと……どうして?」


 どうして、そんなことを言うのか。

 どうして、探しているという事情を知っているのか。

 どちらとも取れる言葉だった。

 だが、意味を尋ねるのも深く真意に関わりそうで憚れた。

 だから。


「……なんとなく」


 どちらとも取れる言葉で返した。


「君は迷うことなくその宝石のことを聞いてきた。それは君はそれについての知識があるから」


 大したことじゃない。

 けど、何も言わないのも不自然だったから。


「少なくとも実物を一度見た、ということだ。だとしたら他にも同じのがあるんじゃないかと思って」

「よ、よく分かりますね……」

「……その素直な反応も考え物だな」

「え?」


 またキョトンとした表情になる。

 ここまで反応が素直過ぎると逆に悪い人間に騙されないか不安になるものだ。

 多分、子供を持った親や妹を持つ兄というのも同じ気分なんだろう。


「半分はそうだと思ったがもう半分はカマをかけただけさ。君の言葉で確信に変わったが……な」

「あ」

「素直過ぎるのは悪いことじゃない……が、もう少し相手の反応も見るべきだな」


 少女に近寄り紅い宝石をその手にそっと握らせる。

 少女は大事そうに宝石を両手で握り、傍に居る狼も心なしか喜んでるように見えた。

 その関係は飼い主とペットというよりまるで――


「……」


 無言で首を振る。

 まるで、何だと言うのだろうか。

 ペットを家族のように思う人間だっている。

 この少女と狼が親しい関係に見えたところでそれが何だと言うのだろうか。

 ……柄にも無く、くだらないことを考えたものだ。

 だからだろうか。


「その狼を……いや、『友人』を大事にな」


 無意識のうちに言葉を紡いでいた。

 だが言った後で何を馬鹿なことを、とは思わなかった。 

 この言葉をどう受け止めるかは少女次第なのだから。

 彼女が思った通りのことをすれば良いだけだ。


「あの……貴方は?」


 去ろうとした際、少女に声をかけられた。

 が、質問の意味がよく分からなかった。

 貴方は、その言葉に続く後の言葉は何なのだろうか。

 そんな意思が向こうにも伝わったのだろうか、少女も質問を変えてきた。


「私は……フェイト=テスタロッサです。貴方は?」

「……名前なんて聞いてどうするんだ? 恐らく二度と会うことはないだろう」

「なんとなく、です」


 ……こちらが言った言葉をそのまま返された。

 一杯食わされた、とはこのことを言うのだろうか。

 いずれにせよ、名乗られた以上は名乗り返すべきなのだろう。

 礼儀としても『人』としても。


「――レイル」

「……れいる?」

「零れる涙、と書いてレイルと読む。変わっているだろう?」


 零涙――レイル、それが私の名前。

 私と言う存在を表す『記号』だった。

 まぁ……正直おかしな名前だからあまりに人に言いふらしたいものじゃないんだが。


「――レイルさん、ありがとうございました」

「……探し物、見つかるといいな」


 そう言って互いに反対の方向へと歩き出した。

 曲がり角を曲がり、暫く歩いてから気づいた。

 何かが引っかかる。

 その何かを考えていた時、思い出す。


「……フェイト=テスタロッサ?」


 名乗られた名前がふと気になった。

 日本人のものではない、というのもあるがそれ以上に。

 何処かで聞いた覚えのあるような、無いような、そんな微妙な感覚。


「気のせい、か?」


 来た道を僅かに戻って曲がり角を見る。

 少女の姿も、紅い狼の姿も既にそこにはない。

 曲がってまだ数秒しか経っておらず、彼女の進行方向に曲がり道はない。

 わずか数秒の間に少女と変わった友人の姿は消えていた。

 まるで最初から存在しなかったかのように。


「――『宿命との出逢い それが新たなる分かれ道』」


 愛読する詩の1フレーズ。

 宿命、それを英語に直すと『Fate』――フェイト。


「馬鹿馬鹿しい……」


 名前と詩の内容が一致するからといってだからなんだと言うのだ。

 偶々の可能性の方が高いし、それ以上に無関係と思うのが当然だろう。

 だが――


「何か始まろうとしている……いや、もう始まっているというのか?」


 予感がした。

 五感が、第六感が、その両方が告げている。

 運命の歯車は――既に廻り始めていると。










――もし貴方がその存在を信じるならば きっとこれはその世界で起きた物語――